第四解剖室 スティーヴン・キング 7

問題文
(「おい!」らすてぃがふんぜんとさけぶ。「おれのからだからてをはなせ!」)
「おい!」ラスティが憤然と叫ぶ。「俺の体から手を放せ!」
(「だったらそのまえにこのひとからてをはなしなさい」じょいはいう。)
「だったらその前にこの人から手を放しなさい」女医は言う。
(そのこえにこめられたいかりのねんはききのがしようがない。)
その声に込められた怒りの念は聞き逃しようがない。
(「あなたのようちきわまりないじょうだんには、もううんざりよ。こんど)
「あなたの幼稚極まりない冗談には、もううんざりよ。今度
(おなじことをしたら、あなたのことをうえにほうこくするわ」)
同じことをしたら、あなたのことを上に報告するわ」
(「おいおい、みんなあたまをひやせ」びーちおとこがいう。)
「おいおい、みんな頭を冷やせ」ビーチ男が言う。
(じょいのじょしゅだ。いかにもふあんそうなこえーーじぶんのじょうしとらすてぃが)
女医の助手だ。いかにも不安そうな声ーー自分の上司とラスティが
(このばでとっくみあいをはじめるのではないかとあんじているのだろう。)
この場で取っ組み合いを始めるのではないかと案じているのだろう。
(「とりあえず、ぜんぶみずにながそうじゃないか」)
「とりあえず、全部水に流そうじゃないか」
(「なんで、おれにああもつっけんどんなたいどをとるんだろうな」)
「なんで、おれにああもつっけんどんな態度をとるんだろうな」
(らすてぃがいう。あいかわらずおこっているくちょうをよそおってはいるが、)
ラスティが言う。あいかわらず怒っている口調を装ってはいるが、
(じっさいにはなきごとをつらねているだけだ。それかららすてぃは)
実際には泣き言をつらねているだけだ。それからラスティは
(ややちがうほうこうにかたりかける。「なんでそう、おれにつっけんどんなたいどを)
やや違う方向に語りかける。「なんでそう、俺につっけんどんな態度を
(とる?もしかしてせいりか?」じょいがはきすてるようにいう。)
とる?もしかして生理か?」女医が吐き捨てるように言う。
(「このおとこをつまみだして」まいく。「よせよ、らすてぃ。きろくぼの)
「この男をつまみ出して」マイク。「よせよ、ラスティ。記録簿の
(きにゅうをすませようぜ」らすてぃ。「ああ、そのあとで、しんせんな)
記入を済ませようぜ」ラスティ。「ああ、そのあとで、新鮮な
(くうきをすいにいこう」わたしはといえば、らじおをきくように、このかいわを)
空気を吸いに行こう」私はといえば、ラジオを聞くように、この会話を
(きいているだけ。ふたりがどあにむかってあるいていく、)
きいているだけ。二人がドアに向かって歩いていく、
(かんだかいあしおと。いまやらすてぃはすっかりはらをたててあたまからゆげをふきあげ、)
甲高い足音。今やラスティはすっかり腹を立てて頭から湯気を噴き上げ、
(せめてえきしょうをりようしたむーどりんぐをはめるなりしてくれれば、)
せめて液晶を利用したムードリングをはめるなりしてくれれば、
(たにんにもあんたのきぶんがひとめでわかるんだから、ぜひそうしろと)
他人にもあんたの気分が一目でわかるんだから、ぜひそうしろと
(じょいにくってかかっている。たいるのゆかにひびくしずかなあしおと。)
女医に食って掛かっている。タイルの床に響く静かな足音。
(そのおとがなんのまえぶれもなく、わたしのどらいばーがいまいましいぼーるを)
その音が何の前触れもなく、私のドライバーが忌々しいボールを
(もとめてやぶをたたくおとにかわる。)
もとめて藪をたたく音に代わる。
(ぼーるはどこにある?じゅうよんばんはきらいなんだよ、どくうるしがあるって)
ボールはどこにある?十四番はきらいなんだよ、毒漆があるって
(はなしだからね。それに、これだけかんぼくややぶがおおいとなると、)
話だからね。それに、これだけ灌木や藪が多いとなると、
(そのしたにやすやすとみをかくしているやつもいるはずでーー)
その下にやすやすと身を隠している奴もいるはずでーー
(そのあと、なにかにかまれたのではなかったか?)
そのあと、なにかにかまれたのではなかったか?
(ああ、そうとも。だんげんしたっていい。ひだりのふくらはぎ、)
ああ、そうとも。断言したっていい。左のふくらはぎ、
(すぽーつそっくすのすこしうえのあたりをかまれたんだ。)
スポーツソックスの少し上のあたりをかまれたんだ。
(まっかにやけたてつぼうをさしこまれたようなげきつう。)
真っ赤に焼けた鉄棒を差し込まれたような激痛。
(さいしょはいってんにぎゅっとしゅうちゅうしていたげきつうが、)
最初は一点にぎゅっと集中していた激痛が、
(やがてはんいをひろげてきて・・・。)
やがて範囲を広げてきて・・・。
(・・・そしてまっくら。)
・・・そして真っ暗。