吸血鬼29

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プレイ回数1425難易度(5.0) 4985打 長文 長文モード可
明智小五郎シリーズ
江戸川乱歩の作品です。句読点以外の記号は省いています。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 zero 6250 S 6.5 95.3% 759.5 4989 242 71 2024/03/31

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問題文

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(おとこはくろいめがねごしに、かのじょのよくにあったようふくすがたを、なめるようにみあげ)

男は黒い眼鏡越しに、彼女のよく似合った洋服姿を、嘗める様に見上げ

(みおろしながら、これもものをいわなかった。ながいあいだ、いきづまるにらみあいがつづいた。)

見下しながら、これも物をいわなかった。長い間、息づまる睨み合いが続いた。

(ほほほほほほほ とつぜん、ふみよはきでもちがったように、わらいだしたので、こんどは、)

「ホホホホホホホ」突然、文代は気でも違った様に、笑い出したので、今度は、

(おとこのほうはぎょっとしてあいてのかおをみつめた。ふみよは、ほんとうにきちがいになって)

男の方はギョッとして相手の顔を見つめた。文代は、本当に気違いになって

(しまったのか、そんなさいにもかかわらず、のんきないたずらをはじめたのだ。)

しまったのか、そんな際にも拘らず、呑気ないたずらを始めたのだ。

(かのじょは、たてものぜんたいのでんとうをてんめつする、おおもとのすいっちのはんどるをつかむと、)

彼女は、建物全体の電燈を点滅する、大元のスイッチの把手を掴むと、

(めちゃめちゃに、きったりつないだり、おもちゃにした。ぱちぱちと、あおじろいひばなが)

滅茶滅茶に、切ったりつないだり、おもちゃにした。パチパチと、青白い火花が

(ちった。おとこはそれをみると あっ とさけんで、いきなりとびかかっていって、)

散った。男はそれを見ると「アッ」と叫んで、いきなり飛びかかって行って、

(ふみよをだきすくめてしまった。きさま、なにをするのだ おとこはふみよをはがいじめに)

文代を抱きすくめてしまった。「貴様、なにをするのだ」男は文代を羽交締めに

(して、かたごしにかのじょのかおをのぞきこみながら、あついいきでいった。なんでも)

して、肩越しに彼女の顔を覗きこみながら、熱い息でいった。「なんでも

(ないのよ。ただ、ちょっと・・・・・・ふみよはだきすくめられたままへいきでこたえる。)

ないのよ。ただ、ちょっと……」文代は抱きすくめられたまま平気で答える。

(きさま、わらっているな。どうしてわらえるのだ。だれかがすくいにくるとでも)

「貴様、笑っているな。どうして笑えるのだ。誰かが救いに来るとでも

(いうのか ええ、たぶん・・・・・・ちくしょう、だれかとやくそくがしてあったのか、てはずが)

いうのか」「エエ、多分……」「畜生、誰かと約束がしてあったのか、手筈が

(できていたのか ふみよはおちつきはらっているので、おとこのほうで、きみがわるくなって)

出来ていたのか」文代は落ちつき払っているので、男の方で、気味が悪くなって

(きたのだ。おまえさんでんしんきごうをしらないのね ふみよはまだわらっている。)

来たのだ。「お前さん電信記号を知らないのね」文代はまだ笑っている。

(でんしんきごうだと。それがどうしたのだ おとこはびっくりしてたずねた。あたしを、)

「電信記号だと。それがどうしたのだ」男はびっくりして尋ねた。「あたしを、

(はいでんしつなんかへ、つれこんだのが、しっさくだったわね なぜだ あたし、)

配電室なんかへ、連れ込んだのが、失策だったわね」「何ぜだ」「あたし、

(でんしんきごうをしっているのよ ちくしょうめ、すると、いまのあれが?そうよ)

電信記号を知っているのよ」「畜生め、すると、今のあれが?」「そうよ

(s・o・sよ。なんぜんにんというけんぶつのなかに、あのかんたんなひじょうしんごうをよめるひとが、)

S・O・Sよ。何千人という見物の中に、あの簡単な非常信号を読める人が、

(ひとりもいないってわけはないとおもうのよ さっきかのじょがすいっちをきったり)

一人もいないって訳はないと思うのよ」さっき彼女がスイッチを切ったり

など

(つないだりしたのは、むいみないたずらでなくて、きゅうじょをもとめるしんごうで)

つないだりしたのは、無意味ないたずらでなくて、救助を求める信号で

(あったのだ。じょうないぜんたいのでんとうが、ぱちぱちとてんめつしてs・o・sを)

あったのだ。場内全体の電燈が、パチパチと点滅してS・O・Sを

(くりかえしたのだ。こめろうのくせに、あじをやったな。・・・・・・だが、そんなことで)

くり返したのだ。「小女郎の癖に、味をやったな。……だが、そんなことで

(へこたれるおれだとおもうか もうぐずぐずしてはいられぬ。おとこはぽけっとから)

へこたれる俺だと思うか」もうぐずぐずしてはいられぬ。男はポケットから

(ますいやくのようきをとりいだした、いよいよさいごのしゅだんである。あたしを、どうしようって)

麻酔薬の容器を取出した、愈々最後の手段である。「あたしを、どうしようって

(いうの ふみよはわざとおどろいてみせる。そのかわいいしたのねをとめてやるのさ。)

いうの」文代は態と驚いて見せる。「その可愛い舌の根をとめてやるのさ。

(きさまをみうごきのできないにんぎょうにしてやるのさ おとこはようきからぬれたしろぬのの)

貴様を身動きの出来ない人形にしてやるのさ」男は容器から濡れた白布の

(かたまりをとりだして、いきなりふみよのくちをふさごうとした。かれはそれが、)

かたまりを取出して、いきなり文代の口をふさごうとした。彼はそれが、

(とっくににせものにかわっているのを、すこしもきづかぬのだ。ふみよは、じっとして)

とっくに贋物に変っているのを、少しも気附かぬのだ。文代は、じっとして

(いても、べつにきけんはなかったのだけれど、このきかいにおとこのかおをみてやろうと、)

いても、別に危険はなかったのだけれど、この機会に男の顔を見てやろうと、

(はげしくていこうをはじめた。ますくのかいぶつと、ようそうのびじょとの、よにもふしぎな)

烈しく抵抗を始めた。マスクの怪物と、洋装の美女との、世にも不思議な

(あぱっしゅ・だんすだ。ふみよのしなやかなからだが、なまめかしいけだもののように、)

アパッシュ・ダンスだ。文代のしなやかな身体が、艶かしいけだものの様に、

(すりぬけてはにげまわるのを、おとこはいきづかいはげしく、おいすがった。だが、おんなの)

すり抜けては逃げ廻るのを、男は息遣いはげしく、追いすがった。だが、女の

(うでが、そうそうつづくものではない、ついにふみよはへやのすみにおいつめられた。)

腕が、そうそう続くものではない、遂に文代は部屋の隅に追いつめられた。

(かのじょはそこへつくばってしまった。かおのまえで、よんほんのてが、めまぐるしく、)

彼女はそこへ蹲ってしまった。顔の前で、四本の手が、めまぐるしく、

(もつれあった。とうとう、しろいつめたいものが、かのじょのくちとはなとをおさえつけた。)

もつれ合った。とうとう、白い冷いものが、彼女の口と鼻とを押さえつけた。

(とどうじに、かのじょのては、おとこのますくにかかっていた。ちからまかせに、ぐっと)

と同時に、彼女の手は、男のマスクにかかっていた。力まかせに、グッと

(ひっぱると、ひもがきれて、ますくがかのじょのてにのこった。おとこのはなからしたが、)

引張ると、紐が切れて、マスクが彼女の手に残った。男の鼻から下が、

(むきだしになった。あらっ!ふみよがひじょうにおどろいて、おしつけられたしろぬのの)

むき出しになった。「アラッ!」文代が非常に驚いて、押しつけられた白布の

(したでさけんだ。かのじょはなにをみたのか。くちびるのないあかはげのかおであったか。だが、)

下で叫んだ。彼女は何を見たのか。唇のない赤はげの顔であったか。だが、

(かのじょはそれをよきしなかったはずはない。いまさら、こんなにおどろくというのはへんだ。)

彼女はそれを予期しなかった筈はない。今更、こんなに驚くというのは変だ。

(それはともかく、このばあい、ききゅうをだっするためには、いちおういしきをうしなってみせなければ)

それは兎も角、この場合、危急を脱する為には、一応意識を失って見せなければ

(ならぬ。ぞくはかのじょのかおにおしつけたものが、ますいやくだとしんじきって)

ならぬ。賊は彼女の顔に押しつけたものが、麻酔薬だと信じ切って

(いたのだから。ふみよはめをつむって、ぐったりと、うごかなくなった。)

いたのだから。文代は目をつむって、グッタリと、動かなくなった。

(ほねをおらせやがった おとこはつぶやきながら、ますくのひもをつないで、かおをかくし、)

「骨を折らせやがった」男は呟きながら、マスクの紐をつないで、顔を隠し、

(しんだようになったふみよを、こわきにだいて、とびらをひらくと、うすぐらいろうかへと)

死んだ様になった文代を、小脇に抱て、扉を開くと、薄暗い廊下へと

(すがたをけした。)

姿を消した。

(おばけにんぎょう)

お化人形

(なんだんがえしとかしょうする、よきょうぶたいのまえのひろっぱには、すうひゃくにんのぐんしゅうが、)

何段返しとか称する、余興舞台の前の広っぱには、数百人の群集が、

(このやかたせんぞくのしょうじょたちのすあしおどりをみあげていた。くつしたのかわりに、にくいろのおしろいを)

この館専属の少女達の素足踊りを見上げていた。靴下の代りに、肉色の白粉を

(ぬった、むちむちとふとったすあしどもが、ぼうしょくききかいのように、ぴょこんぴょこんと、)

塗った、ムチムチと肥った素足共が、紡織機機械の様に、ピョコンピョコンと、

(おそろいで、きゃくのまえへとびあがった。おどりなかばに、とつぜん、ぱっとでんとうがきえた。さいしょは)

お揃いで、客の前へ飛上った。踊り半に、突然、パッと電燈が消えた。最初は

(だれもあやしまなかった。めまぐるしくはいけいのかわる、このみせものは、そのてんかんの)

誰も怪しまなかった。目まぐるしく背景の変る、この見世物は、その転換の

(たびごとに、でんとうをけすことになっていたので、みせものたちは、ああ、またはいけいが)

度毎に、電燈を消すことになっていたので、見物達は、アア、また背景が

(かわるのかと、おもったのだ。ところが、いっこうぶたいがうごくようすはなく、おどりこたちも)

変るのかと、思ったのだ。ところが、一向舞台が動く様子はなく、踊子達も

(たちすくんでしまったまま、でんとうだけが、いっせいにぱちぱち、ぱちぱち)

立ちすくんでしまったまま、電燈丈けが、一斉にパチパチ、パチパチ

(おばけみたいに、ついたりきえたりしている。おどりこたちのめんくらっているようすが、)

お化けみたいに、ついたり消えたりしている。踊子達の面くらっている様子が、

(こっけいにみえたので、けんぶつせきにわーっとどよめきがおこった。がそれもつかのまで、)

滑稽に見えたので、見物席にワーッとどよめきが起った。がそれも束の間で、

(いまにもきえそうにぱちぱちやっていたでんとうが、ぱっとあかるくなるともうなにごとも)

今にも消え相にパチパチやっていた電燈が、パッと明るくなるともう何事も

(おこらなかった。ぶようはつづけられた。けんぶつはあんしんして、またしょうじょたちのすあしに)

起らなかった。舞踊は続けられた。見物は安心して、また少女達の素足に

(みいった。だがそのみせもののなかにたったひとり、いまのでんとうめいめつのいみをさとって、)

見入った。だがその見物の中にたった一人、今の電燈明滅の意味を悟って、

(ひじょうにふあんをかんじたせいねんがあった。かれはもう、すあしのうつくしさなんか、めに)

非常に不安を感じた青年があった。彼はもう、素足の美しさなんか、目に

(はいらなかった。あおざめて、きょろきょろして、かかりいんをさがすためにあちこちと)

入らなかった。青ざめて、キョロキョロして、係員を探す為にあちこちと

(あるきまわった。けんぶつせきのいちぐうに、せいふくせいぼうのじょうないせいりかかりのおとこがたっていた。)

歩き廻った。見物席の一隅に、制服制帽の場内整理係の男が立っていた。

(せいねんはそのおとこをとらえて、どもりながらいった。このぶたいのしょうめいかかりはどこに)

青年はその男を捉えて、どもりながらいった。「この舞台の照明係はどこに

(いるのです。そのひとにあわせてください しごとちゅうはめんかいさせないことになって)

いるのです。その人に会わせて下さい」「仕事中は面会させないことになって

(います おとこはぶっきらぼうにこたえてわきをむいた。いや。ぜひあわせてください。)

います」男はぶっきら棒に答えて傍を向いた。「イヤ。是非会わせて下さい。

(なにかしらひじょうなことがおこっているのです。きみは、いまでんとうがきえたのを、ていでんか)

何かしら非常な事が起っているのです。君は、今電燈が消えたのを、停電か

(なんかだとおもっているでしょうが、あれはおそろしいしんごうです。すくいをもとめる)

なんかだと思っているでしょうが、あれは恐ろしい信号です。救いを求める

(ひじょうしんごうです かかりのおとこは、せいねんのこうふんしたかおを、じろじろながめていたが、)

非常信号です」係の男は、青年の昂奮した顔を、ジロジロ眺めていたが、

(だまったまま、のそのそと、そのばをたちさってしまった。)

黙ったまま、ノソノソと、その場を立去ってしまった。

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