竹柏記 山本周五郎 ③

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投稿者投稿者ヒマヒマ マヒマヒいいね3お気に入り登録
プレイ回数1410難易度(4.2) 2562打 長文
不信な男に恋をしている娘に、強引な結婚を申し込むが・・・
不信な男に恋をしている友人の妹を守りたい一心で、心通わずとも求婚をする勘定奉行の主人公。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 文吾 5296 B++ 5.4 97.3% 468.4 2550 69 56 2024/03/13

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問題文

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(おばはかれにさかずきをもたせて、りょうへいのびょうじょうなどをきいたのち、)

叔母は彼に盃を持たせて、良平の病状などを訊いたのち、

(このひとらしいそっちょくさで、かさいすぎのとのえんだんについてはなしだした。)

この人らしい卒直さで、笠井杉乃との縁談について話しだした。

(こうのすけにはおもいがけなかった。)

孝之助には思いがけなかった。

(ちちには「えんだんのことでしょう」といったが、)

父には「縁談のことでしょう」と云ったが、

(べつにこんきょもなにもない、そのばのはずみだったからである。)

べつに根拠もなにもない、その場のはずみだったからである。

(「まあ、だいたいそうきまったんですが」)

「まあ、だいたいそうきまったんですが」

(「すぎのというむすめを、こうさんはしっていらっしゃるの」)

「杉乃という娘を、孝さんは知っていらっしゃるの」

(「ええ、まあ」かれはちょっといいよどんだ。)

「ええ、まあ」彼はちょっと云いよどんだ。

(「あにのかさいてつまというのがゆうじんなんです」)

「兄の笠井鉄馬というのが友人なんです」

(「きにいったというわけですか」こうのすけはこたえなかったが、)

「気にいったというわけですか」孝之助は答えなかったが、

(すこしばかりあかくなった。おばはふとちょうしをかえて、)

少しばかり赤くなった。叔母はふと調子を変えて、

(「こんなこといっていいかどうか、わからないけれど、)

「こんなこと云っていいかどうか、わからないけれど、

(しっていていわないのもきがとがめるし、おもいきっていうんですがね、)

知っていて云わないのも気が咎めるし、思いきって云うんですがね、

(こうさん、あのむすめはやめたほうがよくはないの」)

孝さん、あの娘はやめたほうがよくはないの」

(「それは、どうしてですか」)

「それは、どうしてですか」

(「きだてもわるくはないし、きりょうもいいけれど)

「気だても悪くはないし、きりょうもいいけれど

(あのむすめにはこいびとがあるのよ」おばはかれのさかずきにしゃくをしてやった、)

あの娘には恋人があるのよ」 叔母は彼の盃に酌をしてやった、

(「それもただすきだというくらいのものじゃなく、)

「それもただ好きだというくらいのものじゃなく、

(おたがいがそうとうつきつめたきもちになっているらしいの、おやたちははんたい)

お互いが相当つきつめた気持になっているらしいの、親たちは反対

(だそうだけれど、そんなことではとてもおさえられまいっていうはなしよ」)

だそうだけれど、そんなことではとても抑えられまいっていう話よ」

など

(「ええ、そのことならしっています」「しっているんですって」)

「ええ、そのことなら知っています」 「知っているんですって」

(「よくしっていますし、それはもうけりがついたんです」)

「よく知っていますし、それはもうけりがついたんです」

(せんじゅはじっとおいのかおをみた。それからてをのばして、)

千寿はじっと甥の顔を見た。それから手を伸ばして、

(こづくえのうえのすずをとってふった。そのすんだうつくしいねいろは、)

小机の上の鈴を取って振った。その澄んだ美しい音色は、

(しんとさえた、しずかなよいのくうきをふるわせ、)

しんと冴えた、静かな宵の空気をふるわせ、

(そのおとにさそわれるかのように、)

その音にさそわれるかのように、

(くらいそらから、おちばが、にわのうえへひそやかにまいおちた。)

暗い空から、落葉が、庭の上へひそやかに舞い落ちた。

(まもなく、ふたりのわかいじょちゅうが、あらたにさけとさかなをはこんでき、)

まもなく、二人の若い女中が、新たに酒と肴をはこんで来、

(こうのすけのぜんをもこしらえて、(これらのことはすべてむごんのうちにおこなわれた))

孝之助の膳をも拵えて、(これらのことはすべて無言のうちに行われた)

(そして、だまってえしゃくしてさった。)

そして、黙って会釈して去った。

(「はしをおつけなさいな、ことしもおちあゆは)

「箸をおつけなさいな、今年もおち鮎は

(これがたべじまいかもしれませんよ」)

これが喰べじまいかもしれませんよ」

(じょちゅうたちのてしょくのひかりがみえなくなると、)

女中たちの手燭の光りが見えなくなると、

(おばはこういってちょうしをとった。)

叔母はこう云って銚子を取った。

(「そして、きまりがついたとはどういうことか、)

「そして、きまりがついたとはどういうことか、

(もしよかったらきかせてちょうだい」)

もしよかったら聞かせて頂戴」

(こうのすけはめをふせながら、おとなしくさけをうけ、そのさかずきをぜんにおいた。)

孝之助は眼を伏せながら、おとなしく酒を受け、その盃を膳に置いた。

(かれはどちらかというとやせがたで、)

彼はどちらかというと痩形で、

(こいまゆと、やさしい、おんわなめをもっていた。)

濃い眉と、やさしい、温和な眼をもっていた。

(どうさもことばもものやわらかであるし、)

動作も言葉もものやわらかであるし、

(あらいこえをたてるとか、ひとにふゆかいなかおをみせる、)

荒い声をたてるとか、人に不愉快な顔をみせる、

(などということはけっしてなかった。)

などということは決してなかった。

(「そのあいては、おかむらやつかというのです」)

「その相手は、岡村八束というのです」

(かれはめをふせたままはなしだした。せどのあたりで、なにかのどうぶつの、)

彼は眼を伏せたまま話しだした。背戸のあたりで、なにかの動物の、

(はなにかかったような、なきごえがした。)

鼻にかかったような、なき声がした。

(このきゅうりょうのうしろは、りんごくのりょうぶんまで、ほとんどやまともりつづきで、)

この丘陵のうしろは、隣国の領分まで、殆んど山と森つづきで、

(いのししやしかなどがおおくすんでいた。そのなきごえは、おそらくわかいしかであろう。)

猪や鹿などが多く棲んでいた。そのなき声は、おそらく若い鹿であろう。

(かなしげにうったえるような、こころにのこるようなこえであった。)

かなしげに訴えるような、心に残るような声であった。

(「そう、そうだったの」おばはうなずいた。こうのすけのはなしはわかったけれども、)

「そう、そうだったの」叔母は頷いた。孝之助の話はわかったけれども、

(そのままではなっとくができないようであった。)

そのままでは納得ができないようであった。

(「しょうじきにおっしゃってくれてありがとう、でもねえこうさん、あなたがそれほど、)

「正直に仰って呉れて有難う、でもねえ孝さん、あなたがそれほど、

(すぎのさんをあいしていらっしゃることはわかるけれど、)

杉乃さんを愛していらっしゃることはわかるけれど、

(そういうふうにまでしてけっこんするということは、)

そういうふうにまでして結婚するということは、

(すこしふしぜんじゃないかしら」「ふしぜん、でしょうか」)

少し不自然じゃないかしら」 「不自然、でしょうか」

(「そういっては、ことばがつよすぎるかもしれないけれど」)

「そう云っては、言葉が強すぎるかもしれないけれど」

(せんじゅはそっとちょうしをもった。)

千寿はそっと銚子を持った。

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