バスカヴィル家の犬

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シャーロックホームズシリーズ
アーサーコナンドイルの作品です。句読点以外の記号は省いています。

関連タイピング

問題文

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(だいいっしょう しゃーろっくほーむずし)

第一章 シャーロックホームズ氏

(しゃーろっくほーむずは、まえのよるからねていないばあいをのぞけば、 これがけっこう)

シャーロックホームズは、前の夜から寝ていない場合を除けば、―これが結構

(ひんぱんにあったが 、ふだんはひじょうにあさがおそいにんげんだった。しかし、このひは)

頻繁にあったが―、普段は非常に朝が遅い人間だった。しかし、この日は

(わたしよりさきにちょうしょくのてーぶるにすわっていた。わたしはだんろまえのしきものにたって、さくやきた)

私より先に朝食のテーブルに座っていた。私は暖炉前の敷物に立って、昨夜来た

(きゃくがわすれていったすてっきをてにとった。それはみごとなふといきでできていて、)

客が忘れていったステッキを手に取った。それは見事な太い木で出来ていて、

(きゅうこんのようなもちてがついていた。ぺなんろいやーとよばれるたいぷの)

球根のような持ち手がついていた。ペナン・ロイヤーと呼ばれるタイプの

(ものだ。もちてのすぐしたにほとんどいちいんちはあろうかというひろいぎんのおびが)

ものだ。持ち手のすぐ下にほとんど一インチはあろうかという広い銀の帯が

(まいてあり、1884のねんごうとともにじぇーむずもーてぃまーへ)

巻いてあり、1884の年号と共に「ジェームズ・モーティマーへ

(m.r.c.s.c.c.h.のゆうじんよりとこくいんされていた。かつての)

M.R.C.S.C.C.H.の友人より」と刻印されていた。かつての

(かいぎょういがよくつかっていたのは、ちょうどこういうすてっきだ、 いげんがあり、)

開業医がよく使っていたのは、ちょうどこういうステッキだ、―威厳があり、

(がんじょうで、しんらいかんがあった。どうだ、わとそん、なにかわかったか?)

頑丈で、信頼感があった。「どうだ、ワトソン、何か分かったか?」

(ほーむずはむこうをむいてすわっており、つえをてにしたとき、おとがしたわけでも)

ホームズは向こうを向いて座っており、杖を手にした時、音がしたわけでも

(なかった。なんで、やっていることがわかったんだ?あたまのうしろにもめが)

なかった。「なんで、やっていることが分かったんだ?頭の後ろにも目が

(ついているとはしらなかった まあ、このぴかぴかのぎんめっきせいの)

ついているとは知らなかった」「まあ、このピカピカの銀メッキ製の

(こーひーぽっとが、ぼくのめだな かれはいった。いいから、わとそん、その)

コーヒーポットが、僕の目だな」彼は言った。「いいから、ワトソン、その

(すてっきでなにがわかるか、いってみてくれ。まずいことに、そのきゃくとは)

ステッキで何が分かるか、言ってみてくれ。まずいことに、その客とは

(あいそこなって、ようけんもわからない。だから、そのぐうぜんのおきみやげがきちょうに)

会いそこなって、用件も分からない。だから、その偶然の置き土産が貴重に

(なってくるわけだ。それをしらべてうかびあがるじんぶつぞうをきかせてくれ)

なって来るわけだ。それを調べて浮かび上がる人物像を聞かせてくれ」

(そうだな わたしはほーむずのしゅほうをかのうなかぎりまねながらいった。)

「そうだな」私はホームズの手法を可能な限り真似ながら言った。

(このもーてぃまーはかせはせいこうしたそうねんのいしゃだ。しりあいから、こういう)

「このモーティマー博士は成功した壮年の医者だ。知り合いから、こういう

など

(かんしゃのしるしをぷれぜんとされているぐらいだから、かなりそんけいされている)

感謝の印をプレゼントされているぐらいだから、かなり尊敬されている」

(50てん!ほーむずがいった。75てんか!こうもかんがえる。このひとは)

「50点!」ホームズが言った。「75点か!」「こうも考える。この人は

(いなかのかいぎょういで、しょっちゅうとほでおうしんしているかのうせいがたかい)

田舎の開業医で、しょっちゅう徒歩で往診している可能性が高い」

(なぜそうおもう?なぜなら、このすてっきは、もともとはひじょうにりっぱな)

「なぜそう思う?」「なぜなら、このステッキは、元々は非常に立派な

(ものだが、あちこちにうちきずがある。まちのかいぎょういがもっていたとはちょっと)

ものだが、あちこちに打ち傷がある。街の開業医が持っていたとはちょっと

(おもえない。ぶあついてつのいしづきはすりへっている。したがってこれをもってひじょうに)

思えない。分厚い鉄の石突きは磨り減っている。したがってこれを持って非常に

(ながいきょりをあるいたことはめいはくだ まんてんかな!ほーむずがいった。)

長い距離を歩いたことは明白だ」「満点かな!」ホームズが言った。

(さらに、ここにc.c.h.のゆうじんとある。これはたぶん、どこかいなかの)

「さらに、ここに『C.C.H.の友人』とある。これは多分、どこか田舎の

(しゅりょうくらぶだ。おそらくめんばーがげかしゅじゅつかなにかでせわになったんで、)

狩猟クラブだ。おそらくメンバーが外科手術か何かで世話になったんで、

(そのおれいに、ちょっとしたぷれぜんとをわたした わとそん、きみにしては)

そのお礼に、ちょっとしたプレゼントを渡した」「ワトソン、君にしては

(じょうできだ ほーむずはいすをおしもどして、はまきにひをつけていった。)

上出来だ」ホームズは椅子を押し戻して、葉巻に火をつけて言った。

(どうかんがえてもきみがぼくのちょっとしたせいこうをほめるのにいそがしくて、いつもじぶんの)

「どう考えても君が僕のちょっとした成功を誉めるのに忙しくて、いつも自分の

(のうりょくをかしょうひょうかしてきたといわざるをえない。もしかすると、きみはじぶんじしんが)

能力を過小評価してきたと言わざるをえない。もしかすると、君は自分自身が

(かがやくのでなくとも、ひかりをみちびきだすじんぶつかもしれない。さいのうがないにんげんのなかにも)

輝くのでなくとも、光を導き出す人物かもしれない。才能がない人間の中にも

(さいのうをしげきするおどろくべきのうりょくをもったものもいる。じつは、わとそん、ぼくはきみが)

才能を刺激する驚くべき能力を持った者もいる。実は、ワトソン、僕は君が

(いてくれてひじょうにたすかっている いままで、かれからこれほどほめられたことは)

いてくれて非常に助かっている」今まで、彼からこれほど誉められた事は

(なかった。このことばをきいてひじょうにうれしくなったのはじじつだ。なぜなら、わたしが)

なかった。この言葉を聞いて非常に嬉しくなったのは事実だ。なぜなら、私が

(いくらかれにさんじをおくっても、かれのしゅほうをひろくしってもらおうとどりょくしても、)

いくら彼に賛辞を送っても、彼の手法を広く知ってもらおうと努力しても、

(かれはまったくすずしいかおで、よくきぶんをがいされてきたからだ。それとどうじに、)

彼はまったく涼しい顔で、よく気分を害されてきたからだ。それと同時に、

(わたしはじぶんがほーむずのしゅほうをますたーし、ししょうがみとめるほどうまくおうようできる)

私は自分がホームズの手法をマスターし、師匠が認めるほど上手く応用できる

(までになったとおもうとほこらしくもあった。ほーむずはここで、わたしのてから)

までになったと思うと誇らしくもあった。ホームズはここで、私の手から

(すてっきをとり、すうふんかん、らがんでしらべた。それからきょうみぶかげなひょうじょうになって、)

ステッキを取り、数分間、裸眼で調べた。それから興味深げな表情になって、

(はまきをおくと、そのつえをまどのそばまでもっていき、もういちどかくだいきょうでしらべた。)

葉巻を置くと、その杖を窓の側まで持って行き、もう一度拡大鏡で調べた。

(きょうみぶかいな。しょきゅうもんだいだが かれはながいすのおきにいりのはしにもどりながら)

「興味深いな。初級問題だが」彼は長椅子のお気に入りの端に戻りながら

(いった。たしかにそのすてっきにはひとつ、ふたつひんととなるものがある。)

言った。「確かにそのステッキには一つ、二つヒントとなるものがある。

(それがすいりのしゅっぱつてんになりそうだ なにかみのがしたかな?わたしはちょっと)

それが推理の出発点になりそうだ」「何か見逃したかな?」私はちょっと

(もったいぶってたずねた。おおきなげんてんはないとおもうが ざんねんだが、わとそん、)

もったいぶって尋ねた。「大きな減点はないと思うが」「残念だが、ワトソン、

(きみのけつろんはほとんどまちがっている。ぼくがきみにしげきされるといういみは、)

君の結論はほとんど間違っている。僕が君に刺激されると言う意味は、

(わかりやすくいいかえると、きみのまちがいをしてきするなかで、しんじつがよくみえてくる)

分かりやすく言い換えると、君の間違いを指摘する中で、真実がよく見えて来る

(ということだ。こんかいのばあい、きみはかんぜんにまちがってるわけではない。このおとこは)

ということだ。今回の場合、君は完全に間違ってるわけではない。この男は

(まちがいなくいなかのかいぎょういだ。しかも、ひじょうによくあるいている じゃあ、)

間違いなく田舎の開業医だ。しかも、非常に良く歩いている」「じゃあ、

(まちがってないじゃないか そこまでは しかしそれでぜんぶだろう)

間違ってないじゃないか」「そこまでは」「しかしそれで全部だろう」

(いや、いや、わとそん、ぜんぶではない、 ぜんぶどころではない。たとえば、)

「いや、いや、ワトソン、全部ではない、―全部どころではない。例えば、

(いしゃにたいするぷれぜんとというのは、しゅりょうくらぶからよりもびょういんからおくられる)

医者に対するプレゼントというのは、狩猟クラブからよりも病院から贈られる

(かのうせいのほうがたかいんじゃないかな。びょういんをいみするh.のまえに)

可能性のほうが高いんじゃないかな。病院を意味するH.の前に

(c.c.といういにしゃるがあるので、ごくしぜんに)

『C.C.』というイニシャルがあるので、ごく自然に

(ちゃーりんぐくろすというなまえがおもいうかぶんだがな そっちのほうが)

『チャーリング・クロス』という名前が思い浮かぶんだがな」「そっちの方が

(ただしいみたいだな あたらずともとおからずだろう。もしこれをさぎょうかせつとして)

正しいみたいだな」「当たらずとも遠からずだろう。もしこれを作業仮説として

(さいようするなら、これをあたらしいしゅっぱつてんとしてみしらぬほうもんしゃのじんぶつぞうをこうちくする)

採用するなら、これを新しい出発点として見知らぬ訪問者の人物像を構築する

(ことがかのうになる c.c.h.がちゃーりんぐくろすびょういんだと)

ことが可能になる」「C.C.H.が『チャーリング・クロス病院』だと

(かていしたところで、そこからどんなすいそくがえられるというんだ? なにも)

仮定したところで、そこからどんな推測が得られると言うんだ?」「何も

(おもいつかないのか?ぼくのやりかたはしっているだろう。それをつかえ!)

思いつかないのか?僕のやり方は知っているだろう。それを使え!」

(かんがえられるとすれば、このじんぶつがいなかにいくまえ、まちでいしゃをしていたという)

「考えられるとすれば、この人物が田舎に行く前、街で医者をしていたという

(わかりきったけつろんだけだな もうすこしおおきくてんかいしてもかまわないだろうな。)

分かりきった結論だけだな」「もう少し大きく展開しても構わないだろうな。

(こういうかんてんからみてみよう。ゆうじんたちがあつまってゆうじょうのあかしとして、こういう)

こういう観点から見てみよう。友人達が集まって友情の証として、こういう

(ぷれぜんとをするのに、いちばんありふれたきかいといえばなにだろうか?あきらかに)

プレゼントをするのに、一番ありふれた機会といえば何だろうか?明らかに

(もーてぃまーせんせいがかいぎょうをはじめるためにびょういんをやめるときだ。いま、ぷれぜんとが)

モーティマー先生が開業を始めるために病院を辞める時だ。今、プレゼントが

(あったというしょうこはてにしている。さらに、まちのびょういんからいなかのかいぎょういへ)

あったという証拠は手にしている。さらに、街の病院から田舎の開業医へ

(てんしょくしたというのもほぼまちがいない。そこで、すいりをもういっぽすすめて、これは)

転職したというのもほぼ間違いない。そこで、推理をもう一歩進めて、これは

(そのてんしょくのさいにぷれぜんとされたものだといえば、いいすぎだろうか?)

その転職の際にプレゼントされたものだと言えば、言い過ぎだろうか?」

(たしかにありえるようだ ここで、きみもわかるとおもうが、このじんぶつはびょういんの)

「確かにありえるようだ」「ここで、君も分かると思うが、この人物は病院の

(せいきいしではありえない。そのしょくにつくには、ろんどんでおおくのかんじゃが)

正規医師ではありえない。その職につくには、ロンドンで多くの患者が

(ついているひつようがある。ゆえに、ろんどんをはなれるわけがない。ではこのじんぶつは)

ついている必要がある。ゆえに、ロンドンを離れるわけがない。ではこの人物は

(なにものか?もしびょういんにいて、せいきいしではないとすれば、びょうとうづきのげかいか)

何者か?もし病院にいて、正規医師ではないとすれば、病棟づきの外科医か

(ないかいでしかありえない、 いがくせいにちょっとけがはえたていどだ。そして)

内科医でしかありえない、―医学生にちょっと毛が生えた程度だ。そして

(ごねんまえにびょういんをさった、 そのひづけがすてっきにある。だから、わとそん、)

五年前に病院を去った、―その日付がステッキにある。だから、ワトソン、

(いかめしいちゅうねんのかいぎょういというきみのじんぶつぞうはきえ、ここにせいねんぞうがあらわれる。)

いかめしい中年の開業医という君の人物像は消え、ここに青年像が現われる。

(30にもならないおとこ。ひとあたりのよいやしんのないうっかりもの。)

30にもならない男。人当たりのよい野心のないうっかり者。

(ざっとみつもって、てりあよりもおおきくますてぃふよりちいさいいぬを)

ざっと見積もって、テリアよりも大きくマスティフより小さい犬を

(かわいがっているじんぶつだ わたしはうたがわしそうにわらった。しゃーろっくほーむずは)

可愛がっている人物だ」私は疑わしそうに笑った。シャーロックホームズは

(ながいすにもたれ、ちいさなゆらゆらとしたけむりのわをてんじょうにむかってはなっていた。)

長椅子にもたれ、小さなゆらゆらとした煙の環を天井に向かって放っていた。

(きみのすいりのこうはんぶぶんは、わたしではかくにんのしようがない わたしはいった。しかし)

「君の推理の後半部分は、私では確認のしようがない」私は言った。「しかし

(すくなくとも、そのおとこのねんれいとしょくぎょうけいれきにかんしてなら、かんたんにしょうさいをしることが)

少なくとも、その男の年齢と職業経歴に関してなら、簡単に詳細を知ることが

(できる わたしはじぶんのいがくしょがはいったちいさなほんだなから、いしめいぼをとりだして、)

できる」私は自分の医学書が入った小さな本棚から、医師名簿を取り出して、

(そのなまえをしらべた。もーてぃまーというなまえはいくつかみつかった。しかし)

その名前を調べた。モーティマーという名前はいくつか見つかった。しかし

(このほうもんしゃにてきごうするのは、ひとりだけだった。)

この訪問者に適合するのは、一人だけだった。

(わたしはこえにだしてそのきじゅつをよんだ。)

私は声に出してその記述を読んだ。

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