吸血鬼19

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プレイ回数1910順位2226位  難易度(4.5) 4949打 長文 長文モード可
明智小五郎シリーズ
江戸川乱歩の作品です。句読点以外の記号は省いています。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 ヌオー 6076 A++ 6.4 95.0% 766.1 4913 258 71 2024/12/03
2 kuma 4959 B 5.4 92.3% 915.8 4955 413 71 2024/10/27
3 きじとら 2900 E+ 3.0 95.4% 1606.2 4893 234 71 2024/12/24

関連タイピング

問題文

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(ここですね そうです。ごらんのとおり、はしごをかけてのりこすほかには、)

「ここですね」「そうです。ごらんの通り、梯子を掛けて乗り越す外には、

(ここからていないへはいるほうほうがないのです。どんなたかとびのめいじんだって、)

ここから邸内へ這入る方法がないのです。どんな高飛びの名人だって、

(このたかいへいにとびつくことはできません。それに、うえにはいっぱいがらすのかけらが)

この高い塀に飛びつくことは出来ません。それに、上には一杯ガラスのかけらが

(うえつけてあるのですから あのばんはつきよでしたね ひるのようなつきよでした。)

植えつけてあるのですから」「あの晩は月夜でしたね」「昼の様な月夜でした。

(それに、なわばしごをかけるよゆうなんて、ぜったいになかったのです ふたりは)

それに、縄梯子をかける余裕なんて、絶対になかったのです」二人は

(そんなかいわをとりかわしながら、そのつうろをいったりきたりした。あけちはりょうがわの)

そんな会話を取交しながら、その通路を行ったり来たりした。明智は両側の

(こんくりーとべいをみあげたり、じめんをながめたり、そうかとおもうと、とつぜんひろい)

コンクリート塀を見上げたり、地面を眺めたり、そうかと思うと、突然広い

(かんせんどうろにはしりだして、ふきんをみまわしていたが、れいのいっしゅいようの)

幹線道路に走り出して、附近を見廻していたが、例の一種異様の

(にこにこわらいをして、みょうなことをいいだした。ぞくがここからはいったとすれば)

ニコニコ笑いをして、妙なことをいい出した。「賊がここから這入ったとすれば

(たとえわれわれのめにみえなくても、どこかにでいりぐちがあるはずです、たとえば、あまり)

仮令我々の目に見えなくても、どこかに出入口がある筈です、例えば、余り

(へんてこなでいりぐちであるために、われわれはまざまざとそれをみながら、すこしも)

変てこな出入口である為に、我々はマザマザとそれを見ながら、少しも

(きがつかぬような。・・・・・・まさか、このへいにかくしどがあると)

気がつかぬ様な。・・・・・・」「まさか、この塀に隠し戸があると

(おっしゃるのじゃありますまいね みたにはおどろいてあいてのかおをながめた。)

おっしゃるのじゃありますまいね」三谷は驚いて相手の顔を眺めた。

(かくしどなんかは、けいさつでじゅうぶんしらべたでしょうし、こうみたところ、そんなものが)

「隠し戸なんかは、警察で十分調べたでしょうし、こう見た所、そんなものが

(あるとはおもえませんね すると、ほかにどんなほうほうがあるのでしょう)

あるとは思えませんね」「すると、外にどんな方法があるのでしょう」

(みたにはいよいよ、へんなかおをした。やれるか、やれないか、ひとつぼくもぞくの)

三谷はいよいよ、変な顔をした。「やれるか、やれないか、一つ僕も賊の

(まねをして、ここからはいってみましょう。あなたは、そのときのように)

真似をして、ここから這入って見ましょう。あなたは、その時の様に

(ぼくのあとからおいかけてみてくれませんか このさい、あけちがじょうだんなぞを)

僕のあとから追駈けて見てくれませんか」この際、明智が冗談なぞを

(いうはずはない。しかも、かれはぞくとおなじようじゅつをつかってみせようというのだ。)

いう筈はない。しかも、彼は賊と同じ妖術を使って見せようというのだ。

(まったくいりぐちのない、こんくりーとのかべを、つきぬけてみようというのだ。)

全く入口のない、コンクリートの壁を、つき抜けて見ようというのだ。

など

(みたにはあっけにとられて、しかしひじょうにこうきしんにそそられたようすで、)

三谷はあっけにとられて、しかし非常に好奇心にそそられた様子で、

(ともかくめいたんていのことばにおうじてみることにした。みたにはかんせんどうろのじゅっけんほどむこうに、)

兎も角名探偵の言葉に応じて見ることにした。三谷は幹線道路の十間程向うに、

(あけちはかんせんどうろからもんだいのばしょへのまがりかどにたった。あけちのあいずで、ふたりは)

明智は幹線道路から問題の場所への曲り角に立った。明智の合図で、二人は

(どうじにはしりだした。あけちはまがりかどからすがたをけした。みたにはいきせききって、)

同時に走り出した。明智は曲り角から姿を消した。三谷は息せき切って、

(あけちのたっていたかしょへはしりついた。そして、ひょいと、へいのほうをみると、)

明智の立っていた個所へ走りついた。そして、ヒョイと、塀の方を見ると、

(かれは あっ とさけんで、たちすくんでしまった。いっちょうほどもつづいた、みとおしの)

彼は「アッ」と叫んで、立ちすくんでしまった。一丁程も続いた、見通しの

(つうろに、ひとのかげもないのだ。せんやとまったくおなじことがおこった。あけちこごろうは、)

通路に、人の影もないのだ。先夜と全く同じことが起った。明智小五郎は、

(かんぜんにきえうせてしまったのだ。みたにさん、みたにさん どこかで、)

完全に消え失せてしまったのだ。「三谷さん、三谷さん」どこかで、

(よぶこえがした。きょろきょろみまわしていると、ぽんぽんとはくしゅのあいず、)

呼ぶ声がした。キョロキョロ見廻していると、ポンポンと拍手の合図、

(それがたしかに、たかいこんくりーとべいのむこうがわからひびいてくる。みたにはこえのするかしょに)

それが確に、高いコンクリート塀の向側から響いて来る。三谷は声のする個所に

(ちかづき、へいごしにのびるようにして、みみをすましていると、しばらくはなにも)

近づき、塀越しに伸びる様にして、耳をすましていると、暫くは何も

(きこえなかったが、やがて、うしろのほうで、かたんとみょうなものおとがした。)

聞えなかったが、やがて、うしろの方で、カタンと妙な物音がした。

(へいのむこうがわへちゅういをあつめていたのに、はんたいに、うしろのどうろにおとがしたので、)

塀の向側へ注意を集めていたのに、反対に、うしろの道路に音がしたので、

(おやっとおもって、ふりかえると、これはどうだ。そこにひょっこりあけちが)

オヤッと思って、振返ると、これはどうだ。そこにヒョッコリ明智が

(たっているではないか。みたにはきつねにつままれたようなかおをした。うらうらと)

立っているではないか。三谷は狐につままれた様な顔をした。ウラウラと

(はれわたった。ひるにっちゅう、なんともかいしゃくのできない、きせきがおこなわれたのだ。)

晴渡った。昼日中、何とも解釈の出来ない、奇蹟が行われたのだ。

(ひがてっている。あけちのかげが、くろぐろとじめんにさしている。ゆめでもまぼろしでも)

日が照っている。明智の影が、黒々と地面に射している。夢でも幻でも

(ないのだ。ははははははは あけちはわらいだした。まだわかりませんか。)

ないのだ。「ハハハハハハハ」明智は笑い出した。「まだ分りませんか。

(なあに、ばかばかしいようなとりっくなんです。てじながすばらしければ、)

ナアニ、馬鹿馬鹿しい様なトリックなんです。手品がすばらしければ、

(すばらしいほど、そのたねはいっこうあっけないものですよ。あなたはさっかくにかかって)

すばらしい程、その種は一向あっけないものですよ。あなたは錯覚にかかって

(いるのです。げんにみていながら、きづかないのです みたにはめをおとして、)

いるのです。現に見ていながら、気づかないのです」三谷は眼を落して、

(なにげなくあけちのあしもとをみた。そこのじめんにちょっけいにしゃくほどのまるいてつのふたがある。)

何気なく明智の足元を見た。そこの地面に直径二尺程の丸い鉄の蓋がある。

(ちかごろ、とうきょうしちゅうにめだってふえた、げすいどうのまんほーるだ。ああ、)

近頃、東京市中に目立ってふえた、下水道のマンホールだ。「アア、

(それですか まんほーるとはかんがえたものですね。われわれはこのてつのふたのうえを)

それですか」「マンホールとは考えたものですね。我々はこの鉄の蓋の上を

(ふんであるきながら、いっこういしきしないのです。ふっこうどうろには、いたるところにこれが)

踏んで歩きながら、一向意識しないのです。復興道路には、到る所にこれが

(あります。いなかからでてきたばかりのひとは、ぞんがいこれがめにつくそうです。)

あります。田舎から出て来たばかりの人は、存外これが目につく相です。

(しかしとうきょうじんのわれわれは、なれてしまって、みちにおちているいしころほどにも)

併し東京人の我々は、慣れてしまって、道に落ちている石塊程にも

(ちゅういしません。いわばもうてんにはいってしまっているのです あけちのせつめいを)

注意しません。いわば盲点に入ってしまっているのです」明智の説明を

(きいているうちに、みたにはやっとそこへきがついたように、くちをはさんだ。)

聞いている内に、三谷はやっとそこへ気がついた様に、口をはさんだ。

(それにしても、こんなせまいよこちょうに、まんほーるがあるのは、へんですね)

「それにしても、こんな狭い横丁に、マンホールがあるのは、変ですね」

(そこですよ あけちはひきとって、ぼくもさいぜん、それをへんにおもって、よくみると)

「そこですよ」明智は引取って、「僕もさい前、それを変に思って、よく見ると

(このてつのふたは、むこうのおおどおりのやつとは、どこかちがったところがあります。)

この鉄の蓋は、向うの大通りの奴とは、どこか違った所があります。

(ごらんなさい。まんなかにしんぼうがあって、ちょっとここのとめがねをはずすと、)

ごらんなさい。真中に心棒があって、一寸ここの留金をはずすと、

(がんどうがえしに、ぐるっとかいてんするしかけになっている あけちはいいながら、)

がんどう返しに、グルッと廻転する仕掛けになっている」明智はいいながら、

(てつぶたをおして、はんかいてんさせた。ちょうどひとりとおれるほどのあなである。つまり、これは)

鉄蓋を押して、半廻転させた。丁度一人通れる程の穴である。「つまり、これは

(しせつのまんほーるなんです。したにげすいどうがあるわけではなく、せまいあながこのへいの)

私設のマンホールなんです。下に下水道がある訳ではなく、狭い穴がこの塀の

(うちがわへつうじている。かんたんなぬけあなのいりぐちのかむふらーじゅです しせつのあかい)

内側へ通じている。簡単な抜け穴の入口のカムフラージュです」私設の赤い

(ぽすとを、まちかどにたてておいて、じゅうようしょるいをぬすんだどろぼうのはなしさえある。われわれは、)

ポストを、町角に立てておいて、重要書類を盗んだ泥棒の話さえある。我々は、

(ぽすとがどこにたっているかを、つねにせいかくにきおくしているものではないからだ。)

ポストがどこに立っているかを、常に正確に記憶しているものではないからだ。

(まんほーるとてもどうようである。まったくふようのまんほーるが、ひとつくらいよけいに)

マンホールとても同様である。全く不用のマンホールが、一つ位余計に

(あったところで、とうのこうじをしたにんぷでさえ、きがつかぬかもしれないのだ。)

あったところで、当の工事をした人夫でさえ、気がつかぬかも知れないのだ。

(ふたりはそこのせまいあなをとおって、へいのうちがわへぬけだした。あなはていないのちいさな)

二人はそこの狭い穴を通って、塀の内側へ抜け出した。穴は庭内の小さな

(ものおきごやのゆかしたへつうじている。ゆかいたのいちぶぶんがあげいたになっている。いりぐちのてつの)

物置小屋の床下へ通じている。床板の一部分が上げ板になっている。入口の鉄の

(ふたをもとどおりにして、とめがねをかけ、このあげいたをはめておけば、だれだってこれが)

蓋を元通りにして、留金をかけ、この上げ板をはめて置けば、誰だってこれが

(ぬけみちとはきがつかぬ。こんなぬけあなをこしらえたところをみると、ぞくはひじょうに)

抜け道とは気がつかぬ。「こんな抜け穴を拵えた所を見ると、賊は非常に

(おおきなわるだくみをしていたかもしれませんね。せっかくのかくれががばれてしまって、)

大きな悪企みをしていたかも知れませんね。折角の隠れ家がバレてしまって、

(あいつさぞかしくやしがっていることでしょう あけちはれいのびしょうをうかべていった。)

彼奴さぞかしくやしがっている事でしょう」明智は例の微笑を浮かべていった。

(まさかていないにぞくがかくれているとはおもわぬけれど、なんとなくうすきみわるく)

まさか邸内に賊が隠れているとは思わぬけれど、何となく薄気味悪く

(かんじないではいられなかった。やがてふたりは、だいどころのひきどをあけて、うすぐらい)

感じないではいられなかった。やがて二人は、台所の引戸を開けて、薄暗い

(どまにふみこんだ。そこのいたのまのしたに、しずこがとじこめられていた、)

土間に踏み込んだ。そこの板の間の下に、倭文子がとじこめられていた、

(れいのあなぐらがあるのだ。)

例の穴蔵があるのだ。

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