黒蜥蜴27
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 123 | 6247 | A++ | 6.4 | 97.3% | 569.0 | 3653 | 98 | 52 | 2024/10/06 |
2 | ひま | 5276 | B++ | 5.6 | 94.0% | 658.6 | 3708 | 233 | 52 | 2024/10/14 |
3 | daifuku | 3482 | D | 3.6 | 94.7% | 994.1 | 3665 | 203 | 52 | 2024/10/07 |
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問題文
(とうじょうのくろとかげ)
塔上の黒トカゲ
(そのよくじつ、やくそくのごごごじすこしまえ、いわせしょうべえしは、もじどおりてきのじょうけんをまもって)
その翌日、約束の午後五時少し前、岩瀬庄兵衛氏は、文字通り敵の条件を守って
(あけちいがいのなにびとにもつげず、ただひとり、tこうえんのいりぐち、てんくうたかくそびえる)
明智以外のなにびとにも告げず、ただ一人、T公園の入口、天空高くそびえる
(てっとうのしたにたどりついた。tこうえんといえば、そのちいきのひろさ、ひびどんとする)
鉄塔の下にたどりついた。T公園といえば、その地域の広さ、日々呑吐する
(ぐんしゅうのおびただしさでは、おおさかずいいちのだいゆうらっきょうであった。たちならぶげきじょう、)
群衆のおびただしさでは、大阪随一の大遊楽境であった。立ち並ぶ劇場、
(えいがかん、いんしょくてん、おるがごときざっとう、ろてんしょうにんのさけびごえ、でんちくのそうおん、)
映画館、飲食店、織るがごとき雑沓、露天商人の叫び声、電蓄の騒音、
(こどものなきごえ、すうまんのくつとげたとのかなでるこうきょうがく、けりたてるすなぼこり。)
子供の泣き声、数万の靴と下駄とのかなでる交響楽、蹴立てる砂ぼこり。
(そのまんなかに、ぱりのえっふぇるとうをもしたつうてんかくのてっこつが、だいおおさかを)
そのまん中に、パリのエッフェル塔を模した通天閣の鉄骨が、大大阪を
(みおろして、くもにそびえているのだ。ああ、なんというだいたんふてき、なんという)
見おろして、雲にそびえているのだ。ああ、なんという大胆不敵、なんという
(ぼうじゃくぶじん、にょぞく くろとかげ は、よりによって、このだいかんらくきょうのまっただなか、)
傍若無人、女賊「黒トカゲ」は、選りに選って、この大歓楽境のまっただ中、
(しゅうじんかんしのとうじょうを、みのしろきんじゅじゅのばしょとさだめたのであった。このおしばいっけ、)
衆人環視の塔上を、身代金授受の場所と定めたのであった。このお芝居気、
(このぼうけん、あのくろこふじんでなくてはできないげいとうである。いわせしはしんけいのふとい)
この冒険、あの黒衣婦人でなくてはできない芸当である。岩瀬氏は神経の太い
(しょうにんではあったけれど、いよいよぞくとたいめんするかとおもうと、むなさわぎを)
商人ではあったけれど、いよいよ賊と対面するかと思うと、胸騒ぎを
(きんじえなかった。かれはすこしばかりかたくなってとうじょうへのえれべーたーにはいった。)
禁じ得なかった。彼は少しばかり固くなって塔上へのエレベーターにはいった。
(えれべーたーのじょうしょうとともに、おおさかのまちがぐんぐんしたのほうへしずんでいく。)
エレベーターの上昇とともに、大阪の街がグングン下の方へ沈んで行く。
(ふゆのたいようはもうちへいせんにちかく、やねというやねのかたがわはくろいかげになって、)
冬の太陽はもう地平線に近く、屋根という屋根の片側は黒い影になって、
(うつくしいごばんもようをえがいていた。やっとちょうじょうにたっして、しほうみはらしのてんぼうだいに)
美しい碁盤模様をえがいていた。やっと頂上に達して、四方見晴らしの展望台に
(でると、げかいではそれほどでもなかったふゆのかぜが、ひゅーひゅーとはげしくほおを)
出ると、下界ではそれほどでもなかった冬の風が、ヒューヒューと烈しく頬を
(うった。ふゆのつうてんかくはふにんきだ。それにゆうがたのせいもあって、てんぼうだいにはひとりの)
打った。冬の通天閣は不人気だ。それに夕方のせいもあって、展望台には一人の
(ゆうらんきゃくもみえなかった。かざよけのほぬのをはりめぐらした、かしやくだものや)
遊覧客も見えなかった。風よけの帆布を張りめぐらした、菓子や果物や
(えはがきなどのばいてんに、みせばんのふうふものがさむそうにすわっているほかにはまったくひとかげは)
絵葉書などの売店に、店番の夫婦者が寒そうに坐っているほかには全く人影は
(なく、なにかこう、じんかいをはなれて、てんじょうのむじんのきょうへきたような、ものさびしい)
なく、何かこう、人界をはなれて、天上の無人の境へ来たような、物さびしい
(かんじであった。らんかんにもたれて、げかいをのぞくと、ここのさびしさとは)
感じであった。欄干にもたれて、下界をのぞくと、ここのさびしさとは
(うってかわったざっとうの、すうせんびきのありのぎょうれつのようなひとどおりが、あしもとに)
打って変った雑沓の、数千匹の蟻の行列のような人通りが、足もとに
(くすぐったくながめられた。そうしてかんぷうにふきさらされながら、しばらくまって)
くすぐったく眺められた。そうして寒風に吹きさらされながら、しばらく待って
(いると、やがてつぎのえれべーたーがとうちゃくして、がらがらとてつのとびらのひらくおとと)
いると、やがて次のエレベーターが到着して、ガラガラと鉄の扉のひらく音と
(ともに、ひとりのおくさまらしいよそおいの、きんぶちのめがねをかけたわふくのふじんが、)
ともに、一人の奥様らしいよそおいの、金縁の目がねをかけた和服の婦人が、
(てんぼうだいにあらわれ、にこにこわらいながら、いわせしのほうへちかづいてきた。いまじぶん、)
展望台に現われ、ニコニコ笑いながら、岩瀬氏の方へ近づいて来た。今時分、
(このさびしいとうじょうへ、こんなしとやかなふじんが、たったひとりでのぼってくる)
このさびしい塔上へ、こんなしとやかな婦人が、たった一人でのぼってくる
(なんて、なんとなくそぐわぬかんじであった。ものずきなおくさんもあるものだ)
なんて、なんとなくそぐわぬ感じであった。「物ずきな奥さんもあるものだ」
(と、ぼんやりながめていると、おどろいたことには、そのふじんがいきなりいわせしに)
と、ボンヤリ眺めていると、驚いたことには、その婦人がいきなり岩瀬氏に
(はなしかけたのである。ほほほほほ、いわせさん、おみわすれでございますか。)
話しかけたのである。「ホホホホホ、岩瀬さん、お見忘れでございますか。
(わたくしとうきょうのほてるでごこんいねがいましたみどりかわでございますわ ああ、では)
わたくし東京のホテルでご懇意願いました緑川でございますわ」ああ、では
(このおんながみどりかわふじん、すなわち くろとかげ であったのか。なんというばけものだ。)
この女が緑川夫人、すなわち「黒トカゲ」であったのか。なんという化物だ。
(わふくをきて、めがねをかけて、まるまげなんかにゆって、まるでそうごうがかわっている)
和服を着て、目がねをかけて、丸髷なんかに結って、まるで相好が変っている
(ではないか。このしとやかなおくさまが、にょぞく くろとかげ であろうとは。)
ではないか。このしとやかな奥様が、女賊「黒トカゲ」であろうとは。
(・・・・・・・・・・・・いわせしは、あいてのひとをくったなれなれしさに、はげしいぞうおをかんじて)
「…………」岩瀬氏は、相手の人を喰ったなれなれしさに、烈しい憎悪を感じて
(だまったままそのうつくしいかおをにらみつけていた。このたびはどうもとんだ)
だまったままその美しい顔をにらみつけていた。「このたびはどうも飛んだ
(おさわがせをいたしまして かのじょはそういって、まるできふじんのように、じょうひんな)
お騒がせをいたしまして」彼女はそういって、まるで貴婦人のように、上品な
(おじぎをした。なにもいうことはない。わしはきみのじょうけんをすこしもたがえず)
お辞儀をした。「何もいうことはない。わしは君の条件を少しもたがえず
(りこうした。むすめはまちがいなくかえしてくれるのだろうね いわせしはあいてのおしばいに)
履行した。娘は間違いなく返してくれるのだろうね」岩瀬氏は相手のお芝居に
(とりあわず、ようけんだけをぶっきらぼうにいった。ええ。それはもう)
取り合わず、用件だけをぶっきらぼうに言った。「ええ。それはもう
(まちがいなく......おじょうさんたいへんおげんきでいらっしゃいます。どうか)
間違いなく......お嬢さん大へんお元気でいらっしゃいます。どうか
(ごあんしんあそばして......そして、あの、おやくそくのものはおもちください)
ご安心あそばして......そして、あの、お約束のものはお持ちください
(ましたでしょうか うむ、もってきました。さあ、これです。しらべて)
ましたでしょうか」「ウム、持ってきました。さあ、これです。しらべて
(みるがいい いわせしはかいちゅうから、ぎんせいのこばこをとりだして、おもいきったように、)
見るがいい」岩瀬氏は懐中から、銀製の小函を取り出して、思い切ったように、
(ふじんのまえにつきつけた。まあ、ありがとうございました。では、ちょっと)
夫人の前につきつけた。「まあ、ありがとうございました。では、ちょっと
(はいけんを......くろとかげ はおちつきはらって、こばこをうけとり、)
拝見を......」「黒トカゲ」は落ちつきはらって、小函を受取り、
(そでのかげでふたをあけて、しろびろーどのだいざにおさまったきょだいなほうせきを、じっと)
袖のかげで蓋をあけて、白ビロードの台座におさまった巨大な宝石を、じっと
(みいった。ああ、なんてすばらしい......みるみる、かのじょのかおに)
見入った。「ああ、なんてすばらしい......」みるみる、彼女の顔に
(かんきのちがのぼった。きだいのほうせきには、せんまいばりのにょぞくのかおをさえ)
歓喜の血がのぼった。稀代の宝石には、千枚張りの女賊の顔をさえ
(あからめさせる、しんぴのみりょくがこもっていたのだ。)
あからめさせる、神秘の魅力がこもっていたのだ。