吸血鬼2

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投稿者投稿者桃仔いいね2お気に入り登録
プレイ回数2614難易度(4.5) 4902打 長文 長文モード可
明智小五郎シリーズ
江戸川乱歩の作品です。句読点以外の記号は省いています。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 zero 6152 A++ 6.3 96.5% 769.3 4910 177 68 2024/03/09
2 みき 6041 A++ 6.2 97.1% 784.3 4881 143 68 2024/03/21

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問題文

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(ふたりはそのおんせんでうんめいてきないちじょせいにであったのだ。かれらはちをはくような)

二人はその温泉で運命的な一女性に出会ったのだ。彼等は血を吐く様な

(こいをした。かれらにとって、おそらくはいっしょうがいにたったいちどのできごとであった。)

恋をした。彼等にとって、恐らくは一生涯にたった一度の出来事であった。

(きのちがいそうなれんあいとうそう!かれらのたいざいきかんはいちにちいちにちとのばされていった。)

気の違い相な恋愛闘争!彼等の滞在期間は一日一日と延ばされて行った。

(そしていっかげつ、しょうはいはまだけっしない。あいてのじょせいはかれらのそうほうにむかんしんでは)

そして一ヶ月、勝敗はまだ決しない。相手の女性は彼等の双方に無関心では

(なかった。だが、いつまでたっても、はっきりしたせんたくをしめさないのだ。)

なかった。だが、いつまで経っても、ハッキリした選択を示さないのだ。

(かれらはほとんどいちじかんごとに、あまいうぬぼれとむねをかきむしるようなしっととを、)

彼等はほとんど一時間毎に、甘い自惚れと胸をかきむしる様な嫉妬とを、

(こうごにかんじなければならなかった。いまはもはやこのくつうにたえがたくなった。)

交互に感じなければならなかった。今は最早この苦痛に耐え難くなった。

(あいてがせんたくしなければ、こちらできめてしまうほかはない。どちらかがひきさがる?)

相手が選択しなければ、こちらで極めてしまう外はない。どちらかが引さがる?

(おもいもよらぬことだ。ではけっとうだ。むかしのきしのようにいさぎよくいのちがけのけっとうを)

思いもよらぬ事だ。では決闘だ。昔の騎士の様にいさぎよく命がけの決闘を

(しようではないか。と、ふたりのれんあいきょうじんのそうだんがなりたった。)

しようではないか。と、二人の恋愛狂人の相談が成立った。

(わらえないきづかいざたである。・・・・・・みたにふさおはそれがびせいねんのなだ)

笑えない気遣い沙汰である。・・・・・・三谷房夫は(それが美青年の名だ)

(とうとうみぎがわのぐらすをつかんだ。めをふさいでそのつめたいようきをてーぶるから)

とうとう右側のグラスを掴んだ。目を塞いでその冷たい容器をテーブルから

(もちあげた。もうとりかえしがつかぬのだ。かれはちゅうちょをおそれるもののごとく、)

持上げた。もう取り返しがつかぬのだ。彼は躊躇を恐れるものの如く、

(おもいきってぐらすをくちびるにあてた。めいもくしたあおざめたかおが、いきおいよくてんじょうを)

思い切てグラスを唇に当てた。瞑目した青ざめた顔が、勢いよく天井を

(あおぐ。ぐらすのえきたいがつーっとはとはのあいだへながれこむ。のどぼとけがごくんとうごく。)

仰ぐ。グラスの液体がツーッと歯と歯の間へ流れ込む。喉仏がゴクンと動く。

(ながいちんもく。と、めをとじたみたにせいねんのみみにみょうなおとがきこえはじめた。たにまのはやせの)

長い沈黙。と、目を閉じた三谷青年の耳に妙な音が聞こえ始めた。谷間の早瀬の

(ひびきにまじって、それとはべつにぜいぜいというぜんそくのようなこえがきこえてきた。)

響に混って、それとは別にゼイゼイという喘息の様な声が聞こえてきた。

(あいてのこきゅうのおとだ。かれはぎょっとしてめをひらいた。ああ、これは)

相手の呼吸の音だ。彼はギョッとして目を開いた。アア、これは

(どうしたことだ。ちゅうねんしんしおかだみちひこは、ばけものみたいにとびだしたりょうめで、)

どうしたことだ。中年紳士岡田道彦は、化物みたいに飛び出した両眼で、

(つきさすように、あとにのこったひとつのぐらすをぎょうししている。かたはいようになみうち、)

突刺す様に、あとに残った一つのグラスを凝視している。肩は異様に波打ち、

など

(あせばんだつちいろのこばなはぴくぴくとぶきみにうごき、いまにもきをうしなってたおれそうな)

汗ばんだ土色の小鼻はピクピクと不気味に動き、今にも気を失って倒れ相な

(だんまつまのこきゅうだ。みたにせいねんは、うまれてから、こんなひどいきょうふのひょうじょうを)

断末魔の呼吸だ。三谷青年は、生れてから、こんなひどい恐怖の表情を

(みたことがなかった。わかった、わかった。かれはかったのだ、かれのとったのはどくはいでは)

見たことがなかった。分った、分った。彼は勝たのだ、彼の取ったのは毒杯では

(なかったのだ。おかだは、よろよろといすからたちあがってにげだしそうにしたが、)

なかったのだ。岡田は、ヨロヨロと椅子から立上がって逃げ出し相にしたが、

(やっとのおもいでおのれにうちかった。かれはぐったりといすにくずおれた。いちしゅんかんに)

やっとの思いで己に打勝た。彼はグッタリと椅子にくずおれた。一瞬間に

(げっそりとこけたつちけいろのほお。すすりなきににたはげしいこきゅう。ああ、なんという)

ゲッソリとこけた土気色の頬。すすり泣きに似た烈しい呼吸。アア、何という

(みじめなたたかいであろう。だが、かれはついにどくはいをとった。じょじょにじょじょに、)

みじめな闘いであろう。だが、彼はついに毒杯を取った。徐々に徐々に、

(かれのふるえるては、かわいたくちびるへとちかづいていく。ねんちょうしんしおかだみちひこは、)

彼の震える手は、乾いた唇へと近づいて行く。年長紳士岡田道彦は、

(みすみすげきやくをしりながら、しかしけっとうしゃのいじをかけて、そのぐらすを)

見す見す劇薬を知りながら、しかし決闘者の意地をかけて、そのグラスを

(とらねばならなかった。だが、ぐらすをもつては、かれのひそうなやせがまんをうらぎって)

取らねばならなかった。だが、グラスを持つ手は、彼の悲壮な痩我慢を裏切って

(みじめにもうちふるえ、なかのえきたいがぼとぼととたくじょうにあふれでた。みたにせいねんは、)

みじめにも打震え、中の液体がボトボトと卓上にあふれ出た。三谷青年は、

(かれじしんいまのみほしたえきたいにおびえきっていたので、おかだのくもんをながめながらも、)

彼自身今飲みほした液体におびえ切ていたので、岡田の苦悶を眺めながらも、

(わるいくじをひきあてたのはおかだのほうであることをすこしもきづかぬらしく、あいても)

悪い籤を抽当てたのは岡田の方であることを少しも気附かぬらしく、相手も

(かれとおなじく、ただ、ふたつにひとつのあくうんにおびえているのだとおもいこんでいる)

彼と同じく、ただ、二つに一つの悪運におびえているのだと思い込んでいる

(ようすだった。おかだはたびたびいきおいをこめてぐらすをくちのそばまでもっていくのだが、)

様子だった。岡田は度々勢いをこめてグラスを口の側まで持って行くのだが、

(いつもくちびるのまえいっすんのところでぴたりととまってしまった。まるでめにみえぬてが)

いつも唇の前一寸の所でピタリと止まってしまった。まるで目に見えぬ手が

(じゃまをしているようだ。ああ、ざんこくだ みたにせいねんはかおをそむけて、おもわず)

邪魔をしている様だ。「アア、残酷だ」三谷青年は顔をそむけて、思わず

(つぶやいた。そのつぶやきがあいてのてきがいしんをげきはつした。おかだはくもんのかおいろをすさまじく、)

呟いた。その呟きが相手の敵愾心を激発した。岡田は苦悶の顔色をすさまじく、

(さいごのきりょくをふるって、ついに、げきやくのこっぷをくちびるにつけた。と、そのせつな)

最後の気力を奮って、遂に、劇薬のコップを唇につけた。と、その刹那

(あっ というさけびごえ。かちゃんとがらすのわれるおと。わいんぐらすはおかだの)

「アッ」という叫び声。カチャンとガラスの破れる音。ワイングラスは岡田の

(てをすべりおちて、えんがわのいたにぶつかり、こなごなにわれてしまったのだ。)

手を辷り落て、縁側の板にぶつかり、粉々に破れてしまったのだ。

(なにをするんだ おかだがげきどにいきをはずませてさけんだ。いや、ついそそうを)

「何をするんだ」岡田が激怒に息をはずませて叫んだ。「イヤ、つい粗相を

(しました。かんべんしてください みたにが、いいしれぬほこりにめのふちをあかくして)

しました。勘弁して下さい」三谷が、いい知れぬ誇りに目の縁を赤くして

(いった。なにがそそうなものか、かれはこいにあいてのぐらすをたたきおとしたのだ。)

いった。何が粗相なものか、彼は故意に相手のグラスを叩き落としたのだ。

(やりなおしだ。やりなおしだ。ぼくはきみのごときあおにさいのおんけいによくしたくない)

「やり直しだ。やり直しだ。僕は君の如き青二才の恩恵に浴したくない」

(おかだがだだっこのようにどなった。ああ、それでは せいねんはびっくりして)

岡田が駄々ッ子の様に怒鳴った。「アア、それでは」青年はびっくりして

(ききかえした。わるいくじをひきあてたのはあなただったのですね。いまわれたこっぷに)

聞き返した。「悪い籤を抽当てたのはあなただったのですね。今破れたコップに

(れいのどくがはいっていたのですね それをきくとおかだのかおに しまった という)

例の毒がはいっていたのですね」それを聞くと岡田の顔に「しまった」という

(ひょうじょうがひらめいた。やりなおしだ。こんなばかなしょうぶはない。さあ、)

表情がひらめいた。「やり直しだ。こんな馬鹿な勝負はない。サア、

(やりなおしだ あなたはひきょうだ みたにせいねんはけいべつのいろをうかべて)

やり直しだ」「あなたは卑怯だ」三谷青年は軽蔑の色を浮かべて

(やりなおしをして、こんどこそぼくにどくやくのこっぷをとらせようというわけですか。)

「やり直しをして、今度こそ僕に毒薬のコップを取らせようという訳ですか。

(あなたがそんなひきょうものとしったら、ぼくはあんなことをするのではなかった。)

あなたがそんな卑怯者と知ったら、僕はあんなことをするのではなかった。

(・・・・・・ぼくはあなたのくもんをみるにしのびなかった。それにぼくはすでにえきたいを)

・・・・・・僕はあなたの苦悶を見るに忍びなかった。それに僕は已に液体を

(のみほしてしまったのです。それがどくやくであろうとなかろうと、もうしょうぶは)

飲みほしてしまったのです。それが毒薬であろうとなかろうと、もう勝負は

(けっしたのです。ぼくがすうじかんたってもしななかったら、ぼくのかちだし、)

決したのです。僕が数時間たっても死ななかったら、僕の勝だし、

(しねばあなたのかちなんです。なにもあなたがぜひあれをのまねばならぬりゆうは)

死ねばあなたの勝なんです。何もあなたが是非あれを飲まねばならぬ理由は

(なかったのです いわれてみればそうにちがいない。このしょうぶのもくてきはこいであって)

なかったのです」いわれて見ればそうに違いない。この勝負の目的は恋であって

(おたがいのいのちではない。しょうぶさえついてしまえば、あとにのこったひとりのせいめいを)

お互いの命ではない。勝負さえついてしまえば、あとに残った一人の生命を

(むざむざぎせいにすることはないのだ。とはいえ、てきのこっぷをたたきおとした)

むざむざ犠牲にすることはないのだ。とはいえ、敵のコップを叩き落とした

(みたにせいねんは、みじめにたすけられたあいてにくらべて、にだんもさんだんもおとこをあげた。)

三谷青年は、みじめに助けられた相手に比べて、二段も三段も男を上げた。

(むかしのきしのものがたりにでもあるような、めざましいおこないだ。おかだはそれが)

昔の騎士の物語にでもある様な、目ざましい行いだ。岡田はそれが

(くやしかった。ねんちょうのかれにしてはしのびがたいちじょくにそういなかった。)

口惜しかった。年長の彼にしては忍び難い恥辱に相違なかった。

(だが、かれはあくまで やりなおし をしゅちょうするゆうきもなく、きまずいかおで)

だが、彼はあくまで「やり直し」を主張する勇気もなく、気拙い顔で

(ちんもくしてしまった。くつじょくといのちとてんびんにかけてみて、やっぱりいのちのほうが)

沈黙してしまった。屈辱と命と天秤にかけて見て、やっぱり命の方が

(おしかったのであろう。そのとき、ろうかのおくのへやのなかで、かたんという)

惜しかったのであろう。その時、廊下の奥の部屋の中で、カタンという

(おとがした。けっとうしゃたちはかれらのしょうぶにむちゅうになって、すこしもきづかなかったけれど)

音がした。決闘者達は彼等の勝負に夢中になって、少しも気づかなかったけれど

(さいぜんから、そのへやのつぎのまのふすまのかげで、かれらのたいわをたちぎきしていたじんぶつが)

さい前から、その部屋の次の間の襖の蔭で、彼等の対話を立聞きしていた人物が

(ある。そのひとがいまかくればしょをでて、へやのまんなかへあるいてきたのだ。)

ある。その人が今隠れ場所を出て、部屋の真中へ歩いて来たのだ。

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