怪人二十面相76(完) 江戸川乱歩

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少年探偵団シリーズ1作目

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問題文

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(それから、いちどう、ぞくをまんなかにぎょうれつをつくって、おもてもんをでました。もんのそとは)

それから、一同、賊を真ん中に行列をつくって、表門を出ました。門の外は

(こうえんのもりのようなこだちです。そのこだちのむこうに、2だいのけいさつじどうしゃが)

公園の森のような木立ちです。その木立ちの向こうに、二台の警察自動車が

(みえます。 「おい、だれかあのくるまを1だい、ここへよんでくれたまえ」)

見えます。 「おい、誰かあの車を一台、ここへ呼んでくれたまえ」

(かかりちょうのめいれいに、ひとりのけいかんが、けいぼうをにぎってかけだしました。いちどうのしせんが)

係長の命令に、一人の警官が、警棒を握って駆け出しました。一同の視線が

(そのあとをおって、はるかのじどうしゃにそそがれます。 けいかんたちはぞくのしんみょうなようすに)

その後を追って、遥かの自動車に注がれます。  警官達は賊の神妙な様子に

(あんしんしきっていたのです。なかむらかかりちょうも、ついじどうしゃのほうへきをとられていました)

安心しきっていたのです。中村係長も、つい自動車の方へ気を取られていました

(いちせつな、ふしぎにひとびとのめがぞくをはなれたのです。ぞくにとってはぜっこうのきかいでした)

一刹那、不思議に人々の目が賊を離れたのです。賊にとっては絶好の機会でした

(にじゅうめんそうは、はをくいしばって、まんしんのちからをこめて、なかむらかかりちょうのにぎっていた)

二十面相は、歯を食いしばって、満身の力を込めて、中村係長の握っていた

(なわじりを、ぱっとふりはなしました。 「うむ、まてっ」)

縄尻を、パッと振り放しました。 「ウム、待てッ」

(かかりちょうがさけんでたちなおったときには、ぞくはもう10めーとるほどむこうを、)

係長が叫んで立ち直った時には、賊はもう十メートル程向こうを、

(やのようにはしっていました。うしろでにしばられたままのきみょうなすがたが、いまにも)

矢のように走っていました。後ろ手に縛られたままの奇妙な姿が、今にも

(ころがりそうなかっこうでもりのなかへとんでいきます。 もりのいりぐちに、さんぽの)

転がりそうな格好で森の中へ飛んで行きます。  森の入り口に、散歩の

(かえりらしい10にんほどの、しょうがくせいたちが、たちどまって、このようすをながめていました。)

帰りらしい十人程の、小学生達が、立ち止まって、この様子を眺めていました。

(にじゅうめんそうははしりながら、じゃまっけなこぞうどもがいるわいとおもいましたが、)

二十面相は走りながら、邪魔っけな小僧どもがいるわいと思いましたが、

(もりへにげこむには、そこをとおらぬわけにはいきません。 なあに、たかのしれた)

森へ逃げこむには、そこを通らぬ訳にはいきません。  なあに、たかの知れた

(こどもたち、おれのおそろしいかおをみたら、おそれをなしてにげだすにきまっている。)

子ども達、俺の恐ろしい顔を見たら、恐れをなして逃げ出すに決まっている。

(もしにげなかったら、けちらしてとおるまでだ。 ぞくはとっさにしあんして、)

もし逃げなかったら、蹴ちらして通るまでだ。  賊は咄嗟に思案して、

(かまわずしょうがくせいのむれにむかってとっしんしました。 ところが、にじゅうめんそうの)

構わず小学生の群れに向かって突進しました。  ところが、二十面相の

(おもわくはがらりとはずれて、しょうがくせいたちは、にげだすどころか、わっとさけんで、)

思惑はガラリとはずれて、小学生達は、逃げ出すどころか、ワッと叫んで、

(ぞくのほうへとびかかってきたではありませんか。 どくしゃしょくんは、もう)

賊の方へ飛び掛かって来たではありませんか。  読者諸君は、もう

など

(おわかりでしょう。このしょうがくせいたちは、こばやしよしおくんをだんちょうにいただく、)

お分かりでしょう。この小学生たちは、小林芳雄君を団長にいただく、

(あのしょうねんたんていだんでありました。しょうねんたちはもうながいあいだ、はくぶつかんのまわりを)

あの少年探偵団でありました。少年達はもう長い間、博物館の周りを

(あるきまわって、なにかのときのてだすけをしようと、てぐすねひいてまちかまえて)

歩き回って、何かの時の手助けをしようと、手ぐすねひいて待ち構えて

(いたのでした。 まずせんとうのこばやししょうねんがにじゅうめんそうをめがけて、てっぽうだまのように)

いたのでした。 まず先頭の小林少年が二十面相を目掛けて、鉄砲玉のように

(とびついていきました。つづいてはしばそうじしょうねん、つぎはだれ、つぎはだれと、みるみる、)

飛びついていきました。続いて羽柴壮二少年、次は誰、次は誰と、みるみる、

(ぞくのうえにおりかさなって、りょうてのふじゆうなあいてを、たちまちそこへころがして)

賊の上に折り重なって、両手の不自由な相手を、たちまちそこへ転がして

(しまいました。 さすがのにじゅうめんそうも、いよいようんのつきでした。)

しまいました。 さすがの二十面相も、いよいよ運の尽きでした。

(「ああ、ありがとう、きみたちはゆうかんだねえ」 かけつけてきたなかむらかかりちょうが)

「ああ、ありがとう、君達は勇敢だねえ」  駆け付けて来た中村係長が

(しょうねんたちにおれいをいって、ぶかのけいかんとちからをあわせ、こんどこそとりにがさぬように)

少年達にお礼を言って、部下の警官と力を合わせ、今度こそ取り逃がさぬように

(ぞくをひったてて、ちょうどそこへやってきたけいさつじどうしゃのほうへつれていきました)

賊をひったてて、ちょうどそこへやってきた警察自動車の方へ連れて行きました

(そのとき、もんないから、くろいせびろのひとりのしんしがあらわれました。さわぎをしって、)

その時、門内から、黒い背広の一人の紳士が現れました。騒ぎを知って、

(かけだしてきたあけちたんていです。こばやししょうねんはめばやくせんせいのぶじなすがたをみつけますと)

駆け出して来た明智探偵です。小林少年は目早く先生の無事な姿を見つけますと

(きょうきのさけびごえをたてて、そのそばへかけよりました。 「おお、こばやしくん」)

驚喜の叫び声をたてて、その傍へ駆け寄りました。 「おお、小林君」

(あけちたんていも、おもわずしょうねんのなをよんで、りょうてをひろげ、かけだしてきたこばやしくんを)

明智探偵も、思わず少年の名を呼んで、両手を広げ、駆け出して来た小林君を

(そのなかにだきしめました。うつくしい、ほこらしいこうけいでした。このうらやましいほど)

その中に抱き締めました。美しい、誇らしい光景でした。この羨ましいほど

(しんみつなせんせいとでしとは、ちからをあわせて、ついにかいとうたいほのもくてきをたっしたのです。)

親密な先生と弟子とは、力を合わせて、ついに怪盗逮捕の目的を達したのです。

(そして、おたがいのぶじをよろこび、くろうをねぎらいあっているのです。 たちならぶ)

そして、お互いの無事を喜び、苦労を労いあっているのです。  立ち並ぶ

(けいかんたちも、このうつくしいこうけいにうたれて、にこやかに、しかし、しんみりした)

警官達も、この美しい光景にうたれて、にこやかに、しかし、しんみりした

(きもちで、ふたりのようすをながめていました。しょうねんたんていだんの10にんのしょうがくせいは、)

気持で、二人の様子を眺めていました。少年探偵団の十人の小学生は、

(もうがまんができませんでした。だれがおんどをとるともなく、きせずしてみんなのりょうてが)

もう我慢が出来ませんでした。誰が音頭をとるともなく、期せずして皆の両手が

(たかくそらにあがりました。そしていちどう、かわいらしいこえをそろえて、くりかえしくりかえし)

高く空に上がりました。そして一同、可愛らしい声を揃えて、繰り返し繰り返し

(さけぶのでした。 「あけちせんせい、ばんざーい」「こばやしだんちょう、ばんざーい」)

叫ぶのでした。 「明智先生、ばんざーい」「小林団長、ばんざーい」

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