吸血鬼68

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投稿者投稿者桃仔いいね3お気に入り登録
プレイ回数1344難易度(4.2) 4522打 長文 かな 長文モード可
明智小五郎シリーズ
江戸川乱歩の作品です。句読点以外の記号は省いています。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 じゅん 4274 C+ 4.4 96.1% 1009.2 4496 182 64 2024/04/11

関連タイピング

問題文

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(たてものはぜんたいがまっくらであったけれど、よこてにまわってみると、いっかしょだけがらすの)

建物は全体が真暗であったけれど、横手に廻って見ると、一ヶ所だけガラスの

(われたまどに、あかりがさしている。ふたりはぬきあしさしあし、そのまどのそとへ)

破れた窓に、あかりがさしている。二人は抜き足さし足、その窓の外へ

(しのびよった。のぞいてみると、いた、いた。みたにのやつ、がらんとした、)

忍び寄った。のぞいて見ると、いた、いた。三谷の奴、ガランとした、

(きたないへやのなかで、ふるてーぶるにもたれて、かんがえごとをしているのが、まざまざと)

汚い部屋の中で、古テーブルにもたれて、考え事をしているのが、マザマザと

(ながめられた。みたにさん、みたにさん あけちはまどのそとから、こえをかけた。)

眺められた。「三谷さん、三谷さん」明智は窓の外から、声をかけた。

(かわいそうに、みたにせいねんは、どんなにびっくりしたことであろう。かれははっとかおを)

可哀相に、三谷青年は、どんなにびっくりしたことであろう。彼はハッと顔を

(あげて、がらすのそとのくらやみを、すかしてみたが、おぼろなひとかげがみえる)

上げて、ガラスの外の暗やみを、すかして見たが、おぼろな人影が見える

(ばかりで、まだあけちとはきがつかぬ。どなた。どなたです かれはもう)

ばかりで、まだ明智とは気がつかぬ。「どなた。どなたです」彼はもう

(にげごしになりながら、うわずったこえで、ききかえした。ぼくですよ。あけちですよ。)

逃げ腰になりながら、上ずった声で、聞き返した。「僕ですよ。明智ですよ。

(ちょっとここをあけてくれませんか それをきくと、みたにのかおが、さっと)

ちょっとここをあけてくれませんか」それを聞くと、三谷の顔が、サッと

(ちのけをうしなった。そして、ものもいわず、むこうのどあへとかけだした。まてっ)

血の気を失った。そして、物もいわず、向うのドアへと駆け出した。「待てッ」

(どなりさま、つねかわけいぶは、まどをおしひらき、あすかのごとくしつないにとびこむと、)

呶鳴りさま、恒川警部は、窓を押し開き、飛鳥の如く室内に飛び込むと、

(いきなりにげるみたににおいせまって、そのうわぎをひっつかんだ。とりものにはうでにおぼえの)

いきなり逃げる三谷に追い迫って、その上衣を引つかんだ。捕物には腕に覚の

(おにけいぶだ。あああなたでしたか。ぼくはとんだおもいちがいをしていました)

鬼警部だ。「アアあなたでしたか。僕は飛んだ思い違いをしていました」

(のがれられぬとわかったので、みたにはとっさにたいどをあらためて、みえすいたうそを)

逃れられぬと分ったので、三谷は咄嗟に態度を改めて、見えすいたうそを

(いいながら、ふてぶてしくわらった。かれもさすがにきょうぞくである。おもいちがい?)

いいながら、ふてぶてしく笑った。彼も流石に兇賊である。「思い違い?

(はははははは、おもいちがいでなくとも、にげださなければならなかったのだ。)

ハハハハハハ、思い違いでなくとも、逃げ出さなければならなかったのだ。

(ぼくらは、きみをさつじんはんにんとしてたいほにきたのだからね けいぶはみたにをもとのいすに)

僕等は、君を殺人犯人として逮捕に来たのだからね」警部は三谷を元の椅子に

(ひきすえて、えものをねらうたかのように、そのまえにたちはだかった。え、)

引据えて、獲物をねらうタカのように、その前に立ちはだかった。「エ、

(さつじんはんにんですって、なにをいっていらっしゃるのです。ぼくがいったいだれをころしました)

殺人犯人ですって、何をいっていらっしゃるのです。僕が一体誰を殺しました」

など

(きさま、さっきのあけちさんのおしばいをみながら、まだそんなことをいって)

「貴様、さっきの明智さんのお芝居を見ながら、まだそんなことをいって

(いるのか。きさまこそ、くちびるのないおとこだ。ろうせいのめんをかぶって、はたやなぎしょうぞうをころし、)

いるのか。貴様こそ、唇のない男だ。ろう製の面をかぶって、畑柳庄蔵を殺し、

(さいとうろうじんにたんけんをなげつけたはんにんだ けいぶがいたけだかにどなりつけた。へえ、)

斎藤老人に短剣を投げつけた犯人だ」警部が威丈高に呶鳴りつけた。「ヘエ、

(ぼくがですか。いったいなにをしょうこにそんなことをおっしゃるのです たくみにつくった)

僕がですか。一体何を証拠にそんなことをおっしゃるのです」巧に作った

(けげんなかおだ。しょうこはいまにみせてあげる。だが、そのまえにひとこときいておきたい)

けげんな顔だ。「証拠は今に見せて上げる。だが、その前に一言聞いておきたい

(ことがある あけちがたまりかねて、くちをだした。はたやなぎとさいとうのほかに、きみじしんの)

ことがある」明智がたまりかねて、口を出した。「畑柳と斎藤の外に、君自身の

(じょしゅのそのだこっこうというぶんしをころしたのもきみだ。それはわかっている。だが、)

助手の園田黒虹という文士を殺したのも君だ。それはわかっている。だが、

(おかだみちひこは?しおばらのたきつぼでしんだあのおかだは?これもおそらくきみのしわざだと)

岡田道彦は?鹽原の滝壺で死んだあの岡田は?これも恐らく君の仕業だと

(おもうのだが へえ、おどろきましたね。とんでもないことですよ。ぼくはなにも)

思うのだが」「ヘエ、驚きましたね。飛んでもないことですよ。僕は何も

(しりませんよ みたにはますますいがいだというひょうじょうをする。いや、みたにばかりでは)

知りませんよ」三谷は益々意外だという表情をする。イヤ、三谷ばかりでは

(ない。このあけちのひとことには、つねかわしもすくなからずおどろかされた。そのだこっこうや)

ない。この明智の一言には、恒川氏も少からず驚かされた。園田黒虹や

(おかだみちひこまで、みたにのてにかかっていたとは!おかだはじさつをしたのではない。)

岡田道彦まで、三谷の手にかかっていたとは!「岡田は自殺をしたのではない。

(あのおとこがたきのおちぐちへのぼっていったのをみすまして、これさいわいと、きみがうしろから)

あの男が滝の落口へ昇って行ったのを見すまして、これ幸いと、君がうしろから

(つきおとしたのだ。つきおとしておいて、したいがかりゅうにうかびあがるのをまち、)

つき落としたのだ。つき落としておいて、死体が下流に浮かび上るのを待ち、

(そのかおをいしでたたきつぶして、おかだをわからぬようにしてしまったのだ)

その顔を石でたたきつぶして、岡田を分らぬ様にしてしまったのだ」

(おやおや、ぼくもすいきょうなまねをしたものですね ははははは、いかにも)

「オヤオヤ、僕も酔興な真似をしたものですね」「ハハハハハ、如何にも

(すいきょうだったよ。せっかくそうして、おかだのかおをわからぬようにして、おかだじしんが、)

酔興だったよ。折角そうして、岡田の顔を分らぬ様にして、岡田自身が、

(かえだまのしがいにかれのきものをきせてたきつぼへなげこみ、しんだとみせかけて、)

替玉の死骸に彼の着物を着せて滝壺へ投げ込み、死んだと見せかけて、

(そのじつこいがたきのきみやしずこさんにふくしゅうをしているようにおもわせる、あのねんいりな)

その実恋敵の君や倭文子さんに復讐をしている様に思わせる、あの念入りな

(とりっくが、ぼくにはなんのこうかもなかったのだからね。おかだがいきていて、)

トリックが、僕には何の効果もなかったのだからね。岡田が生きていて、

(しずこさんをくるしめているのだと、わざわざぼくのじむしょへおしえにきたのは、)

倭文子さんを苦しめているのだと、わざわざ僕の事務所へ教えに来たのは、

(きみではなかったかね。ぼくがそれをしんじたようにみせかけて、じつはきみのようすを)

君ではなかったかね。僕がそれを信じた様に見せかけて、実は君の様子を

(ちゅういしていたともしらないで。ははははははどうにもすいきょうなおちゃばんに)

注意していたとも知らないで。ハハハハハハ如何にも酔興なお茶番に

(そういなかったよ ふふん。で、しょうこは?かくうのそうぞうなら、だれにだって)

相違なかったよ」「フフン。で、証拠は?架空の想像なら、誰にだって

(できますからね。まさかさいばんかんは、それではしょうちしますまいよ みたにはいよいよ)

出来ますからね。まさか裁判官は、それでは承知しますまいよ」三谷はいよいよ

(おちつきはらって、ふたりにくってかかった。しょうこがほしいのかね ええ、あれば)

落つき払って、二人に食ってかかった。「証拠がほしいのかね」「エエ、あれば

(あればみせてほしいものですね よしいまそれをみせてあげる。ちょっとの)

あれば見せてほしいものですね」「よし今それを見せてあげる。ちょっとの

(しんぼうだ。おとなしくしているのだよ あけちはいいながら、つねかわけいぶに)

辛抱だ。おとなしくしているのだよ」明智はいいながら、恒川警部に

(めくばせした。このおとこが、うごかぬように、うしろからおさえていてください。)

目くばせした。「この男が、動かぬように、うしろから押さえていて下さい。

(はがたをとるのです それをきくと、みたにはあおくなって、いすからたちあがった。)

歯型をとるのです」それを聞くと、三谷は青くなって、椅子から立上った。

(かれははがたのいみをしっていたからだ。だが、にげだすひまはなかった。たちあがると)

彼は歯型の意味を知っていたからだ。だが、逃げ出すひまはなかった。立上ると

(どうじに、りょうほうのわきのしたから、けいぶのにほんのうでがにゅっとでて、いきなりかれを)

同時に、両方のわきの下から、警部の二本の腕がニュッと出て、いきなり彼を

(はがいじめにしてしまった。あけちはうごけなくなったみたにのかおを、ぐっとうしろへ)

はがいじめにしてしまった。明智は動けなくなった三谷の顔を、グッとうしろへ

(ねじまげて、くちびるをおしひらき、よういしていたあかいごむようのやわらかいかたまりを、)

ねじ曲げて、唇を押し開き、用意していた赤いゴム様の柔かい塊を、

(くいしばったじょうげのはなみに、ぴったりとおしつけ、てばやくはがたをとって)

食いしばった上下の歯並に、ピッタリと圧しつけ、手早く歯型をとって

(しまった。さあ、みたにくん。よくごらん。このあかのほうが、いまとったきみのはがただ。)

しまった。「サア、三谷君。よくごらん。この赤の方が、今取った君の歯型だ。

(それからこのしろいのが とあけちはぽけっとからぬのにくるんだせっこうのはがたを)

それからこの白いのが」と明智はポケットから布にくるんだ石膏の歯型を

(とりだしてあおやまのあきやにのこっていたしんはんにんのはがただ。このふたつがかんぜんに)

とり出して「青山の空家に残っていた真犯人の歯型だ。この二つが完全に

(いっちしたら、きみがすなわちしんはんにんだという、ぶってきしょうこができあがるわけだ。いまあわせて)

一致したら、君が即ち真犯人だという、物的証拠が出来上る訳だ。今合わせて

(みるから、よくごらん。ほらね、いちぶいちりんのちがいもなく、まったくおなじだ。これさえ)

見るから、よくごらん。ホラね、一分一厘の違いもなく、全く同じだ。これさえ

(あれば、きみがなんとこうべんしようとも、ぼくはさいばんかんのまえで、きみのゆうざいをしょうめいして)

あれば、君が何と抗弁しようとも、僕は裁判官の前で、君の有罪を証明して

(みせるよ みたにははがいじめにされたまま、くやしそうにくちびるをかんだ。)

みせるよ」三谷ははがいじめにされたまま、くやしそうに唇をかんだ。

(みたにくん、ぼくがどうして、きみをしんはんにんとにらんだかしっているかね あけちは)

「三谷君、僕がどうして、君を真犯人とにらんだか知っているかね」明智は

(にこにこしながらつづける。)

ニコニコしながら続ける。

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