吸血鬼77

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明智小五郎シリーズ
江戸川乱歩の作品です。句読点以外の記号は省いています。

関連タイピング

問題文

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(それはいつごろからだね やっぱりしごにちまえ、ちょうどおくさまがおばけをごらん)

「それはいつ頃からだね」「やっぱり四五日前、丁度奥様がおばけをごらん

(なすったじぶんからだともうしますの おなじはんざいげんばには、しょかんけいさつのしほうしゅにんが、)

なすった時分からだと申しますの」同じ犯罪現場には、所管警察の司法主任が、

(さいぜんからまどやどあやちょうどなどをねっしんにしらべまわっていたが、かれはそれをしながら)

最前から窓やドアや調度などを熱心に調べ廻っていたが、彼はそれをしながら

(おなみのはなしをこみみにいれたらしく、そのとき、ふたりのそばへやってきてくちを)

お波の話しを小耳に入れたらしく、その時、二人の側へやって来て口を

(はさんだ。しかし、えんのしたにもせよ、てんじょうにもせよ、そこからこのへやへ、)

はさんだ。「しかし、縁の下にもせよ、天井にもせよ、そこからこの部屋へ、

(どうしてはいったか、またどうしてでていったかということがもんだいです。それは)

どうして入ったか、又どうして出て行ったかということが問題です。それは

(ばあやさん、あなたがしょうにんじゃありませんか ええ、それがわたしもふしぎで)

婆あやさん、あなたが証人じゃありませんか」「エエ、それがわたしも不思議で

(ふしぎでしようがないのですよ おなみはまゆをしかめて、どういする。しほうしゅにんは)

不思議で仕様がないのですよ」お波は眉をしかめて、同意する。司法主任は

(つねかわしにむきなおってせつめいした。このばあやさんが、ひがいしゃとはなしていて、)

恒川氏に向き直って説明した。「この婆あやさんが、被害者と話していて、

(こどもをつれてちょっとのあいだろうかへでているすきに、はんざいがおこったのです。ひめいを)

子供をつれてちょっとの間廊下へ出ている隙に、犯罪が起ったのです。悲鳴を

(ききつけて、どあをひらいてみると、ひがいしゃはこのとおりたおれていてはんにんはかげもかたちも)

聞きつけて、ドアを開いて見ると、被害者はこの通り倒れていて犯人は影も形も

(なかったというのです。そうだったね、ばあやさん ええ、そのとおりで)

なかったというのです。そうだったね、婆あやさん」「エエ、その通りで

(ございます。しげるちゃんをろうかであそばせていたのは、わずかごふんかそこいらです。)

ございます。茂ちゃんを廊下で遊ばせていたのは、僅か五分かそこいらです。

(そのあいだ、わたし、このどあのそばをいちどもはなれませんから、わるものはどこか、)

その間、わたし、このドアのそばを一度も離れませんから、悪者はどこか、

(もっとべつのところからはいったにちがいございません ところが、ふしぎなことには、)

もっと別の所から入ったに違いございません」「ところが、不思議なことには、

(そとにいりぐちといっては、まったくないのです しほうしゅにんがひきとって まどには、)

外に入口といっては、全くないのです」司法主任が引きとって「窓には、

(てつごうしがはめてあります。てんじょうはしっくいでぬりかためてあります。ゆかいたにもいじょうは)

鉄格子がはめてあります。天井は漆くいで塗かためてあります。床板にも異状は

(ありません。といって、このへやには、ごらんのとおり、とだなもおしいれもなにも)

ありません。といって、この部屋には、ごらんの通り、戸棚も押入れも何も

(ないのですから、なにかのかげにせんぷくしていたというそうぞうは、ぜんぜんふかのうです)

ないのですから、何かの蔭に潜伏していたという想像は、全然不可能です」

(つねかわしは、このせつめいをきいても、にわかにしんようするきにはならなかった。いぜんおなじ)

恒川氏は、この説明を聞いても、俄に信用する気にはならなかった。以前同じ

など

(たてもののにかいのしょさいでも、おなじさつじんじけんがおこり、はんにんのしゅつにゅうがまったくふかのうに)

建物の二階の書斎でも、同じ殺人事件が起り、犯人の出入が全く不可能に

(みえたじつれいがあるからだ。そこで、つねかわしは、みずからゆかをはいまわり、かべを)

見えた実例があるからだ。そこで、恒川氏は、自ら床をはい廻り、壁を

(さすりまわして、ながいじかん、めんみつきわまるちょうさをとげた。てんじょうにもかべにもゆかにも、)

さすり廻して、長い時間、綿密極まる調査をとげた。天井にも壁にも床にも、

(かくしとなどはまったくなかった。まどのてつごうしも、あらたにしずこがとりつけた、)

隠し戸などは全くなかった。窓の鉄格子も、新に倭文子が取りつけた、

(がんじょうきわまるもので、なんらのいじょうがなかった。とすると、のこるはいりぐちのどあ)

頑丈極まるもので、何等の異常がなかった。とすると、残るは入口のドア

(たったひとつだ。おなみがくりかえしくりかえしとりしらべられた。だが、かのじょはだんことして)

たった一つだ。お波が繰返し繰返し取調べられた。だが、彼女は断乎として

(ぜんげんをひるがえさなかった。そのどあは、わたしがへやをでてから、あのことが)

前言をひるがえさなかった。「そのドアは、私が部屋を出てから、あのことが

(おこるまで、たえずわたしのめのさきにあったのです。いくらもうろくしても、そこを)

起るまで、絶えず私の目の先にあったのです。いくらもうろくしても、そこを

(ひとがとおるのを、みのがすはずはありません といいはった。すると、はんにんは)

人が通るのを、見のがす筈はありません」といい張った。すると、犯人は

(くうきのように、ふわふわとかたちのないやつであったか。しずこがじさつしたのか、)

空気のように、フワフワと形のない奴であったか。倭文子が自殺したのか、

(どちらかでなければならない。しかし、ふたつともかんがえられぬことだ。しずこのきずは)

どちらかでなければならない。しかし、二つとも考えられぬ事だ。倭文子の傷は

(どうしてもじぶんでは、つけられぬようなかしょにあった。つねかわしはとほうにくれた。)

どうしても自分では、つけられぬような個所にあった。恒川氏は途方にくれた。

(そしてさっきびょういんであけちにたのまれたことをおもいだした。そうだ、ともかくも、)

そしてさっき病院で明智に頼まれたことを思い出した。「そうだ、兎も角も、

(あけちくんにでんわをかけよう さいわい、そのへやにたくじょうでんわがあった。びょういんを)

明智君に電話をかけよう」幸い、その部屋に卓上電話があった。病院を

(よびだして、しばらくまつと、あけちのよわいこえがでた。かれはねつのあるみを、びょういんの)

呼び出して、しばらくまつと、明智の弱い声が出た。彼は熱のある身を、病院の

(でんわしつまではこんだのだ。けいぶはようりょうよく、さつじんげんばのもよう、はんにんのしんにゅうふかのうで)

電話室まで運んだのだ。警部は要領よく、殺人現場の模様、犯人の侵入不可能で

(あったじじつをつげた。あけちはでんわぐちで、しばらくかんがえこんでいるようすだったが、)

あった事実を告げた。明智は電話口で、しばらく考え込んでいる様子だったが、

(やがて、ややかっきづいたこえがひびいてきた。しずこさんは、そのへやのかぐも)

やがて、やや活気づいた声が響いて来た。「倭文子さんは、その部屋の家具も

(あたらしいものととりかえたのですか。そして、そのかぐやがきたのは、)

新しいものと取替えたのですか。そして、その家具屋が来たのは、

(いつでしょう。だれかにきいてください けいぶはおなみにたずねてからこたえた。)

いつでしょう。誰かに聞いて下さい」警部はお波にたずねてから答えた。

(すっかりとりかえたのだそうです。かぐやがはこんできたのはいつかまえだそうです。)

「すっかり取替えたのだそうです。家具屋が運んで来たのは五日前だそうです。

(しかし、それがなにか・・・・・・いつかまえ・・・・・・たにやまのおばけがあらわれたのも、だいどころの)

しかし、それが何か……」「五日前……谷山のお化が現れたのも、台所の

(たべものがなくなったのも、ちょうどそのころからですね ああ、そういえば、)

食べものがなくなったのも、丁度その頃からですね」「アア、そういえば、

(そうですね つねかわしは、しんそうはわからぬながら、なにかいみありげなじじつのいっちに)

そうですね」恒川氏は、真相は分らぬながら、何か意味ありげな時日の一致に

(おどろいてこたえた。しずこさんは、ながいすのまえにたおれていたのですね。・・・・・・それで)

驚いて答えた。「倭文子さんは、長椅子の前に倒れていたのですね。……それで

(ばあやがそのへやをでるときには、ひがいしゃはどこにいたのです。ながいすにかけていた)

婆やがその部屋を出る時には、被害者はどこにいたのです。長椅子に掛けていた

(のではありませんか そうです。そのとおりです すると、ながいすのうえにも)

のではありませんか」「そうです。その通りです」「すると、長椅子の上にも

(ちがながれてはいませんか ながれています。かなりのりょうです そこで、あけちはまた)

血が流れてはいませんか」「流れています。可成の量です」そこで、明智はまた

(ぱったりだまりこんでしまった。つねかわしはでんわをかけながら、あけちのすいりが、)

パッタリだまり込んでしまった。恒川氏は電話をかけながら、明智の推理が、

(あるてんにしゅうちゅうされていくのをかんじた。だが、それがなんであるかを、まだはっきり)

ある点に集中されて行くのを感じた。だが、それが何であるかを、まだハッキリ

(つかむことができないのだ。もしもし、それではもうでんわをきりますよ)

つかむことが出来ないのだ。「モシモシ、それではもう電話を切りますよ」

(いつまでたっても、あけちがだまっているのでけいぶがねんをおした。いや、)

いつまでたっても、明智がだまっているので警部が念を押した。「イヤ、

(ちょっとまってください。なんだかわかりそうです とつぜん、あけちのこうふんしたこえが)

ちょっと待って下さい。何だか分りそうです」突然、明智の興奮した声が

(きこえた。ぜったいにはんにんのしゅつにゅうするかしょはなかったのですね ぜったいになかった)

聞えた。「絶対に犯人の出入する個所はなかったのですね」「絶対になかった

(のです それから、はんざいがはっけんされてから、そのへやがすこしでもからっぽに)

のです」「それから、犯罪が発見されてから、その部屋が少しでもからっぽに

(なったときはありませんか。しがいだけのこして、みんなでてしまったことは)

なった時はありませんか。死骸だけ残して、みんな出てしまったことは

(ありませんか つねかわしは、そばにいたけいじにたずねて、こたえた。ありません。)

ありませんか」恒川氏は、側にいた刑事にたずねて、答えた。「ありません。

(たえずだれかが、へやのなかにいたそうです ではやっぱりそうです。ぼくは、)

絶えず誰かが、部屋の中にいたそうです」「ではやっぱりそうです。僕は、

(はんにんはたぶん、まだそのへやのなかにいるとおもうのです つねかわしは、びっくりして、)

犯人は多分、まだその部屋の中にいると思うのです」恒川氏は、びっくりして、

(あたりをみまわした。あけちはでんわではんざいをかいけつしようとしている。しかも、はんにんが)

あたりを見廻した。明智は電話で犯罪を解決しようとしている。しかも、犯人が

(まだこのへやにいるというのだ。だが、このけいかんたちのつめかけているへやの、)

まだこの部屋にいるというのだ。だが、この警官達の詰かけている部屋の、

(どこにはんにんがいるのだろう。かくれるようなばしょのないことは、さいぜんからのちょうさで)

どこに犯人がいるのだろう。隠れる様な場所のないことは、さい前からの調査で

(じゅうぶんわかっているのだ。ここには、けんじきょくとけいさついがいのものは、だれも)

充分解っているのだ。「ここには、検事局と警察以外のものは、誰も

(いません・・・・・・といいさして、けいぶはふといようなかんがえにうたれた。けんじきょくや)

いません……」といいさして、警部はふと異様な考えにうたれた。検事局や

(けいさつのものばかりだとはいえぬ。うばのおなみがいる。かのじょははんざいのちょくぜん、)

警察のものばかりだとはいえぬ。乳母のお波がいる。彼女は犯罪の直前、

(しずこにせっきんしたただひとりのじんぶつだ!つねかわしは、じろじろおなみのほうをながめながら)

倭文子に接近したただ一人の人物だ!恒川氏は、ジロジロお波の方を眺めながら

(いみありげにつづけた。)

意味ありげに続けた。

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