バスカヴィル家の犬50

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シャーロックホームズシリーズ
アーサーコナンドイルの作品です。句読点以外の記号は省いています。

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問題文

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(このじけんもいよいよおおづめだな。めのまえでこんなんがひとつずつきえていく)

「この事件もいよいよ大詰めだな。目の前で困難が一つずつ消えていく」

(ほーむずはろんどんからとっきゅうがとうちゃくするのをまっているとき、こういった。)

ホームズはロンドンから特急が到着するのを待っている時、こう言った。

(ぼくはもうすぐ、きんだいにおいてさいこうにきみょうでじょうどうてきなはんざいのひとつを、)

「僕はもうすぐ、近代において最高に奇妙で情動的な犯罪の一つを、

(きちんとしたすじがきでまとめあげることができるとおもう。はんざいがくのけんきゅうしゃは)

きちんとした筋書きでまとめあげる事ができると思う。犯罪学の研究者は

(1886ねんのしょうろしあ、ごどののじけんとのるいじせいをおもいだすだろう。)

1886年の小ロシア、ゴドノの事件との類似性を思い出すだろう。

(そしてもちろんのーすかろらいなのあんだーそんさつじんじけんがある。)

そしてもちろんノースカロライナのアンダーソン殺人事件がある。

(しかしこのじけんはかんぜんにどくじのとくちょうをそなえている。いまでさえ、われわれは)

しかしこの事件は完全に独自の特徴を備えている。今でさえ、我々は

(このひじょうにずるがしこいおとこにたいして、かんぜんなしょうこをつかんでいない。)

この非常にずる賢い男に対して、完全な証拠をつかんでいない。

(しかし、こんやべっどにはいるまでにこのじけんをきれいにかいけつできないとは、)

しかし、今夜ベッドに入るまでにこの事件を綺麗に解決できないとは、

(とうていかんがえられない ろんどんきゅうこうはうなりをあげてえきにはいってきた。)

到底考えられない」ロンドン急行は唸りを上げて駅に入ってきた。

(せのひくいやせたぶるどっくのようなおとこが、いっとうきゃくしゃからとびだしてきた。)

背の低い痩せたブルドックのような男が、一等客車から飛び出してきた。

(わたしたちさんにんはあくしゅした。れすとれーどがほーむずをみるたいどは、きわめてけんきょで、)

私たち三人は握手した。レストレードがホームズを見る態度は、極めて謙虚で、

(はじめていっしょにしごとをしたひいらい、じぶんのたちばをひじょうによくりかいしてきたことが)

初めて一緒に仕事をした日以来、自分の立場を非常によく理解してきたことが

(すぐにわかった。わたしは、さいしょのころれすとれーどがほーむずのりろんにいらだって)

すぐに分かった。私は、最初の頃レストレードがホームズの理論に苛立って

(ちょうしょうしたのをおもいだした。おもしろいじけんでも?かれはたずねた。ここすうねんで)

嘲笑したのを思い出した。「面白い事件でも?」彼は尋ねた。「ここ数年で

(いちばんおおきなじけんだ ほーむずはいった。でかけるじゅんびをするまでにまだ)

一番大きな事件だ」ホームズは言った。「出かける準備をするまでにまだ

(にじかんある。そのあいだにゆうしょくをとろうとおもう。そのあとで、れすとれーど、きみには)

二時間ある。その間に夕食をとろうと思う。その後で、レストレード、君には

(だーとむーあのしんせんなよるのくうきで、ろんどんのきりをのどからおいはらってもらおうと)

ダートムーアの新鮮な夜の空気で、ロンドンの霧を喉から追い払ってもらおうと

(おもっている。まだいったことがない?じゃあ、きみのさいしょのほうもんは)

思っている。まだ行ったことがない?じゃあ、君の最初の訪問は

(わすれられないものになりそうだ)

忘れられないものになりそうだ」

など

(だいじゅうよんしょう ばすかヴぃるけのいぬ)

第十四章 バスカヴィル家の犬

(しゃーろっくほーむずのけってんのひとつは、 もしこれをけってんとよんで)

シャーロックホームズの欠点の一つは、―もしこれを欠点と呼んで

(いいのなら 、じぶんのけいかくがかんぜんにたっせいされるまで、ほかのにんげんにすべてを)

いいのなら―、自分の計画が完全に達成されるまで、他の人間にすべてを

(うちあけるのをきょくたんにきらうことだ。そのりゆうのひとつは、いうまでもなく、)

打ち明けるのを極端に嫌うことだ。その理由のひとつは、言うまでもなく、

(かれがいちだんうえのたちばからまわりのにんげんをおどかしたいという、げきじょうかんとくににたきしつを)

彼が一段上の立場から周りの人間を脅かしたいという、劇場監督に似た気質を

(もっているからだ。まだ、しょくぎょうじょう、あらゆるきけんをさけようとするけいかいしんも)

持っているからだ。まだ、職業上、あらゆる危険を避けようとする警戒心も

(べつのりゆうのひとつだ。ともあれ、そのけっか、かれのだいりにんやじょしゅとして)

別の理由のひとつだ。ともあれ、その結果、彼の代理人や助手として

(はたらいているにんげんはかなりつらいおもいをすることになる。わたしはなんどもそれに)

働いている人間はかなり辛い思いをすることになる。私は何度もそれに

(たえてきたが、このくらやみのなかのながいいどうほどつらいけいけんははじめてだった。)

耐えてきたが、この暗闇の中の長い移動ほど辛い経験は初めてだった。

(めのまえにじゅうだいなしれんがまちうけている。ついにさいごのけっちゃくをつけるときが)

目の前に重大な試練が待ちうけている。ついに最後の決着をつける時が

(きたのだ。それなのにほーむずはなにもいわず、わたしはかれがなにをするつもりなのか、)

来たのだ。それなのにホームズは何も言わず、私は彼が何をするつもりなのか、

(そうぞうすることしかできなかった。やっと、かおにふきつけるつめたいかぜと、せまいみちの)

想像することしか出来なかった。やっと、顔に吹き付ける冷たい風と、狭い道の

(りょうがわのまっくらなじめんで、もういちどこうやにもどってきたことがわかったとき、わたしのこころは)

両側の真っ暗な地面で、もう一度荒野に戻ってきたことが分かった時、私の心は

(きたいにふるえそうになった。うまがあゆみ、しゃりんがまわるたびに、わたしたちは)

期待に震えそうになった。馬が歩み、車輪が回るたびに、私たちは

(さいごのぼうけんへとちかづきつつあったのだ。やといいれたぎょしゃがいるおかげで、)

最後の冒険へと近づきつつあったのだ。雇い入れた御者がいるおかげで、

(わたしたちはこうふんときたいにしんけいがはりつめているさいちゅうにつまらないはなしをすることを)

私たちは興奮と期待に神経が張り詰めている最中につまらない話をする事を

(よぎなくされた。ふしぜんによくせいしたかいわのあと、やっとふらんくらんどのいえをすぎ)

余儀なくされた。不自然に抑制した会話の後、やっとフランクランドの家を過ぎ

(ばすかヴぃるかんとけっせんのぶたいがもうすぐだとわかったとき、わたしはほっとした。)

バスカヴィル館と決戦の舞台がもうすぐだと分かった時、私はほっとした。

(われわれはばしゃをとぐちにのりつけず、なみきみちのもんちかくでおりた。ぎょしゃにしはらいをし、)

我々は馬車を戸口に乗り付けず、並木道の門近くで降りた。御者に支払をし、

(ただちにくーむとれーしーにかえるようにめいじると、わたしたちはとほで)

直ちにクーム・トレーシーに帰るように命じると、私たちは徒歩で

(めりぴっとはうすにむかった。ぶきをもっているか、れすとれーど?)

メリピット・ハウスに向かった。「武器を持っているか、レストレード?」

(ちいさなけいぶはほほえんだ。わたしがずぼんをはいているいじょう、しりぽけっとがあり、)

小さな警部は微笑んだ。「私がズボンをはいている以上、尻ポケットがあり、

(しりぽけっとがあるいじょう、そこにはなにかはいっています けっこう!わとそんとわたしも)

尻ポケットがある以上、そこには何か入っています」「結構!ワトソンと私も

(きんきゅうじたいにそなえてもっている このじけんはほんとうにおおづめみたいですね、)

緊急事態に備えて持っている」「この事件は本当に大詰めみたいですね、

(ほーむずさん。いったいこれからどうするんですか?まちぶせだ おやおや、)

ホームズさん。一体これからどうするんですか?」「待ち伏せだ」「おやおや、

(ここはあまりまちぶせしたいばしょにはみえませんね けいぶはうすぐらいおかのしゃめんで)

ここはあまり待ち伏せしたい場所には見えませんね」警部は薄暗い丘の斜面で

(あたりをみまわし、ぐりんぺんぬまのうえにかかるきりのかたまりをみながらみぶるいをして)

あたりを見回し、グリンペン沼の上にかかる霧の塊を見ながら身震いをして

(いった。まえにいえのひかりがみえますね あれがめりぴっとはうす、われわれの)

言った。「前に家の光が見えますね」「あれがメリピット・ハウス、我々の

(もくてきちだ。あるくときあまりおとをたてず、はなすさいもこごえでたのむよ わたしたちはいえまで)

目的地だ。歩く時あまり音を立てず、話す際も小声で頼むよ」私たちは家まで

(いくつもりでしんちょうにみちをあるいた。しかし200やーどてまえのちてんまできたとき、)

行くつもりで慎重に道を歩いた。しかし200ヤード手前の地点まで来た時、

(ほーむずはわたしたちをとめた。ここでいい かれはいった。みぎてのいわが)

ホームズは私たちを止めた。「ここでいい」彼は言った。「右手の岩が

(いいかくれがになる ここでまつのか?そうだ、ここでまちぶせをする。)

いい隠れ家になる」「ここで待つのか?」「そうだ、ここで待ち伏せをする。

(そのくぼちにはいってくれ、れすとれーど。わとそん、きみはいえのなかにはいったことが)

その窪地に入ってくれ、レストレード。ワトソン、君は家の中に入った事が

(あったな。へやのまどりをおしえてくれないか?あのはしのこうしがあるまどはなんだ?)

あったな。部屋の間取りを教えてくれないか?あの端の格子がある窓は何だ?」

(あれはだいどころのまどだとおもう そのひとつむこうの、ひじょうにあかるく)

「あれは台所の窓だと思う」「その一つ向こうの、非常に明るく

(かがやいているものは?あそこはまちがいなくしょくどうだ ぶらいんどは)

輝いているものは?」「あそこは間違いなく食堂だ」「ブラインドは

(あがっているな。きみがいちばんちぜいにくわしい。しずかにはいよってなにをしているか)

上がっているな。君が一番地勢に詳しい。静かに這い寄って何をしているか

(みてきてくれ、 しかしぜったいにみはっていることをさとられないようにな!)

見てきてくれ、―しかし絶対に見張っている事を悟られないようにな!」

(わたしはそっとみちをすすんで、はついくふようのかじゅえんをとりかこんでいるひくいかべのうしろに)

私はそっと道を進んで、発育不要の果樹園を取り囲んでいる低い壁の後ろに

(しゃがんだ。わたしはまどごしになかをまっすぐみることができるちてんまでとうたつした。)

しゃがんだ。私は窓越しに中を真っ直ぐ見る事ができる地点まで到達した。

(へやにはさーへんりーとすていぷるとんのふたりしかいなかった。)

部屋にはサー・ヘンリーとステイプルトンの二人しかいなかった。

(まるてーぶるのりょうがわに、かれらはわたしによこがおをみせてすわっていた。ふたりともはまきを)

丸テーブルの両側に、彼らは私に横顔を見せて座っていた。二人とも葉巻を

(すっていて、そしてこーひーとわいんがふたりのまえにあった。すていぷるとんは)

吸っていて、そしてコーヒーとワインが二人の前にあった。ステイプルトンは

(ねっしんにはなしをしていたが、じゅんだんしゃくのかおはあおざめ、どこかうわのそらにみえた。)

熱心に話をしていたが、準男爵の顔は青ざめ、どこか上の空に見えた。

(たぶん、えんぎのわるいこうやをひとりでこえてあるいていかねばならないというおもいが、)

多分、縁起の悪い荒野を一人で越えて歩いていかねばならないという思いが、

(かれのこころにどんどんおもくのしかかっていたのだろう。)

彼の心にどんどん重くのしかかっていたのだろう。

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