吸血鬼18

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投稿者投稿者桃仔いいね2お気に入り登録
プレイ回数1771難易度(4.2) 4791打 長文 かな 長文モード可
明智小五郎シリーズ
江戸川乱歩の作品です。句読点以外の記号は省いています。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 zero 6135 A++ 6.4 95.8% 747.1 4794 210 69 2024/03/21

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問題文

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(あいつのこいはおそろしいほどでした。わたしに、どくやくけっとうをもうしこんだのもおかだです。)

「あいつの恋は恐ろしい程でした。私に、毒薬決闘を申込んだのも岡田です。

(そればかりでありません。あいつがおんせんやどにたいざいちゅうのいっかげつばかり、)

そればかりでありません。あいつが温泉宿に滞在中の一ヶ月ばかり、

(しずこさんをつけまわしたようすは、おもいだしてもぞっとするほど、きちがいめいて)

倭文子さんをつけ廻した様子は、思い出してもゾッとする程、気違いめいて

(いました。じょうよくばかりのけだものみたいでした。どうも、あのおとこは、)

いました。情慾ばかりのけだものみたいでした。どうも、あの男は、

(ずっといぜんから、しずこさんをこいしていて、ただしずこさんにせっきんするきかいが)

ずっと以前から、倭文子さんを恋していて、ただ倭文子さんに接近する機会が

(えたいばかりに、わざわざ、あとをおってあのおんせんへやってきたとしか)

得たいばかりに、態々、あとを追ってあの温泉へやって来たとしか

(かんがえられないのです みたにはぞうおにもえて、むちゅうにはなしつづける。だが、)

考えられないのです」三谷は憎悪に燃えて、夢中に話しつづける。「だが、

(やつのもくてきは、しずこさんをてにいれるだけではありますまい。わざわざにせのしがいを)

奴の目的は、倭文子さんを手に入れるだけではありますまい。態々贋の死骸を

(こしらえ、くるしいおもいをして、かおをやいてまでもこのよからすがたをくらます)

拵え、苦しい思いをして、顔を焼いてまでもこの世から姿をくらます

(というのには、もっとふかいたくらみがなくてはなりません たとえば、)

というのには、もっと深い企みがなくてはなりません」「例えば、

(ふくしゅうというような?そうです。わたしはそれをかんがえると、からだじゅうにあぶらあせが)

復讎という様な?」「そうです。私はそれを考えると、身体中にあぶら汗が

(にじみだすほど、おそろしいのです。やつはぼくにふくしゅうしようとしているのです。)

にじみ出す程、恐ろしいのです。奴は僕に復讎しようとしているのです。

(りゆうのないふくしゅうをとげようとしているのです だが、あとになって、)

理由のない復讎をとげ様としているのです」だが、あとになって、

(おかだというおとこは、みたにがかんがえていたよりも、もっともっとおそろしいあくじを)

岡田という男は、三谷が考えていたよりも、もっともっと恐ろしい悪事を

(たくらんでいる、ごくあくひどうのあくまであることがわかった。あなたに、ごそうだんに)

たくらんでいる、極悪非道の悪魔であることが分った。「あなたに、御相談に

(うかがったのも、しずこさんにくわえられた、きょくどのぶべつをうらむほかに、ひとつはその)

伺ったのも、倭文子さんに加えられた、極度の侮蔑を恨む外に、一つはその

(ふくしゅうがおそろしかったからです。あいつはあくまのけしんです。あなたはおわらいなさるか)

復讎が恐ろしかったからです。彼奴は悪魔の化身です。あなたはお笑いなさるか

(しれませんが、わたしはこのめでみたのです。あいつのあのふかかいなしょうしつは、)

知れませんが、私はこの目で見たのです。彼奴のあの不可解な消失は、

(ようじゅつとでもかんがえるほかかんがえようがないではありませんか。あいつはまったくべつのせかいから)

妖術とでも考える外考え様がないではありませんか。あいつは全く別の世界から

(このよにまよいだしてきた、ひじょうにぶきみな、いっしゅのせいぶつみたいに)

この世に迷い出して来た、非常に不気味な、一種の生物みたいに

など

(おもわれるのです おかだのもとのじゅうしょをごぞんじですか みたににものがたりが)

思われるのです」「岡田の元の住所を御存知ですか」三谷に物語が

(ひとだんらくついたとき、あけちがたずねた。おんせんでめいしをもらっていました。なんでも)

一段らくついた時、明智が尋ねた。「温泉で名刺を貰っていました。何でも

(しぶやあたりの、ずっとこうがいのようにきおくしています まだ、そこをしらべて)

渋谷辺の、ずっと郊外の様に記憶しています」「まだ、そこを調べて

(みないのですね なるほど、おかだのもとのじゅうしょをしらべてみるというてがあったな。)

見ないのですね」成程、岡田の元の住所を調べて見るという手があったな。

(とみたにはちょっとうかつをはじた。いや、いずれそこへも、いってみなければ)

と三谷はちょっと迂闊を恥じた。「イヤ、いずれそこへも、行って見なければ

(なりますまい あけちはにこにこしながらいった。しかし、まずだいいちに、げんざいの)

なりますまい」明智はニコニコしながらいった。「併し、先ず第一に、現在の

(ぞくのそうくつをみたいとおもいます。あなたのいわゆるようじゅつが、どんなふうにして)

賊の巣窟を見たいと思います。あなたの所謂妖術が、どんな風にして

(おこなわれたか。そいつをしらべたら、しぜんぞくのしょうたいもわかってくるわけです)

行われたか。そいつを調べたら、自然賊の招待も分って来る訳です」

(ではおさしつかえなければ、これからすぐあおやまへおでかけくださいませんで)

「ではお差支えなければ、これから直ぐ青山へ御出かけ下さいませんで

(しょうか みたには、めいたんていをみあげるようにしていった。あけちはこのじけんに、)

しょうか」三谷は、名探偵を見上げる様にしていった。明智はこの事件に、

(ひどくきょうみをおぼえたので、すこしももったいぶることなく、ただちにどうこうをしょうだくした。ところが)

ひどく興味を覚たので、少しも勿体ぶる事なく、直に同行を承諾した。ところが

(いざしゅっぱつというまぎわに、はなはださいさきのわるいできごとがおこった。あけちががいしゅつの)

いざ出発という間際に、甚だ幸先の悪い出来事が起った。明智が外出の

(したくをして、ふみよさんにるすちゅうのことをいいのこしていたとき、ひとあしさきにろうかへ)

支度をして、文代さんに留守中のことをいい残していた時、一足先に廊下へ

(でようとしたみたにが、どあのしたのすきまから、いっつうのふうしょがのぞいているのを)

出ようとした三谷が、ドアの下の隙間から、一通の封書が覗いているのを

(はっけんした。だれかがだまってさしいれていったものにそういない。ああ、)

発見した。誰かが黙って差入れて行ったものに相違ない。「アア、

(おてがみのようです かれはそれをひろいあげて、あけちにわたした。だれからだろう。)

お手紙の様です」彼はそれを拾い上げて、明智に渡した。「誰からだろう。

(ちっともみおぼえのないひっせきだが あけちはひとりごとをいいながら、ふうをきって)

ちっとも見覚のない筆跡だが」明智は独言をいいながら、封を切って

(よみくだした。よむにしたがって、かれのかおにいっしゅいようのびしょうがうかんできた。)

読み下した。読むに従って、彼の顔に一種異様の微笑が浮んで来た。

(みたにさん。ぞくは、あなたがここへいらっしゃったことを、もうちゃんと)

「三谷さん。賊は、あなたがここへいらっしゃったことを、もうちゃんと

(しっていますよ あけちがそういって、さしだしたてがみには、さのようなおそろしい)

知っていますよ」明智がそういって、差出した手紙には、佐の様な恐ろしい

(もんくがしたためてあった。)

文句が認めてあった。

(あけちくん、とうとうきみがしゅつばすることになったね。おれのほうでもはたらきがいが)

明智君、とうとう君が出馬することになったね。俺の方でも働き甲斐が

(あるというものだよ。だが、ようじんしたまえ。おれはね、きみがいままでてがけた)

あるというものだよ。だが、用心し給え。俺はね、君が今まで手がけた

(あくにんどもとは、しょうしょうちがっているのだ。そのしょうこには、きみがたったいまこのじけんを)

悪人共とは、少々違っているのだ。その証拠には、君がたった今この事件を

(ひきうけたのを、おれのほうでは、もうちゃんとしっているのだからね。)

引受けたのを、俺の方では、もうちゃんと知っているのだからね。

(すると、あいつは、わたしたちのはなしを、どあのそとでたちぎきしていたのでしょうか)

「すると、あいつは、私達の話を、ドアの外で立聞きしていたのでしょうか」

(みたにがあおざめていった。たちぎきなんてできませんよ、ぼくはどあのそとへ)

三谷が青ざめていった。「立聞きなんて出来ませんよ、僕はドアの外へ

(きこえるようなこえでは、けっしてはなしをしませんし、あなたも、ひじょうにひくいこえでした。)

聞える様な声では、決して話をしませんし、あなたも、非常に低い声でした。

(ぞくはたぶん、あなたをびこうして、ここへはいられたのをみとどけ、ぼくがこのじけんを)

賊は多分、あなたを尾行して、ここへはいられたのを見届け、僕がこの事件を

(おひきうけすることを、みぬいてしまったのです では、やつはまだこのへんに)

お引受けすることを、見抜いてしまったのです」「では、奴はまだこの辺に

(うろうろしているかもしれませんね。そして、またわたしたちのあとをつけて)

ウロウロしているかも知れませんね。そして、また私達のあとをつけて

(くるのではありますまいか みたにがしんぱいすればするほど、あけちはかえって、にこにこ)

来るのではありますまいか」三谷が心配すればする程、明智は却って、ニコニコ

(わらってみせた。びこうをしてくれば、むしろこうつごうですよ。あいつのありかを)

笑って見せた。「尾行をして来れば、寧ろ好都合ですよ。あいつのありかを

(そうさくするてかずが、はぶけるわけですからね かれはみたにをはげますようにして、さきにたって)

捜索する手数が、省ける訳ですからね」彼は三谷を励ます様にして、先に立って

(げんかんにまっていたたくしーにのった。あおやまのれいのかいやへのとちゅう、たえずうしろの)

玄関に待っていたタクシーに乗った。青山の例の怪屋への途中、絶えずうしろの

(まどをちゅういしていたけれど、びこうしてくるじどうしゃをはっけんすることはできなかった。)

窓を注意していたけれど、尾行して来る自動車を発見することは出来なかった。

(ぞくはかれらのいきさきをさっして、とっくにさきまわりをしているのではあるまいか。)

賊は彼等の行先を察して、とっくに先廻りをしているのではあるまいか。

(あぶない、あぶない。あのばけもののやしきへ、ぶそうもせず、たったふたりでのりこんでいくのは)

危い、危い。あの化物の屋敷へ、武装もせず、たった二人で乗り込んで行くのは

(あまりにむこうみずな、ふるまいではなかったか。ふたりは、すこしてまえでくるまをすてて、)

あまりに向う見ずな、振舞ではなかったか。二人は、少し手前で車を捨てて、

(こはるびよりの、はれわたったひをあびながら、れいのかいやへあるいていった。)

小春日和の、晴れ渡った日をあびながら、例の怪屋へ歩いて行った。

(しめきったもんには、けいさつでとりつけたのか、いかめしいじょうまえがぶらさがっている。)

締切った門には、警察でとりつけたのか、いかめしい錠前がぶら下っている。

(はくじつにてらしだされたかいやは、なんのへんてつもない、ただのあきやとしか)

白日に照らし出された怪屋は、何の変てつもない、ただの空家としか

(みえなかった。かぎがなくてははいれませんね みたにが、じょうまえをみていった。)

見えなかった。「鍵がなくては這入れませんね」三谷が、錠前を見ていった。

(うらへまわってみましょう。ぞくがきえたというへいのところへ あけちはもう、そのほうへ)

「裏へ廻って見ましょう。賊が消えたという塀の所へ」明智はもう、その方へ

(あるきだしていた。でも、うらのほうからはとてもはいれませんよ。うらもんなんて)

歩き出していた。「でも、裏の方からは迚も這入れませんよ。裏門なんて

(ありませんし、それにへいがとてもたかいのです しかし、ぞくはそこから)

ありませんし、それに塀がとても高いのです」「併し、賊はそこから

(はいったのです。われわれもはいれぬというわけはありませんよ あけちはむろんようじゅつを)

這入ったのです。我々も這入れぬという訳はありませんよ」明智は無論妖術を

(しんじてはいなかったのだ。ならんだやしきをうかいして、ひろいふっこうどうろにでて、)

信じてはいなかったのだ。並んだ屋敷を迂回して、広い復興道路に出て、

(そこからうらてのたかいへいにはさまれた、もんだいのつうろへまがっていった。)

そこから裏手の高い塀にはさまれた、問題の通路へ曲って行った。

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