吸血鬼20
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | kuma | 5124 | B+ | 5.5 | 92.6% | 911.9 | 5076 | 403 | 71 | 2024/10/27 |
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問題文
(らじょぐんぞう)
裸女群像
(みたには、どまにたって、しばらくみみをすましていたが、なんのけはいもせぬので、)
三谷は、土間に立って、暫く耳をすましていたが、何の気配もせぬので、
(やっとあんしんしたていで、ひろいだいどころのいたのまにあがり、そこのあげいたをとりのけた。)
やっと安心した体で、広い台所の板の間に上り、そこの上げ板をとりのけた。
(このしたにれいのあなぐらがあるのです。しかし、なにかあかりがないと・・・・・・)
「この下に例の穴蔵があるのです。併し、何か明りがないと・・・・・・」
(ぼくがらいたーをもっています。とにかくおりてみましょう あけちはぱちんと)
「僕がライターを持っています。兎に角降りて見ましょう」明智はパチンと
(らいたーをてんかし、ちかしつへのかいだんをおりていった。せまいかいだんをおりきると、)
ライターを点火し、地下室への階段を降りて行った。狭い階段を降り切ると、
(がんじょうなとびらがあけっぱなしになっている。そのおくがこんくりーとのはこのような、)
頑丈な扉が開けっぱなしになっている。その奥がコンクリートの箱の様な、
(まっくらなあなぐらだ。らいたーをかべにちかづけて、ぐるっとひとまわりすると、れいの)
真暗な穴蔵だ。ライターを壁に近づけて、グルッと一廻りすると、例の
(かんてらがみつかったので、あけちはそれにひをつけた。あなぐらがぼんやりと)
カンテラが見つかったので、明智はそれに火をつけた。穴蔵がボンヤリと
(あかるくなる。そうしておいて、かれはもういちどかいだんにひきかえし、そのへんをねんいりに)
明るくなる。そうして置いて、彼はもう一度階段に引返し、その辺を念入りに
(ながめまわしていたが、やがてらいたーをけして、まだあなのうえにちゅうちょしているみたにに)
眺め廻していたが、やがてライターを消して、まだ穴の上に躊躇している三谷に
(こえをかけた。あなたもおりてきてごらんなさい。ごいっしょに、もういちどよく)
声をかけた。「あなたも降りて来てごらんなさい。御一緒に、もう一度よく
(しらべてみましょう みたには、そのこえにはげまされて、こわごわかいだんをおりはじめた。)
調べて見ましょう」三谷は、その声に励まされて、怖々階段を降り始めた。
(はんぶんほどくだると、うすぐらいこうせんながら、あなぐらのなかがひとめにみえる。あけちさん、)
半分程くだると、薄暗い光線ながら、穴蔵の中が一目に見える。「明智さん、
(どこにいらっしゃるのですか。あけちさん みたにはぞっとして、おもわずおおきなこえを)
どこにいらっしゃるのですか。明智さん」三谷はゾッとして、思わず大きな声を
(たてた。みわたしたところ、あけちのすがたがかきけすように、なくなっていたからだ。)
立てた。見渡した所、明智の姿がかき消す様に、なくなっていたからだ。
(かれはそとへはしりでたいのを、やっとがまんして、かいだんをかけのぼり、とびらのなかをさがし、)
彼は外へ走り出たいのを、やっと我慢して、階段を駈登り、扉の中を探し、
(せまいあなぐらのなかをきょろきょろとあるきまわった。どこにもひとのけはいさえせぬ。)
狭い穴蔵の中をキョロキョロと歩き廻った。どこにも人の気配さえせぬ。
(はかばのようなしずけさ。ようきなかんてらのあかちゃけたひかり。めにうかぶは、いつかのばんの)
墓場の様な静けさ。陽気なカンテラの赤茶けた光り。目に浮ぶは、いつかの晩の
(あのおそろしいかいぶつのすがただ。くちびるのないはばかりのわらいがおだ。みたにはせすじにみずを)
あの恐ろしい怪物の姿だ。唇のない歯ばかりの笑い顔だ。三谷は背筋に水を
(あびたようなかんじで、いそいであなぐらをとびだし、かいだんをのぼりはじめた。すると、)
あびた様な感じで、急いで穴蔵を飛出し、階段を昇り始めた。すると、
(どこからか、すがたはなくて、こえばかりが、みたにさん・・・・・・と)
どこからか、姿はなくて、声ばかりが、「三谷さん・・・・・・」と
(きこえてくる。ぎょっとして、たちあがり、どこです。どこに)
聞こえて来る。ギョッとして、立上り、「どこです。どこに
(いらっしゃるのです さけぶようにききかえす。ははははははは、ここですよ)
いらっしゃるのです」叫ぶ様に聞き返す。「ハハハハハハハ、ここですよ」
(ぱちんとおとがして、みたにのあたまのうえでらいたーがてんぜられた。みると、かいだんの)
パチンと音がして、三谷の頭の上でライターが点ぜられた。見ると、階段の
(てんじょうに、ひらくものようにへばりついたあけちのすがた。これがぞくのようじゅつですよ。)
天井に、平蜘蛛の様にへばりついた明智の姿。「これが賊の妖術ですよ。
(ごらんなさい。このりょうがわに、てんじょうをささえているふといよこぎがあります。これに)
ごらんなさい。この両側に、天井を支えている太い横木があります。これに
(りょうてりょうあしをつっぱっていれば、したをとおるひとはすこしもきがつきません あけちは)
両手両足を突っ張っていれば、下を通る人は少しも気がつきません」明智は
(てんじょうからとびおりて、てをはたきながら、つまり、ぞくは、あなたがたがおくの)
天井から飛び降りて、手をはたきながら、「つまり、賊は、あなた方が奥の
(あなぐらへはいったのと、ひきちがいに、このかくればしょをおりて、そとへにげだして)
穴蔵へ這入ったのと、引違いに、この隠れ場所を降りて、外へ逃げ出して
(しまったのです。それからしばらくたって、このへんをいくらさがしてみたところで、だれも)
しまったのです。それから暫くたって、この辺をいくら探して見た所で、誰も
(いなかったのは、あたりまえなのです。ははははははは、なんとあっけない、てじなの)
いなかったのは、当り前なのです。ハハハハハハハ、何とあっけない、手品の
(たねではありませんか いわれてみると、なるほどそれにそういない。あのときは、)
種ではありませんか」いわれて見ると、成程それに相違ない。あの時は、
(あわててもいたし、よるのことで、いまよりもいっそうくらかったのだ、ぞくのちょっとした)
慌ててもいたし、夜のことで、今よりも一層暗かったのだ、賊のちょっとした
(きてんにきづかなかったのは、ぜひもない。ここをとびだしたぞくはどこへ)
気転に気づかなかったのは、是非もない。「ここを飛び出した賊はどこへ
(いったか。いうまでもなく、うらのへいぎわのものおきごや、そこからちかをとおって、)
行ったか。いうまでもなく、裏の塀際の物置小屋、そこから地下を通って、
(れいのまんほーるです。みはりのじゅんさはいたけれど、あなたとおなじように、)
例のマンホールです。見張りの巡査はいたけれど、あなたと同じ様に、
(へいばかりみつめていたことでしょうから、すきをみて、あなからにげだすのは)
塀ばかり見つめていたことでしょうから、隙を見て、穴から逃げ出すのは
(わけない、・・・・・・これが、あなたのいわゆるようじゅつのたねあかしですよ)
訳ない、・・・・・・これが、あなたのいわゆる妖術の種明しですよ」
(ふたりはさらに、かいぞくがきえうせたという、ていないのろうかをけんぶんしたが、そこにも、)
二人は更に、怪賊が消えうせたという、邸内の廊下を検分したが、そこにも、
(ともしびのかげをりようして、みをかわすよちがないではなかった。だいいちにはたやなぎけの)
燈火の蔭を利用して、身をかわす余地がないではなかった。第一に畑柳家の
(しょさいでの、きかいなさつじん、つづいてしたいのふんしつ、かいぶつをはっけんして、おいかけてみると、)
書斎での、奇怪な殺人、続いて死体の紛失、怪物を発見して、追駆けて見ると、
(れいのまんほーるりようのしょうしつと、ふしぎがつぎつぎとかさなったために、なんでもないことが)
例のマンホール利用の消失と、不思議が次々と重なった為に、何でもないことが
(ようじゅつめいてみえたのであろう。それが、まんほーる、あなぐらのてんじょうのかくればしょと、)
妖術めいて見えたのであろう。それが、マンホール、穴蔵の天井の隠れ場所と、
(ぞくのとりっくがあっけなくばくろされてしまうと、こんどははんたいに、ろうかでの)
賊のトリックがあっけなく暴露されてしまうと、今度は反対に、廊下での
(しょうしつなど、もはやしらべてみるまでもないようにおもわれてくる。みたにはあけちのせつめいを、)
消失など、最早調べて見るまでもない様に思われて来る。三谷は明智の説明を、
(ほとんどうわのそらできいていた。さて、ていないのけんぶんをおわって、そとにでたときには、)
ほとんど上の空で聞いていた。さて、邸内の検分を終って、外に出た時には、
(みたにはすらすらとけたなぞに、さもまんぞくそうなかおをしていたにひきかえ、)
三谷はすらすら解けた謎に、さも満足そうな顔をしていたに引かえ、
(ふしぎなことに、なぞをといたあけちのほうが、なんともいえぬ、こんわくのいろをうかべて)
不思議なことに、謎を解いた明智の方が、何ともいえぬ、困惑の色を浮かべて
(いるのだ。どうかなすったのですか みたにがしんぱいしてたずねたほどである。)
いるのだ。「どうかなすったのですか」三谷が心配して尋ねた程である。
(いや、なんでもないのです あけちは、きをとりなおして、れいのにこにこがおを)
「イヤ、何でもないのです」明智は、気をとり直して、例のニコニコ顔を
(つくりながらこたえた。だが、しょうじきにいいますとね、ぼくはなんだか、えたいのしれぬ)
作りながら答えた。「だが、正直にいいますとね、僕は何だか、えたいの知れぬ
(ものにぶつかったようなきがしているのです。おそろしいのです。ぞくのこうみょうな)
ものにぶつかった様な気がしているのです。恐ろしいのです。賊の巧妙な
(とりっくではありません。そのとりっくを、こんなにやすやすとときえた)
トリックではありません。そのトリックを、こんなに易々と解き得た
(ことがです かれはじっとみたにのかおをみた。どうしてですか。おっしゃるいみが)
ことがです」彼はじっと三谷の顔を見た。「どうしてですか。おっしゃる意味が
(よくわかりませんが みたにもあいてのめをぎょうししながらいった。ふたりはうららかな)
よく分りませんが」三谷も相手の目を凝視しながらいった。二人はうららかな
(あきのひをあびて、なぜかしばらくおたがいのかおをながめあっていた。なんとなくいような)
秋の日をあびて、なぜかしばらくお互の顔を眺め合っていた。何となく異様な
(こうけいであった。いや、きにかけることではありません。いつかくわしく)
光景であった。「イヤ、気にかけることではありません。いつか詳しく
(おはなしするきかいもあるでしょう。それよりも、ぼくたちはこれから、おかだのもとの)
お話しする機会もあるでしょう。それよりも、僕達はこれから、岡田の元の
(じゅうしょをたずねてみようではありませんか あけちがきをかえて、なにげなくいった。)
住所を訪ねて見ようではありませんか」明智が気を変えて、何気なくいった。
(だが、このわけのわからぬかいわにはひじょうにじゅうだいないみがふくまれていたのだ。そのとき)
だが、この訳の分らぬ会話には非常に重大な意味が含まれていたのだ。その時
(あけちがしめしたこんわくのひょうじょうは、かれがけっしてなみなみのたんていではないことをしょうするに)
明智が示した困惑の表情は、彼が決して並々の探偵ではないことを証するに
(たるものであった。どくしゃはこのささいなできごとをあとあとまできおくにとどめておいて)
足るものであった。読者はこの些細な出来事を後々まで記憶にとどめて置いて
(いただきたい。それはともかく、みたにのめいしいれに、さいわいおかだのめいしがはいっていたので)
頂きたい。それは兎も角、三谷の名刺入れに、幸い岡田の名刺が入っていたので
(それによって、かれのもとのじゅうしょをほうもんすることになった。たくしーがとまったのは)
それによって、彼の元の住所を訪問することになった。タクシーが止まったのは
(よよぎれんぺいじょうのにしの、まだむさしののおもかげをのこした、さびしいこうがいであった。さがすのに)
代々木練兵場の西の、まだ武蔵野の俤を残した、淋しい郊外であった。探すのに
(しょうしょうほねがおれたけれど、けっきょくおかだがすんでいたあとりえをみつけることが)
少々骨が折れたけれど、結局岡田が住んでいたアトリエを見つけることが
(できた。ざっそうのぼうぼうとおいしげったなかに、きみょうなとんがりやねの、あおぺんきの)
出来た。雑草の蓬々と生い繁った中に、奇妙なとんがり屋根の、青ペンキの
(ようかんがたっていた。じゅんぜんたるあとりえとしてけんちくしたものだ。はいろうとしたが)
洋館が建っていた。純然たるアトリエとして建築したものだ。這入ろうとしたが
(とびらもまどもげんじゅうにしまりがしてある。まだあきやのままなのであろう。はんじょうほどへだたった、)
扉も窓も厳重に締がしてある。まだ空家のままなのであろう。半町程隔たった、
(やっぱりのなかのいっけんやが、このあとりえのやぬしときいて、ふたりはそこをたずねた。)
やっぱり野中の一軒家が、このアトリエの家主と聞いて、二人はそこを訪ねた。