怪人二十面相73 江戸川乱歩

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少年探偵団シリーズ1作目

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問題文

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(「にじゅうめんそうのかくれがであいました。そうかんかっか、あなたは、ぼくがにじゅうめんそうのために)

「二十面相の隠れ家で会いました。総監閣下、貴方は、僕が二十面相の為に

(ゆうかいされたことをごぞんじでしょう。ぼくのかていでもせけんでもそうかんがえ、しんぶんも)

誘拐された事を御存知でしょう。僕の家庭でも世間でもそう考え、新聞も

(そうかいておりました。しかし、あれは、じつをもうしますと、ぼくのけいりゃくに)

そう書いておりました。しかし、あれは、実を申しますと、僕の計略に

(すぎなかったのです。ぼくはゆうかいなんかされませんでした。かえってぞくのみかたに)

過ぎなかったのです。僕は誘拐なんかされませんでした。かえって賊の味方に

(なって、あるじんぶつのゆうかいをてつだってやったほどです。 さくねんのことですが、)

なって、ある人物の誘拐を手伝ってやったほどです。  昨年の事ですが、

(ぼくはあるひひとりのふしぎなでしいりしがんしゃのほうもんをうけました。)

僕はある日一人の不思議な弟子入り志願者の訪問を受けました。

(ぼくはそのおとこをみてひじょうにおどろきました。めのまえにおおきなかがみがたったのではないかと)

僕はその男を見て非常に愕きました。目の前に大きな鏡が立ったのではないかと

(あやしんだほどです。なぜかともうしますと、そのでしいりしがんしゃは、せかっこうから、)

怪しんだほどです。何故かと申しますと、その弟子入り志願者は、背格好から、

(かおつきから、あたまのけのちぢれかたまで、このぼくとすんぶんちがわないくらいよくにていた)

顔付きから、頭の毛の縮れ方まで、この僕と寸分違わないくらいよく似ていた

(からです。つまり、そのおとこはぼくのかげむしゃとして、なにかのばあいのぼくのかえだまとして)

からです。つまり、その男は僕の影武者として、何かの場合の僕の替え玉として

(やとってほしいというのです。 ぼくは、だれにもしらせず、そのおとこをやといいれて、)

雇って欲しいと言うのです。  僕は、誰にも知らせず、その男を雇い入れて、

(あるところへすまわせておきましたが、それがこんどやくにたったのです。)

ある処へ住まわせておきましたが、それが今度役に立ったのです。

(ぼくはあのひがいしゅつして、そのおとこのかくれがへいき、すっかりふくそうをとりかえて、)

僕はあの日外出して、その男の隠れ家へ行き、すっかり服装を取り換えて、

(ぼくになりすましたそのおとこを、さきにぼくのじむしょへかえらせ、しばらくしてから、ぼくじしんは)

僕に成りすましたその男を、先に僕の事務所へ帰らせ、暫くしてから、僕自身は

(ふろうにんあかいとらぞうというものにばけて、あけちじむしょをたずね、ぽーちのところで、)

浮浪人赤井寅三という者に化けて、明智事務所を訪ね、ポーチの処で、

(じぶんのかえだまとちょっとかくとうをしてみせたのです。 ぞくのぶかがそのようすをみて)

自分の替え玉とちょっと格闘をして見せたのです。 賊の部下がその様子を見て

(すっかりぼくをしんようしました。そして、それほどあけちにうらみがあるなら、)

すっかり僕を信用しました。そして、それほど明智に恨みがあるなら、

(にじゅうめんそうのぶかになれとすすめてくれたのです。そういうわけで、ぼくはぼくのかえだまを)

二十面相の部下になれと勧めてくれたのです。そういう訳で、僕は僕の替え玉を

(ゆうかいするおてつだいをしたうえ、とうとうぞくのそうくつにはいることができました。)

誘拐するお手伝いをした上、とうとう賊の巣窟に入る事が出来ました。

(しかし、にじゅうめんそうのやつはなかなかゆだんがなくて、なかまいりをしたそのひから、)

しかし、二十面相の奴はなかなか油断がなくて、仲間入りをしたその日から、

など

(ぼくをいえのなかのしごとばかりにつかい、1ぽもそとへだしてくれませんでした。)

僕を家の中の仕事ばかりに使い、一歩も外へ出してくれませんでした。

(むろん、はくぶつかんのびじゅつひんをぬすみだすしゅだんなど、ぼくにはすこしもうちあけて)

無論、博物館の美術品を盗み出す手段など、僕には少しも打ち明けて

(くれなかったのです。 そして、とうとう、きょうになってしまいました。)

くれなかったのです。  そして、とうとう、今日になってしまいました。

(ぼくはあるけっしんをして、ごごになるのをまちかまえていました。するとごご2じごろ)

ぼくはある決心をして、午後になるのを待ち構えていました。すると午後二時頃

(ぞくのかくれがのちかしつのいりぐちがあいて、にんぷのふくそうをしたたくさんのぶかのものが、)

賊の隠れ家の地下室の入り口が開いて、人夫の服装をした沢山の部下の者が、

(てにてにきちょうなびじゅつひんをかかえて、どかどかとおりてきました。むろんはくぶつかんの)

手に手に貴重な美術品を抱えて、ドカドカと降りてきました。むろん博物館の

(とうなんひんです。 ぼくはちかしつにるすばんをしているあいだに、さけ、さかなのよういを)

盗難品です。  僕は地下室に留守番をしている間に、酒、肴の用意を

(しておきました。そしてかえってきたぶかと、ぼくといっしょにのこっていたぶかと、)

しておきました。そして帰ってきた部下と、僕と一緒に残っていた部下と、

(ぜんぶのものにしゅくはいをすすめました。そこでぶかたちは、だいじぎょうのせいこうしたうれしさに)

全部の者に祝杯を勧めました。そこで部下たちは、大事業の成功した嬉しさに

(むちゅうになってさかもりをはじめたのですが、やがて、30ふんほどもしますと、)

夢中になって酒盛りを始めたのですが、やがて、三十分ほどもしますと、

(ひとりたおれ、ふたりたおれ、ついにはのこらず、きをうしなってたおれてしまいました。)

一人倒れ、二人倒れ、ついには残らず、気を失なって倒れてしまいました。

(なぜかとおっしゃるのですか。わかっているではありませんか。ぼくはぞくのやくひんしつから)

何故かと仰るのですか。分かっているではありませんか。僕は賊の薬品室から

(ますいざいをとりだして、あらかじめそのさけのなかへまぜておいたのです。)

麻酔剤を取り出して、予めその酒の中へ混ぜておいたのです。

(それからぼくはひとりそこをぬけだして、ふきんのけいさつしょへかけつけ、じじょうをはなして)

それから僕は一人そこを抜け出して、付近の警察署へ駆け付け、事情を話して

(にじゅうめんそうのぶかのたいほと、ちかしつにかくしてあるぜんぶのとうなんひんのほかんを)

二十面相の部下の逮捕と、地下室に隠してある全部の盗難品の保管を

(おねがいしました。 およろこびください。とうなんひんはかんぜんにとりもどすことができました。)

お願いしました。  お喜び下さい。盗難品は完全に取り戻す事が出来ました。

(こくりつはくぶつかんのびじゅつひんも、あのきのどくなくさかべろうじんのびじゅつじょうのたからものも、)

国立博物館の美術品も、あの気の毒な日下部老人の美術城の宝物も、

(そのほか、にじゅうめんそうがいままでにぬすみためた、すべてのしなものは、すっかりもとの)

そのほか、二十面相が今までに盗み貯めた、全ての品物は、すっかり元の

(しょゆうしゃのてにかえります」 あけちのながいせつめいを、ひとびとはよったように)

所有者の手に返ります」  明智の長い説明を、人々は酔ったように

(ききほれていました。ああ、めいたんていはそのなにそむきませんでした。)

聞き惚れていました。ああ、名探偵はその名に背きませんでした。

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