吸血鬼13

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プレイ回数1777難易度(4.5) 4926打 長文 長文モード可
明智小五郎シリーズ
江戸川乱歩の作品です。句読点以外の記号は省いています。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 kuma 4999 B 5.4 92.6% 911.1 4946 391 67 2024/10/27

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問題文

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(さいとうろうじんは、したいにはすこしもてをふれず、ともかくけいさつにしらせることにした。)

斎藤老人は、死体には少しも手をふれず、兎も角警察に知らせることにした。

(しょせいのひとりがどあをあけて、でんわしつへとはしった。あとにのこったふたりは、にわの)

書生の一人がドアを開て、電話室へと走った。あとに残った二人は、庭の

(じょちゅうたちにはしごをはずさせ、まどをしめてかけがねをかけ、どあにもそとからかぎをかけて、)

女中達に梯子をはずさせ、窓をしめて掛金をかけ、ドアにも外から鍵をかけて、

(どあにもそとからかぎをかけて、かいかにひきとった。つまり、それからしばらくのあいだ、)

ドアにも外から鍵をかけて、階下に引取った。つまり、それから暫くの間、

(おがわのしたいは、そのしょさいのなかに、かんぜんにみっぺいされていたわけである。さんじゅっぷんほどして)

小川の死体は、その書斎の中に、完全に密閉されていた訳である。三十分程して

(こうじまちけいさつとけいしちょうとからかかりかんがしゅっちょうしてきた。そのにんずうのなかに、)

麹町警察と警視庁とから係官が出張して来た。その人数の中に、

(めいたんていときこえたそうさかのつねかわけいぶがまじっているのをみると、とうきょくが、ひきつづいて)

名探偵と聞えた捜査課の恒川警部が混っているのを見ると、当局が、引続いて

(おこった、はたやなぎけのかいじを、かなりじゅうだいにかんがえていることがわかった。けいかんたちは、)

起った、畑柳家の怪事を、可成重大に考えていることが分った。警官達は、

(さいとうろうじんから、だいたいのじじょうをききとると、ともかくげんじょうをけんぶんすることにして、)

斎藤老人から、大体の事情を聞取ると、兎も角現場を検分することにして、

(ろうじんのあんないで、にかいのしょさいへとあがっていった。へやのなかは、すこしもみださぬよう)

老人の案内で、二階の書斎へと上って行った。「部屋の中は、少しも乱さぬよう

(じゅうぶんちゅういをいたしました。しがいはもちろん、なにいっぴんうごかしたものはござりません。)

十分注意を致しました。死骸は勿論、何一品動かしたものはござりません。

(わたくしどもは、むごたらしいしがいをひとめみたばかりで、にげだしてしまったようなわけで)

私共は、むごたらしい死骸を一目見たばかりで、逃げ出してしまった様な訳で」

(ろうじんはそんなことをいいながら、かぎをまわしてどあをひらいた。ひとびとはちなまぐさいこうけいを)

老人はそんなことをいいながら、鍵を廻してドアを開いた。人々は血腥い光景を

(そうぞうして、ややためらいながら、へやのなかをのぞいた。でんとうはつけたままに)

想像して、ややためらいながら、部屋の中を覗いた。電燈はつけたままに

(なっていたので、ひとめですみずみまでながめることができた。おや、へやが)

なっていたので、一目で隅々まで眺めることが出来た。「オヤ、部屋が

(ちがうのじゃないかね さいしょにふみこんだ、こうじまちしょのしほうしゅにんが、けげんらしく)

違うのじゃないかね」最初に踏込んだ、麹町署の司法主任が、けげんらしく

(つぶやいて、ろうじんをふりかえった。なんだか、へんてこなしつもんである。いちどうみょうにおもって、)

呟いて、老人を振返った。何だか、変てこな質問である。一同妙に思って、

(つづいてへやのなかへはいっていった。おやっ あんないしゃのさいとうろうじんまでが、とんきょうな)

続いて部屋の中へはいって行った。「オヤッ」案内者の斎藤老人までが、頓狂な

(さけびごえをはっした。さっきのしがいは、かげもかたちもなくなっているのだ。まさかへやを)

叫声を発した。さっきの死骸は、影も形もなくなっているのだ。まさか部屋を

(とりちがえるはずはない。ちみどろのおとこがころがっていたのは、あのくろいぶつぞうのまえで)

取違える筈はない。血みどろの男が転がっていたのは、あの黒い仏像の前で

など

(あった。そとのへやにそんなぶつぞうなんて、ないのだ。ろうじんは、うろたえて、まどぎわへ)

あった。外の部屋にそんな仏像なんて、ないのだ。老人は、うろたえて、窓際へ

(はしっていって、みっぺいされたふたつのまどのかけがねをしらべてみたが、すこしもいじょうはない。)

走って行って、密閉された二つの窓の掛金を検べて見たが、少しも異状はない。

(まったくありえないことがおこったのだ。しがいはとけてしまったか、あるいはじょうはつして)

全くあり得ないことが起ったのだ。死骸は溶けてしまったか、あるいは蒸発して

(しまったとしかかんがえようがないのだ。ろうじんはきつねにつままれたようなかおをして、)

しまったとしか考え様がないのだ。老人は狐につままれた様な顔をして、

(きょろきょろとあたりをみまわしながら、まさかさんにんが、そろってゆめをみたのでは)

キョロキョロとあたりを見廻しながら、「まさか三人が、揃って夢を見たのでは

(ありますまい。わたしのほかに、ふたりのしょせいが、たしかにしがいをもくげきしておるのです)

ありますまい。私の外に、二人の書生が、確に死骸を目撃しておるのです」

(としたいふんしつが、かれのそそうででもあるように、きょうしゅくした。つねかわけいぶは、ろうじんに、)

と死体紛失が、彼の粗相ででもある様に、恐縮した。恒川警部は、老人に、

(しがいのよこたわっていたばしょをたずねて、そこのじゅうたんをしらべていたが、あなたは )

死骸の横たわっていた場所を尋ねて、そこの絨氈を検べていたが、「あなたは

(ゆめをみたのでありませんよ。ここにたしかにちのながれたあとがあります とじゅうたんの)

夢を見たのでありませんよ。ここに確に血の流れた跡があります」と絨氈の

(あるかしょをゆびさした。じゅうたんのもようがどすぐろいので、ちょっとみたのではわからぬが)

ある個所を指さした。絨氈の模様がドス黒いので、ちょっと見たのでは分らぬが

(さわってみると、まだゆびさきにあかいものがついてくるのだ。けいかんたちは、)

触って見ると、まだ指先に赤いものがついて来るのだ。警官達は、

(このきかいせんばんなできごとに、いじょうなるしょくぎょうてききんちょうをおぼえ、てわけをして、)

この奇怪千万な出来事に、異常なる職業的緊張を覚え、手分けをして、

(むろのないがいをくまなくとりしらべたが、これというはっけんもなかった。めしつかいをのこらず)

室の内外を隈なく取調べたが、これという発見もなかった。「召使を残らず

(あつめてください。なにかみたものがあるかもしれない つねかわけいぶのようきゅうにおうじて、)

集めて下さい。何か見たものがあるかも知れない」恒川警部の要求に応じて、

(めしつかいいちどう、かいかのきゃくまへよびあつめられた。しょせいふたり、うばのおなみ、じょちゅうふたり。)

召使一同、階下の客間へ呼び集められた。書生二人、乳母のお波、女中二人。

(おきくがいないが、どこへいったのか、だれかしらないかね さいとうろうじんがきづいて)

「お菊がいないが、どこへ行ったのか、誰か知らないかね」斎藤老人が気づいて

(たずねた。こまづかいのおきくのすがたがみえぬのだ。おきくさんなら、さっき、しぐまが)

尋ねた。小間使のお菊の姿が見えぬのだ。「お菊さんなら、さっき、シグマが

(ひどくないているのをきいて、いぬごやをみてくるといって、にわへでて)

ひどく鳴いているのを聞いて、犬小屋を見て来ると言って、庭へ出て

(いきました。でも、それからもうだいぶじかんがたっていますわ じょちゅうのひとりが)

行きました。でも、それからもう大分時間がたっていますわ」女中の一人が

(おもいだしてこたえた。しぐまはせんじつのふしょういらい、てあてをくわえて、にわのいぬごやに)

思い出して答えた。シグマは先日の負傷以来、手当を加えて、庭の犬小屋に

(つないであった。おきくはひごろ、このいぬをひどくかわいがっていたので、なきごえを)

つないであった。お菊は日頃、この犬をひどく可愛がっていたので、鳴声を

(きいてびょうけんをなぐさめにいったものであろう。さいとうろうじんのめいをうけて、しょせいのひとりが)

聞いて病犬を慰めに行ったものであろう。斎藤老人の命を受けて、書生の一人が

(おきくをさがすために、いぬごやのあるうらにわへでていったが、しばらくすると、なにか)

お菊を探す為に、犬小屋のある裏庭へ出て行ったが、暫くすると、何か

(わめきながら、きゃくまへかけこんできた。たいへんです。おきくさんがころされています。)

わめきながら、客間へ駈込んで来た。「大変です。お菊さんが殺されています。

(にわにたおれています。はやくきてください それをきくと、けいかんたちはおどろいて、)

庭に倒れています。早く来て下さい」それを聞くと、警官達は驚いて、

(しょせいについてうらにわへかけつけた。ほら、あすこです しょせいのゆびさすところをみると、)

書生について裏庭へ駈つけた。「ホラ、あすこです」書生の指さす所を見ると、

(いぬごやからだいぶはなれた、にわのしばふに、ひとりのおんなが、あおじろいげっこうにてらされて、)

犬小屋から大分離れた、庭の芝生に、一人の女が、青白い月光に照らされて、

(あおむきざまにうちたおれていた。)

仰向ざまに打倒れていた。

(ようじゅつ)

妖術

(げっこうにてらされて、たおれていたのは、こまづかいのおきくだ。えたいのしれない)

月光に照らされて、倒れていたのは、小間使のお菊だ。えたいの知れない

(さつじんまは、やつぎばやに、だいにのぎせいしゃをほふったのであろうか。しょせいはきみわるがって)

殺人魔は、矢継早に、第二の犠牲者を屠ったのであろうか。書生は気味悪がって

(たじろいでいるひまに、ことになれたつねかわけいぶは、いちはやくおきくのそばにかけより、)

たじろいでいる暇に、事に慣れた恒川警部は、いち早くお菊の側に駈け寄り、

(じょうはんしんをだきおこして、おおごえになをよんだ。だいじょうぶ、ごあんしんなさい。このひとは)

上半身を抱き起して、大声に名を呼んだ。「大丈夫、御安心なさい。この人は

(どこにもきずをうけていません。きぜつしたばかりです つねかわけいぶのことばに、)

どこにも傷を受けていません。気絶したばかりです」恒川警部の言葉に、

(いちどうほっとして、ちかぢかとこまづかいをとりかこんだ。やっといしきをとりもどしたおきくは、)

一同ホッとして、近々と小間使を取囲んだ。やっと意識を取戻したお菊は、

(しばらくあたりをみまわしていたが、やがてなにかおもいだしたようすで、そのあおざめた)

暫くあたりを見廻していたが、やがて何か思出した様子で、その青ざめた

(うつくしいかおには、なんともいえぬきょうふのひょうじょうをうかべた。あれ、あすこです。)

美しい顔には、何とも言えぬ恐怖の表情を浮べた。「あれ、あすこです。

(あのしげみのなかからのぞいていたのです かのじょが、さもおそろしそうに、ふるえるゆびさきで、)

あの茂みの中から覗いていたのです」彼女が、さも恐ろし相に、震える指先で、

(まっくらにみえるこだちのかげをさししめしたときには、くっきょうなけいかんたちでさえ、ぞっと、)

真暗に見える木立の蔭をさし示した時には、屈強な警官達でさえ、ゾッと、

(えりもとにみずをかけられたようなかんじがした。だれです。だれがのぞいていたのです)

襟元に水をかけられた様な感じがした。「誰です。誰が覗いていたのです」

(つねかわしが、せきこんでたずねた。それは、あの、・・・・・・ああ、)

恒川氏が、せき込んで尋ねた。「それは、あの、……アア、

(わたしこわくて、・・・・・・あおじろいげっこう、まっくらなこだち、かいぶつのようなもののかげ。)

わたし怖くて、……」青白い月光、真暗な木立、怪物の様な物の影。

(そのおそろしいげんばでいまみたもののすがたをはなすのは、あまりにこわいのだ。)

その恐ろしい現場で今見たものの姿を話すのは、余りに怖いのだ。

(こわいことはない。ぼくらはこんなにたぜいいるじゃないか。はやくそれをいいたまえ、)

「怖いことはない。僕等はこんなに多勢いるじゃないか。早くそれをいい給え、

(そうさじょうたいせつなてがかりなんだから つねかわしは、おがわのしがいふんしつと、おきくの)

捜査上大切な手掛りなんだから」恒川氏は、小川の死骸紛失と、お菊の

(みたものとのあいだに、ひつぜんてきなかんけいがあるようにおもったのだ。せめたてられて、)

見たものとの間に、必然的な関係がある様に思ったのだ。せめ立てられて、

(おきくはやっとくちをひらいた。)

お菊はやっと口を開いた。

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