怪人二十面相41 江戸川乱歩
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問題文
(「これ、これ、あけちさん、どうしたんじゃ、ぞくをほめたてているばあいではない。)
「これ、これ、明智さん、どうしたんじゃ、賊を褒め立てている場合ではない。
(ちぇっ、これはまあなんというざまだ。ああ、それに、さくぞうたちを、このままに)
チェッ、これはまあ何という様だ。ああ、それに、作蔵達を、このままに
(しておいてはかわいそうじゃ。けいじさん、ぼんやりしてないで、はやくなわを)
しておいては可哀想じゃ。刑事さん、ぼんやりしてないで、早く縄を
(といてやってください。さるぐつわもはずして。そうすればさくぞうのくちからぞくのてがかりも)
解いてやって下さい。猿轡も外して。そうすれば作蔵の口から賊の手掛かりも
(つくというもんじゃないか」 あけちが、いっこうたよりにならぬものですから、)
つくというもんじゃないか」 明智が、一向頼りにならぬものですから、
(あべこべに、くさかべろうじんがたんていみたいにさしずをするしまつです。)
あべこべに、日下部老人が探偵みたいに指図をする始末です。
(「さあ、ごろうじんのめいれいだ。なわをといてやりたまえ」 あけちがけいじにみょうな)
「さあ、ご老人の命令だ。縄を解いてやり給え」 明智が刑事に妙な
(めくばせをしました。 すると、いままでぼんやりしていたけいじが、にわかに)
目配せをしました。 すると、今までぼんやりしていた刑事が、俄かに
(しゃんとたちなおって、ぽけっとからひとたばのほじょうをとりだしたかとおもうと、)
シャンと立ち直って、ポケットから一束の捕縄を取り出したかと思うと、
(いきなりくさかべろうじんのうしろにまわってぱっとなわをかけ、ぐるぐるとしばりはじめました)
いきなり日下部老人の後ろに回ってパっと縄を掛け、グルグルと縛り始めました
(「これ、なにをする。ああ、どいつもこいつも、きちがいばかりじゃ。わしをしばって)
「これ、何をする。ああ、どいつもこいつも、気違いばかりじゃ。儂を縛って
(どうするのだ。わしをしばるのではない。そこにころがっている、ふたりのなわを)
どうするのだ。儂を縛るのではない。そこに転がっている、二人の縄を
(とくのじゃ。これ、わしではないというに」 しかし、けいじはいっこうてを)
解くのじゃ。これ、儂ではないというに」 しかし、刑事は一向手を
(ゆるめようとはしません。むごんのまま、とうとうろうじんをたかてこてにしばりあげて)
緩めようとはしません。無言のまま、とうとう老人を高手小手に縛り上げて
(しまいました。 「これ、きちがいめ。これ、なにをする。あ、いたいいたい。)
しまいました。 「これ、気違いめ。これ、何をする。あ、痛い痛い。
(いたいというに。あけちさん、あんたなにをわらっているのじゃ。とめてくださらんか。)
痛いというに。明智さん、あんた何を笑っているのじゃ。止めて下さらんか。
(このおとこはきがちがったらしい。はやく、なわをとくようにいってください。これ、)
この男は気が違ったらしい。早く、縄を解くように言ってください。これ、
(あけちさんというに」 ろうじんは、なにがなんだかわけがわからなくなってしまいました)
明智さんというに」 老人は、何が何だか訳が分からなくなってしまいました
(みなそろってきちがいになったのでしょうか。でなければ、じけんのいらいしゃを)
皆揃って気違いになったのでしょうか。でなければ、事件の依頼者を
(しばりあげるなんてほうはありません。またそれをみて、たんていがにやにやわらって)
縛り上げるなんて法はありません。またそれを見て、探偵がニヤニヤ笑って
(いるなんてばかなことはありません。 「ごろうじん、だれをおよびになっているのです)
いるなんて馬鹿な事はありません。 「ご老人、誰をお呼びになっているのです
(あけちとかおっしゃったようですが」 あけちじしんが、こんなことをいいだしたのです。)
明智とか仰ったようですが」 明智自身が、こんな事を言い出したのです。
(「なにをじょうだんをいっているのじゃ。あけちさん、あんた、まさかじぶんのなを)
「何を冗談を言っているのじゃ。明智さん、あんた、まさか自分の名を
(わすれたのではあるまい」 「このぼくがですか。このぼくがあけちこごろうだと)
忘れたのではあるまい」 「この僕がですか。この僕が明智小五郎だと
(おっしゃるのですか」 あけちはすまして、いよいよへんなことをいうのです。)
仰るのですか」 明智は澄まして、いよいよ変な事を言うのです。
(「きまっておるじゃないか。なにをばかなことを・・・・・・」 「ははは・・・・・・、ごろうじん、)
「決まっておるじゃないか。何を馬鹿な事を……」 「ハハハ……、ご老人、
(あなたこそ、どうかなすったんじゃありませんか。ここにはあけちなんてにんげんは)
貴方こそ、どうかなすったんじゃありませんか。ここには明智なんて人間は
(いやしませんぜ」 ろうじんはそれをきくと、ぽかんとくちをあけて、きつねにでも)
いやしませんぜ」 老人はそれを聞くと、ポカンと口を開けて、キツネにでも
(つままれたようなかおをしました。 あまりのことにきゅうにはくちもきけないのです。)
摘ままれたような顔をしました。 あまりの事に急には口もきけないのです。
(「ごろうじん、あなたはいぜんにあけちこごろうとおあいになったことがあるのですか」)
「ご老人、貴方は以前に明智小五郎とお会いになった事があるのですか」
(「あったことはない。じゃが、しゃしんをみてよくしっておりますわい」)
「会った事はない。じゃが、写真を見てよく知っておりますわい」
(「しゃしん?しゃしんではちとこころぼそいですねえ。そのしゃしんにぼくがにているとでも)
「写真?写真ではちと心細いですねえ。その写真に僕が似ているとでも
(おっしゃるのですか」 「・・・・・・・・・・・・」)
仰るのですか」 「…………」
(「ごろうじん、あなたはにじゅうめんそうがどんなじんぶつかということを、おわすれになって)
「ご老人、貴方は二十面相がどんな人物かという事を、お忘れになって
(いたのですね。にじゅうめんそう、ほら、あいつはへんそうのめいじんだったじゃありませんか」)
いたのですね。二十面相、ほら、あいつは変装の名人だったじゃありませんか」
(「そ、それじゃ、き、きさまは・・・・・・」 ろうじんはやっと、ことのしだいが)
「そ、それじゃ、き、貴様は……」 老人はやっと、事の次第が
(のみこめてきました。そしてがくぜんとしていろをうしなったのでした。)
呑み込めてきました。そして愕然として色を失ったのでした。
(「ははは・・・・・・、おわかりになりましたかね」 「いや、いや、そんなばかなことが)
「ハハハ……、お分かりになりましたかね」 「いや、いや、そんな馬鹿な事が
(あるはずはない。わしはしんぶんをみたのじゃ。「いずにっぽう」にちゃんと)
ある筈はない。儂は新聞を見たのじゃ。『伊豆日報』にちゃんと
(「あけちたんていらいしゅう」とかいてあった。それから、ふじやのじょちゅうがこのひとだと)
『明智探偵来修』と書いてあった。それから、富士屋の女中がこの人だと
(おしえてくれた。どこにもまちがいはないはずじゃ」 )
教えてくれた。何処にも間違いはない筈じゃ」