ちくしょう谷 17

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隼人は罪人が暮らした流人村へ役で赴くことになる。
現在、流人村に罪人はおらず子孫だけが独特な風習で暮らす。
そこには兄の仇の西沢半四郎がいた。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 pechi 5611 A 6.2 91.0% 687.2 4278 422 68 2024/04/24

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問題文

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(よくじつ、はやとはむらへゆき、しょうないろうじんとあってはなした。)

翌日、隼人は村へゆき、正内老人と会って話した。

(ごようりんのしごとにでるにんずうをきめ、それからとりよせたがっきのことをそうだんすると、)

御用林の仕事に出る人数をきめ、それから取寄せた楽器のことを相談すると、

(ろうじんはうなずきながら、ここでもまた「いそがないほうがよい」とちゅういした。)

老人は頷きながら、ここでもまた「いそがないほうがよい」と注意した。

(ろうじんもずっといぜんにためしたことがある、おおすさいのすけというばんがしらのときで、)

老人もずっと以前にためしたことがある、大須才之助という番頭のときで、

(こととひとよぎりをつかった。ひとよぎりはろうじんがやり、ことはばんがしらがじょうかから)

琴と一節切を使った。一節切は老人がやり、琴は番頭が城下から

(めくらげいにんをよんでくれた。けれどもむらのものはしばらくきくとあきてしまい、)

盲芸人を呼んでくれた。けれども村の者は暫く聞くと飽きてしまい、

(ならおうというものもなかったし、さんじゅうにちもたつとききにくるものさえなく、)

習おうという者もなかったし、三十日も経つと聞きに来る者さえなく、

(ついにしっぱいにおわった、ということであった。)

ついに失敗に終った、ということであった。

(「おんぎょくはひとのひんせいをたかめ、またこころをやわらげ、たのしませるとくがあります」)

「音曲は人の品性を高め、また心をやわらげ、たのしませる徳があります」

(とろうじんはつづけていった、「しかしそれも、かんきょうやせいかつにあるていどの)

と老人は続けて云った、「しかしそれも、環境や生活に或る程度の

(ゆとりがあってのことで、このむらのようにとくしゅなあくじょうけんのなかでは、)

ゆとりがあってのことで、この村のように特殊な悪条件の中では、

(こちらによほどのにんたいと、ねんげつをかけるきぐみがなければ、)

こちらによほどの忍耐と、年月をかける気組みがなければ、

(うまくゆくまいとおもいます」「やれるところまでやってみましょう」)

うまくゆくまいと思います」「やれるところまでやってみましょう」

(とはやとはいった、「しんぼうすることにかけては、かなりじしんのあるほうですから」)

と隼人は云った、「辛抱することにかけては、かなり自信のあるほうですから」

(ろうじんははやとのめを、なにやらいみをかよわせるようにみつめ、)

老人は隼人の眼を、なにやら意味をかよわせるようにみつめ、

(それからしずかにえしゃくした。はやとはとうわくしたようにめをそらした。)

それから静かに会釈した。隼人は当惑したように眼をそらした。

(ごようりんのしごとはごがついっぱいかかった。)

御用林の仕事は五月いっぱいかかった。

(さんびゃくちょうぶあまりあるひのきとすぎのうち、すぎはばくふにぞくするので「ごようりん」)

三百町歩余りある檜と杉のうち、杉は幕府に属するので「御用林」

(とよばれていた。まいとしごがつからくがつまで、したばえのじょきょと、びょうちゅうがいと、)

と呼ばれていた。毎年五月から九月まで、下生えの除去と、病虫害と、

(とうばつのうむをしらべるのが、きどのやくめのじゅうようなひとつであり、)

盗伐の有無をしらべるのが、木戸の役目の重要な一つであり、

など

(ばっさいにはべつにきこりがやとわれるのであった。このときのにんずうは、)

伐採にはべつにきこりが雇われるのであった。このときの人数は、

(むらからおとこじゅうににんとおんなにじゅういちにん、じゅうしごさいからごじゅうろくしちさいまで、)

村から男十二人と女二十一人、十四五歳から五十六七歳まで、

(あわせてさんじゅうさんにん。きどからはばんしふたりとあしがるはちにん、こものふたりがで、)

合わせて三十三人。木戸からは番士二人と足軽八人、小者二人が出、

(はやともいつかにいちどのわりでみまわりにいった。)

隼人も五日にいちどの割で見廻りにいった。

(そこはだいぶつだけのみなみがわにあり、だんがいのおおいけんろをゆかなければならない。)

そこは大仏岳の南側にあり、断崖の多い嶮路をゆかなければならない。

(とくに「おおくずれ」とよばれるがけみちはがんしつがもろいとみえ、)

特に「大崩れ」と呼ばれる崖道は岩質が脆いとみえ、

(さらだいにかけたいわが、せまいみちのうえへたえずおちてくる。)

皿大に欠けた岩が、狭い道の上へ絶えず落ちて来る。

(これはたいていみちをこして、ひだりがわのだんがいへおちてゆくが、)

これはたいてい道を越して、左側の断崖へ落ちてゆくが、

(ときにはみちのうえへもくずれてくるため、そこをとおりぬけるには)

ときには道の上へも崩れて来るため、そこを通りぬけるには

(よほどのちゅういがひつようであった。はやとのまえのばんがしらだったいくたでんくろうが)

よほどの注意が必要であった。隼人のまえの番頭だった生田伝九郎が

(ついししたのは、その「おおくずれ」からいちだんばかりいったところで、)

墜死したのは、その「大崩れ」から一段ばかりいったところで、

(みちがもっともせまくなり、おおきくみぎへまがっていた。)

道がもっとも狭くなり、大きく右へ曲っていた。

(そこからさきをななまがりというそうだが、はじめてはやとをあんないしたまつききゅうのすけは、)

そこから先を七曲りというそうだが、初めて隼人を案内した松木久之助は、

(みちのはしにひとところいわのかけているばしょをゆびさして、「そこです」とおしえた。)

道の端にひとところ岩の欠けている場所を指さして、「そこです」と教えた。

(はやとがみると、みちがだんがいのうえへひさしのようにつきでており、)

隼人が見ると、道が断崖の上へひさしのように突き出ており、

(たかさはろくしちじゅっしゃくあるだろうか、したはごつごつしたいわちで、)

高さは六七十尺あるだろうか、下はごつごつした岩地で、

(そのむこうにごようりんのいちぶがかすんでみえた。「まつきもともをしていたのか」)

その向うに御用林の一部が霞んで見えた。「松木も供をしていたのか」

(「わたしとおのだいくろう、それにあしがるさんにんがいっしょでした」とまつきがこたえた、)

「私と小野大九郎、それに足軽三人がいっしょでした」と松木が答えた、

(「いくたさんはせんとうにいて、そのかどをまがったとおもうとすぐ、)

「生田さんは先頭にいて、その角を曲ったと思うとすぐ、

(いわのくずれるおとといくたさんのこえがきこえたんです、すごいようなこえで、)

岩の崩れる音と生田さんの声が聞えたんです、凄いような声で、

(われわれはみなたちすくんでしまいました」)

われわれはみな立竦んでしまいました」

(「ごんぱちがやったといううわさがでたそうだな」「そんなうわさがいまでもあります」)

「権八がやったという噂が出たそうだな」「そんな噂がいまでもあります」

(「しかしこんなせまいところでどうするというんだ」)

「しかしこんな狭いところでどうするというんだ」

(「あのうえから」とまつきがめをあげた、「あのがけのうえから)

「あの上から」と松木が眼をあげた、「あの崖の上から

(いしをおとすというてはあります」)

石を落すという手はあります」

(はやとはようじんぶかくにほすすんで、ふりあおいだ。かれはかたてをあげたが、)

隼人は用心ぶかく二歩進んで、振仰いだ。彼は片手をあげたが、

(うえからちいさないわくずがぱらぱらとおちてきたので、それをよけるために)

上から小さな岩屑がぱらぱらと落ちて来たので、それを除けるために

(あげたとみえたしゅんかん、かれは「まつき、あぶないぞ」とさけびながら、)

あげたとみえた瞬間、彼は「松木、危ないぞ」と叫びながら、

(じぶんのからだをぴったりとがけのいわはだへはりつけた。ほとんどどうじに、)

自分の躯をぴったりと崖の岩肌へ貼りつけた。殆んど同時に、

(うえからおちてきたいわ、それはひとかかえもありそうにみえた、)

上から落ちて来た岩、それは一と抱えもありそうにみえた、

(が、かれのからだをかすめてみちのはしをたたきいわかどをうちくだいて、)

が、彼の躯をかすめて道の端を叩き、岩角を打ち砕いて、

(だんがいのしたへきえていった。だんがいのしたのほうで、いわのくだけるおとがこだましてきこえ、)

断崖の下へ消えていった。断崖の下のほうで、岩の砕ける音がこだまして聞え、

(そのおとがきこえなくなるまで、はやとはがけにみをおしつけたままうごかなかった。)

その音が聞えなくなるまで、隼人は崖に身を押しつけたまま動かなかった。

(「まつき」とやがてはやとがよびかけた、「けがはないか、だいじょうぶか」)

「松木」とやがて隼人が呼びかけた、「けがはないか、大丈夫か」

(「わたしはだいじょうぶです」「いいというまでそこをうごくな」)

「私は大丈夫です」「いいと云うまでそこを動くな」

(はやとはかおだけそろそろとふりむけた。じゅうにさんしゃくうしろで、)

隼人は顔だけそろそろと振向けた。十二三尺うしろで、

(まつきもがけへぴったりとかじりつき、きょうふのめでこっちをみていた。)

松木も崖へぴったりとかじりつき、恐怖の眼でこっちを見ていた。

(ごんぱちにかぎらず、むらのじゅうみんはみんなきどのものをにくんでいる。)

権八に限らず、村の住民はみんな木戸の者を憎んでいる。

(しゅうじんがろうもりをにくむのはとうぜんのことだ。いつかおかむらしちろうべえのいったことばが、)

囚人が牢守を憎むのは当然のことだ。いつか岡村七郎兵衛の云った言葉が、

(はやとのみみにはっきりとよみがえってきた。)

隼人の耳にはっきりとよみがえってきた。

(「いや」はやとはのどでいいながらくびをふった、)

「いや」隼人は喉のどで云いながら首を振った、

(「そうとはかぎらない、そうとはかぎらない」かれはきわめてしんちょうに、)

「そうとは限らない、そうとは限らない」彼は極めて慎重に、

(あおむいてがけのうえをみながら、がけにはりついたままで、)

仰向いて崖の上を見ながら、崖に貼りついたままで、

(しずかにひだりへと、よこむきにからだをうつしていった。)

静かに左へと、横向きに躯を移していった。

(あさださんだいじょうぶですか、とまつきがさけんだ。だいじょうぶだ。おまえはまだうごくな、)

朝田さん大丈夫ですか、と松木が叫んだ。大丈夫だ、おまえはまだ動くな、

(とはやとがさけびかえした、さんじゅっしゃくほどいどうするとつぎのまがりかどになり、)

と隼人が叫び返した、三十尺ほど移動すると次の曲り角になり、

(そこからふりかえると、いまのみちをみわたすことができる。)

そこから振返ると、いまの道を見渡すことができる。

(はやとはずじょうにきをくばりながら、めをそばめてそこをながめやった。)

隼人は頭上に気をくばりながら、眼をそばめてそこを眺めやった。

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