吸血鬼54

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明智小五郎シリーズ
江戸川乱歩の作品です。句読点以外の記号は省いています。

関連タイピング

問題文

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(ふみよさんができあいのやすものをかってきてきせたのです。らしんではにんぎょうが)

「文代さんが出来合いの安物を買って来て着せたのです。裸身では人形が

(はずかしがるだろうといってね。というのは、このにんぎょうは、くびだけではなく、)

はずかしがるだろうといってね。というのは、この人形は、首だけではなく、

(てあしもどうたいも、ほんものそっくりに、かんぜんにできているからです ほう、)

手足も胴体も、本物そっくりに、完全に出来ているからです」「ホウ、

(たいしたもんですね。よほどてまがかかったでしょう いや、みっかかんで)

大したもんですね。余程手間がかかったでしょう」「イヤ、三日間で

(できあがったのです。どうたいは、こうじょうにありあわせのものをつかい、くびだけを、)

出来上ったのです。胴体は、工場にあり合わせのものを使い、首だけを、

(いくまいものしゃしんによって、ちょうこくし、それをかたにしてつくりつけたものです。ちょうこくは)

幾枚もの写真によって、彫刻し、それを型にして作りつけたものです。彫刻は

(ゆうじんのkくんにたのんだのですが、でしにてつだわせて、いっちゅうやでしあげましたよ。)

友人のK君に頼んだのですが、弟子に手伝わせて、一昼夜で仕上げましたよ。

(こんなしごとははじめてだとこぼしていました そんなにはやくできるもの)

こんな仕事は初めてだとこぼしていました」「そんなに早く出来るもの

(ですかね けいぶはしんじられぬというかおつきだ。しにものぐるいでした。)

ですかね」警部は信じられぬという顔つきだ。「死にもの狂いでした。

(きょうまでにどうしてもいりようだったものですからね。そのかわりひようはふんだんに)

今日までにどうしても入用だったものですからね。その代り費用はフンダンに

(かけましたよ きょうまでにいりようであるといえば、あけちはいまにも、このにんぎょうを)

かけましたよ」今日までに入用であるといえば、明智は今にも、この人形を

(つかって、ひとしごとするつもりにそういないが、いったいぜんたいこのおとこなにをもくろんでいるの)

使って、一仕事する積りに相違ないが、一体全体この男何を目論でいるの

(だろう。ときどきこどもだましみたいなことをはじめるが、それがいつもそうこうするのは)

だろう。時々子供だましみたいなことを始めるが、それがいつも奏効するのは

(ふしぎなほどだ。けいぶはにんぎょうのようとが、ききたくてしようがなかったが、いまさら)

不思議な程だ。警部は人形の用途が、聞き度くて仕様がなかったが、今更

(たずねるのもしゃくなので、わざともんだいにしないていをよそおっていた。ところで)

たずねるのも癪なので、わざと問題にしない体をよそおっていた。「ところで

(つねかわさん、ひとつおねがいがあるのですが、ちょっと、みんかんたんていのてにあわない)

恒川さん、一つお願いがあるのですが、ちょっと、民間探偵の手に合わない

(ことがらなのです きみのことだから、できるかぎりはべんぎをはかりますよ。いや、)

事柄なのです」「君のことだから、出来る限りは便宜を計りますよ。イヤ、

(そうさにかんすることなら、ぼくのほうでそのしょうにあたりますよ。だが、いったいなんです)

捜査に関することなら、僕の方でその衝に当りますよ。だが、一体何です」

(じつはぼちをほりかえして、したいをしらべたいのです ぼちですって?けいぶは)

「実は墓地を掘返して、死体を調べたいのです」「墓地ですって?」警部は

(けげんらしく、ききかえした。ええ、ぼちをよっつばかり・・・・・・あけちはますますへんな)

けげんらしく、聞返した。「エエ、墓地を四ツばかり……」明智は益々変な

など

(ことをいう。よっつ?いったいなにをしらべようというのです。だれのしがいです)

ことをいう。「四つ?一体何を調べようというのです。誰の死骸です」

(だいいちは、れいのしおばらでにゅうすいじさつをしたおかだみちひこです なるほど、あのしがいは、)

「第一は、例の鹽原で入水自殺をした岡田道彦です」「なるほど、あの死骸は、

(しおばらのみょううんじのぼちに、どそうにしてあるはずですから、しらべられぬことは)

鹽原の妙雲寺の墓地に、土葬にしてある筈ですから、調べられぬことは

(ありません。しかし、もうげんけいをとどめてはいないだろうとおもいますが でも)

ありません。しかし、もう原形をとどめてはいないだろうと思いますが」「でも

(がいこつにだって、はだけはのこっているはずです やっとあけちのかんがえがわかった。)

骸骨にだって、歯丈けは残っている筈です」やっと明智の考えが分った。

(ああ、そうでしたか。そのしがいのはと、こばやしくんがはいしゃでもらってきた、)

「アア、そうでしたか。その死骸の歯と、小林君が歯医者でもらって来た、

(せいぜんのおかだみちひこのはがたとを、くらべてみようというわけですね ええ、)

生前の岡田道彦の歯型とを、くらべて見ようという訳ですね」「エエ、

(ねんのために。それをたしかめないでは、どうもあんしんできぬのです。そのふたつのはがたの)

念の為に。それを確めないでは、どうも安心出来ぬのです。その二つの歯型の

(いっちをみるまでは、おかだがくちびるのないかいぶつとどういつじんぶつでないという、かくしんが)

一致を見るまでは、岡田が唇のない怪物と同一人物でないという、確信が

(つかぬのです よろしい。それはけっしてむだなしごとでないようです。)

つかぬのです」「よろしい。それは決して無駄な仕事でないようです。

(ぼちはっくつのてつづきは、ぼくがひきうけますよ。・・・・・・だが、きみはさっき、ぼちをよっつと)

墓地発掘の手続きは、僕が引受けますよ。……だが、君はさっき、墓地を四つと

(いいましたね。おかだのほかに、まだみなければならぬ、しがいがあるのですか)

いいましたね。岡田の外に、まだ見なければならぬ、死骸があるのですか」

(しがいというよりは、むしろ、・・・・・・あけちはちょっとくしょうした。しがいのない)

「死骸というよりは、寧ろ、……」明智はちょっと苦笑した。「死骸のない

(ことをたしかめるのです。つまり、まいそうされたかんおけが、からっぽになっていることを)

ことを確めるのです。つまり、埋葬された棺桶が、からっぽになっていることを

(です え、え、では、しがいがぬすまれたじじつでもあるとおっしゃるのですか。)

です」「エ、エ、では、死骸が盗まれた事実でもあるとおっしゃるのですか。

(それはどこです。だれのしがいです だれのだかわかりません。あてずっぽうに、)

それはどこです。誰の死骸です」「誰のだか分りません。あてずっぽうに、

(はっくつしてみるのです あけちはなにをいいだすのだ。まるできちがいのさたでは)

発掘して見るのです」明智は何をいい出すのだ。まるで気違いの沙汰では

(ないか。あてずっぽうといって、どのはかともわからないで、どうしてはっくつできる)

ないか。「あてずっぽうといって、どの墓とも分らないで、どうして発掘出来る

(のです いや、それはぼくもしっています。このふし、とうきょうふきんでしがいをどそうに)

のです」「イヤ、それは僕も知っています。この節、東京附近で死骸を土葬に

(するれいは、ひじょうにめずらしいのですから、さがしだすのに、たいしててまは)

する例は、非常に珍らしいのですから、探し出すのに、大して手間は

(かかりませんでしょう すると、もうそのはかをさがしてあるのですね。だが、)

かかりませんでしょう」「すると、もうその墓を探してあるのですね。だが、

(いったいなにもののはかなのです さんにんのむすめさんのはかです。ほら、あのあとりえで、)

一体何者の墓なのです」「三人の娘さんの墓です。ホラ、あのアトリエで、

(せっこうにつつまれていた、かわいそうなむすめさんたちのひつぎです ひつぎといっても、あれらは)

石膏につつまれていた、可哀相な娘さん達の棺です」「棺といっても、あれらは

(もうやくばのてで、かそうにしてしまったではありませんか いや、それはぼくも)

もう役場の手で、火葬にしてしまったではありませんか」「イヤ、それは僕も

(しっています。はっくつしたいのはかそうになるまえのもうひとつのぼちなのです え、)

知っています。発掘したいのは火葬になる前のもう一つの墓地なのです」「エ、

(なんですって、では、あのむすめたちは、にどまいそうされたとおっしゃるのですか。・・・・・・)

なんですって、では、あの娘達は、二度埋葬されたとおっしゃるのですか。……

(ああ、なるほど、なるほどいままでそこへきがつかぬとは、ぼくはなんというかつものだ。)

アア、成程、成程今までそこへ気がつかぬとは、僕は何という迂かつ者だ。

(・・・・・・つまり、あとりえのしがいは、ころしたのでなくて、どこかのぼちから、すでに)

……つまり、アトリエの死骸は、殺したのでなくて、どこかの墓地から、既に

(しんだむすめたちを、ぬすみだしてきて、あのきみょうなせっこうぞうをつくったのだ。という)

死んだ娘達を、盗み出して来て、あの奇妙な石膏像を作ったのだ。という

(かんがえかたですね つねかわしは、あけちのそうぞうりょくに、すくなからずおどろかされた。そうです。)

考え方ですね」恒川氏は、明智の想像力に、少からず驚かされた。「そうです。

(ぼくたちはいつも、ひょうめんじょうのみせかけのうらをかんがえるひつようがあります。すぐれた)

僕達はいつも、表面上の見せかけの裏を考える必要があります。すぐれた

(はんざいしゃはおうおうそのてをもちいるからです。くちびるのないおとこは、さつじんいんらくてきな、いっしゅの)

犯罪者は往々その手を用いるからです。唇のない男は、殺人イン楽的な、一種の

(へんしつしゃのようにかんがえられています。そうとしかみえないように、しくまれていますが)

変質者の様に考えられています。そうとしか見えない様に、仕組まれていますが

(これははんにんのたくみなおしばいかもしれません。で、ぼくは、はんにんはそのはんたいにけっして)

これは犯人の巧なお芝居かも知れません。で、僕は、犯人はその反対に決して

(さつじんいんらくしゃでも、せいしんびょうしゃでもないというみかたをしてみたのです。)

殺人イン楽者でも、精神病者でもないという見方をして見たのです。

(このじけんでは、ひじょうにたくさんのひとがころされているようにみえる。だが、ほんとうは、)

この事件では、非常に沢山の人が殺されている様に見える。だが、本当は、

(はんにんは、まだ、ほとんどひとごろしをしていないのではないか。というみかたです)

犯人は、まだ、殆ど人殺しをしていないのではないか。という見方です」

(あけちのことばはますますとっぴである。では、きみは、このじけんが、さつじんじけんでないと)

明智の言葉は益々突飛である。「では、君は、この事件が、殺人事件でないと

(いうのですか つねかわしはおどろいてたずねた。しいていえば、さつじんみすいじけん)

いうのですか」恒川氏は驚いて尋ねた。「強いていえば、殺人未遂事件

(でしょうね あけちはもうもうとたちのぼるふぃがろのけむりのなかからいった。)

でしょうね」明智はもうもうと立昇るフィガロの煙の中からいった。

(みすい?つねかわしはびっくりして しかし、あのさんにんのむすめをべつにしても、まだ)

「未遂?」恒川氏はびっくりして「しかし、あの三人の娘を別にしても、まだ

(ふたりころされているものがあるではありませんか ふたり?いや、さんにんですよ。)

二人殺されている者があるではありませんか」「二人?イヤ、三人ですよ。

(それもきみのおかんがえになっているじんぶつとは、まるでちがっているかもしれません)

それも君のお考えになっている人物とは、まるで違っているかも知れません」

(いずれにもせよ。さつじんがおこなわれたのではありませんか つねかわしは、)

「いずれにもせよ。殺人が行われたのではありませんか」恒川氏は、

(なぞのようなあけちのことばに、じりじりしていった。けっしてみすいでは)

なぞのような明智の言葉に、ジリジリしていった。「決して未遂では

(ありません いかにも、ひとはころされました あけちはおちつきはらって しかし、)

ありません」「如何にも、人は殺されました」明智は落ちつき払って「しかし、

(ぞくはまだしんのもくてきをたっしていないのです。いままでのひとごろしは、ぞくにとっては、)

賊はまだ真の目的を達していないのです。今までの人殺しは、賊にとっては、

(たとえば、ぜんそうきょくにすぎなかったのです。かれのしんいはもっとべつのところに)

たとえば、前奏曲に過ぎなかったのです。彼の真意はもっと別の所に

(あるのです。つねかわさん、おぼえておいてください。ぼくがこのじけんをさつじんみすいだと)

あるのです。恒川さん、覚えておいて下さい。僕がこの事件を殺人未遂だと

(いったことを。いつかそれを、ときあかしておめにかけるときがくるとおもいます)

いったことを。いつかそれを、解きあかしてお目にかける時が来ると思います」

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