怪人二十面相71 江戸川乱歩
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問題文
(あけちのさしずに、かんいんのひとりが、なにかわけがわからぬながら、おおいそぎでかいかへ)
明智の指図に、館員の一人が、何か訳が分からぬながら、大急ぎで階下へ
(おりていきましたが、まもなくなかむらそうさかかりちょうとひとりのけいかんをともなって)
降りて行きましたが、まもなく中村捜査係長と一人の警官を伴って
(かえってきました。 「きみが、ひるごろうらもんのところにいたかたですか」)
帰って来ました。 「君が、昼頃裏門のところにいた方ですか」
(あけちがさっそくたずねますと、けいかんはそうかんのまえだものですから、ひどくあらたまって、)
明智が早速尋ねますと、警官は総監の前だものですから、ひどく改まって、
(ちょくりつふどうのしせいで、「そうです」とこたえました。 「では、きょうしょうごから)
直立不動の姿勢で、「そうです」と答えました。 「では、今日正午から
(1じごろまでのあいだに、とらっくが1だい、うらもんをでていくのをみたでしょう」)
一時頃までの間に、トラックが一台、裏門を出て行くのを見たでしょう」
(「はあ、おたずねになっているのは、あのとりこわしかおくのふるざいもくをつんだ)
「はあ、お尋ねになっているのは、あの取り壊し家屋の古材木を積んだ
(とらっくのことではありませんか」 「そうです」)
トラックの事ではありませんか」 「そうです」
(「それならば、たしかにとおりました」 けいかんは、あのふるざいもくがどうしたんです、)
「それならば、確かに通りました」 警官は、あの古材木がどうしたんです、
(といわぬばかりのかおつきです。 「みなさんおわかりになりましたか。これがぞくの)
と言わぬばかりの顔つきです。 「皆さんお分かりになりましたか。これが賊の
(まほうのたねです。うわべはふるざいもくばかりのようにみえていて、そのじつ、)
魔法の種です。上辺は古材木ばかりのように見えていて、その実、
(あのとらっくには、とうなんのびじゅつひんがぜんぶつみこんであったのですよ」)
あのトラックには、盗難の美術品が全部積み込んであったのですよ」
(あけちはいちどうをみまわして、おどろくべきたねあかしをしました。 「すると、とりこわしの)
明智は一同を見回して、驚くべき種明しをしました。 「すると、取り壊しの
(にんぷのなかにぞくのてしたがまじっていたというのですか」 なかむらかかりちょうは、めを)
人夫の中に賊の手下が混じっていたというのですか」 中村係長は、目を
(ぱちぱちさせてききかえしました。 「そうです。まじっていたのではなくて、)
パチパチさせて聞き返しました。 「そうです。混じっていたのではなくて、
(にんぷぜんぶがぞくのてしただったのかもしれません。にじゅうめんそうははやくからばんたんのじゅんびを)
人夫全部が賊の手下だったのかもしれません。二十面相は早くから万端の準備を
(ととのえて、このぜっこうのきかいをまっていたのです。かおくのとりこわしは、たしか)
整えて、この絶好の機会を待っていたのです。家屋の取り壊しは、確か
(12がつ5にちからはじまったのでしたね。そのちゃくしゅきじつは、みつきもよつきもまえから、)
十二月五日から始まったのでしたね。その着手期日は、三月も四月も前から、
(かんけいしゃにはわかっていたはずです。そうすれば、10かごろはちょうどふるざいもくはこびだしの)
関係者には分かっていた筈です。そうすれば、十日頃は丁度古材木運び出しの
(ひにあたるじゃありませんか。よこくの12がつ10かというひづけは、こういう)
日に当たるじゃありませんか。予告の十二月十日という日付けは、こういう
(ところからわりだされたのです。またごご4じというのは、ほんもののびじゅつひんが)
ところから割り出されたのです。また午後四時というのは、本物の美術品が
(ちゃんとぞくのそうくつにはこばれてしまって、もうにせものがわかってもさしつかえない)
ちゃんと賊の巣窟に運ばれてしまって、もう贋物が分かっても差し支えない
(というじかんをいみしたのです」 ああ、なんというよういしゅうとうなけいかくだったでしょう)
という時間を意味したのです」 ああ、何という用意周到な計画だったでしょう
(にじゅうめんそうのまじゅつには、いつのときも、いっぱんのひとのおもいもおよばないしかけが、)
二十面相の魔術には、いつの時も、一般の人の思いも及ばない仕掛けが、
(ちゃんとよういしてあるのです。 「しかしあけちくん、たとえ、そんなほうほうで)
ちゃんと用意してあるのです。 「しかし明智君、例え、そんな方法で
(はこびだすことはできたとしても、まだぞくがどうしてちんれつしつへはいったか、いつのまに)
運びだす事は出来たとしても、まだ賊がどうして陳列室へ入ったか、いつの間に
(ほんものとにせものとおきかえたかというなぞは、とけませんね」 けいじぶちょうがあけちの)
本物と贋物と置き換えたかという謎は、解けませんね」 刑事部長が明智の
(ことばをしんじかねるようにいうのです 「おきかえはきのうのよふけにやりました」)
言葉を信じかねるように言うのです 「置き換えは昨日の夜更けにやりました」
(あけちは、なにもかもしりぬいているようなくちょうでかたりつづけます。 「ぞくのぶかが)
明智は、何もかも知り抜いているような口調で語り続けます。 「賊の部下が
(ばけたにんぷたちは、まいにちここへしごとへくるときに、にせもののびじゅつひんをすこしずつ)
化けた人夫たちは、毎日ここへ仕事へ来る時に、贋物の美術品を少しずつ
(はこびいれました。えはほそくまいて、ぶつぞうはぶんかいしてて、あし、くび、どうとべつべつに)
運び入れました。絵は細く巻いて、仏像は分解して手、足、首、胴と別々に
(むしろづつみにして、だいくどうぐといっしょにもちこめば、うたがわれるきづかいはありません。)
筵包みにして、大工道具と一緒に持ち込めば、疑われる気遣いはありません。
(みな、ぬすみだされることばかりけいかいしているのですから、もちこむものに)
皆、盗み出されることばかり警戒しているのですから、持ち込む物に
(ちゅういなんかしませんからね。そして、がんぞうひんはぜんぶ、ふるざいもくのやまにおおいかくされて)
注意なんかしませんからね。そして、贋造品は全部、古材木の山に覆い隠されて
(ゆうべのよふけをまっていたのです」 「だが、それをだれがちんれつしつへ)
夕べの夜更けを待っていたのです」 「だが、それを誰が陳列室へ
(おきかえたのです。にんぷたちは、みなゆうがたかえってしまうじゃありませんか。)
置き換えたのです。人夫たちは、皆夕方帰ってしまうじゃありませんか。
(たとえそのうちなんにんかが、こっそりこうないにのこっていたとしても、どうしてちんれつしつへ)
例えそのうち何人かが、こっそり構内に残っていたとしても、どうして陳列室へ
(はいることができます。よるはすっかりでいりぐちがとざされてしまうのです。かんないには)
入る事が出来ます。夜はすっかり出入り口が閉ざされてしまうのです。館内には
(かんちょうさんや3にんのしゅくちょくいんが、いっすいもしないでみはっていました。そのひとたちに)
館長さんや三人の宿直員が、一睡もしないで見張っていました。その人達に
(しれぬように、あのたくさんのしなものをおきかえるなんて、まったくふかのうじゃ)
知れぬように、あの沢山の品物を置き換えるなんて、全く不可能じゃ
(ありませんか」 かんいんのひとりが、じつにもっともなしつもんをしました。)
ありませんか」 館員の一人が、実にもっともな質問をしました。