ツルゲーネフ はつ恋 ⑲
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | HAKU | 6754 | S++ | 7.0 | 95.6% | 697.6 | 4937 | 225 | 91 | 2024/10/28 |
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問題文
(じゅういち そのばん、ざせーきんけにはじょうれんがあつまった。わたしもそのなかにいた。)
十一 その晩、ザセーキン家には常連が集まった。私もその中にいた。
(はなしがまいだーのふのれいのしのことになると、)
話がマイダーノフの例の詩のことになると、
(じないーだはしんからそれをほめちぎった。)
ジナイーダはしんからそれを褒めちぎった。
(「でも、よくって?」と、かのじょはまいだーのふにいった。)
「でも、よくって?」と、彼女はマイダーノフに言った。
(「もし、わたしがしじんだったら、もっとほかのてーまでゆくわ。)
「もし、わたしが詩人だったら、もっとほかのテーマでゆくわ。
(こんなこと、ばかげたはなしかもしれないけれど、でもわたしときどき、みょうなかんがえが)
こんなこと、馬鹿げた話かもしれないけれど、でもわたし時々、みょうな考えが
(あたまにうかぶのよ。ことによあけがた、そらがばらいろやはいいろになってくるころ、)
頭に浮かぶのよ。ことに夜明け方、空がバラ色や灰色になってくる頃、
(ねむれずにいるようなときにね。)
眠れずにいるような時にね。
(わたしなら、そうねえ・・・。こんなこといって、あなたがたわらわないこと?」)
わたしなら、そうねえ・・・。こんなこと言って、あなた方笑わないこと?」
(「いやいや、とんでもない!」と、わたしたちはいくどうおんにさけんだ。)
「いやいや、とんでもない!」と、わたしたちは異口同音に叫んだ。
(「わたしならね」とかのじょは、りょうてをむねにくんで、めをわきのほうへそそぎながら、)
「わたしならね」と彼女は、両手を胸に組んで、眼をわきの方へそそぎながら、
(ことばをつづけた。--「わかいむすめがおおぜい、よなかに、おおきなふねにのってーー)
言葉を続けた。--「若い娘が大勢、夜中に、大きな舟に乗ってーー
(しずかなかわにうかんでいるところ、それをかくわ。つきがさえている。)
静かな河に浮んでいるところ、それを書くわ。月が冴えている。
(そしてむすめたちは、みんなしろいきものをきてしろいはなのかんむりをかぶって、うたっているの。)
そして娘たちは、みんな白い着物を着て白い花の冠をかぶって、歌っているの。
(そうね、なにかせいかのようなものを」)
そうね、何か聖歌のようなものを」
(「わかります、わかります。それから?」と、おもわせぶりなくうそうてきなちょうしで、)
「わかります、わかります。それから?」と、思わせぶりな空想的な調子で、
(まいだーのふがいった。)
マイダーノフが言った。
(「するとふいにーーきしのうえに、ざわめきや、たかわらいや、たいまつや、)
「すると不意にーー岸の上に、ざわめきや、高笑いや、松明や、
(てだいこがあらわれるの。・・・それは、ばっかすのみこがむれをなして、)
手太鼓があらわれるの。・・・それは、バッカスの巫女が群れを成して、
(うたったりさけんだりしてはしってくるのよ。まあ、このこうけいをうつすのは、)
歌ったり叫んだりして走ってくるのよ。まあ、この光景を写すのは、
(あなたにおまかせするわ、しじんさん。・・・)
あなたにお任せするわ、詩人さん。・・・
(ただわたしのちゅうもんは、たいまつはまっかで、しかももうもうとけむりをふいていること。)
ただわたしの注文は、松明は真っ赤で、しかももうもうと煙をふいていること。
(それから、みこたちのめが、はなのかんむりのかげできらきらひかって、)
それから、巫女たちの眼が、花の冠の陰でキラキラ光って、
(はなのかんむりはくろっぽくしたいわ。とらのかわや、はいも、わすれないでちょうだいーー。)
花の冠は黒っぽくしたいわ。虎の皮や、杯も、忘れないでちょうだいーー。
(それにきんだわ、きんをどっさりね」)
それに金だわ、金をどっさりね」
(「そのきんは、いったいどこにつかうのです?」と、まいだーのふは、)
「その金は、いったいどこに使うのです?」と、マイダーノフは、
(ひらべったいかみのけをうしろへはらいながら、はなのあなをひろげてきいた。)
平べったい髪の毛を後ろへ払いながら、鼻の穴をひろげて訊いた。
(「どこですって?かたにも、うでにも、あしにも、どこもかしこもよ。)
「どこですって?肩にも、腕にも、足にも、どこもかしこもよ。
(こだいのおんなは、くるぶしにきんのわをはめていたというじゃありませんか。)
古代の女は、くるぶしに金の輪をはめていたというじゃありませんか。
(そこでみこたちはふねのむすめたちをよぶの。むすめたちのうたごえが、ぱったりやまる。)
そこで巫女たちは舟の娘たちを呼ぶの。娘たちの歌声が、ぱったりやまる。
(ーーもうせいかどころじゃありませんものね。)
ーーもう聖歌どころじゃありませんものね。
(でもむすめたちは、そのままじっとみじろきもしないの。)
でも娘たちは、そのままじっと身じろきもしないの。
(かわのながれにおされて、ふねはだんだんきしへよってきます。)
河の流れに押されて、舟はだんだん岸へ寄ってきます。
(するととつぜんひとりのむすめが、そっとたちあがるのよ。)
すると突然一人の娘が、そっと立ち上がるのよ。
(・・・ここのところは、よくびょうしゃしなければいけないわ。)
・・・ここのところは、よく描写しなければいけないわ。
(つきのひかりをあびて、そのむすめがしずかにたちあがるところや、)
月の光を浴びて、その娘が静かに立ち上がるところや、
(ほかのともだちがびっくりするありさまをね。・・・で、そのむすめがふねばたをまたぐと、)
ほかの友達がびっくりする有様をね。・・・で、その娘が舟ばたをまたぐと、
(みこたちはわっとそれをとりかこんで、まっくらなよやみのなかへ、)
巫女たちはワッとそれを取り囲んで、真っ暗な夜闇の中へ、
(さらっていってしまうの。・・・ここは、けむりがうずをまいて、)
さらって行ってしまうの。・・・ここは、煙が渦を巻いて、
(なにもかもごっちゃになってしまうところをかくのよ。)
何もかもごっちゃになってしまうところを書くのよ。
(きこえるのは、みこたちのきゃっきゃいうこえばかり。)
聞こえるのは、巫女たちのきゃっきゃいう声ばかり。
(そして、そのむすめがはなのかんむりが、ぽつんときしにのこっているの」)
そして、その娘が花の冠が、ぽつんと岸に残っているの」
(じないーだはくちをつぐんだ。)
ジナイーダは口をつぐんだ。
((”ああかのじょはこいにおちたのだ”と、わたしはまたかんがえた))
(”ああ彼女は恋におちたのだ”と、わたしはまた考えた)
(「それだけですか?」と、まいだーのふはがきいた。)
「それだけですか?」と、マイダーノフはが訊いた。
(「それだけよ」と、かのじょはこたえた。)
「それだけよ」と、彼女は答えた。
(「それだと、おおがかりな、じょじしのてーまになりかねますな」と、)
「それだと、大がかりな、叙事詩のテーマになりかねますな」と、
(さももったいらしくかれはしてきした。--「しかし、じょじしのざいりょうとして、)
さも勿体らしく彼は指摘した。--「しかし、叙事詩の材料として、
(あなたのいでーをいただくとしましょう」)
あなたのイデーを頂くとしましょう」
(「ろまんてぃっくなものですか?」と、まれーふすきいがきいた。)
「ロマンティックなものですか?」と、マレーフスキイが訊いた。
(「もちろん、ろまんてぃっくなものです。ばいろんふうのね」)
「もちろん、ロマンティックなものです。バイロン風のね」
(「が、ぼくにいわせると、ゆーごーはばいろんよりもいいですね」と、)
「が、僕に言わせると、ユーゴーはバイロンよりもいいですね」と、
(わかいはくしゃくはなにげなくくちばしった。「おもしろいてんでもじょうです」)
若い伯爵は何気なく口ばしった。「面白い点でも上です」
(「ゆーごーはだいいちりゅうのさっかです」と、まいだーのふはこたえた。)
「ユーゴーは第一流の作家です」と、マイダーノフは答えた。
(で、ぼくのゆうじんのとんこしぇーえふも、じさくのいすぱにあものがたりえるとろばどーるのなかで」)
で僕の友人のトンコシェーエフも自作のイスパニア物語エルトロバドールのなか
(「ああそれ、あのぎもんふがさかだちしているほんなのね?」とじないーだがさえぎった。)
「ああそれ、あの疑問符が逆立ちしている本なのね?」とジナイーダが遮った。
(「そうです。いすぱにあでは、ああかくことになっているんですよ。)
「そうです。イスパニアでは、ああ書くことになっているんですよ。
(そこでぼくのいいかけたのは、とんこしぇーえふが」 )
そこで僕の言いかけたのは、トンコシェーエフが」
(「おやおや!またあなたがたの、こてんしゅぎだろうまんしゅぎだというぎろん、はじまるのね」)
「おやおや!またあなた方の、古典主義だ浪漫主義だという議論、始まるのね」
(と、またもやじないーだはかれをさえぎった。「それより、なにかしてあそばない?」)
と、またもやジナイーダは彼を遮った。「それより、何かして遊ばない?」
(「ばっきんごっこですか?」と、るーしんがうけた。「いやだわ、ばっきんごっこは )
「罰金ごっこですか?」と、ルーシンが受けた。「いやだわ、罰金ごっこは
(たいくつよ。くらべごっこがいいわ」)
退屈よ。比べごっこがいいわ」
((このあそびは、じないーだがじぶんでかんがえだしたものだった。)
(この遊びは、ジナイーダが自分で考え出したものだった。
(なにかひとつものをきめておいて、みんなでそれににたなにかべつのものをかんがえる。)
何か一つ物を決めておいて、みんなでそれに似た何か別のものを考える。
(いちばんうまいひかくをかんがえついたものが、ほうびをもらうののである))
いちばんうまい比較を考えついたものが、褒美をもらうののである)
(かのじょはまどへあゆみよった。ひはしずんだばかりだった。そらには、はるかたかく、)
彼女は窓へ歩み寄った。日は沈んだばかりだった。空には、はるか高く、
(ほそながいあかいくもがいくすじもうかんでいた。)
細長い赤い雲が幾筋も浮んでいた。
(「あのくもはなにににていて?」と、じないーだはきいて、)
「あの雲は何に似ていて?」と、ジナイーダは訊いて、
(わたしたちのこたえをまたずに、じぶんで、「わたし、あのくもは、)
わたしたちの答えを待たずに、自分で、「わたし、あの雲は、
(くれおぱとらがあんとにーをむかえにいったとき、そのきんぬりのふねに)
クレオパトラがアントニーを迎えに行ったとき、その金塗りの船に
(はってあったひいろのほににているとおもうわ。ねえ、まいだーのふさん、)
張ってあった緋色の帆に似ていると思うわ。ねえ、マイダーノフさん、
(あなたこのあいだ、そのはなしをしてくだすったわね?」)
あなたこの間、その話をして下すったわね?」
(わたしたちはみんな、「はむれっと」のなかのぽろーにあすよろしく、)
わたしたちはみんな、「ハムレット」の中のポローニアスよろしく、
(いかにもあのくもはそのほににている、これいじょううまいひかくは)
いかにもあの雲はその帆に似ている、これ以上うまい比較は
(だれにもみつかるまい、ときめてしまった。「でもそのとき、)
誰にも見つかるまい、と決めてしまった。「でもその時、
(あんとにーはいくつだったのかしら?」と、じないーだがきいた。)
アントニーは幾つだったのかしら?」と、ジナイーダが訊いた。
(「そう、わかかったですな」と、じしんたっぷりでまいだーのふがうらがきした。)
「そう、若かったですな」と、自信たっぷりでマイダーノフが裏書きした。
(「しつれいですが」と、るーしんがおおきなこえをだした。)
「失礼ですが」と、ルーシンが大きな声を出した。
(「もうよんじゅうをこしていましたよ」「よんじゅうをこして」とじないーだは、)
「もう四十を越していましたよ」「四十を越して」とジナイーダは、
(すばやくいちべつをかれにくれて、おうむがえしにいった。)
すばやく一瞥を彼にくれて、鸚鵡返しに言った。
(わたしは、まもなくいえにかえった。「かのじょはこいにおちた」と、われともなく、)
わたしは、まもなく家に帰った。『彼女は恋に落ちた』と、我ともなく、
(わたしのくちびるはささやいた。「だが、いったいだれに?」)
わたしの唇はささやいた。「だが、いったい誰に?」
(じゅうにひがたつにつれて、じないーだは、いよいよますますきみょうな、)
十二 日がたつにつれて、ジナイーダは、いよいよますます奇妙な、
(えたいのしれないむすめになっていった。あるひ、わたしがかのじょの)
えたいの知れない娘になっていった。ある日、わたしが彼女の
(へやへはいっていくと、かのじょはとういすにかけて、あたまをぎゅっと、)
部屋へ入って行くと、彼女は籐椅子にかけて、頭をぎゅっと、
(てーぶるのとがったふちにおしつけていた。はっとかのじょはみをおこしたが)
テーブルのとがった縁に押しつけていた。はっと彼女は身を起したが
(みればかおじゅうべったり、なみだにぬれていた。)
見れば顔じゅうべったり、涙にぬれていた。
(「まあ、あなただったの?」と、かのじょははくじょうなうすわらいをうかべていった。)
「まあ、あなただったの?」と、彼女は薄情な薄笑いを浮べて言った。
(「こっちへいらっしゃい」わたしがそばへいくと、かのじょはかたてを)
「こっちへいらっしゃい」わたしがそばへ行くと、彼女は片手を
(わたしのあたまにのせて、いきなりかみのけをつかむと、ぎりぎり)
わたしの頭にのせて、いきなり髪の毛をつかむと、ぎりぎり
(ねじまわしはじめた。「いたい」と、やがてわたしはねをあげた。 )
捻じ回し始めた。「痛い」と、やがてわたしは音をあげた。