バスカヴィル家の犬１３

(べつのともだちをおもいだしたりするんだ　こちらはびょうじゃくなじょせいです。おっとはかつて)

別の友達を思い出したりするんだ」「こちらは病弱な女性です。夫はかつて

(ぐろすたーのしちょうでした。いつもろんどんにくるときにはこちらにおみえに)

グロスターの市長でした。いつもロンドンに来るときにはこちらにお見えに

(なります　ありがとう。ざんねんながらどうもしりあいではないようだ)

なります」「ありがとう。残念ながらどうも知り合いではないようだ」

(ほーむずはいった。このしつもんで、ひじょうにじゅうようなじじつをかくにんできたよ、)

ホームズは言った。「この質問で、非常に重要な事実を確認できたよ、

(わとそん　かれはかいだんをあがるときちいさなこえでつづけた。ばすかヴぃるにこれほど)

ワトソン」彼は階段を上がる時小さな声で続けた。「バスカヴィルにこれほど

(きょうみをいだいているじんぶつが、おなじほてるにはとまっていないことがこれで)

興味を抱いている人物が、同じホテルには泊まっていないことがこれで

(わかった。てきは、きみとぼくがもくげきしたようにひじょうにねっしんにばすかヴぃるをみはる)

分かった。敵は、君と僕が目撃したように非常に熱心にバスカヴィルを見張る

(かたわら、それとおなじくらいじぶんのすがたをみられないようにけいかいしている。)

かたわら、それと同じくらい自分の姿を見られないように警戒している。

(これはひじょうにあんじてきなじじつだ　なにをあんじしているんだ？)

これは非常に暗示的な事実だ」「何を暗示しているんだ？」

(そのあんじとはおや、わとそん、いったいなにごとだ？かいだんのいちばんうえに)

「その暗示とは....おや、ワトソン、いったい何事だ？」階段の一番上に

(やってきたとき、われわれはさーへんりーばすかヴぃるとでくわした。かれのかおは)

やってきた時、我々はサー・ヘンリー・バスカヴィルと出くわした。彼の顔は

(いかりでまっかになり、てには、ふるいよごれたくつをぶらさげていた。かれは)

怒りで真っ赤になり、手には、古い汚れた靴をぶら下げていた。彼は

(ぎゃくじょうのあまり、くちもきけないようすだったが、なんとかことばをくちにしたとき、)

逆上のあまり、口もきけない様子だったが、なんとか言葉をくちにした時、

(けさきいたよりもはるかにつよいあめりかなまりがでてきた。このほてるはおれを)

今朝聞いたよりもはるかに強いアメリカ訛りが出てきた。「このホテルは俺を

(かもあつかいするきのようだな　かれはさけんだ。きをつけろよ。おれをなめていると)

カモ扱いする気のようだな」彼は叫んだ。「気をつけろよ。俺をなめていると

(どんなめにあうか、おもいしるぞ。ちくしょう、もしあのこぞうがなくなったくつを)

どんな目に合うか、思い知るぞ。畜生、もしあの小僧が無くなった靴を

(みつけられなかったら、ただではすまんからな。ほーむずさん、わたしはじょーくは)

見つけられなかったら、ただでは済まんからな。ホームズさん、私はジョークは

(わかるほうですが、これはちょっとげんどをこえてます　まだくつをさがして)

分かる方ですが、これはちょっと限度を越えてます」「まだ靴を探して

(いるんですか？そうです。ぜったいにみつけます　しかしたしか、あたらしいちゃいろの)

いるんですか？」「そうです。絶対に見つけます」「しかし確か、新しい茶色の

(くつをなくしたとおっしゃっていましたね？そうです。そしてこんどはふるいくろい)

靴をなくしたとおっしゃっていましたね？」「そうです。そして今度は古い黒い

(くつです　なんと！ということは、まさか？そのとおりです。わたしはくつは)

靴です」「なんと！という事は、まさか....？」「その通りです。私は靴は

(さんそくしかもっていないんです、　あたらしいちゃいろ、ふるいくろ、いまはいている)

三足しか持っていないんです、―新しい茶色、古い黒、今履いている

(えなめるです。さくやはほてるのやつがちゃいろのかたほうをもちさり、きょうはくろのかたほうを)

エナメルです。昨夜はホテルの奴が茶色の片方を持ち去り、今日は黒の片方を

(くすねた。さあ、みつかったのか？さっさといえ。つったってじろじろ)

くすねた。さあ、見つかったのか？さっさと言え。突っ立ってじろじろ

(みてるんじゃねえ！おろおろしたようすのどいつじんのうえいたーが、)

見てるんじゃねえ！」おろおろした様子のドイツ人のウエイターが、

(やってきていた。いいえ。ほてるをぜんぶちょうさしましたが、まだみつかって)

やってきていた。「いいえ。ホテルを全部調査しましたが、まだ見つかって

(いません　そうか。ひぐれまでにくつがもどらんと、しはいにんにこのほてるをすぐ)

いません」「そうか。日暮れまでに靴が戻らんと、支配人にこのホテルをすぐ

(ひきはらうというからな　みつかるとおもいます、　おやくそくします。もうすこし)

引き払うと言うからな」「見つかると思います、―お約束します。もう少し

(しんぼうしていただければ、みつかるとおもいます　わすれるな。なにがあろうと、)

辛抱していただければ、見つかると思います」「忘れるな。何があろうと、

(こんなどろぼうのそうくつでものをとられて、このままですむとおもうなよ。いや、いや、)

こんな泥棒の巣窟で物を盗られて、このままで済むと思うなよ。いや、いや、

(ほーむずさん、あなたにおてまをとらせてもうしわけありません。)

ホームズさん、あなたにお手間をとらせて申し訳ありません。

(こんなつまらない　これはてまをかけるにあたいするできごとだと)

こんなつまらない....」「これは手間をかけるに値する出来事だと

(おもいますね　どうしたのですか。ひじょうにしんこくにとらえているようですが)

思いますね」「どうしたのですか。非常に深刻にとらえているようですが」

(なにがおきたとおもいます？かいもく、けんとうもつきません。こんなにきみょうで)

「何が起きたと思います？」「皆目、見当もつきません。こんなに奇妙で

(おかしなじけんがおきたのはうまれてはじめてです　まあ、これいじょうきみょうなじけんは)

おかしな事件が起きたのは生まれて初めてです」「まあ、これ以上奇妙な事件は

(ちょっとないでしょうね　ほーむずはかんがいぶかげにいった。)

ちょっとないでしょうね....」ホームズは感慨深げに言った。

(ほーむずさんはどうおかんがえですか？いえ、まだなんともいえません。)

「ホームズさんはどうお考えですか？」「いえ、まだなんとも言えません。

(さーへんりー、あなたのじけんはひじょうにこみいっています。あなたのおじうえの)

サー・ヘンリー、あなたの事件は非常に込み入っています。あなたの叔父上の

(しとあわせてかんがえたとき、わたしがかこにてがけたさいじゅうようじけん５００すべてふりかえっても)

死と合わせて考えた時、私が過去に手がけた最重要事件500全て振り返っても

(これほどおくがふかいじけんがひとつでもあったか、かくしんはもてません。しかしいろいろな)

これほど奥が深い事件が一つでもあったか、確信は持てません。しかし色々な

(てがかりをにぎっていますので、そのなかからしんそうをかいめいできるみこみがあります。)

手がかりを握っていますので、その中から真相を解明できる見込みがあります。

(まちがったてがかりをおってまわりみちをすることになっても、いつかはきっと)

間違った手がかりを追って回り道をすることになっても、いつかはきっと

(ただしいてがかりをつかんでみせます　わたしたちはたのしくちゅうしょくをとった。そのばでは)

正しい手がかりをつかんで見せます」私たちは楽しく昼食をとった。その場では

(ぜんいんがここにあつまることになったじけんのはなしはほとんどでなかった。)

全員がここに集まる事になった事件の話はほとんど出なかった。