怪人二十面相75 江戸川乱歩

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少年探偵団シリーズ1作目

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問題文

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(そのしたからあらわれたのは、くろぐろとしたかみのけと、わかわかしいなめらかなかおでした。)

その下から現れたのは、黒々とした髪の毛と、若々しい滑らかな顔でした。

(いうまでもなく、これこそしょうしんしょうめいのにじゅうめんそうそのひとでありました。)

言うまでもなく、これこそ正真正銘の二十面相その人でありました。

(「ははは・・・・・・、にじゅうめんそうくん、ごくろうさまだったねえ。さいぜんからきみはずいぶん)

「ハハハ……、二十面相君、ご苦労様だったねえ。最前から君は随分

(くるしかっただろう。めのまえできみのひみつが、みるみるばくろしていくのを、)

苦しかっただろう。目の前で君の秘密が、みるみる暴露していくのを、

(じっとがまんして、なにくわぬかおできいていなければならなかったのだからね。)

じっと我慢して、何食わぬ顔で聞いていなければならなかったのだからね。

(にげようにも、このおおぜいのまえではにげだすわけにもいかない。いや、それよりも、)

逃げようにも、この大勢の前では逃げ出す訳にもいかない。いや、それよりも、

(ぼくのてが、てじょうのかわりに、きみのてくびをにぎりつづけていたんだからね。)

僕の手が、手錠の代わりに、君の手首を握り続けていたんだからね。

(てくびがしびれやしなかったかい。まあ、かんべんしたまえ、ぼくはすこしきみを)

手首が痺れやしなかったかい。まあ、勘弁したまえ、僕は少し君を

(いじめすぎたかもしれないね」 あけちは、むごんのままうなだれているにじゅうめんそうを)

いじめ過ぎたかもしれないね」  明智は、無言のまま項垂れている二十面相を

(さもあわれむようにみおろしながら、ひにくななぐさめのことばをかけました。)

さも憐れむように見下ろしながら、皮肉な慰めの言葉をかけました。

(それにしても、かんちょうにばけたにじゅうめんそうは、なぜもっとはやくにげださなかったの)

それにしても、館長に化けた二十面相は、何故もっと早く逃げ出さなかったの

(でしょう。ゆうべのうちに、もくてきははたしてしまったのですから、3にんのかえだまの)

でしょう。夕べのうちに、目的は果たしてしまったのですから、三人の替え玉の

(かんいんといっしょに、さっさとひきあげてしまえば、こんなはずかしいめにあわなくても)

館員と一緒に、サッサと引きあげてしまえば、こんな恥かしい目に会わなくても

(すんだのでしょうに。 しかし、どくしゃしょくん、そこがにじゅうめんそうなのです。)

済んだのでしょうに。  しかし、読者諸君、そこが二十面相なのです。

(にげだしもしないで、ずうずうしくいのこっていたところが、いかにも)

逃げ出しもしないで、ずうずうしく居残っていたところが、いかにも

(にじゅうめんそうらしいやりくちなのです。かれは、けいさつのひとたちがにせもののびじゅつひんにびっくり)

二十面相らしい遣り口なのです。彼は、警察の人達が贋物の美術品にびっくり

(するところがけんぶつしたかったのです。 もし、あけちがあらわれるようなことが)

するところが見物したかったのです。  もし、明智が現れるような事が

(おこらなかったら、かんちょうじしんがちょうどごご4じにとうなんにきづいたふうをよそおって、)

起こらなかったら、館長自身がちょうど午後四時に盗難に気付いた風を装って、

(みんなをあっといわせるもくろみだったにちがいありません。いかにもにじゅうめんそうらしい)

皆をアッといわせる目論見だったに違いありません。いかにも二十面相らしい

(ぼうけんではありませんか。でも、そのぼうけんがすぎて、ついに、とりかえしのつかない)

冒険ではありませんか。でも、その冒険が過ぎて、ついに、取り返しのつかない

など

(しっさくをえんじてしまったのでした。 さてあけちたんていは、きっとけいしそうかんのほうに)

失策を演じてしまったのでした。  さて明智探偵は、キッと警視総監の方に

(むきなおって、 「かっか、ではかいとうにじゅうめんそうをおひきわたしいたします」)

向きなおって、 「閣下、では怪盗二十面相をお引き渡し致します」

(と、しかつめらしくいって、いちれいしました。 いちどうあまりにいがいなばめんに、)

と、しかつめらしくいって、一礼しました。  一同あまりに意外な場面に、

(ただもうあっけにとられて、めいたんていのすばらしいてがらをほめることもわすれて、)

ただもう呆気に取られて、名探偵の素晴らしい手柄を褒める事も忘れて、

(みうごきもせずたちすくんでいましたが、やがて、はっときをとりなおした)

身動きもせず立ち竦んでいましたが、やがて、ハッと気を取り直した

(なかむらそうさかかりちょうは、つかつかとにじゅうめんそうのそばへすすみより、よういのとりなわをとりだした)

中村捜査係長は、ツカツカと二十面相の傍へ進みより、用意の捕縄を取り出した

(かとみますと、みごとなてぎわで、たちまちぞくをうしろでにいましめてしまいました。)

かとみますと、見事な手際で、たちまち賊を後ろ手に縛めてしまいました。

(「あけちくん、ありがとう。きみのおかげで、ぼくはうらみかさなるにじゅうめんそうに、)

「明智君、ありがとう。君のおかげで、僕は恨み重なる二十面相に、

(こんどこそ、ほんとうになわをかけることができた。こんなうれしいことはないよ」)

今度こそ、本当に縄を掛けることが出来た。こんな嬉しい事はないよ」

(なかむらかかりちょうのめには、かんしゃのなみだがひかっていました 「それでは、ぼくはこいつを)

中村係長の目には、感謝の涙が光っていました 「それでは、ぼくはこいつを

(つれていって、おもてにいるけいかんしょくんをよろこばせてやりましょう・・・・・・。さあ、にじゅうめんそう)

連れて行って、表にいる警官諸君を喜ばせてやりましょう……。さあ、二十面相

(たつんだ」 かかりちょうはうなだれたかいとうをひきたてて、いちどうにえしゃくしますと、)

立つんだ」  係長は項垂れた怪盗を引き立てて、一同に会釈しますと、

(かたわらにたたずんでいた、さいぜんのけいかんとともに、いそいそとかいだんをおりていくのでした。)

傍らに佇んでいた、最前の警官と共に、いそいそと階段を下りて行くのでした。

(はくぶつかんのおもてもんには、10すうめいのけいかんがむらがっていました。いましもたてものの)

博物館の表門には、十数名の警官が群がっていました。今しも建物の

(しょうめんいりぐちから、にじゅうめんそうのなわじりをとったかかりちょうがあらわれたのをみますと、)

正面入口から、二十面相の縄尻を取った係長が現れたのを見ますと、

(さきをあらそって、そのそばへかけよりました。 「しょくん、よろこんでくれたまえ。)

先を争って、その傍へ駆け寄りました。 「諸君、喜んでくれたまえ。

(あけちくんのじんりょくで、とうとうこいつをつかまえたぞ。これがにじゅうめんそうのしゅりょうだ」)

明智君の尽力で、とうとうこいつを捕まえたぞ。これが二十面相の首領だ」

(かかりちょうがほこらしげにほうこくしますと、けいかんたちのあいだに、どっと、ときのこえが)

係長が誇らしげに報告しますと、警官たちの間に、ドッと、鬨の声が

(あがりました。 にじゅうめんそうはみじめでした。さすがのかいとうもいよいようんのつきと)

あがりました。  二十面相は惨めでした。さすがの怪盗もいよいよ運の尽きと

(かんねんしたのか、いつものずうずうしいえがおをみせるちからもなく、さもしんみょうに)

観念したのか、いつものずうずうしい笑顔を見せる力もなく、さも神妙に

(うなだれたまま、かおをあげるげんきさえありません。 )

項垂れたまま、顔を上げる元気さえありません。

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