ちくしょう谷 21

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隼人は罪人が暮らした流人村へ役で赴くことになる。
現在、流人村に罪人はおらず子孫だけが独特な風習で暮らす。
そこには兄の仇の西沢半四郎がいた。

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問題文

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(だんだんをのぼりきったところはがけのちゅうふくで、みちがあるわけではないが、)

段々を登りきったところは崖の中腹で、道があるわけではないが、

(いわがたなのようによこへのびている。それをみぎへつたってゆけば、)

岩が棚のように横へ延びている。それを右へ伝ってゆけば、

(むらのいりぐちのしるしいしのわきへでられる。ひだりはいわのゆきどまりで、いつかなにものかが)

村の入口の標石の脇へ出られる。左は岩のゆき止りで、いつか何者かが

(はやとをねらったのは、そのいわかげからであった。)

隼人をねらったのは、その岩蔭からであった。

(「いちがたないわへのぼってから、ちょっとまをおいてあたしものぼりました」)

「いちが棚岩へ登ってから、ちょっとまをおいてあたしも登りました」

(とあやはいった、「するとすぐそこにいちがいたので、もうちょっとで)

とあやは云った、「するとすぐそこにいちがいたので、もうちょっとで

(ぶっつかりそうになり、あたしはぞっとしながらいわにかじりつきました、)

ぶっつかりそうになり、あたしはぞっとしながら岩にかじりつきました、

(いちのむこうにひとがいて、いちがはなごえをだしながら、なにかてまねで)

いちの向うに人がいて、いちが鼻声をだしながら、なにか手まねで

(はなしているようです、きづかれなかった、ああよかったと、)

話しているようです、気づかれなかった、ああよかったと、

(あたしはしばらくいきをころしていました、それからもうだいじょうぶだとおもったので、)

あたしは暫く息をころしていました、それからもう大丈夫だと思ったので、

(そろそろといわかどからのぞいてみると、いちのむこうにそのひとが、)

そろそろと岩角から覗いて見ると、いちの向うにその人が、

(こっちをむいていたんです」「そんなよなかによくわかったな」)

こっちを向いていたんです」「そんな夜なかによくわかったな」

(「じゅうしちにちのばんはつきがでていました」「かおもみえたのか」)

「十七日の晩は月が出ていました」「顔も見えたのか」

(「きどのひとでした」とあやがいった、「くろいずきんをかぶっていたので、)

「木戸の人でした」とあやが云った、「黒い頭巾をかぶっていたので、

(かおのはんぶんはかくれてましたがまちがいありません、きどのにしざわはん」)

顔の半分は隠れてましたが間違いありません、木戸の西沢半」

(はやとがとびかかり、かたてであやのあたまをおさえ、かたてでくちをぴったりふさいだ。)

隼人がとびかかり、片手であやの頭を押え、片手で口をぴったり塞いだ。

(「いうな」とはやとはあやのくちをふさいだままいった、「そのなをいうな」)

「云うな」と隼人はあやの口を塞いだまま云った、「その名を云うな」

(よほどおどろいたのだろう、あやはからだをかたくし、めだけよこにうごかしてはやとをみた。)

よほど驚いたのだろう、あやは躯を固くし、眼だけ横に動かして隼人を見た。

(「にどとそのなをくちにしてはいけない」とはやとはくりかえした、)

「二度とその名を口にしてはいけない」と隼人は繰り返した、

(「このばかぎりだ、いいか、だれにもいってはいけないぞ」)

「この場限りだ、いいか、誰にも云ってはいけないぞ」

など

(あたまをおさえられたままで、あやはにどこっくりをし、はやとはてをはなした。)

頭を押えられたままで、あやは二度こっくりをし、隼人は手を放した。

(あやはくちをぽかんとあけ、ものといたげなめで、じっとはやとのかおをみた。)

あやは口をぽかんとあけ、もの問いたげな眼で、じっと隼人の顔を見た。

(「でもそのひと」とあやがおそるおそるいった、「いちのはらのこのおやですけれど」)

「でもその人」とあやがおそるおそる云った、「いちの腹の子の親ですけれど」

(はやとはくちびるをひきむすんだ。「いちは」とかれはおもいものでもひきずるようにきいた、)

隼人は唇をひきむすんだ。「いちは」と彼は重い物でもひきずるように訊いた、

(「こをおろさなかったのか」「うむといってきかないんですって、)

「子をおろさなかったのか」「産むと云ってきかないんですって、

(それにもうおびもとっくにすんでますから」)

それにもう帯もとっくに済んでますから」

(あのわるしちべえがかたをゆりあげるのはこんなきもちのときなんだな、)

あの悪七兵衛が肩をゆりあげるのはこんな気持のときなんだな、

(はやとはじぶんをなだめるようにそうおもった。)

隼人は自分をなだめるようにそう思った。

(「とにかくそのにんげんのなはくちにしないでくれ」とかれはめをそむけながらいった、)

「とにかくその人間の名は口にしないでくれ」と彼は眼をそむけながら云った、

(「さあ、しごとにかからないととがめられるぞ」)

「さあ、仕事にかからないと咎められるぞ」

(あやは「はい」とこたえた。いつものあやらしい、すなおなこえであった。)

あやは「はい」と答えた。いつものあやらしい、すなおな声であった。

(はやとはあやのはなしをきいてから、きぶんがかなりかるくなった。)

隼人はあやの話を聞いてから、気分がかなり軽くなった。

(やをいかけたのがごんぱちらしいということは、しょうないろうじんもひていしていたが、)

矢を射かけたのが権八らしいということは、正内老人も否定していたが、

(べつのいみでも、いちはごんぱちのてであんなにひどくむちうたれた。)

べつの意味でも、いちは権八の手であんなにひどく鞭打たれた。

(そのごんぱちにたいして、ひそかにしょくもつをはこぶということは、)

その権八に対して、ひそかに食物をはこぶということは、

(どうもしんじつらしくおもえなかった。やっぱりそうだったのか。)

どうも真実らしく思えなかった。やっぱりそうだったのか。

(あのおとこがいちをたくみにつかって、ごんぱちがいきているようにみせかけたのだ。)

あの男がいちを巧みに使って、権八が生きているようにみせかけたのだ。

(きどのちかくでごんぱちをみかけたといって、おってをかけたのもあのおとこだ。)

木戸の近くで権八を見かけたと云って、追手をかけたのもあの男だ。

(ななまがりのうえへでるきょりは、がけのみちよりはんぶんがたちかいという。)

七曲りの上へ出る距離は、崖の道より半分がた近いという。

(あのおとこはさきまわりをしてまちぶせ、うえからいわをおしたのだ。そうするために)

あの男は先廻りをして待伏せ、上から岩を押したのだ。そうするために

(「ごんぱちをみかけた」というこうじつをもうけてきどをでたのだ。)

「権八を見かけた」という口実を設けて木戸を出たのだ。

(そうときまればきはらくだ。ごんぱちでないとわかれば、)

そうときまれば気は楽だ。権八でないとわかれば、

(ひとりにたいしてようじんすればいい。ごんぱちもまたあらわれるかもしれないが、)

一人に対して用心すればいい。権八もまたあらわれるかもしれないが、

(このはやとだけをうかがうりゆうはないだろう。)

この隼人だけをうかがう理由はないだろう。

(たしかなあいてはあのおとこひとりだ、とはやとはおもった。)

たしかな相手はあの男ひとりだ、と隼人は思った。

(ごようりんのしごとがおわり、ろくがつになった。)

御用林の仕事が終り、六月になった。

(くみたちのけいこは、とうばんしごとのあるものをべつとして、ごごにもやることになり、)

組み太刀の稽古は、当番仕事のある者をべつとして、午後にもやることになり、

(これはおかむらしちろうべえにまかせた。はやとはがっきるいをしょうないろうじんのじゅうきょへもってゆき、)

これは岡村七郎兵衛に任せた。隼人は楽器類を正内老人の住居へ持ってゆき、

(こんごのことについてそうだんをかさねた。ろうじんはまえから、)

今後のことについて相談をかさねた。老人はまえから、

(むらにこうちをつくることをかんがえていた。こうれいちだからこめはつくれないが、)

村に耕地を作ることを考えていた。高冷地だから米は作れないが、

(つちをはこびこむことができれば、あわ、もろこし、そば、きび)

土を運びこむことができれば、粟、もろこし、蕎麦、きび

(などはつくれる、むぎもつくれるかもしれない。りょうはどちらでもよいが、)

などは作れる、麦も作れるかもしれない。量はどちらでもよいが、

(「こうさく」というしゅうかんをつけさせたい、というのである。)

「耕作」という習慣をつけさせたい、というのである。

(はやとはもちろんどういし、つちをはこぶにはきどのものもじょりょくしようといった。)

隼人はもちろん同意し、土を運ぶには木戸の者も助力しようと云った。

(「ごらんになっているでしょうが」とろうじんはねっしんにいった、「むらのだいちは)

「ごらんになっているでしょうが」と老人は熱心に云った、「村の台地は

(いしでくみあげてあります、ちけいはとうとうなんにむいていますから、いしがひに)

石で組みあげてあります、地形は東東南に向いていますから、石が陽に

(あたためられるとそのねつがつちにこもって、さくもつをそだてるのにこうつごうだとおもいます」)

暖められるとその熱が土にこもって、作物を育てるのに好都合だと思います」

(げんにじぶんはこむぎときびをいちだんほどつくっている。)

現に自分は小麦ときびを一段ほど作っている。

(そこはひあたりもよしがんしつがもろいので、いれつちをするのもらくであったが、)

そこは陽当りもよし岩質が脆いので、入れ土をするのも楽であったが、

(だいちのさんだんめとごだんめはにたようなちしつだから、まずそこへつちいれを)

台地の三段めと五段めは似たような地質だから、まずそこへ土入れを

(してみてもよいだろう、とろうじんはいうのであった。)

してみてもよいだろう、と老人は云うのであった。

(「もんだいはつちですね」「それです」ろうじんはうなずいた、)

「問題は土ですね」「それです」老人は頷いた、

(「わたしはよつざわから、よつざわというのは、こちらからかぞえてみっつめのさんどうを、)

「私は四ツ沢から、四ツ沢というのは、こちらから数えて三つめの桟道を、

(ひだりへのぼったところで、こえたいいつちがありますが、たわらにしてせおって、さよう、)

左へ登ったところで、肥えたいい土がありますが、俵にして背負って、さよう、

(ひゃくにちばかりはこびましたかな、それでやっとひとうねばかりのはたけができました」)

百日ばかり運びましたかな、それでやっと一畝ばかりの畑が出来ました」

(「もうすこしちかくにはありませんか」「りょうざかいのむこうならあります」)

「もう少し近くにはありませんか」「領境の向うならあります」

(ろうじんはかなひばしではいにずをかいた、「このにょらいのみねから)

老人は金火箸で灰に図を描いた、「この如来ノ峰から

(にじゅっちょうばかりおりると、やまかじでやけたまま、くさだけのあれちに)

二十町ばかりおりると、山火事で焼けたまま、草だけの荒地に

(なっているところがあります、そこならちかくもありみちもよいので、)

なっているところがあります、そこなら近くもあり道もよいので、

(ずっとらくにはこべますが、りんぱんのとちですから、なかなかむずかしいとおもいます」)

ずっと楽に運べますが、隣藩の土地ですから、なかなかむずかしいと思います」

(「なんとかてをうってみよう」とはやとはいった、)

「なんとか手を打ってみよう」と隼人は云った、

(「とにかく、このまえはなしたようにあそばせておいてはよくない、)

「とにかく、このまえ話したように遊ばせておいてはよくない、

(ちからしごとをすることで、おんなたちのせいりょくのはけくちにし、)

力仕事をすることで、女たちの精力のはけ口にし、

(またはたらくしゅうかんもみにつくようにしよう」)

また働く習慣も身につくようにしよう」

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