黒死館事件120

投稿者桃仔プレイ回数565
難易度(5.0) 4623打 長文 長文モード可タグ小栗虫太郎 長文 小説 アンチミステリー 黒死館事件
小栗虫太郎の作品です。
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1 berry 6290 S 6.6 95.3% 687.7 4546 220 65 2021/12/25

関連タイピング

問題文

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(たしか、あのときのぶこは、だんねべるぐふじんとおなじれもなーでを)

「たしか、あの時伸子は、ダンネベルグ夫人と同じ檸檬水を

(のんだはずだったがね。しかし、あのおんなはとうに、ふぁうすとはかせのてで、)

嚥んだはずだったがね。しかし、あの女は既に、ファウスト博士の手で、

(もとのげんそにかえされてしまってるんだ そのあいだのりみずは、せいきのないどんじゅうな、せいめいの)

旧の元素に還されてしまってるんだ」その間法水は、生気のない鈍重な、生命の

(ぬけがらのようになってつったっていて、むしろそのようすは、はげしいくつうの)

脱殻のようになって突っ立っていて、むしろその様子は、烈しい苦痛の

(きょくてんにおいて、しょうりをえたひとのごとくであった。とうにせいとんのけいてんが)

極点において、勝利を得た人のごとくであった。既に整頓の楔点が

(ちかづいたせいか、そのきゅうげきにおとずれたひろうは、おそらくなにものにもまして、)

近づいたせいか、その急激に訪れた疲労は、恐らく何物にもまして、

(みわくてきなものだったにちがいないであろう。しかし、そのうちはげしいいしのちからが)

魅惑的なものだったに違いないであろう。しかし、そのうち烈しい意志の力が

(ほとばしりでてきて、うん、そのかみたにのぶこだが とがくりとあごぼねがなり、しゅんかん)

迸り出てきて、「うん、その紙谷伸子だが」とガクリと顎骨が鳴り、瞬間

(あたらしいきりょくがせいきをふきこんできた。それがとりもなおさず、)

新しい気力が生気を吹き込んできた。「それがとりもなおさず、

(くにっとりんげんのまほうつかいさ じつにこくしかんのゆうきふぁうすとはかせこそ、)

クニットリンゲンの魔法使さ」実に黒死館の幽鬼ファウスト博士こそ、

(かみたにのぶこだったのだ。しかし、それをきいたせつなけんじとくましろには、いったんは)

紙谷伸子だったのだ。しかし、それを聴いた刹那検事と熊城には、いったんは

(りほうとしんせいのすべてが、とんぼがえりをうってけしとんでしまったように、)

理法と真性のすべてが、蜻蛉返りを打ってケシ飛んでしまったように、

(おもわれたけれども、すこしおちついてくると、それにはむしろ、)

思われたけれども、少し落ち着いてくると、それにはむしろ、

(まじめなはんろんをだすのがばからしくなったくらい、ふしぎなほどれいせいな、)

真面目な反論を出すのが莫迦らしくなったくらい、不思議なほど冷静な、

(はんきょうひとつもどってゆかないというしずけさだった。だいいち、それをひていする)

反響一つ戻ってゆかないという静けさだった。第一、それを否定する

(げんぜんたるじじつのひとつというのは、のぶこはすでにごにんめのひとみごくうにあがっていて、)

厳然たる事実の一つと云うのは、伸子は既に五人目の人身御供に上っていて、

(そのれきぜんたるたさつのしょうせきが、のりみずのしょめいをともなってけんしほうこくしょに)

その歴然たる他殺の証跡が、法水の署名を伴って検死報告書に

(しるされているのだ。それからかぞくいがいのかのじょには、どうきともくすべきものが)

記されているのだ。それから家族以外の彼女には、動機と目すべきものが

(なにひとつなく、しかものりみずのどうじょうとひごをいっしんにあつめていたのぶこが、)

何一つなく、しかも法水の同情と庇護を一身に集めていた伸子が、

(どうしてはんにんだったとしんぜられようか。それゆえくましろには、それがえてしてあたまを)

どうして犯人だったと信ぜられようか。それゆえ熊城には、それがえてして頭を

など

(いためているもののかかりやすい、あるびょうてきなけいこうとみてとったのも)

痛めているものの罹りやすい、或る病的な傾向と見て取ったのも

(むりではなかった。まるで、きがとおくなりそうなはなしじゃないか。それとも、)

無理ではなかった。「まるで、気が遠くなりそうな話じゃないか。それとも、

(しんじつきみがしょうきでいるのなら、たったひとつでも、ぼくはそれにけいほうてきかちを)

真実君が正気でいるのなら、たった一つでも、僕はそれに刑法的価値を

(ようきゅうするよ。まずなにより、のぶこのしをじさつにうつすことだ ところがくましろくん)

要求するよ。まずなにより、伸子の死を自さつに移すことだ」「ところが熊城君

(こんどは、らな・かぷりなのもの というがどあのぱねるにあって、それをきみに、)

今度は、毛ほどのものーーと云うが扉の羽目にあって、それを君に、

(じっさいしょうことしてていきょうしよう とのりみずは、あいてのむはんきょうをあざけりかえすように、)

実際証拠として提供しよう」と法水は、相手の無反響を嘲り返すように、

(ちからをこめていった。ところで、ためしに、こういうばあいをかんがえてみたまえ。)

力を罩めて云った。「ところで、例しに、こういう場合を考えて見給え。

(あらかじめ、はりにりおぞるむ・おるきでえのせんいをむすびつけて、いっぽうのどあにかるくつきたてておき、)

あらかじめ、針に竜舌蘭の繊維を結び付けて、一方の扉に軽く突き立てておき、

(そのいったんをかぎあなのなかにさしいれて、そこへみずをそそぎこむ。すると、とうぜん)

その一端を鍵穴の中に差し入れて、そこへ水を注ぎ込む。すると、当然

(あのせんいがしゅうしゅくをはじめて、どあのひらきがしだいにせばめられてゆくだろう。そのとき、)

あの繊維が収縮を始めて、扉の開きがしだいに狭められてゆくだろう。その時、

(こめかみをいったけんじゅうが、てもとからなげだされて、そうしたはずみに、)

こめかみを射った拳銃が、手許から投げ出されて、そうした機に、

(ふたつのどあのあいだへおちたのだ。そうして、なんぷんかあとにどあがとざされると、まえもって)

二つの扉の間へ落ちたのだ。そうして、何分か後に扉が鎖されると、前もって

(たてておいたかけきんが、ぱったりとおちる。いや、それよりもどあのうごきが、けんじゅうを)

立てておいた掛金が、パッタリと落ちる。いや、それよりも扉の動きが、拳銃を

(ろうかへおしだしてしまうじゃないか。もちろんりおぞるむ・おるきでえのせんいは、はりをひきぬいて、)

廊下へ押し出してしまうじゃないか。勿論竜舌蘭の繊維は、針を引き抜いて、

(それごとかぎあなのなかにぼっしていったのだ とことばをきって、ながくふかく、)

それごと鍵穴の中に没していったのだ」と言葉を切って、長く深く、

(おののえがちないきをすいこんだ。そして、まっくろなひみつのおもにとともに、)

慄えがちな息を吸い込んだ。そして、真黒な秘密の重荷とともに、

(ふたたびはきだされた。ところがくましろくん、そうしてたさつからじさつに)

再び吐き出された。「ところが熊城君、そうして他さつから自さつに

(うつされるということになると、そこに、どんなひかりによってもみることのできない)

移されるということになると、そこに、どんな光によっても見ることの出来ない

(のぶこのこくはくぶんがあらわれてくるのだ。それはきまぐれなようせいめいた、ほうれいないつらくてきな)

伸子の告白文が現われてくるのだ。それは気紛れな妖精めいた、豊麗な逸楽的な

(しかも、あるおどろくべきれいちをもったにんげんいがいは、とうていそのふしぎなかんせいに)

しかも、ある驚くべき霊智を持った人間以外は、とうていその不思議な感性に

(ふれることができないのだ。のぶこは、あのちんぷきわまるしゅほうに、ひとつのあたらしい)

触れることが出来ないのだ。伸子は、あの陳腐きわまる手法に、一つの新しい

(せいめいをふきこんだ・・・・・・なに、こくはくぶん!?とけんじは、のうてんまで)

生命を吹き込んだ」「なに、告白文!?」と検事は、脳天まで

(しびれきったようなかおをして、たばこをくちからはなし、ぼんやりとのりみずのかおを)

痺れきったような顔をして、莨を口から放し、ぼんやりと法水の顔を

(みつめている。うん、ほのおのべんぜつだよ。しかも、そのほのおはけっしてみることは)

見詰めている。「うん、焔の弁舌だよ。しかも、その焔はけっして見ることは

(できないのだ。しかも、ふぁうすとはかせのさいごのぱんちりおで、それはいっしゅの)

出来ないのだ。しかも、ファウスト博士の最後の儀礼で、それは一種の

(さいふぁりんぐ・えきすぷれっしょんなんだ。ねえはぜくらくん、たとえば、かみ・みみ・くちびる・みみ・はな と)

秘密表示なんだ。ねえ支倉君、例えば、髪・耳・唇・耳・鼻ーーと

(じゅんじゅんにおさえてゆくと、それが hair. ear. lips. ear.)

順々に押えてゆくと、それが Hair. Ear. Lips. Ear.

(nose で、けっきょく helen となる そういう、さいふぁりんぐ・えきすぷれっしょんのいっしゅを、)

Noseで、結局Helenとなるーーそういう、秘密表示の一種を、

(のぶこは、たさつからじさつにうつってゆくてんきのなかに、ひめておいたのだ。)

伸子は、他さつから自さつに移ってゆく転機の中に、秘めておいたのだ。

(ところで、そのさいしょは、したいでえがいた k のもじだが、それはのぶこがじきてきに)

ところで、その最初は、屍体で描いたKの文字だが、それは伸子が自企的に

(おこした、ひすてりーせいまひのさんぶつだったのだよ。そのいくたのじつれいが、ぐーりゅと)

起した、比斯呈利性痲痺の産物だったのだよ。その幾多の実例が、グーリュと

(ぶろーの じんかくのへんかん のなかにもしるされているとおりで、あるしゅの)

ブローの『人格の変換』の中にも記されているとおりで、ある種の

(ひすてりーびょうしゃになると、こうてつをからだにあてて、そのはんたいがわにまひをおこすことが)

比斯呈利病者になると、鋼鉄を身体に当てて、その反対側に痳痺を起すことが

(できるのだ。つまり、ひだりてをたかくあげて、いっぽうのどあのかどによりかかっていたところへ、)

出来るのだ。つまり、左手を高く挙げて、一方の扉の角に寄り掛っていた所へ、

(みぎほおへけんじゅうをあてたのだから、とうぜんひだりはんしんにきょうちょくがおこるだろう。そして、)

右頬へ拳銃を当てたのだから、当然左半身に強直が起るだろう。そして、

(そのままはっしゃとともに、ゆかのうえにたおれたので、すいちょくをなしているひだりはんしんが、)

そのまま発射とともに、床の上に倒れたので、垂直をなしている左半身が、

(れいのうすきみわるい k のじをえがかせてしまったのだ。しかし、もちろんそれは、)

例の薄気味悪いKの字を描かせてしまったのだ。しかし、勿論それは、

(こぼると・じっひ・みゅーへん のしむぼるではない。そのふたつのどあをむすんで、りねぞるむ・おるきでえの)

地精よいそしめーーの表象ではない。その二つの扉を結んで、竜舌蘭の

(せんいがつくった そのはんえんというのは、どうみても uじがたじゃないか。それから)

繊維が作ったーーその半円というのは、どう見てもU字形じゃないか。それから

(どあにおされたけんじゅうがうごいていったせんが、あろうことか sのじを)

扉に押された拳銃が動いていった線が、あろうことかSの字を

(えがいているんだ。ああ、こぼると、うんでぃね、じるふぇ・・・・・・。そして、さいごに、)

描いているんだ。ああ、地精、水精、風精。そして、最後に、

(あのしちゅえーしょんのしんそう suicide じさつ をくわえると、そのぜんたいが、)

あの状況の真相 Suicide(自さつ)を加えると、その全体が、

(きゅっすとなってしまう。そのにききょうをぜっしたふぁうすとはかせのざんげぶんが)

Küssとなってしまう。そこに、奇矯を絶したファウスト博士の懺悔文が

(あらわれてくるのだ。もちろんのぶこは、それいぜんにあるぶったいを、きっす のぞうのどうたいに)

現われてくるのだ。勿論伸子は、それ以前に或る物体を、『接吻』の像の胴体に

(いんとくしておいた・・・・・・)

隠匿しておいた・・・・・・」

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