吸血鬼38

投稿者桃仔プレイ回数400
難易度(4.5) 5671打 長文 長文モード可タグ明智小五郎 江戸川乱歩 長文 小説 吸血鬼
明智小五郎シリーズ
江戸川乱歩の作品です。句読点以外の記号は省いています。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 hayao 7856 8.1 96.2% 684.8 5599 219 79 2021/05/14
2 aria 7710 8.0 96.2% 705.0 5657 221 79 2021/06/07
3 おちり 7706 8.0 95.8% 695.4 5602 243 79 2021/06/09
4 HAKU 7280 7.5 96.1% 747.5 5668 226 79 2021/05/11
5 subaru 7225 7.7 94.0% 730.7 5634 354 79 2021/05/31

関連タイピング

問題文

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(うみかじ)

海火事

(ふたりはかおをみあわせて、なんともいえぬにがわらいをした。ぼくはどうかしているね。)

二人は顔を見合わせて、何ともいえぬ苦笑いをした。「僕はどうかしているね。

(あいつはなんだかにがてだ つねかわしは、ちょっとはずかしそうにいった。にんぎょうでない)

あいつは何だか苦手だ」恒川氏は、ちょっと恥かし相にいった。人形でない

(ことはわかりきっている。それを もしや とおもうのは、あいてをおそれている)

ことは分り切っている。それを「若しや」と思うのは、相手を恐れている

(からだ。おにけいじのなにはじなければならぬ。すみだがわのかわぐちをはなれるころには、)

からだ。鬼刑事の名に恥じなければならぬ。隅田川の川口を離れる頃には、

(おってのふねは、けいさつらんちいっそうではなかった。まちでどろぼうをおいかけるとき、かならず)

追手の船は、警察ランチ一艘ではなかった。町で泥棒を追駆ける時、必ず

(やじうまがついてはしるように、みずのうえでも、やじぶねが、どこからともなくあらわれて)

弥次馬がついて走る様に、水の上でも、弥次舟が、どこからともなく現われて

(きて、らんちとさきをあらそうように、ぞくのふうせんめがけて、なみをきる、さんそうの)

来て、ランチと先を争う様に、賊の風船めがけて、波を切る、三艘の

(もーたーぼーとがあった。そのうち、いっそうは、きょうそうようのふねとみえて、かたちもちいさく、)

モーターボートがあった。その内、一艘は、競争用の舟と見えて、形も小さく、

(そくりょくがばかにはやかった。さすがけいさつのかいそくていも、このこがたぼーとにはおよばず、)

速力が馬鹿に早かった。さすが警察の快速艇も、この小型ボートには及ばず、

(みるみるぬかれていった。ぼーとのなかには、ひとりのくろいようふくをきたおとこが、まるで)

見る見る抜かれて行った。ボートの中には、一人の黒い洋服を着た男が、まるで

(けいばのきしゅか、じてんしゃきょうそうのせんしゅみたいに、ねこぜになって、はんどるのうえに、)

競馬の騎手か、自転車競争の選手みたいに、猫背になって、ハンドルの上に、

(かがみこみ、わきめもふらず、ぜんぽうをみつめていた。ちくしょうめ、やけにはやい)

かがみ込み、傍目もふらず、前方を見つめていた。「畜生め、やけに早い

(やろうだなあ けいさつらんちのうんてんしゅはしばらくきょうそうしてみたが、とても)

野郎だなア」警察ランチの運転手はしばらく競漕して見たが、とても

(ぬきかえせないことをしると、はらだたしげにつぶやいた。あいつ、なんだろう。)

抜き返せないことを知ると、腹立たしげにつぶやいた。「あいつ、何だろう。

(まさかどうるいじゃあるまいな いちけいじがふしんをいだいた。いくらなんでも、そんな)

まさか同類じゃあるまいな」一刑事が不審を抱いた。「いくら何でも、そんな

(むちゃはしないだろうぜ。いくらそくりょくがはやいからといって、このあれもように、)

無茶はしないだろうぜ。いくら速力が早いからといって、この荒れ模様に、

(あんなちいさなふねで、ぞくをすくって、にげおおせるなんて、おもいもよらぬことだよ。)

あんな小さな舟で、賊を救って、逃げおおせるなんて、思いもよらぬことだよ。

(・・・・・・しろうとのものずきさ。けいさつのおてつだいをして、ほめてもらうのがたのしみの)

……素人の物好きさ。警察のお手伝いをして、ほめてもらうのが楽しみの

(とくしかだよ。いつでも、あんなれんちゅうが、にさんにん、とびだしてくるものだ すいじょうしょの)

特志家だよ。いつでも、あんな連中が、二三人、飛出して来るものだ」水上署の

など

(ろうじゅんさが、たねんのけいけんからわりだして、こともなげにこたえた。けいさつらんち、)

老巡査が、多年の経験から割出して、事もなげに答えた。警察ランチ、

(おてつだいのもーたーぼーと、つごうよんそうのかいそくせんが、ふきつのるきたかぜに、なみたつ)

お手伝いのモーターボート、都合四艘の快速船が、吹きつのる北風に、波立つ

(うみを、まっぷたつにきりさいて、よっつのするどいのこぎりのように、いさましくつきすすんで)

海を、真ッ二つに切り裂いて、四つの鋭いのこぎりの様に、勇ましく突き進んで

(いった。いっぽう、ぞくのふうせんは、だいいちのおだいばをこしたあたりで、ついにまったくふりょくを)

行った。一方、賊の風船は、第一のお台場を越したあたりで、遂に全く浮力を

(うしない、だぶだぶにしわのよったきのうを、きょだいなたこのしがいのように、すいめんに)

失い、ダブダブにしわのよった気嚢を、巨大な章魚の死骸の様に、水面に

(うかべた。ついらくしたせつな、かぶに、ぶらさがっていたぞくは、ざぶんとすいちゅうにもぐり、)

浮べた。墜落した刹那、下部に、ぶら下っていた賊は、ザブンと水中にもぐり、

(したたかしおみずをのまされたが、もがきにもがいて、やっとすいめんにうきあがり、ただよう)

したたか潮水を呑まされたが、もがきにもがいて、やっと水面に浮上り、漂う

(きのうのかたすみにすがりつくことができた。かれはもうつかれきっていた。やねからそら、)

気嚢の片隅にすがりつくことが出来た。彼はもう疲れ切っていた。屋根から空、

(そらをはんにちもふきながされて、おちたところは、あれくるうなみのうえだ。たいていのものなら、)

空を半日も吹き流されて、落ちた所は、荒れ狂う波の上だ。大抵の者なら、

(とっくにきをうしなっていたであろうが、さすがはかいぶつ、まだへこたれぬ。きのうは)

とっくに気を失っていたであろうが、さすがは怪物、まだへこたれぬ。気嚢は

(なみのまにまに、つきあげ、おしおとし、ぶらんこのように、めちゃめちゃに)

波のまにまに、突き上げ、押しおとし、ブランコの様に、めちゃめちゃに

(ゆれうごく。そのすべっこいひょうめんに、とりついているどりょくは、なみたいていでは)

揺れ動く。そのすべっこい表面に、とりついている努力は、並大抵では

(なかった。ざぶんざぶんとなみがかぶる。そのひょうしにてがすべって、さっといっけんほども)

なかった。ザブンザブンと波がかぶる。その拍子に手が辷って、サッと一間程も

(おしながされる。もがきにもがいて、やっとまた、きのうにとりすがる。それが、)

押し流される。もがきにもがいて、やっとまた、気嚢にとりすがる。それが、

(いくどとなく、むごたらしくくりかえされるのだ。にんげんかいのかいぶつも、しぜんりょくにたいしては)

幾度となく、むごたらしく繰返されるのだ。人間界の怪物も、自然力に対しては

(みじめであった。だが、かれのたいてきは、しぜんりょくばかりではなかった。)

みじめであった。だが、彼の大敵は、自然力ばかりではなかった。

(もっとおそろしいやつが、おってのふねどもが、へさきをそろえて、まっしぐらにせまって)

もっと恐ろしい奴が、追手の舟共が、舳をそろえて、まっしぐらに迫って

(くるのだ。かれはなみとたたかいながら、すきをみてちらちらふりかえった。ふりかえるごとに、)

来るのだ。彼は波と戦いながら、隙を見てチラチラ振返った。振返るごとに、

(てきのせんたいは、おおきくなっていた。あわただしいえんじんのひびきも、こっこくそのおとが)

敵の船体は、大きくなっていた。慌ただしいエンジンの響きも、刻々その音が

(たかまってきた。しかし、かれはまだへこたれなかった。みるもむざんなどりょくをつづけて)

高まって来た。しかし、彼はまだへこたれなかった。見るも無慙な努力を続けて

(とうとうきのうのうえによじのぼり、そのたいらなちゅうおうに、よろよろとたちあがって、ずぶとくも)

とうとう気嚢の上によじ昇り、その平な中央に、ヨロヨロと立上って、図太くも

(おってのふねをむかえるように、みがまえた。けいさつらんちと、せんとうのこがたもーたーぼーと)

追手の船を迎える様に、身構えた。警察ランチと、先頭の小型モーターボート

(とのきょりは、いつのまにか、にちょうほどもへだたっていた。そのいじょうにねっしんな)

との距離は、いつの間にか、二丁程も隔たっていた。その異常に熱心な

(しろうとついげきしゃは、いま、ふうせんぼーとのうえに、すっくとたちはだかったかいぞくめがけて、)

素人追撃者は、今、風船ボートの上に、スックと立ちはだかった怪賊めがけて、

(へさきがそらにとびあがるほどのかいそくりょくで、まっしぐらにすすんでいく。おい、もっと)

舳が空に飛び上る程の快速力で、まっしぐらに進んで行く。「オイ、もっと

(すぴーどはでないのか。あのふねにおいつけないのか けいさつらんちのうえでは、)

スピードは出ないのか。あの舟に追つけないのか」警察ランチの上では、

(つねかわけいぶが、いらだたしく、うんてんしゅにどなりつけた。けいかんいちどう、なんとも)

恒川警部が、いらだたしく、運転手に呶鳴りつけた。警官一同、何とも

(めいじょうしがたいふあんにおそわれていた。やっぱり、あのかいそくていにのっているやつは、)

名状し難い不安に襲われていた。やっぱり、あの快速艇に乗っている奴は、

(ぞくのどうるいではあるまいか。あんなにめちゃめちゃにいそぐのは、けいさつをだしぬいて)

賊の同類ではあるまいか。あんなにめちゃめちゃに急ぐのは、警察を出し抜いて

(ぞくをすくうためではあるまいか。という、おそろしいうたがいがわきあがってくるのを、)

賊を救う為ではあるまいか。という、恐ろしい疑いが湧き上って来るのを、

(どうすることもできなかった。みるみる、もーたーぼーとは、ぞくにちかづいて)

どうすることも出来なかった。見る見る、モーターボートは、賊に近づいて

(いった。そしてもういちにけんというところで、なみのためにおもうようにせっきんできず、このはの)

行った。そしてもう一二間という所で、波の為に思う様に接近出来ず、木の葉の

(ようにもまれているのが、ながめられた。ちかづいては、おしもどされ、ちかづいては、)

様にもまれているのが、眺められた。近づいては、押しもどされ、近づいては、

(おしもどされているうちに、ぼーとのへさきが、ながれるきのうにぶつかったかとおもうと、)

押しもどされている内に、ボートの舳が、流れる気嚢にぶつかったかと思うと、

(ぞくのほうから、ひらりと、ぼーとにとびこんでいった。ああ、やっぱりそうだ。)

賊の方から、ヒラリと、ボートに飛込んで行った。アア、やっぱりそうだ。

(あのふねはぞくのどうるいなのだ。でなければ、ぞくのほうからとびこんでいくはずがないでは)

あの舟は賊の同類なのだ。でなければ、賊の方から飛込んで行く筈がないでは

(ないか。あ、いけない。はやく、はやく けいかんたちははしるらんちのうえで、じだんだを)

ないか。「ア、いけない。早く、早く」警官達は走るランチの上で、じだんだを

(ふむ。だが、あれはなんだ?どうるいなれば、なにもあんなに、とっくみあうことは)

踏む。だが、あれは何だ?同類なれば、なにもあんなに、とっ組み合うことは

(ないはずだ。ぞくはぼーとにとびうつったかとおもうと、いきなりうんてんせきのようふくおとこに)

ない筈だ。賊はボートに飛び移ったかと思うと、いきなり運転席の洋服男に

(つかみかかっていった。こちらもまけてはいなかった。たちあがると、これをむかえて)

つかみかかって行った。こちらも負けてはいなかった。立上ると、これを迎えて

(たちまち、こぶねのうえのはげしいかくとうとなった。ぶらんこのようにゆれただよう、せまいふねの)

たちまち、小舟の上の烈しい格闘となった。ブランコの様に揺れ漂う、狭い船の

(なかの、きかいなたちまわり。つかみあうのは、そうほうともくろいようふくすがた。こちらからは、)

中の、奇怪な立廻り。つかみ合うのは、双方とも黒い洋服姿。こちらからは、

(どれがぞくともみかたとも、はっきりみわけがつかぬだけに、なおさらはらはら)

どれが賊とも味方とも、ハッキリ見分けがつかぬ丈けに、猶更ハラハラ

(させられる。けいさつらんちとても、なみなみならぬそくりょくだ。みるみる、げんばへせっきんして)

させられる。警察ランチとても、並々ならぬ速力だ。見る見る、現場へ接近して

(いく。だが、ぼーとのなかのかくとうは、それよりもはやく、あっとおもうまに、)

行く。だが、ボートの中の格闘は、それよりも早く、アッと思う間に、

(かたづいてしまった。いっぽうがうちたおされて、ふねのそこにみえなくなったかとおもうと、)

かたづいてしまった。一方が打倒されて、舟の底に見えなくなったかと思うと、

(かったやつが、いきなりうんてんせきにしゃがみこんで、ぼーとをそうじゅうしはじめた。)

勝った奴が、いきなり運転席にしゃがみ込んで、ボートを操縦し始めた。

(かったのはぞくにきまっている。ひとりとひとりで、あのかいぶつをとりひしぐほどのゆうしゃが)

勝ったのは賊に極っている。一人と一人で、あの怪物を取りひしぐ程の勇者が

(あろうとはおもわれぬ。あくうんつよきかいぞくは、おってのふねをぎゃくようして、あのおそろしい)

あろうとは思われぬ。悪運強き怪賊は、追手の舟を逆用して、あの恐ろしい

(そくりょくで、にげさろうとしているのだ。ぼーとはなみをきって、はしりだしたかと)

速力で、逃げ去ろうとしているのだ。ボートは波を切って、走り出したかと

(おもうと、とつじょとして、よにもおそろしいちんじがおこった。ぼーとのうえに、ぱっと)

思うと、突如として、世にも恐ろしい椿事が起った。ボートの上に、パッと

(のろしのようなかえんがあがったかとみると、ひじょうなものおとがなみをつたってきこえてきた。)

のろしの様な火炎が上ったかと見ると、非常な物音が波を伝って聞えて来た。

(どうしてそんなばかばかしいことがおこったのか、あとになっても、そのげんいんを)

どうしてそんな馬鹿馬鹿しいことが起ったのか、あとになっても、その原因を

(つきとめることはできなかったが、がそりんにいんかして、それのきんぞくせいたんくが)

つきとめることは出来なかったが、ガソリンに引火して、それの金属製タンクが

(ひどいいきおいでばくはつしたのだ。ふねいちめんにもえあがるひ。そのかえんのなかに、あわてて)

ひどい勢いで爆発したのだ。舟一面に燃え上る火。その火炎の中に、あわてて

(かいちゅうへみをとうじるかいぶつのすがた。どうじに、ぼーとははげしくゆれててんぷくしてしまった。)

海中へ身を投じる怪物の姿。同時に、ボートは烈しく揺れて転覆してしまった。

(がそりんがうみいちめんにひろがった。ひとびとは、あとにもさきにも、あのようにきかいな、)

ガソリンが海一面に拡がった。人々は、あとにも先にも、あの様に奇怪な、

(しかもうつくしいこうけいをみたことがなかった。うみかじだ。あれくるうなみが、)

しかも美しい光景を見たことがなかった。海火事だ。荒れ狂う波が、

(ほのおとなってもえたつのだ。)

焔となって燃え立つのだ。

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