バスカヴィル家の犬25

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シャーロックホームズシリーズ
アーサーコナンドイルの作品です。句読点以外の記号は省いています。

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問題文

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(だいはちしょう わとそんはかせのさいしょのほうこく)

第八章 ワトソン博士の最初の報告

(ここからさきは、いま、めのまえのてーぶるにおかれている、わたしが)

ここから先は、今、目の前のテーブルに置かれている、私が

(しゃーろっくほーむずにおくったてがみをかきうつすというほうほうで、どんなじけんが)

シャーロックホームズに送った手紙を書き写すという方法で、どんな事件が

(おきたかをひとつずつおいかけていきたい。いちまいだけなくなっているびんせんがあるが)

起きたかを一つずつ追いかけて行きたい。一枚だけ無くなっている便箋があるが

(ぜんたいとしてひじょうにていねいにかかれており、げんざいわたしがおぼえているいじょうに、とうじの)

全体として非常にていねいに書かれており、現在私が覚えている以上に、当時の

(いんしょうやぎねんがてきかくにひょうげんされている。とはいえ、あのいたましいじけんについては、)

印象や疑念が的確に表現されている。とはいえ、あの痛ましい事件については、

(きおくがうすれているわけではまったくない。)

記憶が薄れているわけではまったくない。

(ばすかヴぃるかん、10がつ13にち ほーむずどの)

バスカヴィル館、10月13日 ホームズ殿

(わたしのこれまでのてがみとでんぽうによって、ここ、せかいでもっともかくぜつされたちで)

私のこれまでの手紙と電報によって、ここ、世界で最も隔絶された地で

(おきているじけんについて、きみはかんぜんにさいしんのじょうきょうをはあくしているはずだ。)

起きている事件について、君は完全に最新の状況を把握しているはずだ。

(このちにながくいればいるほど、こうやのあくりょうがこころにしみこんでくる。そのこうだいさ、)

この地に長く居れば居るほど、荒野の悪霊が心に染み込んでくる。その広大さ、

(そしてそのおそるべきまりょくが、こうやのちゅうしんにくれば、ひとはきんだいてきないぎりすから)

そしてその恐るべき魔力が、荒野の中心に来れば、人は近代的なイギリスから

(かんぜんにはなれたことになる。しかしそのいっぽうで、ひとはせんしじだいのじゅうきょやこうちくぶつが)

完全に離れたことになる。しかしその一方で、人は先史時代の住居や構築物が

(あちこちにそんざいしていることにきづかされる。このへんをあるくと、あたりいちめんに)

あちこちに存在していることに気づかされる。この辺を歩くと、あたり一面に

(わすれられたひとびとのいえがある。さらに、はかやじいんあとだとかんがえられているせきちゅうが)

忘れられた人々の家がある。さらに、墓や寺院跡だと考えられている石柱が

(みられる。こだいじんがきずだらけのおかのしゃめんにたてたはいいろのいしづくりのこやをみると、)

見られる。古代人が傷だらけの丘の斜面に建てた灰色の石造りの小屋を見ると、

(いしきはげんだいからとおくさかのぼり、もしかわをかぶったけむくじゃらのおとこがせっきのやをゆみに)

意識は現代から遠く遡り、もし革を被った毛むくじゃらの男が石器の矢を弓に

(つがえて、ひくいとぐちからはいでてくるのをめにすれば、そのそんざいは)

つがえて、低い戸口から這い出てくるのを目にすれば、その存在は

(じぶんじしんよりもっとしぜんなものにみえるだろう。きみょうなことは、ずっと)

自分自身よりもっと自然なものに見えるだろう。奇妙なことは、ずっと

(ふもうだったこのちに、かれらがこれほどみっしゅうしてすんでいたことだ。わたしは)

不毛だったこの地に、彼らがこれほど密集して住んでいたことだ。私は

など

(こだいけんきゅうかではないが、ここにすんでいたのは、ひこうせんてきなはくがいされたしゅぞくで、)

古代研究家ではないが、ここに住んでいたのは、非好戦的な迫害された種族で、

(ほかのとちにすむことをゆるされなかったのではないかというそうぞうがふくらむ。しかし、)

他の土地に住む事を許されなかったのではないかという想像が膨らむ。しかし、

(こんなはなしはぜんぶ、きみがわたしをここにおくりこんだしめいとはむかんけいで、かんぜんにじつむてきな)

こんな話は全部、君が私をここに送りこんだ使命とは無関係で、完全に実務的な

(せいしんをもったきみには、おそらくまったくきょうみがないだろう。わたしは、きみがてんどうせつや)

精神を持った君には、おそらくまったく興味がないだろう。私は、君が天動説や

(ちどうせつにまったくむかんしんだったことを、よくおぼえている。だから、そろそろ)

地動説にまったく無関心だったことを、よく覚えている。だから、そろそろ

(さーへんりーばすかヴぃるにまつわるじじつのきじゅつにはいることにしよう。)

サー・ヘンリー・バスカヴィルにまつわる事実の記述に入る事にしよう。

(ここすうじつかん、まったくほうこくをかかなかったのは、きょうまでじけんにかんけいが)

ここ数日間、まったく報告を書かなかったのは、今日まで事件に関係が

(ありそうなじゅうようなできごとがなにもなかったからだ。ところがきょうになって、)

ありそうな重要な出来事が何もなかったからだ。ところが今日になって、

(おどろくべきじけんがおきたので、これをじゅんじょだててはなそうとおもう。しかしまずさいしょに)

驚くべき事件が起きたので、これを順序立てて話そうと思う。しかしまず最初に

(このじけんにかんけいがあるべつのようそについてせつめいしておかねばならない。そのひとつは)

この事件に関係がある別の要素について説明しておかねばならない。その一つは

(これまでほとんどほうこくしていなかったが、こうやににげこんだしゅうじんのことだ。しゅうじんは)

これまでほとんど報告していなかったが、荒野に逃げ込んだ囚人の事だ。囚人は

(あきらかにどこかにさったらしく、このちほうのふあんなじゅうにんはこころのそこから)

明らかにどこかに去ったらしく、この地方の不安な住人は心の底から

(あんどしている。しゅうじんがだっそうしてからにしゅうかんたった。このあいだしゅうじんをもくげきしたじんぶつは)

安堵している。囚人が脱走してから二週間たった。この間囚人を目撃した人物は

(おらず、うわさにものぼっていない。しゅうじんがこのあいだ、ずっとこうやでもちこたえる)

おらず、噂にものぼっていない。囚人がこの間、ずっと荒野で持ちこたえる

(ことができたとは、とてもしんじがたい。もちろん、こうやにみをひそめていることじたいは)

ことができたとは、とても信じ難い。もちろん、荒野に身を潜めている事自体は

(むずかしくもなんともない。このあたりのいしのこやはどれでもかくれがとなるだろう。)

難しくも何ともない。この辺りの石の小屋はどれでも隠れ家となるだろう。

(しかしこうやのひつじをつかまえてころさないかぎり、なにもしょくりょうになるものがない。そのため)

しかし荒野の羊を捕まえて殺さない限り、何も食料になるものがない。そのため

(このちのひとはしゅうじんがどこかにさったとはんだんし、そのけっか、へんきょうののうふたちはまくらを)

この地の人は囚人がどこかに去ったと判断し、その結果、辺境の農夫達は枕を

(たかくしてねむれるようになった。このいえにはよにんのくっきょうなおとこがいるので、わたしたちは)

高くして眠れるようになった。この家には四人の屈強な男がいるので、私たちは

(じぶんのみをまもることができる。しかしじつは、すていぷるとんきょうだいのことをかんがえると)

自分の身を守ることができる。しかし実は、ステイプルトン兄妹の事を考えると

(ふあんなときがある。このきょうだいは、ほかのいえからなにまいるもはなれてすんでいる。)

不安な時がある。この兄妹は、他の家から何マイルも離れて住んでいる。

(いえにいるのは、めいどがひとり、としとったげぼくのおとこ、いもうと、あに、 かれはとくにわんりょくの)

家にいるのは、メイドが一人、年とった下僕の男、妹、兄、―彼は特に腕力の

(あるおとこではない。もしこののってぃんぐひるのはんざいしゃのようにじぼうじきなおとこが)

ある男ではない。もしこのノッティング・ヒルの犯罪者のように自暴自棄な男が

(いったんいえにしんにゅうすれば、かれらはひとたまりもないだろう。さーへんりーと)

いったん家に侵入すれば、彼らはひとたまりもないだろう。サー・ヘンリーと

(わたしはふたりとも、すていぷるとんけのじょうきょうをしんぱいして、めてのぱーきんすを)

私は二人とも、ステイプルトン家の状況を心配して、馬手のパーキンスを

(とまりにやらせようかとていあんしたが、すていぷるとんはきくみみをもたなかった。)

泊まりにやらせようかと提案したが、ステイプルトンは聞く耳を持たなかった。

(じつは、わがゆうじんのじゅんだんしゃくは、このうつくしいりんじんにひじょうなきょうみをしめしはじめている。)

実は、我が友人の準男爵は、この美しい隣人に非常な興味を示し始めている。

(かれのようにかつどうてきなおとこは、このさびしいとちではじかんをもてあましているだろうし、)

彼のように活動的な男は、この寂しい土地では時間を持て余しているだろうし、

(かのじょはひじょうにみりょくてきでうつくしいじょせいだから、これはおどろくべきことではない。)

彼女は非常に魅力的で美しい女性だから、これは驚くべきことではない。

(かのじょにはどこか、じょうねつてきでみわくてきなものがあり、れいせいでひかんじょうてきなあにとは)

彼女にはどこか、情熱的で魅惑的なものがあり、冷静で非感情的な兄とは

(きみょうにもせいはんたいだった。もちろん、あにのほうもうちにひめたじょうねつのようなものを)

奇妙にも正反対だった。もちろん、兄の方も内に秘めた情熱のようなものを

(みせてはいたが。あにはいもうとにたいし、あきらかにたいへんなえいきょうりょくをもっていた。かのじょが)

見せてはいたが。兄は妹に対し、明らかに大変な影響力を持っていた。彼女が

(はなしをするとき、まるできょかをもとめるように、あにのほうにちらちらしせんをむけるのを)

話をする時、まるで許可を求めるように、兄の方にチラチラ視線を向けるのを

(よくみかけたからだ。かれがいもうとをやさしくあつかっているとしんじたい。するどいめのかがやきと、)

よく見かけたからだ。彼が妹を優しく扱っていると信じたい。鋭い目の輝きと、

(かたくとじられたうすいくちびるは、けつだんりょくのある、いやもしかするとざんこくなせいかくを)

堅く閉じられた薄い唇は、決断力のある、いやもしかすると残酷な性格を

(おもわせる。きみなら、かれをきょうみぶかいけんきゅうたいしょうだとおもうだろう。すていぷるとんは)

思わせる。君なら、彼を興味深い研究対象だと思うだろう。ステイプルトンは

(さいしょのひ、ばすかヴぃるをたずねてきた。そのつぎのあさ、かれはわたしたちふたりをあるばしょに)

最初の日、バスカヴィルを訪ねて来た。その次の朝、彼は私達二人をある場所に

(あんないした。そこはじゃあくなひゅーごーのでんせつがはじまったとかんがえられているばしょだ。)

案内した。そこは邪悪なヒューゴーの伝説が始まったと考えられている場所だ。

(そこまでいくには、こうやをすうまいるあるいていかなければならない。そのばしょは)

そこまで行くには、荒野を数マイル歩いていかなければならない。その場所は

(ひじょうにいんうつで、いかにもあのでんせつにふさわしかった。ごつごつしたいわやまのあいだに)

非常に陰鬱で、いかにもあの伝説にふさわしかった。ゴツゴツした岩山の間に

(みじかいたにがあり、そのさきは、ところどころしろいわたすげにおおわれているひらけたくさちに)

短い谷があり、その先は、所々白いワタスゲに覆われている開けた草地に

(つながっていた。くさちのまんなかに、ふたつのおおきないわがたっていた。まるで)

繋がっていた。草地の真中に、二つの大きな岩が立っていた。まるで

(ざらざらしたきょだいなせいぶつのきばのように、いわのちょうじょうがふうかしとがっていた。)

ざらざらした巨大な生物の牙のように、岩の頂上が風化し尖っていた。

(どんなてんからみても、このばしょはふるいさんげきのばめんそのものだった。)

どんな点から見ても、この場所は古い惨劇の場面そのものだった。

(さーへんりーはひじょうにきょうみをもち、すていぷるとんにたいしなんども、ほんとうに)

サー・ヘンリーは非常に興味を持ち、ステイプルトンに対し何度も、本当に

(にんげんかいのできごとにちょうしぜんのちからがおよぶかのうせいをしんじているのかとたずねた。)

人間界の出来事に超自然の力が及ぶ可能性を信じているのかと尋ねた。

(そのくちょうはかるかったが、かれがひじょうにしんけんだったのはかくしようがなかった。)

その口調は軽かったが、彼が非常に真剣だったのは隠しようがなかった。

(すていぷるとんはしんちょうにへんじをしており、じゅんだんしゃくのきもちにはいりょしてことばをにごし)

ステイプルトンは慎重に返事をしており、準男爵の気持ちに配慮して言葉を濁し

(おもっていることをそっちょくにはなそうとしていなかったのは、ありありとみてとれた。)

思っている事を率直に話そうとしていなかったのは、ありありと見て取れた。

(かれはじゃあくなちからにくるしめられたという、にたようなかけいについてはなしをしたが、)

彼は邪悪な力に苦しめられたという、似たような家系について話をしたが、

(これでほかのじゅうみんとどうよう、かれもあのでんせつをしんじているらしいといういんしょうがのこった。)

これで他の住民と同様、彼もあの伝説を信じているらしいという印象が残った。

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