踊る人形7

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シャーロックホームズシリーズ
アーサーコナンドイルの作品です。句読点以外の記号は省いています。

関連タイピング

問題文

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(せんせい、それからどうなされたのですか?とけいぶがたずねる。どうすいりしても)

「先生、それからどうなされたのですか?」と警部が訊ねる。「どう推理しても

(このえいぶすれいになるじんぶつはあめりかじんです。なまえのつづりもあめりかしきで)

このエイブ・スレイニなる人物はアメリカ人です。名前の綴りもアメリカ式で

(またどうみても、このけんにはなにかかくれたはんざいがあるとおもうのです。ごふじんが)

またどう見ても、この件には何か隠れた犯罪があると思うのです。ご婦人が

(かこのことをほのめかしたり、だんなへのこくはくをこばんだり、このにてんはそのほうを)

過去のことをほのめかしたり、旦那への告白を拒んだり、この二点はその方を

(あるし、そもそもこのじけんのほったんはあめりかからきたてがみでした。)

あるし、そもそもこの事件の発端はアメリカから来た手紙でした。

(むいています。そこでわたしはゆうじんのうぃるすんはーぐりーヴへがいでんを)

向いています。そこで私は友人のウィルスン・ハーグリーヴへ外電を

(うちました。かれはにゅーよーくけいしちょうのにんげんで、いちどならずろんどんのじけんの)

打ちました。彼はニューヨーク警視庁の人間で、一度ならずロンドンの事件の

(ちしきをおしえてやったのです。えいぶすれいにというなまえをしっているかと)

知識を教えてやったのです。エイブ・スレイニという名前を知っているかと

(きいたところ、こうへんじがきました。しかごいちきけんなあくとう。このこたえを)

聞いたところ、こう返事が来ました。『シカゴ一危険な悪党』。この答えを

(えたちょうどそのよる、ひるとんきゅーびっとがすれいにからのさいごのでんごんを)

得たちょうどその夜、ヒルトン・キュービットがスレイニからの最後の伝言を

(おくってきました。わかっているもじをあてはめると、こうなります。)

送ってきました。わかっている文字を当てはめると、こうなります。

(elsie ・re・are to meetthy go・)

ELSIE ・RE・ARE TO MEETTHY GO・

(ここにpとdをくわえて、でんごんはかんせいです。えるしぃ、なんじのかみにあうかくごを)

ここにPとDを加えて、伝言は完成です。『エルシィ、汝の神に会う覚悟を

(しろ。あくとうがせっとくからおどしへすすんだことがわかり、わたしはしかごのあくとうどもの)

しろ』。悪党が説得から脅しへ進んだことがわかり、私はシカゴの悪党どもの

(やりかたをしっているだけに、すぐにでもことばをじっこうにうつすことがわかりました。)

やり方を知っているだけに、すぐにでも言葉を実行に移すことがわかりました。

(わたしはゆうじんでありあいぼうでもあるわとそんはかせとともにのーふぉーくへかけつけた)

私は友人であり相棒でもあるワトソン博士とともにノーフォークへ駆けつけた

(のですが、かなしいことに、ついたのはさいあくのじけんがおこったあとでした。)

のですが、悲しいことに、着いたのは最悪の事件が起こったあとでした。」

(あなたとじけんをいっしょにとりくめてこうえいです。けいぶはこころからいった。)

「あなたと事件を一緒に取り組めて光栄です。」警部は心から言った。

(ただしつれいかもしれませんが、しょうじきもうしあげて、あなたはしりつたんていですから)

「ただ失礼かもしれませんが、正直申しあげて、あなたは私立探偵ですから

(よいかもしれませんが、わたしにはそしきのしょくむというものがあります。その)

よいかもしれませんが、私には組織の職務というものがあります。その

など

(えるりっじにいるえいぶすれいになるおとこがほんとうにげしゅにんだとして、わたしが)

エルリッジにいるエイブ・スレイニなる男が本当に下手人だとして、私が

(こうしているうちににげられでもしたら、わたしとしてはもうだいよわりなのですが。)

こうしているうちに逃げられでもしたら、私としてはもう大弱りなのですが。」

(ごしんぱいなく。にげることなどいたしません。なぜおわかりで?)

「ご心配なく。逃げることなど致しません。」「なぜおわかりで?」

(にげることはすなわち、つみのじはくです。ではつかまえにいきましょう。)

「逃げることはすなわち、罪の自白です。」「では捕まえに行きましょう。」

(じき、ここへきます。えっ、なぜわざわざ?てがみでそうたのんだから)

「じき、ここへ来ます。」「えっ、なぜわざわざ?」「手紙でそう頼んだから

(です。そんなばかな、ほーむずさん!こいといってくるやつが)

です。」「そんなバカな、ホームズさん! 来いと言って来るやつが

(ありますか。そんなことをしたら、かえってうたがってにげてしまうじゃ)

ありますか。そんなことをしたら、かえって疑って逃げてしまうじゃ

(ありませんか。ぼくも、あのてがみのつくりかたはしっているつもりです。)

ありませんか。」「僕も、あの手紙の作り方は知っているつもりです。」

(としゃーろっくほーむずはいった。じじつ、まちがいではなさそうです、)

とシャーロック・ホームズは言った。「事実、間違いではなさそうです、

(そのしんしがごじしんでていないへおいでですから。ひとりのおとこがげんかんへつづくみちを、)

その紳士がご自身で邸内へおいでですから。」一人の男が玄関へ続く道を、

(おおまたにあるいてくる。せがたかく、かおはあさぐろくたんせい。はいいろのふらののすーつにみを)

大股に歩いてくる。背が高く、顔は浅黒く端正。灰色のフラノのスーツに身を

(つつみ、ぱなまぼうといういでたち。もじゃもじゃのあごひげに、おおきくまえに)

包み、パナマ帽という出で立ち。もじゃもじゃのあごひげに、大きく前に

(とんがったはな。らたんのつえをふりまわしながらおとこがやってくる。わがものがおでこみちを)

とんがった鼻。ラタンの杖を振り回しながら男がやってくる。我が物顔で小道を

(ふんぞりあるき、どうどうとよびりんをひびかせるのであった。どうやらしょくん、)

ふんぞり歩き、堂々と呼び鈴を響かせるのであった。「どうやら諸君、」

(ほーむずがしずかにいう。われわれはどあのかげにひそんだほうがけんめいのようだ。)

ホームズが静かに言う。「我々はドアの影に潜んだ方が賢明のようだ。

(あのようなおとこがあいてでは、ようじんにこしたことはない。てじょうもひつようです、けいぶ。)

あのような男が相手では、用心に越したことはない。手錠も必要です、警部。

(はなすのは、ぼくにおまかせねがいましょう。いっぷんのあいだ、われわれはいきをころして)

話すのは、僕にお任せ願いましょう。」一分のあいだ、我々は息を殺して

(まった。これもまた、わすれることのできないひとときだ。やがてとびらがひらき、)

待った。これもまた、忘れることの出来ないひとときだ。やがて扉が開き、

(そのおとこがなかにはいる。とおもううちに、ほーむずがけんじゅうをおとこのあたまにねらいつけ、)

その男が中に入る。と思ううちに、ホームズが拳銃を男の頭に狙いつけ、

(まーてぃんがすばやくてじょうをはめた。あっというまのできごとだったので、おとこは)

マーティンが素早く手錠をはめた。あっという間の出来事だったので、男は

(てもあしもだせず、しばらくしてようやくつかまったことにきづくありさまだった。)

手も足も出せず、しばらくしてようやく捕まったことに気づく有り様だった。

(そのおとこはわれわれを、つぎからつぎと、そのくろくするどいめでにらみつけた。そして、)

その男は我々を、次から次と、その黒く鋭い目でにらみつけた。そして、

(にがにがしくわらいごえをあげる。なるほど、あんたがたにしてやられたわ。やっかいな)

苦々しく笑い声を上げる。「なるほど、あんた方にしてやられたわ。厄介な

(ことにでくわしちまったらしい。だがおれはひるとんきゅーびっとふじんの)

ことにでくわしちまったらしい。だが俺はヒルトン・キュービット夫人の

(てがみにおうじてここへきたんだぜ。まさか、あいつもいちまいかんでるってことは)

手紙に応じてここへ来たんだぜ。まさか、あいつも一枚噛んでるってことは

(ないよな?ひるとんきゅーびっとふじんはふかいきずをおって、いまきとくだ。)

ないよな?」「ヒルトン・キュービット夫人は深い傷を負って、今危篤だ。」

(そのおとこはしわがれごえで、いえじゅうにひびきわたるような、かなしみのさけびをあげた。)

その男はしわがれ声で、家中に響き渡るような、悲しみの叫びを上げた。

(ふざけやがって!おとこはほえた。おれはおとこをやったんだ、あいつじゃない。)

「ふざけやがって!」男は吠えた。「おれは男をやったんだ、あいつじゃない。

(どうしていとしいえるしぃをやるもんか! ちょっとはおどかしたかもしれないが)

どうして愛しいエルシィをやるもんか! ちょっとはおどかしたかもしれないが

(かみさまもおゆるしのはずだ! おれは、あいつのきれいなかみいっぽんさわっちゃいねえ。)

神様もお許しのはずだ!―おれは、あいつの綺麗な髪一本触っちゃいねえ。

(とりけせ さあ!けがなんかしちゃいねえと!ごふじんはふしょうしたじょうたいで)

取り消せ―さあ! 怪我なんかしちゃいねえと!」「ご婦人は負傷した状態で

(みつかった、しんだおっとのそばで。おとこはふかいうめきごえをあげながら、ながいすに)

見つかった、死んだ夫のそばで。」男は深いうめき声を上げながら、長椅子に

(へたりこみ、てじょうのかかったりょうてでかおをおおった。ごふんほどだまりこんでいたが、)

へたり込み、手錠のかかった両手で顔を覆った。五分ほど黙り込んでいたが、

(またかおをおこして、こんどはかんねんしてしずかにかたりだした。かくすことなんか、)

また顔を起こして、今度は観念して静かに語り出した。「隠すことなんか、

(なにひとつないんだ。おとこはことばをつづける。おれがおとこをうったのなら、あのおとこも)

何ひとつないんだ。」男は言葉を続ける。「俺が男を撃ったのなら、あの男も

(おれにうったんだ。ころしのつみじゃあない。あんたがたが、おれがあいつをきずつけた)

俺に撃ったんだ。殺しの罪じゃあない。あんた方が、俺があいつを傷つけた

(っていうんなら、おれとあいつのことをよくしらねえってことだ。いいか、)

っていうんなら、俺とあいつのことをよく知らねえってことだ。いいか、

(このよでどんなおとこがどんなおんなをあいするよりも、おれはあいつをあいしていたんだ。)

この世でどんな男がどんな女を愛するよりも、俺はあいつを愛していたんだ。

(おれにはあいつをもらうけんりがある。なんねんかまえ、あいつはおれにちかったんだ。)

俺にはあいつをもらう権利がある。何年か前、あいつは俺に誓ったんだ。

(よこはいりしやがったこのいぎりすじんこそなにさまのつもりだ! いいか、おれには)

横入りしやがったこのイギリス人こそ何様のつもりだ! いいか、俺には

(あいつへのゆうせんけんがある。おれはそれをしゅちょうしたいだけだ。ごふじんが)

あいつへの優先権がある。おれはそれを主張したいだけだ。」「ご婦人が

(きみのてからにげだしたのは、そのきみのほんしょうにきづいたからだ。とほーむずの)

君の手から逃げ出したのは、その君の本性に気づいたからだ。」とホームズの

(きびしいこえ。ごふじんはきみをさけるためあめりかをとびだし、りっぱなえいこくしんしと)

厳しい声。「ご婦人は君を避けるためアメリカを飛び出し、立派な英国紳士と

(けっこんした。きみはごふじんにつきまといおいかけ、かのじょのじんせいをくるしみにかえた。)

結婚した。君はご婦人につきまとい追いかけ、彼女の人生を苦しみに変えた。

(そのりゆうは、ごふじんにけいあいするおっとをすてさせるため。さらにそのりゆうは、)

その理由は、ご婦人に敬愛する夫を捨てさせるため。さらにその理由は、

(おのれととうひこうさせるため。にくしみきらうおとこといっしょに。そのけっか、きみはひとりの)

おのれと逃避行させるため。憎しみ嫌う男と一緒に。その結果、君はひとりの

(けだかいおとこにしをもたらし、そのつまをじさつにおいやった。いじょうが)

気高い男に死をもたらし、その妻を自殺に追いやった。以上が

(このいっけんについてのきみのぎょうじょうだ、えいぶすれいに。そのむくいは、ほうから)

この一件についての君の行状だ、エイブ・スレイニ。その報いは、法から

(うけたまえ。えるしぃがしぬなら、どうなろうがしったこっちゃねえ。)

受けたまえ。」「エルシィが死ぬなら、どうなろうが知ったこっちゃねえ。」

(とあめりかじんはいった。そしてかたほうのてをひらいて、てのうえにのるしわくちゃの)

とアメリカ人は言った。そして片方の手を開いて、手の上に乗るしわくちゃの

(かきつけをのぞきこんだ。みてくれよ。おとこはこえをはりあげた。めにはうたがいの)

書き付けをのぞきこんだ。「見てくれよ。」男は声を張り上げた。目には疑いの

(いろがみちている。まさかおれをかつごうってはらじゃないだろうな?)

色が満ちている。「まさか俺を担ごうって腹じゃないだろうな?

(あんたがたのいうように、ごふじんがけがをしてるんなら、だれがこれを)

あんた方の言うように、ご婦人が怪我をしてるんなら、誰がこれを

(えがいたんだ?ぼくがえがいた。きみをここへよぶために。おまえがえがいたって?)

描いたんだ?」「僕が描いた。君をここへ呼ぶために。」「お前が描いたって?

(おれらいちみのほかは、だれひとりこのおどるにんぎょうのひみつをしらねえはずだ。どうやって)

おれら一味のほかは、誰一人この踊る人形の秘密を知らねえはずだ。どうやって

(えがきやがった?ひとのつくりしものならば、またひとはとくことができる。)

描きやがった?」「人の作りしものならば、また人は解くことができる。」

(とほーむず。きみをのりっじへはこぶばしゃがこっちにむかっている、)

とホームズ。「君をノリッジへ運ぶ馬車がこっちに向かっている、

(すれいにくん。しかしまだ、おのれのうんだひげきにたいして、たしょうのつみほろぼしを)

スレイニくん。しかしまだ、おのれの生んだ悲劇に対して、多少の罪滅ぼしを

(するじかんはある。しっているかね? じつはひるとんきゅーびっとふじんは、)

する時間はある。知っているかね? 実はヒルトン・キュービット夫人は、

(そのおっとのさつがいにかんして、おおきなうたがいをかけられているのだ。そして、ここへきた)

その夫の殺害に関して、大きな疑いをかけられているのだ。そして、ここへ来た

(わたしがたまたまもちあわせていたちしきで、うんよくこくはつをまぬがれえたのだ。きみが)

私がたまたま持ち合わせていた知識で、運良く告発を免れえたのだ。君が

(ごふじんにたいしてできるさいごのつぐないとして、ごふじんはこのさんげきの)

ご婦人に対してできる最後のつぐないとして、ご婦人はこの惨劇の

(けっかについて、ちょくせつにもかんせつにも、けっしてせきにんがないことをぜんせかいにたいして)

結果について、直接にも間接にも、決して責任がないことを全世界に対して

(あきらかにしたまえ。ねがってもないことだ。そのあめりかじんはいった。)

明らかにしたまえ。」「願ってもないことだ。」そのアメリカ人は言った。

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