ちくしょう谷 ㉛

投稿者ヒマヒマ マヒマヒプレイ回数564
難易度(4.5) 4681打 長文 長文モードのみタグ山本周五郎 小説 長文 文学 文豪
隼人は罪人が暮らした流人村へ役で赴くことになる。
現在、流人村に罪人はおらず子孫だけが独特な風習で暮らす。
そこには兄の仇の西沢半四郎がいた。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 くろはつ 9123 9.4 96.3% 490.7 4654 177 78 2021/10/08
2 HAKU 7822 8.0 97.4% 582.3 4678 123 78 2021/10/08
3 おっ 7704 8.0 95.6% 575.4 4646 213 78 2021/10/08
4 ♪♪^^ 7130 7.3 97.1% 635.6 4667 135 78 2021/10/23
5 berry 6995 S++ 7.2 96.1% 636.7 4640 186 78 2021/10/08

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問題文

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(「あせるな、いちにちかかっていっぽんでもいい、それでもなのかあればしちゅうはできるぞ」)

「あせるな、一日かかって一本でもいい、それでも七日あれば支柱は出来るぞ」

(とはやとはつぶやいた、「いわのふちをかかないこと、あなへくいをさしこむには、)

と隼人は呟いた、「岩の縁を欠かないこと、穴へ杭を差込むには、

(だましだましやること、それから、ぜったいにしたをみないこと」)

だましだましやること、それから、絶対に下を見ないこと」

(めのしたはひゃくしゃくいじょうもあるだんがいで、はるかなけいりゅうのおとをきくだけでも、)

眼の下は百尺以上もある断崖で、はるかな渓流の音を聞くだけでも、

(そのたかさがわかるようにおもえた。はやとはけっしてしたをみなかったし、)

その高さがわかるように思えた。隼人は決して下を見なかったし、

(けいりゅうのおともきかないようにつとめた。だいいちのしちゅうはうまくはいった。)

渓流の音も聞かないようにつとめた。第一の支柱はうまくはいった。

(すこしすきまがあるので、くさびをしたがわにさんぼんうちこむと、はやとがぜんしんのちからを)

少し隙間があるので、楔を下側に三本打ち込むと、隼人が全身の力を

(かけてもびどうもしなかった。「どうだ、ちょっとしたものじゃないか」)

掛けても微動もしなかった。「どうだ、ちょっとしたものじゃないか」

(といってはやとはくびをふった、「なんでこうむやみにひとりごとがでるんだ、)

と云って隼人は首を振った、「なんでこうむやみに独り言が出るんだ、

(まるでおいぼれたやもめおとこのようんだぞ」かれはかけはしへもどり、)

まるで老いぼれたやもめ男のようだぞ」彼はかけはしへ戻り、

(にほんめのしちゅうをせおった。そのときいわかげから、ひとりのおとこがとびだしてきた。)

二本めの支柱を背負った。そのとき岩蔭から、一人の男がとび出して来た。

(くろいやまぎのようなきものに、くろいずきんをかぶっていたが、)

黒い山着のような着物に、黒い頭巾をかぶっていたが、

(そのけはいをかんじてはやとがふりかえると、いきなりかたなできりつけてきた。)

そのけはいを感じて隼人が振返ると、いきなり刀で斬りつけて来た。

(はやとにはただくろいすがたと、はくじんのせんこうしかめにはいらず、)

隼人にはただ黒い姿と、白刃の閃光しか眼にはいらず、

(つなをつかんですばやくだんがいへとんだ。くうをきるかたなのおとがにどきこえ、)

綱を掴んですばやく断崖へ跳んだ。空を切る刀の音が二度聞え、

(はやとのからだはつなにつられて、ふりこのようにさゆうへゆれた。)

隼人の躯は綱に吊られて、振子のように左右へ揺れた。

(あいてのおとこはかけはしのはしへのりだし、はやとのからだがゆれもどってくると、)

相手の男はかけはしの端へ乗りだし、隼人の躯が揺れ戻って来ると、

(だんがいにたれているつなをきろうとした。はやとはしちゅうをせおっているため、)

断崖に垂れている綱を切ろうとした。隼人は支柱を背負っているため、

(そのおもみでつなのゆれをとめることができず、おとこのかたなはよたびまでつなにあたった。)

その重みで綱の揺れを止めることができず、男の刀は四たびまで綱に当った。

(はやとは「よせ」とさけぼうとした。そのかけはしはあぶない、)

隼人は「よせ」と叫ぼうとした。そのかけはしは危ない、

など

(おちるぞとさけびたかったが、したがうごかず、こえもでなかった。)

落ちるぞと叫びたかったが、舌が動かず、声も出なかった。

(おとこはぎゃくじょうしたようすで、ごたびめにはもっとみをのりだし、)

男は逆上したようすで、五たびめにはもっと身を乗りだし、

(ちからまかせにつなへむかってかたなをふった。すると、そのちからをささえきれなかったのだろう、)

力任せに綱へ向って刀を振った。すると、その力を支えきれなかったのだろう、

(はしのしちゅうがおれ、かけはしのはしのいたがさんまい、ほとんどおともなくくずれおちた。)

端の支柱が折れ、かけはしの端の板が三枚、殆んど音もなく崩れ落ちた。

(おとこはあっとさけんだ。かれのてからかたながとび、かれはみをおどらせて、)

男はあっと叫んだ。彼の手から刀が飛び、彼は身をおどらせて、

(いまはやとがうちこんだばかりの、あたらしいしちゅうにとびつき、)

いま隼人が打ち込んだばかりの、新しい支柱にとびつき、

(りょうてでからくもしがみついた。はやとはあいてをみまもった。ずきんがずれて、)

両手で辛くもしがみついた。隼人は相手を見まもった。頭巾がずれて、

(かおのはんぶんがあらわにみえる。それはにしざわはんしろうであった。)

顔の半分があらわに見える。それは西沢半四郎であった。

(はやとはじっとそのかおをみつめてい、にしざわはしちゅうにしがみついたまま、)

隼人はじっとその顔をみつめてい、西沢は支柱にしがみついたまま、

(はっ、はっとはげしくあえいでいた。これはあまりにざんこくだ。)

はっ、はっと激しくあえいでいた。これはあまりに残酷だ。

(はやとはそうおもった。にんげんがこんなにもみじめに、はいぼくしたすがたを)

隼人はそう思った。人間がこんなにもみじめに、敗北した姿を

(さらすということがあるだろうか。にしざわはんしろうがそろそろとくびをまわして、)

さらすということがあるだろうか。西沢半四郎がそろそろと首を廻して、

(はやとのほうをみた。かれのかおはきょうふのためかめんのようになり、)

隼人のほうを見た。彼の顔は恐怖のため仮面のようになり、

(りょうめはどうこうがひらいているようであった。)

両眼は瞳孔がひらいているようであった。

(にしざわのくちがあいて、はがみえた。しろくなったしたが、ちからなくくちびるをなめ、)

西沢の口があいて、歯が見えた。白くなった舌が、力なく唇を舐め、

(ついで、ひしゃげたようなこえがきこえた。「たすけてください」)

ついで、ひしゃげたような声が聞えた。「助けて下さい」

(にしざわははやとのめをみつめながら、たどたどしいくちぶりでいった、)

西沢は隼人の眼をみつめながら、たどたどしい口ぶりで云った、

(「おねがいです、たすけてください」そのときはやとのめのいろがかわった。)

「お願いです、助けて下さい」そのとき隼人の眼の色が変った。

(にしざわをみるときにはいつも、きかいしころでもみるようなめつきをしたが、)

西沢を見るときにはいつも、木か石ころでも見るような眼つきをしたが、

(たすけてくれというこえをきいたとたんに、あのおやのないあかごをみるような、)

助けてくれと云う声を聞いたとたんに、あの親のない赤児を見るような、

(やわらかくあたたかいいろにかわった。「うごいてはいけない」とはやとはいった、)

やわらかくあたたかい色に変った。「動いてはいけない」と隼人は云った、

(「いまゆくからじっとしていろ」はやとはせおっていたしちゅうのおいひもを、)

「いまゆくからじっとしていろ」隼人は背負っていた支柱の負い紐を、

(かたからはずした。しちゅうはせなかからおちてゆき、だんがいにあたって)

肩から外した。支柱は背中から落ちてゆき、断崖に当って

(にどばかりおとをたてたが、したへおちたおとはきこえなかった。)

二度ばかり音を立てたが、下へ落ちた音は聞えなかった。

(はやとはがけをけってはずみをつけ、にしざわのそばへゆれてゆくと、)

隼人は崖を蹴ってはずみをつけ、西沢の側へ揺れてゆくと、

(りょうてでしっかりかれをだきとった。りょうてとりょうあしではやとにしがみついたにしざわは、)

両手でしっかり彼を抱き取った。両手と両足で隼人にしがみついた西沢は、

(はやとのむねにかおをおしあててすすりないた。)

隼人の胸に顔を押し当てて、すすり泣いた。

(「どうかしましたか」とがけのうえからおかむらがどなった、)

「どうかしましたか」と崖の上から岡村がどなった、

(「あがってすこしやすんだらどうですか」「くいをいっぽんおとしてしまった」)

「あがって少し休んだらどうですか」「杭を一本落してしまった」

(とはやとがこたえた、「まもなくあがるが、くいをもういっぽんつくっておいてくれ」)

と隼人が答えた、「まもなくあがるが、杭をもう一本作っておいてくれ」

(それからにしざわにむかってささやいた、「ひとつやくそくをしてもらうことがある」)

それから西沢に向って囁いた、「一つ約束をしてもらうことがある」

(「わたしはしぬべきでした」とおえつしながらにしざわがいった、)

「私は死ぬべきでした」と嗚咽しながら西沢が云った、

(「あなたにたすけてもらうなんてあさましすぎる、どうして)

「貴方に助けてもらうなんてあさましすぎる、どうして

(たすけてくれなどといったのか、じぶんでもまったくわかりません」)

助けてくれなどと云ったのか、自分でもまったくわかりません」

(「そのはなしはきどへかえってからにしよう、もしすこしでもすまない)

「その話は木戸へ帰ってからにしよう、もし少しでも済まない

(というきもちがあったら、おとなしくきどへかえるとやくそくしてくれ」)

という気持があったら、温和しく木戸へ帰ると約束してくれ」

(「わたしにはわかりません」にしざわはこえをしのんですすりあげた、)

「私にはわかりません」西沢は声を忍んですすりあげた、

(「どうしていいのか、なんにもわからなくなりました」)

「どうしていいのか、なんにもわからなくなりました」

(「しっかりつかまっていろ」はやとはそういって、ちゅういぶかくがけをけった。)

「しっかりつかまっていろ」隼人はそう云って、注意ぶかく崖を蹴った。

(にしざわはみをちぢめて、しがみついたてあしにちからをいれ、からだぜんたいでふるえた。)

西沢は身をちぢめて、しがみついた手足に力をいれ、躯ぜんたいでふるえた。

(はやとはいそがず、ゆっくりとゆれをおおきくしてゆき、)

隼人はいそがず、ゆっくりと揺れを大きくしてゆき、

(かけはしののこったぶぶんへあしがかかると、それがおちないことをたしかめてから、)

かけはしの残った部分へ足が掛ると、それが落ちないことを慥かめてから、

(はじめてにしざわをはなし、じぶんもわたりいたのうえにおりた。)

はじめて西沢をはなし、自分も渡り板の上におりた。

(「いまのことはわたしとにしざわじしんしかしってはいない」とはやとはいった、)

「いまのことは私と西沢自身しか知ってはいない」と隼人は云った、

(「にしざわにはさいじょとまだおさないこがあるそうだ、きょうのことはたえがたいだろうが、)

「西沢には妻女とまだ幼い子があるそうだ、今日のことは耐えがたいだろうが、

(ここまでくればそこのそこだ、これをたちなおるきかいにするきはないか」)

ここまでくれば底の底だ、これを立ち直る機会にする気はないか」

(にしざわはくずれるようにそこへひざをついた。)

西沢は崩れるようにそこへ膝を突いた。

(「もしそのきになれず、はずかしいからといって)

「もしその気になれず、恥ずかしいからといって

(ここでむふんべつなことをするようなら」とはやとはつづけた、)

ここで無分別なことをするようなら」と隼人は続けた、

(「おれはあったことをすべてろうしょくにうったえてでる、そうすれば)

「おれはあったことをすべて老職に訴えて出る、そうすれば

(さいしがどうなるかはわかるだろう、ーーわかるだろう」)

妻子がどうなるかはわかるだろう、ーーわかるだろう」

(にしざわはふかくあたまをたれた。「きどへかえってはなしあおう」とはやとはいった、)

西沢は深く頭を垂れた。「木戸へ帰って話しあおう」と隼人は云った、

(「ちじょくをたえぬくということもりっぱなゆうきだ、こんどはそのゆうきを)

「恥辱を耐えぬくということも立派な勇気だ、こんどはその勇気を

(みせてくれ、そのくらいのことはできるはずだぞ」)

みせてくれ、そのくらいのことはできる筈だぞ」

(「きどへはかえります」にしざわはかすれたこえでいった、)

「木戸へは帰ります」西沢はかすれた声で云った、

(「あとのことはわかりませんが、きどでおかえりをまっていることは)

「あとのことはわかりませんが、木戸でお帰りを待っていることは

(おやくそくします」「ではこんやまたあおう」とはやとがいった、)

お約束します」「では今夜また会おう」と隼人が云った、

(「ひとのめにつかないようにかえってくれ」)

「人の眼につかないように帰ってくれ」

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