黒蜥蜴21

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投稿者投稿者桃仔いいね1お気に入り登録
プレイ回数1633難易度(4.5) 3663打 長文 長文モード可
明智小五郎シリーズ
江戸川乱歩の作品です。句読点以外の記号は省いています。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 123 6134 A++ 6.3 96.3% 574.0 3660 139 53 2024/10/02

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問題文

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(しゅじんのこえにふたりのしょせいがろうかへでて、そこでみはりばんをつとめた。そのろうかの)

主人の声に二人の書生が廊下へ出て、そこで見張り番を勤めた。その廊下の

(つきあたりがおうせつまのどあになっていた。しょせいたちのまえをとおらないでは、だれも)

突きあたりが応接間のドアになっていた。書生たちの前を通らないでは、だれも

(さなえさんのいるへやへはいることはできないのだ。むろんおうせつまには、にわに)

早苗さんのいる部屋へはいることはできないのだ。むろん応接間には、庭に

(めんしていくつかのまどがひらいていたけれど、それにはすべて、れいのいかめしい)

面していくつかの窓がひらいていたけれど、それにはすべて、例のいかめしい

(てつごうしがはめてある。にわからも、ろうかからも、さなえさんのしんぺんにちかづくみちは、)

鉄格子がはめてある。庭からも、廊下からも、早苗さんの身辺に近づく道は、

(まったくとぜつされていた。でなくては、いかにきゅうようのでんわとはいえ、いわせしが)

全く杜絶されていた。でなくては、いかに急用の電話とはいえ、岩瀬氏が

(そのへやにさなえさんをひとりぼっちでのこしていくはずはなかった。でんわのけっか、)

その部屋に早苗さんを一人ぼっちで残して行くはずはなかった。電話の結果、

(いわせしはきゅうにおおさかのみせへでむかなければならなくなった。かれはおおいそぎできがえを)

岩瀬氏は急に大阪の店へ出向かなければならなくなった。彼は大急ぎで着がえを

(して、ふじんとこまづかいにみおくられて、げんかんにでた。さなえにきをつけて)

して、夫人と小間使いに見送られて、玄関に出た。「早苗に気をつけて

(くださいよ。いまおうせつまにいる。しょせいたちにみはりをいいつけておいたけれど、)

くださいよ。今応接間にいる。書生たちに見張りを言いつけておいたけれど、

(おまえもよくちゅういしてください かれはこまづかいにくつのひもをむすばせながら、ふじんに)

お前もよく注意してください」彼は小間使いに靴の紐を結ばせながら、夫人に

(いくどもねんをおした。ふじんはしゅじんがじどうしゃにおさまるのをみおくっておいて、むすめの)

幾度も念を押した。夫人は主人が自動車におさまるのを見送っておいて、娘の

(ようすをみようとおうせつまにちかづいたが、きがつくと、ぴあののおとがきこえている。)

様子を見ようと応接間に近づいたが、気がつくと、ピアノの音が聞こえている。

(まあ、さなえさんがぴあのをひいている。ちかごろにないことだわ。)

「まあ、早苗さんがピアノをひいている。近頃にないことだわ。

(いいあんばいだ。じゃそっとしておいてやりましょう かのじょはなんとなく)

いいあんばいだ。じゃソッとしておいてやりましょう」彼女はなんとなく

(かろやかなきもちになって、しょせいたちにみはりをおこたらないようにちゅういをあたえたうえ)

軽やかな気持になって、書生たちに見張りをおこたらないように注意を与えた上

(いまのほうへひきかえしていった。おうせつまのなかのさなえさんは、ちちおやがいってしまうと)

居間の方へ引き返して行った。応接間の中の早苗さんは、父親が行ってしまうと

(ひとつひとつのいすのかけごごちをくらべてみたり、たってまどのそとをながめたりして)

一つ一つの椅子の掛け心地をくらべてみたり、立って窓のそとを眺めたりして

(いたが、やがてぴあののふたをひらいて、でたらめにきいをたたきはじめた。)

いたが、やがてピアノの蓋をひらいて、でたらめにキイを叩きはじめた。

(たたいているうちにきょうがのって、どうようのきょくになったり、それがいつのまにか)

叩いているうちに興が乗って、童謡の曲になったり、それがいつの間にか

など

(おぺらのいっせつにかわっていたりした。しばらくはぴあのにむちゅうになっていたが、)

オペラの一節に変っていたりした。しばらくはピアノに夢中になっていたが、

(それにもあきて、もういまへかえりましょうとたちあがって、ひょいと)

それにも飽きて、もう居間へ帰りましょうと立ちあがって、ひょいと

(ふりむいたとき、かのじょはそこに、じつにおもいもかけないおそろしいもののすがたをはっけんして、)

振り向いた時、彼女はそこに、実に思いもかけない恐ろしい物の姿を発見して、

(ぎょっとたちすくんでしまった。ああ、どうしてこんなことがおこりえたので)

ギョッと立ちすくんでしまった。ああ、どうしてこんなことが起こり得たので

(あろう。まどからもろうかからも、そのへやへしのびこむみちはまったくとぜつしていたのだ。)

あろう。窓からも廊下からも、その部屋へ忍びこむ道は全く杜絶していたのだ。

(ぴあのとかながいすとか、そのほかのちょうどのうしろにはひとがかくれるほどの)

ピアノとか長椅子とか、そのほかの調度のうしろには人がかくれるほどの

(すきまはないのだし、ちかごろのひくいいすでは、そのしたへひそむことなどおもいも)

すき間はないのだし、近頃の低い椅子では、その下へひそむことなど思いも

(よらぬ。ついいましがたまでこのへやには、さなえさんのほかにいきたものとては、)

よらぬ。つい今し方までこの部屋には、早苗さんのほかに生きたものとては、

(ねこいっぴきさえもいなかったのだ。それにもかかわらず、いまさなえさんのめのまえに、)

猫一匹さえもいなかったのだ。それにもかかわらず、今早苗さんの眼の前に、

(ひとりのいようなじんぶつがたちはだかっていたではないか。もじゃもじゃのかみのけ、)

一人の異様な人物が立ちはだかっていたではないか。モジャモジャの髪の毛、

(かおじゅうをうすぐろくしたぶしょうひげ、ぎらぎらとゆだんなくひかるおそろしいめ、)

顔じゅうを薄黒くした無精ひげ、ギラギラと油断なく光る恐ろしい眼、

(ところどころにやぶれのみえるきたないせびろふく・・・・・・どこをどうしてはいって)

ところどころに破れの見えるきたない背広服……どこをどうしてはいって

(きたのか、このおばけみたいなおとこは、かんがえてみるまでもない、にょぞく)

きたのか、このおばけみたいな男は、考えてみるまでもない、女賊

(くろとかげ のてしたのやつにきまっている。ああ、とうとう、よきしたものが)

「黒トカゲ」の手下のやつにきまっている。ああ、とうとう、予期したものが

(やってきたのだ。しかも、ひとびとがややゆだんしはじめたうつろにつけこんで、)

やってきたのだ。しかも、人々がやや油断しはじめた虚につけこんで、

(まじゅつしのようなかいぞくは、やすやすとけいかいをとっぱし、ゆうれいみたいに、どあの)

魔術師のような怪賊は、やすやすと警戒を突破し、幽霊みたいに、ドアの

(すきまからしのびこんできたのだ。おっと、こえをたてちゃいけないよ。てあらな)

すき間から忍びこんできたのだ。「おっと、声を立てちゃいけないよ。手荒な

(ことはしやしない。おれたちにもたいせつなおじょうさんだからね くせものがひくいこえで、)

ことはしやしない。おれたちにも大切なお嬢さんだからね」曲者が低い声で、

(おどしつけた。だが、そんなちゅういをうけるまでもなく、かわいそうなさなえさんは)

おどしつけた。だが、そんな注意を受けるまでもなく、かわいそうな早苗さんは

(おそろしさに、からだじゅうがしびれたようになって、みうごきも、さけびごえをたてる)

恐ろしさに、からだじゅうがしびれたようになって、身動きも、叫び声を立てる

(こともできなくなっていた。ぞくはにやりとぶきみなびしょうをうかべて、すばやく)

こともできなくなっていた。賊はニヤリと無気味な微笑を浮かべて、素早く

(さなえさんのはいごにまわり、ぽけっとからまるめたはんかちのようなものをとりだすと)

早苗さんの背後に廻り、ポケットから丸めたハンカチのようなものを取り出すと

(やにわにかのじょにおどりかかって、そのはんかちでくちをおさえてしまった。)

やにわに彼女におどりかかって、そのハンカチで口をおさえてしまった。

(さなえさんは、かたからむねにかけて、へびにしめつけられたような、いやらしいあつりょくを)

早苗さんは、肩から胸にかけて、蛇にしめつけられたような、いやらしい圧力を

(かんじた。くちははんかちのために、にわかにむっといきぐるしくなった。)

感じた。口はハンカチのために、にわかにムッと息苦しくなった。

(いくらなんでも、もうじっとしてはいられない。かのじょはかよわいしょうじょのちからの)

いくらなんでも、もうじっとしてはいられない。彼女はかよわい少女の力の

(あらんかぎり、くせもののてからのがれようともがいた。くものいとにかかった)

あらんかぎり、曲者の手から逃がれようともがいた。クモの糸にかかった

(うつくしいいっぴきのちょうのように、みじめに、ものぐるおしくはねまわった。だが、やがて、)

美しい一匹の蝶のように、みじめに、物狂おしくはね廻った。だが、やがて、

(かのじょのかっぱつにうごいていたてあしが、じょじょにちからをうしない、いつしか、ぐったりと)

彼女の活溌に動いていた手足が、徐々に力を失い、いつしか、ぐったりと

(しずまりかえってしまった。ますいざいのききめである。くせものは、ちょうがはばたき)

静まり返ってしまった。麻酔剤のききめである。曲者は、蝶が羽ばたき

(しなくなると、そのからだをそっとじゅうたんのうえにねかせ、はだかったきものの)

しなくなると、そのからだをソッとジュウタンの上に寝かせ、はだかった着物の

(すそをあわせてやりながら、うつくしくねむったさなえさんのかおをながめて、またしても)

裾を合わせてやりながら、美しく眠った早苗さんの顔を眺めて、またしても

(にやにやと、そこぎみのわるいびしょうをうかべるのであった。)

ニヤニヤと、底気味のわるい微笑を浮かべるのであった。

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