吸血鬼34

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投稿者投稿者桃仔いいね2お気に入り登録
プレイ回数1519難易度(4.2) 4549打 長文 かな 長文モード可
明智小五郎シリーズ
江戸川乱歩の作品です。句読点以外の記号は省いています。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 kuma 5232 B+ 5.6 92.7% 803.5 4563 359 62 2024/11/17

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問題文

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(ふといっぽうのきしをながめると、おおきなくろいいわのうえ、きぎのしげみにかくれるようにして、)

ふと一方の岸を眺めると、大きな黒い岩の上、樹木の茂みに隠れる様にして、

(ひとりのじんぶつがたたずんでいた。かーきいろのぐんぷく、ぼうかんこーとをみにつけた、)

一人の人物がたたずんでいた。カーキ色の軍服、防寒外套を身につけた、

(うつくしいおんなだ。ずきんをとっているので、ゆたかなかみも、うつくしいかおもまるだしである。)

美しい女だ。頭巾をとっているので、豊な髪も、美しい顔もまる出しである。

(さっきの、いようなしかんにんぎょうのしょうたいは、このびしょうじょであったのだ。)

さっきの、異様な士官人形の正体は、この美少女であったのだ。

(かのじょは、あおざめて、めいもくして、いけにただようおんなのしがいを、とむらっているようすだ。)

彼女は、青ざめて、瞑目して、池に漂う女の死骸を、とむらっている様子だ。

(これまた、きかいながめんのひとである。かのじょがすこしもみうごきをしないので、)

これまた、奇怪な画面の人である。彼女が少しも身動きをしないので、

(ひとびとはしばらく、そのそんざいにきづかなかった。にんぎょうとどもにみちみちたこのじょうないでは、)

人々は暫く、その存在に気づかなかった。人形共に満ち充ちたこの場内では、

(うごかぬひとは、にんぎょうとあやまられることがしばしばであったからだ。だが、そのなかで、)

動かぬ人は、人形と誤られることが屡々であったからだ。だが、その中で、

(こばやししょうねんだけは)

小林少年丈けは(先にもいった通り、明智小五郎はそこにいなかったので)

(ぐんぷくのおんなをみた。ああ、さっきのしかんにんぎょうがいるなと、きついた。そして、いまは)

軍服の女を見た。アア、さっきの士官人形がいるなと、気附いた。そして、今は

(あらわになった、そのうつくしいかおを、はっきりみてとった。あ、ふみよさん。)

あらわになった、その美しい顔を、ハッキリ見て取った。「ア、文代さん。

(ふみよさんだ かれはかんきのために、かおをまっかにして、いきなりぐんぷくのおんなに)

文代さんだ」彼は歓喜の為に、顔を真赤にして、いきなり軍服の女に

(かけよった。おお、こばやしさん しょうじょは、そのこえにはっとめをひらいて、あいてを)

駆けよった。「オオ、小林さん」少女は、その声にハッと目を開いて、相手を

(みとめると、りょうてをひろげて、しょうねんをいだきむかえるようにしながら、さけんだ。)

認めると、両手を拡げて、少年を抱き迎える様にしながら、叫んだ。

(あなた、いきていたんですね ええ、いきていますとも ぼくもそうおもって)

「あなた、生きていたんですね」「エエ、生きていますとも」「僕もそう思って

(いたのだ。あなたが、あんなやつにやられるはずはないとおもっていたのだ ふたりは、)

いたのだ。あなたが、あんな奴にやられる筈はないと思っていたのだ」二人は、

(このじんこうのだいけいこく、きがんのうえ、ろうじゅのしたに、まるでたずねあっていたきょうだいのように、)

この人工の大渓谷、奇岩の上、老樹の下に、まるで尋ね合っていた姉弟の様に、

(おもわぬさいかいをよろこんだ。ひとびとは、このいようなるこうけいにあっけにとられてしまった。)

思わぬ再会を喜んだ。人々は、この異様なる光景にあっけにとられてしまった。

(なにがなんだか、さっぱりわからなかった。ふしぎにおもったやかたのかかりいんのひとりが、)

何が何だか、さっぱり分らなかった。不思議に思った館の係員の一人が、

(ざぶざぶとあさいいけをわたって、ふみよとしんじていたおんなのしがいをたしかめにいった。)

ザブザブと浅い池を渡って、文代と信じていた女の死骸を確かめに行った。

など

(なーんだ。こいつはにんぎょうですぜ。ほらろくばんのぶたいにかざってあった、だんすの)

「ナーンダ。こいつは人形ですぜ。ほら六番の舞台に飾ってあった、ダンスの

(にんぎょうですぜ かれは、しがいのくびをつかんで、それをぐるぐるまわしてみせた。)

人形ですぜ」彼は、死骸の首を掴んで、それをグルグル廻して見せた。

(ふみよさんが、いつのまににんぎょうにかわっていたのか。それを、ぞくをはじめいちどうが、)

文代さんが、いつの間に人形に代っていたのか。それを、賊を初め一同が、

(どうしてほんものとまちがえるようなことがおこったのか。ふみよさんが、ぞくのぽけっとの、)

どうして本物と間違える様なことが起ったのか。文代さんが、賊のポケットの、

(ますいやくをしませたしろぬのを、みずにぬれたはんかちと、すりかえておいたことは、)

麻酔薬をしませた白布を、水にぬれたハンカチと、すり換えて置いたことは、

(まえにしるした。ぞくはげきじょうのあまり、すこしもそれにきづかず、ふみよさんが)

前に記した。賊は激情の余り、少しもそれに気づかず、文代さんが

(ますいしたものとおもいこみ、いしきをうしなったかのじょをさくらひめのにんぎょうにしたてるという、)

麻酔したものと思い込み、意識を失った彼女を桜姫の人形に仕立てるという、

(きちがいめいたとりっくをおもいついたのだ。そして、じぶんもきよはるにんぎょうに)

気違いめいたトリックを思いついたのだ。そして、自分も清玄人形に

(なりすますために、れいのかがみのまえのはこのなかへはいっているあいだに、そのじっしょうきの)

なりすます為に、例の鏡の前の箱の中へ這入っている間に、その実正気の

(ふみよさんは、そっとさくらひめのたいないをぬけだし、ちかくのぶたいにかざってあった)

文代さんは、そっと桜姫の体内を抜け出し、近くの舞台に飾ってあった

(だんすにんぎょうをはこんできて、じぶんのようふくをきせ、さくらひめのかつらをかぶらせ、きくのころものなかへ)

ダンス人形を運んで来て、自分の洋服を着せ、桜姫の鬘を冠らせ、菊の衣の中へ

(うめて、わがみがわりをさせたのだ。はこのなかで、きよはるのやくをつとめていたぞくは、)

埋めて、我が身替をさせたのだ。箱の中で、清玄の役を勤めていた賊は、

(まさかそんなことがおころうとは、ゆめにもおもわず、すこしもそれに)

まさかそんなことが起ろうとは、夢にも思わず、少しもそれに

(きづかないでいた。ふみよさんはおんなたんていだ。そのままにげだすようなことはせぬ。)

気附かないでいた。文代さんは女探偵だ。そのまま逃出すようなことはせぬ。

(りょうようだいかいせんのぶたいへはしって、ひとりのしかんにんぎょうをうしろにかくし、そのこーとを)

遼陽大会戦の舞台へ走って、一人の士官人形をうしろに隠し、その外套を

(はいで、おんなしかんになりすまし、きよはるあんしつのまえの、ろうさんのこだちにみをひそめて、)

剥いで、女士官になりすまし、清玄庵室の前の、老杉の木立に身を潜めて、

(ぞくをかんししていたのだ。そこへあけちとこばやししょうねんがやってきて、ぴすとるさわぎ、)

賊を監視していたのだ。そこへ明智と小林少年がやって来て、ピストル騒ぎ、

(ぞくのとうそうとなったのだが、ぞくはせっかくわがものとしたふみよさんを、そのままにして)

賊の逃走となったのだが、賊は折角我物とした文代さんを、そのままにして

(にげさるにしのびず、さくらひめのにんぎょうを、それがやっぱりにんぎょうにかわっているとはしらず)

逃げ去るに忍びず、桜姫の人形を、それがやっぱり人形に変っているとは知らず

(こわきにかかえてはしった。ちゅうとにんぎょうであることをさとったけれど、こんどはそれをぎゃくに)

小脇に抱えて走った。中途人形であることを悟ったけれど、今度はそれを逆に

(りようして、おってのどぎもをぬいてやろうと、かるいにんぎょうのことだから、くもなく)

利用して、追手の度胆を抜いてやろうと、軽い人形のことだから、苦もなく

(てっこつのうえにはこびあげ、そのちょうじょうにぶらさげて、げかいのひとびとをちょうしょうした。)

鉄骨の上に運び上げ、その頂上にブラ下げて、下界の人々を嘲笑した。

(というわけである。さて、ぶたいはふたたび、まるてんじょうのうえにうつる。ふみよさんのにんぎょうに)

という訳である。さて、舞台は再び、丸天井の上に移る。文代さんの人形に

(いっぱいくわされ、そのうえ、てっぽうだまのおみまいまでうけた、しごとしのわかものは、)

一杯食わされ、その上、鉄砲玉のお見舞まで受けた、仕事師の若者は、

(なにしろなうてのいのちしらずのことだから、なにくそ!というので、あいてが)

何しろ名うての命知らずのことだから、「なにくそ!」というので、相手が

(とびどうぐをもっているのもしょうちのうえ、もうぜんとぞくをめがけてつきすすんだ。ちょうじょうの)

飛道具を持っているのも承知の上、猛然と賊を目がけて突き進んだ。頂上の

(まるあなには、もうぞくのすがたはあつえぬ。まっさかさまのふりないちをすてて、ひろいまるやねの)

丸孔には、もう賊の姿は厚えぬ。真逆様の降りな位置を捨てて、広い丸屋根の

(うえへにげだしたのであろう。わかものは、かるわざしでもふるえあがるような、めもくらむ)

上へ逃げ出したのであろう。若者は、軽業師でも震え上る様な、目もくらむ

(てっこつのうえを、するするとすすんで、ちょうじょうのあなから、やねのうえへとはいだした。)

鉄骨の上を、スルスルと進んで、頂上の孔から、屋根の上へと這い出した。

(ゆるいこうばいのだいえんきゅう。もうあしばはたしかだ。さあこい とみがまえて、あたりを)

ゆるい勾配の大円球。もう足場は確だ。「サア来い」と身構えて、あたりを

(みまわしたが、どこへかくれたのかぞくのすがたはない。やねをふちどるいるみねーしょんは)

見廻したが、どこへ隠れたのか賊の姿はない。屋根を縁取るイルミネーションは

(あかるいけれど、それがあしもとからめをいるので、ちろちろして、かえってとおくが)

明るいけれど、それが足元から眼を射るので、チロチロして、却って遠くが

(みすかせぬ。と、いきなりおこるじゅうせい。よるのたいきをきって、みみもとをかすめるだんがん。)

見すかせぬ。と、いきなり起る銃声。夜の大気を切って、耳元をかすめる弾丸。

(ちくしょうめ!わかものはむちゅうになって、そのほうへとびつこうとみがまえたが、)

「畜生め!」若者は夢中になって、その方へ飛びつこうと身構えたが、

(ふときがつくと、すこしむこうを、のたくたと、きょだいなへびのようにはっている)

ふと気がつくと、少し向うを、ノタクタと、巨大な蛇の様に這っている

(ようふくすがた。うぬ!ひととびで、とびついた。だいえんきゅうじょうに、しにものぐるいに)

洋服姿。「ウヌ!」ひと飛びで、飛びついた。大円球上に、死にもの狂いに

(もつれあう、ふたつのにくかい。ばかやろう、ばかやろう やみよにあがるふんぬのさけび。)

もつれ合う、二つの肉塊。「馬鹿野郎、馬鹿野郎」暗夜に上る憤怒の叫び。

(そのさけびごえをそらたかくのこして、もつれあうふたりは、まるやねのうえをごろごろと、)

その叫び声を空高く残して、もつれ合う二人は、丸屋根の上をゴロゴロと、

(はじめはゆるやかに、じょじょにかそくどをまして、はてはだんがんのようなはやさで、)

初めはゆるやかに、徐々に加速度を増して、果ては弾丸の様な早さで、

(あっとおもうまに、かぜをきって、やねのそとへとてんらくした。しかもふしぎせんばんな)

アッと思うまに、風を切って、屋根の外へと転落した。しかも不思議千万な

(ことには、まだひとり、だれかやねのうえにひとがいたものとみえ、おちゆく)

ことには、まだ一人、誰か屋根の上に人がいたものと見え、落ち行く

(ふたりのあとから、げらげらと、ぶきみなわらいごえがやみにひびいた。)

二人のあとから、ゲラゲラと、不気味な笑い声が闇に響いた。

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