黒蜥蜴14

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プレイ回数1520難易度(4.2) 4943打 長文 かな 長文モード可
明智小五郎シリーズ
江戸川乱歩の作品です。句読点以外の記号は省いています。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 デコポン 6634 S+ 6.8 96.6% 711.4 4892 172 72 2024/03/23
2 kanta 4866 B 5.1 95.4% 950.0 4853 230 72 2024/02/14

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問題文

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(めいたんていのこうしょう)

名探偵の哄笑

(ああ、にんぎょうのくび。なんというずばぬけたぎまんだろう。あまりにもひとをくった)

ああ、人形の首。なんというズバぬけた欺瞞だろう。あまりにも人を喰った

(こどもだましのとりっくではないか。だが、こどもだましのとりっくであったから)

子供だましのトリックではないか。だが、子供だましのトリックであったから

(こそ、おとなたちがまんまといっぱいくらわされたのだ。さすがのあけちこごろうも、)

こそ、おとなたちがまんまと一ぱい喰わされたのだ。さすがの明智小五郎も、

(はんにんにこれほどおもいきったちきがあろうとは、そうぞうもできなかったのだ。)

犯人にこれほど思い切った稚気があろうとは、想像もできなかったのだ。

(それにしても、みどりかわふじんのいわゆる くらやみのきし とはなにものであったか。)

それにしても、緑川夫人のいわゆる「暗闇の騎士」とは何者であったか。

(さなえさんをゆうかいして、そのみがわりにこっけいなにんぎょうのくびをのこしていったしゃれものは、)

早苗さんを誘拐して、その身がわりに滑稽な人形の首を残して行った洒落者は、

(いったいだれであったか。どくしゃしょくんはよくごぞんじだ。その くらやみのきし とは、)

一体だれであったか。読者諸君はよくご存じだ。その「暗闇の騎士」とは、

(ほかでもないみどりかわふじんそのひとであった。ぜんしょうにしるしたとおり、かのじょはさなえさんに)

ほかでもない緑川夫人その人であった。前章にしるした通り、彼女は早苗さんに

(へんそうして、いちおうそのべっどにはいり、ねいったていをよそおっていわせしを)

変装して、一応そのベッドにはいり、寝入ったていをよそおって岩瀬氏を

(あんしんさせておき、さてあいてがすいみんざいにじゅくすいしたころをみはからい、よういのにんぎょうの)

安心させておき、さて相手が睡眠剤に熟睡した頃を見はからい、用意の人形の

(くびをみがわりにして、そっとじしつにたちかえったのだ。かのじょがいわせしのへやに)

首を身代わりにして、ソッと自室に立ち帰ったのだ。彼女が岩瀬氏の部屋に

(しのびこむとき、なにかしらかさばったふろしきづつみを、こわきにかかえていたことは、)

忍びこむ時、何かしらかさばった風呂敷包みを、小脇にかかえていたことは、

(どくしゃもきおくされるであろう。それがまじゅつのたね、にんぎょうのくびであった。あけちこごろうは)

読者も記憶されるであろう。それが魔術の種、人形の首であった。明智小五郎は

(ながいしろうとたんていせいかつちゅうに、これほどみじめなたちばにおかれたことはなかった。)

長い素人探偵生活中に、これほどみじめな立ち場におかれたことはなかった。

(いわせしのしんらいにたいしても、みどりかわふじんへのこうげんにたいしても、ひっこみのつかない)

岩瀬氏の信頼に対しても、緑川夫人への広言に対しても、引っ込みのつかない

(きゅうきょうであった。しかもそのしっさくのげんいんが、こどもだましのにんぎょうのくびとあっては、)

窮境であった。しかもその失策の原因が、子供だましの人形の首とあっては、

(はじてもはじきれないちじょくではないか。あけちさん、あんたにおねがいしておいた)

恥じても恥じきれない恥辱ではないか。「明智さん、あんたにお願いしておいた

(むすめが、これ、このとおりぬすまれてしまったのです。とりもどしてもらわねば)

娘が、これ、この通り盗まれてしまったのです。取り戻してもらわねば

(なりません。はやくてはいをしてください。あんたひとりのちからにおよばなければ、けいさつの)

なりません。早く手配をしてください。あんた一人の力に及ばなければ、警察の

など

(ちからをかりて......そうだ、こうなれば、もうけいさつよりたよるものはない。)

力を借りて......そうだ、こうなれば、もう警察より頼るものはない。

(けいさつへでんわをかけてください。それとも、わたしがかけましょうか)

警察へ電話をかけてください。それとも、わたしがかけましょうか」

(いわせしょうべえしは、げきじょうのあまりしんしのつつしみをわすれて、ついらんぼうなことばも)

岩瀬庄兵衛氏は、激情のあまり紳士のつつしみを忘れて、つい乱暴な言葉も

(はくのだ。いや、おまちください。いまさわぎたてたところで、ぞくを)

吐くのだ。「いや、お待ちください。いま騒ぎ立てたところで、賊を

(とらえることはできません。ゆうかいはすくなくともにじかんいぜんにおこなわれたのです)

捉えることはできません。誘拐は少なくとも二時間以前に行われたのです」

(あけちはしにものぐるいのきりょくで、やっとれいせいをたもち、するどくあたまをはたらかせながら)

明智は死にものぐるいの気力で、やっと冷静を保ち、鋭く頭を働かせながら

(いった。ぼくがこのへやでみはりをしているあいだには、なにごとも)

行った。「僕がこの部屋で見張りをしているあいだには、何事も

(おこらなかったことをだんげんします。はんざいはあのでんぽうがはいたつされるまえにおこなわれたと)

起こらなかったことを断言します。犯罪はあの電報が配達される前に行われたと

(かんがえるほかはありません。つまりあのでんぽうのしんいは、はんざいのよこくではなくて、)

考えるほかはありません。つまりあの電報の真意は、犯罪の予告ではなくて、

(すでにおこなわれたはんざいをこれからおこるもののようにみせかけ、じゅうにじまで)

すでに行なわれた犯罪をこれから起こるもののように見せかけ、十二時まで

(われわれのちゅういをこのへやにあつめておくことにあったのです。そして、)

われわれの注意をこの部屋に集めておくことにあったのです。そして、

(そのあいだにぞくはじゅうぶんあんぜんなばしょへとうぼうしようというけいかくだったのです)

そのあいだに賊は充分安全な場所へ逃亡しようという計画だったのです」

(ほほほほほ......あら、ごめんなさい。ついわらってしまって。でも、)

「ホホホホホ......あら、ごめんなさい。つい笑ってしまって。でも、

(めいたんていといわれるあけちさんが、にじかんも、いっしょけんめいにおにんぎょうのくびのばんを)

名探偵といわれる明智さんが、二時間も、一所懸命にお人形の首の番を

(していらっしゃったかとおもうと、おかしくって......みどりかわふじんが)

していらっしゃったかと思うと、おかしくって......」緑川夫人が

(ばしょがらをわきまえぬどくぐちをきいた。かのじょはいまやかんぜんにしょうりをえたのだ。)

場所がらをわきまえぬ毒口をきいた。彼女は今や完全に勝利を得たのだ。

(こみあげてくるかんきをどうすることもできなかったのだ。あけちははを)

こみあげてくる歓喜をどうすることもできなかったのだ。明智は歯を

(くいしばって、このちょうしょうにこたえた。かれははいしゃにはちがいなかった。だが、まったく)

食いしばって、この嘲笑に堪えた。彼は敗者には違いなかった。だが、全く

(やぶれてしまったのだとはどうしてもおもえない。なにかしらこころのすみにいちるののぞみが)

破れてしまったのだとはどうしても思えない。何かしら心の隅に一縷の望みが

(のこっているようなきがした。かれはそれをたしかめるまでは、このしょうぶを)

残っているような気がした。彼はそれをたしかめるまでは、この勝負を

(あきらめるきにはなれなかった。だが、こうしてまっていたって、むすめが)

あきらめる気にはなれなかった。「だが、こうして待っていたって、娘が

(かえってくるものでもありますまい いわせしはみどりかわふじんのどうじょうのないむだぐちに)

帰ってくるものでもありますまい」岩瀬氏は緑川夫人の同情のない無駄口に

(いっそういらいらして、あけちにつっかかっていった。あけちさん、わたしはけいさつへ)

一そうイライラして、明智に突っかかって行った。「明智さん、わたしは警察へ

(でんわをかけますよ。まさかふふくだとおっしゃるのではあるまいね かれはへんじも)

電話をかけますよ。まさか不服だとおっしゃるのではあるまいね」彼は返事も

(またず、いまのほうへよろめいていって、たくじょうのでんわきをとろうとした。すると、)

待たず、居間の方へよろめいて行って、卓上の電話機を取ろうとした。すると、

(ちょうどそのとき、まるでもうしあわせたでもしたように、せんぽうからじりりりと)

ちょうどその時、まるで申し合わせたでもしたように、先方からジリリリと

(よびだしのべるがなりひびいた。いわせしはちぇっとしたうちしながら、しかたなく)

呼び出しのベルが鳴りひびいた。岩瀬氏はチェッと舌打ちしながら、仕方なく

(じゅわきをとりあげ、つみもないこうかんしゅをくちぎたなくどなりつけていたが、やがて、)

受話器を取りあげ、罪もない交換手を口ぎたなくどなりつけていたが、やがて、

(かんしゃくごえであけちをよんだ。あけちさん、あんたにでんわだ あけちはそれを)

かんしゃく声で明智を呼んだ。「明智さん、あんたに電話だ」明智はそれを

(きくと、なにかわすれものをおもいだしでもしたように、はっとして、いきなり)

聞くと、何か忘れものを思い出しでもしたように、ハッとして、いきなり

(でんわきへとんでいった。でんわはなんのようけんであったか、かれはねっしんにうけこたえを)

電話機へ飛んで行った。電話はなんの用件であったか、彼は熱心に受け答えを

(していたが、さいごに、にじゅっぷん?そんなにかかるものか。じゅうごふん?いやいや、)

していたが、最後に、「二十分?そんなにかかるものか。十五分?いやいや、

(それではおそい。じゅっぷんだ。じゅっぷんでかけつけたまえ、ぼくはじゅっぷんしかまたないよ。)

それではおそい。十分だ。十分で駈けつけたまえ、僕は十分しか待たないよ。

(いいか というあけちのなぞのようなことばででんわがきれた。ごようがすんだら、)

いいか」という明智の謎のような言葉で電話が切れた。「御用がすんだら、

(ついでにけいさつをよびだすようにいってくださらんか あけちのそばに)

ついでに警察を呼び出すようにいってくださらんか」明智のそばに

(たちはだかってまちかまえていたいわせしが、いらいらしながらひにくまじりにいう。)

立ちはだかって待ち構えていた岩瀬氏が、イライラしながら皮肉まじりにいう。

(けいさつにほうこくするのは、そんなにいそぐことはありません。それよりも、すこしぼくに)

「警察に報告するのは、そんなに急ぐことはありません。それよりも、少し僕に

(かんがえさせてください。ぼくはたいへんなおもいちがいをしていたのです あけちは)

考えさせてください。僕は大へんな思いちがいをしていたのです」明智は

(いわせしにとりあおうともせず、そこにつったったまま、のんきせんばんにも、)

岩瀬氏に取りあおうともせず、そこに突っ立ったまま、のんき千万にも、

(なにかしらかんがえごとをはじめた。あけちさん、あんたはわしのむすめのことはかんがえて)

何かしら考えごとをはじめた。「明智さん、あんたはわしの娘のことは考えて

(くださらんのか。あんなにかたくひきうけておきながら......あけちの)

くださらんのか。あんなに固く引き受けておきながら......」明智の

(げしがたいたいどに、いわせしのいかりがますますこうじていくのはむりもないことで)

解しがたい態度に、岩瀬氏の怒りがますます高じて行くのは無理もないことで

(あった。ほほほほほ、いわせさん、あけちさんはね、おじょうさんのことなんか)

あった。「ホホホホホ、岩瀬さん、明智さんはね、お嬢さんのことなんか

(おかんがえになるよゆうがありませんのよ いつのまにかしんしつからいまのほうへ)

お考えになる余裕がありませんのよ」いつの間にか寝室から居間の方へ

(はいってきたみどりかわふじんのほがらかなこえがきこえた。え、え、なんと)

はいってきた緑川夫人のほがらかな声が聞こえた。「え、え、なんと

(おっしゃる いわせしがあっけにとられる。あけちさん、いまおかんがえに)

おっしゃる」岩瀬氏があっけにとられる。「明智さん、いまお考えに

(なってることあててみましょうか。わたしとのかけのこと、ね、そうでしょう。)

なってること当てて見ましょうか。私との賭けのこと、ね、そうでしょう。

(ほほほほほほ にょぞくはいまやめいたんていへのてきいをあらわにして、だいてんふてきのたいどを)

ホホホホホホ」女賊は今や名探偵への敵意をあらわにして、大点不敵の態度を

(しめした。いわせさん、あけちさんはあたしとかけをなさいましたの。)

示した。「岩瀬さん、明智さんはあたしと賭けをなさいましたの。

(しろうとたんていというしょくぎょうをおかけなさいましたのよ。そして、とうとうあけちさんの)

素人探偵という職業をお賭けなさいましたのよ。そして、とうとう明智さんの

(まけときましたものですから。あんなにうなだれてかんがえこんでいらっしゃる)

負けときましたものですから。あんなにうなだれて考えこんでいらっしゃる

(のですわ。ね、そうでしょう、あけちさん)

のですわ。ね、そうでしょう、明智さん」

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