吸血鬼63

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明智小五郎シリーズ
江戸川乱歩の作品です。句読点以外の記号は省いています。

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問題文

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(はたやなぎけはおおがねもちです。すうにんのひとびとのしょうがいをほしょうするくらいのきんせんは、なんでも)

「畑柳家は大金持です。数人の人々の生涯を保証する位の金銭は、何でも

(ありません。しょうがいあんらくにくらせるほどのたいきんをさしつけられて、めのくらまぬ)

ありません。生涯安楽に暮らせる程の大金をさしつけられて、目のくらまぬ

(ものがありましょうか。・・・・・・はかばからよみがえったはたやなぎは、そのままのようぼうでは、)

ものがありましょうか。……墓場からよみがえった畑柳は、その儘の容貌では、

(すぐつかまってしまうので、ひじょうなくつうをしのんで、りゅうさんかなにかで、かおをやき)

すぐ捕まってしまうので、非常な苦痛を忍んで、硫酸か何かで、顔を焼き

(くずしてしまったのです。そして、まったくべつじんとなって、すなわちくちびるのないかいぶつと)

くずしてしまったのです。そして、全く別人となって、即ち唇のない怪物と

(なってふたたびこのよにあらわれてきました だが、へんですね。はたやなぎのけいきは、)

なって再びこの世に現われて来ました」「だが、変ですね。畑柳の刑期は、

(たしかななねんだったとおもいますが、なぜそれをまたなかったのでしょう。なにもかおを)

たしか七年だったと思いますが、なぜそれを待たなかったのでしょう。何も顔を

(やくようなことをしなくても、・・・・・・つねかわしは、あけちのせつめいが、どうもふに)

焼く様なことをしなくても、……」恒川氏は、明智の説明が、どうも腑に

(おちぬのだ。つねかわさん、あなたはまさか、すぎむらほうせきてんのとうなんじけんをおわすれでは)

落ちぬのだ。「恒川さん、あなたはまさか、杉村宝石店の盗難事件をお忘れでは

(ありますまいね あけちはにこにこしながら、とつぜんみょうなことをいいだした。え、)

ありますまいね」明智はニコニコしながら、突然妙なことをいい出した。「エ、

(すぎむらほうせきてんの・・・・・・おぼえていますとも、しかし、それがどうかしたのですか)

杉村宝石店の……覚えていますとも、しかし、それがどうかしたのですか」

(きょねんのさんがつでしたね。すぎむらほうせきてんのきんこがやぶられ、にめいのてんいんがざんさつされて)

「去年の三月でしたね。杉村宝石店の金庫が破られ、二名の店員が惨殺されて

(いたのは そうです。ひじょうにこうみょうなはんざいでした。ざんねんながら、いまもってなんの)

いたのは」「そうです。非常に巧妙な犯罪でした。残念ながら、今以て何の

(てがかりもつかみえないのです それから、はやせとけいてんのとうなん、おぐらだんしゃくけの)

手懸かりもつかみ得ないのです」「それから、早瀬時計店の盗難、小倉男爵家の

(ゆうめいなだいやもんどじけん、きたこうじこうしゃくふじんのくびかざりとうなんじけん、・・・・・・ああ、)

有名なダイヤモンド事件、北小路侯爵夫人の首飾り盗難事件、……」「アア、

(きみもやっぱり、そこへきづいていたのですね。そうです。みなおなじてぐちでした。)

君もやっぱり、そこへ気づいていたのですね。そうです。皆同じ手口でした。

(ぼくらもはんにんはどういつじんぶつとにらんで、そうさをつづけていたのです つねかわしは、)

僕等も犯人は同一人物とにらんで、捜査を続けていたのです」恒川氏は、

(ややめんくらってこたえた。われわれはいま、そのはんにんをとらえたのです あけちは)

やや面食って答えた。「我々は今、その犯人を捕らえたのです」明智は

(ますますとっぴなことをくちばしる。え、え、どこに?どこに?けいぶは)

ますます突飛なことを口走る。「エ、エ、どこに?どこに?」警部は

(どぎまぎしないではいられなかった。ここに あけちはあしもとのふるいどをさした。)

どぎまぎしないではいられなかった。「ここに」明智は足元の古井戸を指した。

など

(こいつが、ほうせきどろぼうです つねかわしがかれのことばのいみをりょうかいするのをまって、)

「こいつが、宝石泥棒です」恒川氏が彼の言葉の意味を了解するのを待って、

(あけちはさらにかたりつづける。ゆうれいがいしゃをおこしたり、さぎをはたらいたりするのは、)

明智は更に語り続ける。「幽霊会社を起したり、詐欺を働いたりするのは、

(はたやなぎにとっては、むしろおもてむきのせいぎょうで、そのじつかれは、おそろしいほうせきどろぼう)

畑柳にとっては、むしろ表向きの正業で、その実彼は、恐ろしい宝石泥棒

(だったのです。いや、どろぼうばかりではありません、ひとごろしのたいざいさえおかして)

だったのです。イヤ、泥棒ばかりではありません、人殺しの大罪さえ犯して

(います。かれにはすうにんのどうるいがありました。どうせわるものたちのことですから、)

います。彼には数人の同類がありました。どうせ悪者達のことですから、

(いつうらぎりをして、たいせつのほうせきをよこどりしないともかぎらぬ。ことによったら)

いつ裏切りをして、大切の宝石を横取りしないとも限らぬ。事によったら

(みっこくするようなやつもでてくるだろう。とおもうと、しゅりょうかくのはたやなぎにしてみれば、)

密告する様な奴も出て来るだろう。と思うと、首領格の畑柳にして見れば、

(ななねんのあいだ、かんぼうにあんかんとしてはいられないわけです。よざいがはっかくして、しけいに)

七年の間、監房に安閑としてはいられない訳です。余罪が発覚して、死刑に

(なることをおもえば、しにんのまねをしたり、りゅうさんでかおをやくなどは、なんでも)

なることを思えば、死人のまねをしたり、硫酸で顔を焼くなどは、なんでも

(ありません。いや、それだけではまだあんしんができず、かれはまんぞくなてあしを)

ありません。いや、それだけではまだ安心が出来ず、彼は満足な手足を

(ぎしゅぎそくににせたものをはめて、ひどいふぐしゃをよそおいさえしました。)

義手義足に似せたものをはめて、ひどい不具者をよそおいさえしました。

(・・・・・・さて、そうごうをかえて、まったくべつのにんげんにうまれかわって、わがやへかえってみると、)

……さて、相好をかえて、全く別の人間に生れ変って、我家へ帰って見ると、

(じつにこっけいなことがおこった。かれはただしけいがこわさに、ぬすみためたほうせきほしさに)

実に滑稽なことが起った。彼はただ死刑がこわさに、盗みためた宝石欲さに

(むちゅうになっていて、ついかわいいさいしのことをかんじょうにいれていなかった。それが、)

夢中になっていて、つい可愛い妻子のことを勘定に入れていなかった。それが、

(いざわがやのもんぜんまできてみると、あいしていたつまだけに、かわいいこどもだけに、)

いざ我家の門前まで来て見ると、愛していた妻だけに、可愛い子供だけに、

(さすがにかわりはてた、おそろしいわがすがたがはずかしくなった。ろうやぶりのたいざいを)

さすがに変り果てた、恐ろしい我が姿がはずかしくなった。牢破りの大罪を

(うちあけるゆうきがなかった。・・・・・・だつごくいらいにかげつのあいだ、かれはふかがわのあるどうるいの)

打開ける勇気がなかった。……脱獄以来二ヶ月の間、彼は深川のある同類の

(いえにみをかくしていました。 そのどうるいのなまえもちゃんとわかっています 。)

家に身を隠していました。――その同類の名前もちゃんとわかっています――。

(そしてよるにまぎれて、わがていないにしのびこみ、さいしのすがたをかいまみて、またほうせきの)

そして夜にまぎれて、我邸内に忍び込み、妻子の姿を垣間見て、また宝石の

(かくしばしょをあらためて、わずかにみずからなぐさめていたのです。しずこさんが、しおばらの)

隠し場所をあらためて、僅に自ら慰めていたのです。倭文子さんが、鹽原の

(おんせんへいけば、そのあとをおって、おなじやどやにとまりこみ、ゆどののまどからわがつまの)

温泉へ行けば、そのあとを追って、同じ宿屋に泊り込み、湯殿の窓から我が妻の

(にゅうよくすがたをのぞくというような、みじめなくろうさえしているのです。・・・・・・かれが)

入浴姿をのぞくというような、みじめな苦労さえしているのです。……彼が

(ぬすみためたほうせきは、さっきのおしばいでごらんなすったとおり、しょさいのぶつぞうのなかに)

盗みためた宝石は、さっきのお芝居でごらんなすった通り、書斎の仏像の中に

(かくしてあったのです。かれは、そこへひとのちかづくのをふせぐために、いろいろくふうを)

隠してあったのです。彼は、そこへ人の近づくのを防ぐために、色々工夫を

(こらしました。ぶきみなぶつぞうぐんもそれです。ほうせきをかくしたかなぶつのめにからくりを)

こらしました。不気味な仏像群もそれです。宝石を隠した金仏の目にからくりを

(しかけて、ひとがそのまえにたつと、ひとりでにめをみひらくようにしておいたのも)

仕掛けて、人がその前に立つと、ひとりでに目を見開くようにしておいたのも

(それです。また、いざというときのかくればしょとして、あのてんじょううらにあんしつをつくり、)

それです。また、いざという時の隠れ場所として、あの天井裏に暗室を作り、

(かくてんじょうのいちまいをはずしてでいりできるようにしたのも、かれのくふうです。)

格天井の一枚をはずして出入り出来るようにしたのも、彼の工夫です。

(・・・・・・かれは、そのふかがわのどうるいのいえに、にかげつほどせんぷくしていましたが、さいきんになって)

……彼は、その深川の同類の家に、二ヶ月程潜伏していましたが、最近になって

(それでは、どうにもあんしんができなくなったのです。だいいちにほうせきへのしゅうちゃく。かれは)

それでは、どうにも安心が出来なくなったのです。第一に宝石への執着。彼は

(きちがいのようにほうせきをあいしました。なにふじゆうのないみで、ほうせきどろぼうになったのも)

気違いの様に宝石を愛しました。何不自由のない身で、宝石泥棒になったのも

(そのためです。さいしよりもいとしいほうせきと、べつべつにすんでいるのは、もうがまんが)

そのためです。妻子よりもいとしい宝石と、別々に住んでいるのは、もう我慢が

(できなくなったのです。それに、なかまのひとりがほうせきのかくしばしょを、かんづいて、)

出来なくなったのです。それに、仲間の一人が宝石の隠し場所を、勘づいて、

(こっそりてにいれようとしていることもわかった。また、はたやなぎにしてみれば、)

コッソリ手に入れようとしていることもわかった。また、畑柳にして見れば、

(みたにくんがここのいえにいりびたりになっているのも、ふあんのたねであったに)

三谷君がここの家に入りびたりになっているのも、不安の種であったに

(そういない。そこでかれはどろぼうのように、わがやにしのびこみ、かつてつくっておいた、)

相違ない。そこで彼は泥棒のように、我家に忍び込み、かつて作っておいた、

(しょさいのてんじょううらのかくればしょへ、みをひそめ、そこからほうせきのみはりをすることに)

書斎の天井裏の隠れ場所へ、身をひそめ、そこから宝石の見張りをすることに

(なったのです。・・・・・・さすがにかれのようじんはむだではなかった。うたがっていたなかまの)

なったのです。……さすがに彼の用心は無駄ではなかった。疑っていた仲間の

(ひとりが、あるひ、あんのじょうしょさいにしのびこみ、ぶつぞうのなかのほうせきをぬすもうとした。)

一人が、ある日、案の定書斎に忍び込み、仏像の中の宝石を盗もうとした。

(はたやなぎは、てんじょううらで、それをまちかまえていたのです。あらかじめよういしておいた、)

畑柳は、天井裏で、それを待ち構えていたのです。あらかじめ用意しておいた、

(ひものついたたんけんがやくだったというわけ。そのありさまは、さっきおしばいのだいいちまくで)

紐のついた短剣が役立ったという訳。その有様は、さっきお芝居の第一幕で

(おめにかけたとおりです では、そのほうせきをぬすみにきたどうるいというのは、・・・・・・)

お目にかけた通りです」「では、その宝石を盗みに来た同類というのは、……」

(つねかわしが、おもわずくちをはさむ。そうです。おがわしょういちです。むろんぎめいですが、)

恒川氏が、思わず口をはさむ。「そうです。小川正一です。無論偽名ですが、

(あいつこそ、しゅりょうをうらぎったにくむべきくせものだったのです)

あいつこそ、首領を裏切った憎むべき曲者だったのです」

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