海野十三『最小人間の怪』

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投稿者投稿者由佳梨いいね2お気に入り登録
プレイ回数1658難易度(5.0) 4265打 長文
人類が滅亡すれば地球を支配すると主張する微小人間の幻想譚。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 ねね 4263 C+ 4.4 96.3% 963.2 4271 164 57 2024/02/28

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問題文

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(このひわをしてくれたnはかせも、せんせんげつこのよをさった。いまは、はかせのきょかを)

この秘話をしてくれたN博士も、先々月この世を去った。今は、博士の許可を

(えることなしに、ちょっぴりかきつづるわけだが、nはかせのれいこんなるものが)

得ることなしに、ちょっぴり書き綴るわけだが、N博士の霊魂なるものが

(あらば、にがいかおをするかもしれない。いかは、nはかせのものがたるところだ。わたしは)

あらば、にがい顔をするかもしれない。以下は、N博士の物語るところだ。私は

(たいしょう15ねん12がつ26にちのひるま、きりしまのさんちゅうにおいて、ぜんだいみもんのようかいに)

大正十五年十二月二十六日の昼間、霧島の山中において、前代未聞の妖怪に

(であった。とうじわたしは、ふゆやまにおけるどうぶつのせいたいけんきゅうをつづけていたのだ。わたしは)

出会った。当時私は、冬山における動物の生態研究をつづけていたのだ。私は

(きゃんぷをはり、いくしゅうかんもさんちゅうでおきふしていた。あたりはかなりふかいやまふところで、)

キャンプを張り、幾週間も山中で起き伏していた。あたりはかなり深い山懐で、

(きこりもみかけず、りょうしにさえあわなかった。わたしひとりでこのしんざんをせんゆうしている)

木樵も見かけず、猟師にさえ会わなかった。私ひとりでこの深山を占有している

(ようなきもちがし、わたしのこころはちょうちょうとしていた。あるあさ、おきてきゃんぷをでて)

ような気持がし、私の心は暢々としていた。或る朝、起きてキャンプを出て

(みると、そとはまっしろになっていた。こうせつがよるのうちにあったのだ。そしてそのひ、)

みると、外は真白になっていた。降雪が夜のうちにあったのだ。そしてその日、

(ようかいにであったのである。そのようかいはゆきどけのみずがおちて、みずたまりをつくっている)

妖怪に出会ったのである。その妖怪は雪どけの水が落ちて、水溜を作っている

(そのそばにいた。はじめはかえるのこがうごめいているようにおもったが、かえるの)

そのそばにいた。はじめは蛙の子がうごめいているように思ったが、蛙の

(こにしてはすこしへんなので、よくみると、それはふしぎにもにんげんのかたちをした)

子にしてはすこし変なので、よく見ると、それはふしぎにも人間の形をした

(ものであった。が、にんげんではない。せたけが23せんちにすぎなかった。わたしはむねが)

ものであった。が、人間ではない。背丈が二三センチに過ぎなかった。私は胸が

(どきどきしてきた。めずらしいはっけんをよろこぶとともに、うすきみがわるい。が、わたしは)

どきどきして来た。めずらしい発見を喜ぶと共に、うす気味がわるい。が、私は

(このびしょうにんげんをぜひともさいしゅうしていこうとおもい、ぴんせっとをだして、かれの)

この微小人間をぜひとも採集して行こうと思い、ピンセットを出して、彼の

(どうなかをはさもうとした。するとそのびしょうにんげんは、からだににあわぬおおごえをだして、)

胴中を挟もうとした。するとその微小人間は、身体に似合わぬ大声を出して、

(そんならんぼうをするなとわたしをおしとどめ、じぶんはにげるつもりはないから、あんしんし、)

そんな乱暴をするなと私を押し停め、自分は逃げるつもりはないから、安心し、

(われとかたれといった。わたしたちは、それからふしぎなかいわをつづけた。そのびしょう)

吾れと語れといった。私たちは、それからふしぎな会話をつづけた。その微小

(にんげんは、じぶんはやなつというものだがとなをなのり、じぶんたちは、やがてきみたち)

人間は、自分はヤナツという者だがと名を名乗り、自分たちは、やがて君たち

(げんだいのじんるいがめつぼうしたあとにおいて、じんるいにかわってちきゅうじょうのさいこうちのうせいぶつと)

現代の人類が滅亡したあとにおいて、人類に替って地球上の最高智能生物と

など

(なり、ちきゅうをしはいするのだとおおまじめでいった。わたしはこっけいをかんじて、もう)

なり、地球を支配するのだと大真面目でいった。私は滑稽を感じて、もう

(すこしでふきだすところだったが、かろうじてたえた。こんなかえるのこみたいな)

すこしで噴き出すところだったが、辛うじて耐えた。こんな蛙の子みたいな

(ようかいに、わがじんるいのあとをつがれてたまるものかとおもった。そういうわたしの)

妖怪に、わが人類のあとを継がれてたまるものかと思った。そういう私の

(きもちが、すぐやなつにつうじたとみえ、かれはわたしに、しんかろんをひっさげてぎろんをふき)

気持が、すぐヤナツに通じたと見え、彼は私に、進化論を提げて議論を吹き

(かけてきた。そのぎろんは1しゅきみょうなものであったが、わたしはだんだんいい)

かけて来た。その議論は一種奇妙なものであったが、私はだんだん言い

(まかされて、はたいろがわるくなった。そしてやなつがしゅちょうするようにるいじんえんから)

負かされて、旗色が悪くなった。そしてヤナツが主張するように類人猿から

(えんじん、えんじんからじんるい、そしてつぎにじんるいからこうとうじんるいすなわちやなつなどのびしょう)

猿人、猿人から人類、そして次に人類から高等人類すなわちヤナツなどの微小

(にんげんのたいとうすることをみとめないわけにはいかなくなった。やなつは、はいいろのまるい)

人間の擡頭することを認めないわけにはいかなくなった。ヤナツは、灰色の丸い

(かおをかがやかして、まんぞくそうにわらった。「われわれのどうぞくが、このさきにつどっている)

顔を輝かして、満足そうに笑った。「われわれの同族が、この先に集っている

(から、きみをそこへあんないしたい。きませんか」と、やなつはさそった。わたしはそれに)

から、君をそこへ案内したい。来ませんか」と、ヤナツは誘った。私はそれに

(したがった。おそろしくもあるが、そういうつぎのじだいをたいきしているれんちゅうのようすをぜひ)

従った。恐ろしくもあるが、そういう次の時代を待機している連中の様子をぜひ

(みたいきもあった。やなつについていってみると、なるほどびしょうにんげんが)

見たい気もあった。ヤナツについていってみると、なるほど微小人間が

(45ひゃくにんもつどっているどうけつがあった。かれらはわたしをみかけてべつにさわぐでも)

四五百人も集っている洞穴があった。彼等は私を見懸けて別にさわぐでも

(なかった。むしろれんびんのめをむけているようなかんじがして、わたしはいっそういしゅくした。)

なかった。むしろ憐憫の目を向けているような感じがして、私は一層萎縮した。

(やなつのさいくんにもしょうかいされた。やはりはいいろのまるいかおをしていて、かみをせなかへながく)

ヤナツの妻君にも紹介された。やはり灰色の丸い顔をしていて、髪を背中へ長く

(たらし、なかなかじもくもととのっていた。そしてわたしにごちそうをするのだと)

垂らし、なかなか耳目もととのっていた。そして私に御馳走をするのだと

(いって、めいこうのようなものをたいてくれた。それはわたしがうまれてはじめてかいだ)

いって、名香のようなものを焚いてくれた。それは私が生れて始めて嗅いだ

(びこうだった。わたしはうっとりとなって、そこによこになった。ふとまどろんでからめを)

媚香だった。私はうっとりとなって、そこに横になった。ふと睡んでから目を

(あけてみると、わたしのまえにわかいふうふがひそひそとかたっていた。かおをみるとやなつ)

あけてみると、私の前に若い夫婦がひそひそと語っていた。顔を見るとヤナツ

(ふさいだったが、そのからだはかえるのこのようにちいさくはない、ふつうのにんげんとかわりない)

夫妻だったが、その身体は蛙の子のように小さくはない、普通の人間と変りない

(おおきさだった。2りはわたしのめのさめたのにはきがつかず、またこうをたいた。)

大きさだった。二人は私の目のさめたのには気がつかず、又香を焚いた。

(2どめにめざめてみると、たいへんいきぐるしかった。きがつくと、そばにおおおんながねて)

二度目に目覚めてみると、たいへん息苦しかった。気がつくと、傍に大女が寝て

(いる。あさくさのにおうさまの3ばいもあるようなおおおんなであった。かおをみると、これが)

いる。浅草の仁王さまの三倍もあるような大女であった。顔をみると、これが

(やなつのさいくんであるから、わたしはおもわずおどろきのこえをあげた。するとおおおんなの)

ヤナツの妻君であるから、私は思わずおどろきの声をあげた。すると大女の

(からだがすうーっとちぢみはじめた。どんどんちぢんで、さいごにはかおがやきゅうのぼーる)

身体がすうーッと縮みはじめた。どんどん縮んで、最後には顔が野球のボール

(くらいにまでなった。それいじょうはちいさくならなかった。おんなは、ほっほっと)

位にまでなった。それ以上は小さくならなかった。女は、ほっほっと

(おかしそうにわらいころげた。わたしはおそろしくなって、そのばをどんどん)

おかしそうに笑いころげた。私は恐ろしくなって、その場をどんどん

(にげだした。そしてうしろもみずに、きゃんぷにもよらず、ふもとまでにげのびた。こうねん)

逃げだした。そして後も見ずに、キャンプにも寄らず、麓まで逃げのびた。後年

(わたしはもう1どやなつのさいくんのかおをみた。ばしょはうえのかがくはくぶつかんのちんれつばこのなかで)

私はもう一度ヤナツの妻君の顔を見た。場所は上野科学博物館の陳列函の中で

(あった。さいくんは、わたしがさいごにみたときとおなじはいいろのまるいかおに、うすわらいを)

あった。妻君は、私が最後に見たときと同じ灰色の丸い顔に、うす笑いを

(うかべ、そしてくろかみをうしろへながくたらしていた。はこのちんれつひんせつめいには、ねったいの)

うかべ、そして黒髪をうしろへ長く垂らしていた。函の陳列品説明には、熱帯の

(あるしゅぞくのにんげんが、しぬとかおのかわをかみとともにはぎ、それをかんそうしたものだと)

或る種族の人間が、死ぬと顔の皮を髪と共にはぎ、それを乾燥したものだと

(しるしてあった。そのときおなじようなきかいなくびがたしかに3つならんでいるのを)

記してあった。そのとき同じような奇怪な首がたしかに三つ並んでいるのを

(みたのであるが、そのあといったときにはそのくびは2つしかなかった。そして)

見たのであるが、その後行ったときにはその首は二つしかなかった。そして

(はくぶつかんのひとに、わたしはいくどもしつもんをくりかえしたのではあるが、かんいんは、その)

博物館の人に、私はいくども質問をくりかえしたのではあるが、館員は、その

(くびははじめから2つしかなく、3つはなかったことにまちがいはないと)

首ははじめから二つしかなく、三つはなかったことに間違いはないと

(いいはるのだった。やなつのさいくんのくびは、どうしたのであろうか。)

言い張るのだった。ヤナツの妻君の首は、どうしたのであろうか。

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