吸血鬼28
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問題文
(それはさておき、いま、ふみよとれいのかいじんぶつとは、りょうがわにまんかいのさくらのやまをしつらえた)
それはさておき、今、文代と例の怪人物とは、両側に満開の桜の山をしつらえた
(よしつねせんぼんざくらのいきにんぎょうのばめんをとおりすぎていた。いきにんぎょうというやつは、なんだか)
義経千本桜の生人形の場面を通り過ていた。「生人形という奴は、何だか
(ほんとうにいきているようで、うすきみのわるいものですね おとこはますくのしたから、のんきに)
本当に生きている様で、薄気味の悪いものですね」男はマスクの下から、呑気に
(はなしかける。あのあけちさんは、いったいどこにいらっしゃるのでしょうか)
話しかける。「アノ明智さんは、一体どこにいらっしゃるのでしょうか」
(ふみよはうすうすあけちがいるなんて、うそっぱちだとかんづいていたけれど、)
文代は薄々明智がいるなんて、嘘っ八だと感づいていたけれど、
(さもきがかりらしく、たずねてみる。もうじきですよ。もうじきですよ おとこはそう)
さも気掛りらしく、尋ねて見る。「もうじきですよ。もうじきですよ」男はそう
(こたえながらも、なぜかそわそわしはじめた。そして、しきりとこーとのみぎの)
答えながらも、なぜかソワソワし始めた。そして、しきりと外套の右の
(ぽけっとをきにしているようすだ。ともすれば、ふみよにきづかれぬように、そこへ)
ポケットを気にしている様子だ。ともすれば、文代に気づかれぬ様に、そこへ
(てをやって、なにかなかにあるものをたしかめてみる。ふみよは、みぬふりをして、)
手をやって、何か中にあるものを確めて見る。文代は、見ぬふりをして、
(ちゃんとみていた。もしやこのおとこ、ぴすとるをもっているのではあるまいか。)
ちゃんと見ていた。若しやこの男、ピストルを持っているのではあるまいか。
(じんこうばくふにみずをあげるためのもーたーぽんぷが、やかましくとどろきわたっているなかで、)
人工瀑布に水を上げる為のモーターポンプが、やかましく轟き渡っている中で、
(ぴすとるをうったとて、だれもきづきはしないだろうとおもうと、さすがにうすきみわるく)
ピストルを打ったとて、誰も気づきはしないだろうと思うと、流石に薄気味悪く
(なってきた。ほう、これはすごい おとこがおどろきのこえをあげたので、ふとみあげると)
なって来た。「ホウ、これは凄い」男が驚きの声を上げたので、ふと見上げると
(おいしげったぞうかのさくらのえだごしに、きくにんぎょうのきつねただのぶのあおじろいかおがすぐあたまのうえに)
生茂った造花の桜の枝越しに、菊人形の狐忠信の青白い顔がすぐ頭の上に
(ただよっていた。まあこわい ふみよはじっさいいじょうにこわがってみせて、ますくのおとこに)
漂っていた。「マア怖い」文代は実際以上に怖がって見せて、マスクの男に
(よろけかかった。こわがることはありません。にんぎょうですよ。にんぎょうですよ)
よろけかかった。「怖がることはありません。人形ですよ。人形ですよ」
(おとこはふみよのせなかにてをまわし、かのじょをだきしめるようにした。もういいんです。)
男は文代の背中に手を廻し、彼女を抱きしめる様にした。「もういいんです。
(でも、ほんとうにぞっとしましたわ ふみよはおとこからはなれて、こーとのぽけっとにいれた)
でも、本当にゾッとしましたわ」文代は男から離れて、外套のポケットに入れた
(ひだりてのさきに、ちゅういをしゅうちゅうした。かのじょはとっさのあいだに、おとこがぽけっとにしのばせていた)
左手の先に、注意を集中した。彼女は咄嗟の間に、男がポケットに忍ばせていた
(ものを、ぬきとったのだ。てざわりで、ぴすとるでないことがわかった。きんぞくせいの、)
ものを、抜取ったのだ。手触りで、ピストルでないことが分った。金属性の、
(しがれっとけーすをすこしおおきくしたようないれものだ。あいてにさとられぬよう、)
シガレット・ケースを少し大きくした様な容れものだ。相手に悟られぬ様、
(こーとのぽけっとのなかで、そのけーすをひらき、ゆびさきでさぐってみると、みずにひたした)
外套のポケットの中で、そのケースを開き、指先で探って見ると、水にひたした
(がーぜじょうのものに、ひやりとさわった。そのゆびさきを、ぽけっとからだして、)
ガーゼ状のものに、ヒヤリと触った。その指先を、ポケットから出して、
(なにげなくかおのまえにもってくる。いっしゅいようのふかいなにおい・・・・・・たしかにますいやくだ。)
何気なく顔の前に持って来る。一種異様の不快な匂い……確に麻酔薬だ。
(ぴすとるよりも、ずっとおそろしいぶきだ。くせものは、うつくしいふみよさんを、ひとおもいに)
ピストルよりも、ずっと恐ろしい武器だ。曲者は、美しい文代さんを、一思いに
(ころすのではなくて、ますいやくでいしきをうばっておいてどうかするつもりにちがいない。)
殺すのではなくて、麻酔薬で意識を奪って置いてどうかする積りに違いない。
(このおとこをけいかんにひきわたすのはわけはない。だが、それでは、あいてのしんいがわからぬ。)
この男を警官に引渡すのは訳はない。だが、それでは、相手の真意が分らぬ。
(ますいやくをもっていたからといって、かならずきがいをくわえるときまったものではない、)
麻酔薬を持っていたからといって、必ず危害を加えると極ったものではない、
(どうしてやろうかしら?なにをかんがえていらっしゃるのです おとこはふしんらしく、)
どうしてやろうかしら?「何を考えていらっしゃるのです」男は不審らしく、
(ふみよのかおをのぞきこんだ。いいえ、なんでもないのです。あの、わたし)
文代の顔を覗き込んだ。「イイエ、何でもないのです。アノ、わたし
(ちょっと・・・・・・ふみよのしせんをたどると、つうろからすこしひきこんだところに、けしょうしつの)
ちょっと……」文代の視線をたどると、通路から少し引込んだ所に、化粧室の
(どあがみえた。ああそうですか。どうぞ あの、すみませんけれど、これ)
ドアが見えた。「アアそうですか。どうぞ」「アノ、すみませんけれど、これ
(もっててくださいませんでしょうか ふみよはけがわでかさばったこーとをぬいで、)
持ってて下さいませんでしょうか」文代は毛皮でかさばった外套を脱いで、
(おとこにわたした。ますいやくのけーすは、とっくに、こーとのぽけっとから、)
男に渡した。麻酔薬のケースは、とっくに、外套のポケットから、
(はんどばっぐへとうつしかえてある。おとこはりょうてをさしだして、たいせつそうにこーとを)
ハンドバッグへと移し換てある。男は両手を差出して、大切そうに外套を
(うけとった。ひごろのふみよさんににあわしからぬ、ぶしつけなやりかたである。が、)
受取った。日頃の文代さんに似合わしからぬ、不躾なやり方である。が、
(そのじつは、こうして、おとこのてをふさいでおいて、かのじょがけしょうしつにはいっているあいだ、)
その実は、こうして、男の手をふさいでおいて、彼女が化粧室に入っている間、
(れいのけーすがふんしつしたことをきづかせまいさくりゃくであった。だいいちけしょうしつへ)
例のケースが紛失したことを気付かせまい策略であった。第一化粧室へ
(はいるというのも、かのじょにそのひつようがあったわけではない。ただ、おとこのめのとどかぬ)
入るというのも、彼女にその必要があった訳ではない。ただ、男の目の届かぬ
(ばしょで、けーすのなかみをすりかえるためだ。かのじょは、けしょうしつにかくれると、てばやく、)
場所で、ケースの中味をすり変える為だ。彼女は、化粧室に隠れると、手早く、
(ますいやくのしみこんだがーぜのかたまりをすてて、そのかわりにはんかちをひきさいて)
麻酔薬のしみこんだガーゼのかたまりを捨てて、その代りにハンカチを引裂いて
(てあらいばのみずにぬらし、けーすのなかへおしこんで、なにくわぬかおをして、おとこのそばへ)
手洗場の水にぬらし、ケースの中へ押し込んで、何食わぬ顔をして、男の側へ
(かえってきた。どうも、すみません かのじょは、ちょっとはじらってみせて、おとこから)
帰って来た。「どうも、済みません」彼女は、ちょっと恥らって見せて、男から
(こーとをうけとったが、そのひょうしに、れいのけーすを、あいてのこーとのぽけっとへ、)
外套を受取ったが、その拍子に、例のケースを、相手の外套のポケットへ、
(そっとすべりこませたのは、いうまでもない。またかたをならべてすこしあるくと、つうろの)
ソット辷りこませたのは、いうまでもない。また肩を並べて少し歩くと、通路の
(かべに ひじょうぐち とはりがみのしてあるかしょへきた。こちらです。このなかに)
壁に「非常口」と貼紙のしてある箇所へ来た。「こちらです。この中に
(あけちさんがまっているのです そういって、おとこが、かべとおなじもようの、)
明智さんが待っているのです」そういって、男が、壁と同じ模様の、
(かくしどみたいな、ちいさなとびらをおすと、むろんかぎなんかかけてないので、なんなく)
隠し戸みたいな、小さな扉を押すと、無論鍵なんかかけてないので、なんなく
(ひらいた。とびらのむこうには、うすぐらい、しばいのならくのようなかんじのながいろうかがみえる。)
開いた。扉の向うには、薄暗い、芝居の奈落の様な感じの長い廊下が見える。
(そのろうかに、またちいさなとびらがあって、そこをくぐると、ろくじょうじきほどの、さっぷうけいな)
その廊下に、また小さな扉があって、そこをくぐると、六畳敷程の、殺風景な
(こべやだ。いっぽうのかべに、おびただしいすいっちがれつをしなし、たばになったでんせんが、)
小部屋だ。一方の壁に、夥しいスイッチが列を為なし、束になった電線が、
(うねうねはいまわっているようすで、それが、このたてものぜんたいのでんとうをてんめつする、)
ウネウネ這い廻っている様子で、それが、この建物全体の電燈を点滅する、
(はいでんしつであることがわかった。はいでんしつといっても、かいかんとどうじに、ぜんぶのでんとうを)
配電室であることが分った。配電室といっても、開館と同時に、全部の電燈を
(てんじ、へいかんのとき、そのだいぶぶんをけせばよいのだから、でんきかかりは、ここにつめきって)
点じ、閉館の時、その大部分を消せばよいのだから、電気係は、ここに詰切って
(いるわけではないのだ。ますくのおとこは、ふみよがへやにはいるのをまって、ぴしゃり)
いる訳ではないのだ。マスクの男は、文代が部屋に入るのを待って、ピシャリ
(とびらをしめ、どうしててにいれたのか、ぽけっとからかぎをだして、じょうをおろして)
扉を閉め、どうして手に入れたのか、ポケットから鍵を出して、錠をおろして
(しまった。あら、なにをなさいますの?ここにはあけちさんなんて、いないじゃ)
しまった。「アラ、何をなさいますの? ここには明智さんなんて、いないじゃ
(ありませんか ふみよはひじょうにおどろいたていで、おとこのかおをみつめた。)
ありませんか」文代は非常に驚いた体で、男の顔を見つめた。
(ふふふふふふ、あけちさんですって?あなた、ほんとうにあのひとが、ここにいると)
「フフフフフフ、明智さんですって?あなた、本当にあの人が、ここにいると
(おもったのですか おとこはうすきみわるくわらいながら、おちつきはらって、そこに)
思ったのですか」男は薄気味悪く笑いながら、落ちつき払って、そこに
(ころがっていたなにかのあきばこにこしをおろした。では、どうしてこんな・・・・・・)
転がっていた何かの空箱に腰をおろした。「では、どうしてこんな……」
(ふみよは、はいでんせんのまえにたったまま、きょうふにたえぬもののごとく、こえをふるわせて)
文代は、配電線の前に立ったまま、恐怖に耐えぬものの如く、声を震わせて
(たずねた。おまえさんと、さしむかいで、はなしがしてみたかったのさ。ここはね、おれの)
尋ねた。「お前さんと、さし向いで、話がして見たかったのさ。ここはね、俺の
(かくれがなんだ。だれもじゃまをするものはありやしない。でんきかかりのやつは、ちゃんと)
隠れがなんだ。誰も邪魔をするものはありやしない。電気係の奴は、ちゃんと
(ばいしゅうしてあるから、たとえここへやってきても、おまえさんのみかたはしやしない。)
買収してあるから、仮令ここへやって来ても、お前さんの味方はしやしない。
(・・・・・・ふふふふふふふ、さすがのおんなたんていさんも、おどろいたようだね、なんてうまい)
……フフフフフフフ、流石の女探偵さんも、驚いた様だね、なんてうまい
(かくれがだろう。いざというときにや、すいっちをきって、じょうないをまっくらにして)
隠れがだろう。いざという時にや、スイッチを切って、場内を真ッ暗にして
(しまえば、つかまりっこはないのだからね おとこはねこがねずみをたのしむように、)
しまえば、つかまりっこはないのだからね」男は猫が鼠を楽しむ様に、
(じろじろとうつくしいえものをながめながら、したなめずりをしていった。すると。)
ジロジロと美しい獲物を眺めながら、舌なめずりをしていった。「すると。
(あなたは、もしや・・・・・・ふふふふふふふ、きがついたようだね、だが、もう)
あなたは、若しや……」「フフフフフフフ、気がついた様だね、だが、もう
(ておくれだよ。・・・・・・いかにもごすいさつのとおり、おれはおまえさんたちがさがしている)
手おくれだよ。……如何にも御推察の通り、俺はお前さん達が探している
(おとこなんだ。おまえさんのだんなのあけちこごろうというおせっかいものが、ちまなこになって)
男なんだ。お前さんの旦那の明智小五郎というおせっかいものが、血眼になって
(さがしまわっているおとこなんだ では、ひるま、どあのしたから、あのおそろしいてがみを)
探し廻っている男なんだ」「では、昼間、ドアの下から、あの恐ろしい手紙を
(いれていったのは・・・・・・おれだよ。・・・・・・いま、あのてがみにかいておいたやくそくを、)
入れて行ったのは……」「俺だよ。……今、あの手紙に書いて置いた約束を、
(はたしているのさ。おれはやくそくはかならずまもるおとこだからね で、どうしようと)
果しているのさ。俺は約束は必ず守る男だからね」「で、どうしようと
(いうのです ふみよはきっとなって、おとこをにらみつけた。さあ、どうしようかな)
いうのです」文代はきっとなって、男を睨みつけた。「サア、どうしようかな」
(おとこはさもさもたのしそうに、おれはあけちのやつをこらしてやればいいのだ。おまえさんを)
男はさもさも楽し相に、「俺は明智の奴をこらしてやればいいのだ。お前さんを
(ひとじちにとって、あいつをくるしめてやればいいのだ。しかしね、そのおまえさんの)
人質にとって、あいつを苦しめてやればいいのだ。併しね、そのお前さんの
(うつくしいかおやからだをみていると、またべつののぞみがわきあがってくるのだよ ふみよは、)
美しい顔や身体を見ていると、また別の望みが湧き上って来るのだよ」文代は、
(ぎょっとしたように、みをかたくして、はいでんばんによりかかったまま、だまっていた。)
ギョッとした様に、身をかたくして、配電盤によりかかったまま、黙っていた。