怪人二十面相69 江戸川乱歩
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問題文
(「すると、きみは、このぶつぞうがにせものだというのか」 「そうですとも、あなたがたに)
「すると、君は、この仏像が贋物だというのか」 「そうですとも、貴方がたに
(もうすこしびじゅつがんがありさえすれば、こんなきずぐちをこしらえてみるまでもなく、ひとめで)
もう少し美術眼がありさえすれば、こんな傷口を拵えてみるまでもなく、一目で
(にせものとわかったはずです。あたらしいきでもぞうひんをつくって、そとからとりょうをぬって)
贋物と分かったはずです。新しい木で模造品を作って、外から塗料を塗って
(ふるいぶつぞうのようにみせかけたのですよ。もぞうひんせんもんのしょくにんのてにかけさえすれば)
古い仏像のように見せかけたのですよ。模造品専門の職人の手にかけさえすれば
(わけなくできるのです」 あけちは、こともなげにせつめいしました。)
わけなくできるのです」 明智は、こともなげに説明しました。
(「きたこうじさん、これはいったい、どうしたことでしょう。こくりつはくぶつかんのちんれつひんが)
「北小路さん、これはいったい、どうしたことでしょう。国立博物館の陳列品が
(まっかなにせものだなんて・・・・・・」 けいしそうかんがろうかんちょうをなじるようにいいました。)
真っ赤な贋物だなんて……」 警視総監が老館長を詰るように言いました。
(「あきれました。あきれたことです」 あけちにてをとられて、ぼうぜんとたたずんでいた)
「呆れました。呆れた事です」 明智に手を取られて、呆然と佇んでいた
(ろうはかせが、ろうばいしながらてれかくしのようにこたえました。 そこへさわぎを)
老博士が、狼狽しながら照れ隠しのように答えました。 そこへ騒ぎを
(ききつけて、3にんのかんいんがあわただしくはいってきました。そのなかのひとりは、)
聞きつけて、三人の館員が慌ただしく入ってきました。その中の一人は、
(こだいびじゅつかんていのせんもんかで、そのほうめんのかかりちょうをつとめているひとでしたが、)
古代美術鑑定の専門家で、その方面の係長を務めている人でしたが、
(こわれたぶつぞうをひとめみると、さすがにたちまちきづいてさけびました。)
壊れた仏像をひと目見ると、さすがにたちまち気づいて叫びました。
(「あっ、これはみんなもぞうひんだ。しかし、へんですね。きのうまでは、たしかにほんものが)
「アッ、これはみんな模造品だ。しかし、変ですね。昨日までは、確かに本物が
(ここにおいてあったのですよ。わたしはきのうのごご、このちんれつだなのなかへ)
ここに置いてあったのですよ。私は昨日の午後、この陳列棚の中へ
(はいったのですから、まちがいありません」 「すると、きのうまでほんものだったのが、)
入ったのですから、間違いありません」 「すると、昨日まで本物だったのが、
(きょうとつぜん、にせものとかわったというのだね。へんだな、いったい、これはどうしたと)
今日突然、贋物と代わったというのだね。変だな、一体、これはどうしたと
(いうのだ」 そうかんがきつねにつままれたようなひょうじょうで、いちどうをみまわしました。)
いうのだ」 総監がキツネにつままれたような表情で、一同を見回しました。
(「まだおわかりになりませんか。つまり、このはくぶつかんのなかは、すっかり、)
「まだお分かりになりませんか。つまり、この博物館の中は、すっかり、
(からっぽになってしまったということですよ」 あけちはこういいながら、むこうがわの)
空っぽになってしまったという事ですよ」 明智はこう言いながら、向こう側の
(べつのちんれつだなをゆびさしました。 「な、なんだって?すると、きみは・・・・・・」)
別の陳列棚を指さしました。 「な、何だって? すると、君は……」
(けいじぶちょうが、おもわずとんきょうなこえをたてました。 さいぜんのかんいんは、あけちのことばの)
刑事部長が、思わず頓狂な声をたてました。 最前の館員は、明智の言葉の
(いみをさとったのか、つかつかとそのたなのまえにちかづいて、がらすにかおを)
意味を悟ったのか、ツカツカとその棚の前に近付いて、ガラスに顔を
(くっつけるようにして、なかにかけならべたくろずんだぶつがをぎょうししました。)
くっつけるようにして、中に掛け並べた黒ずんだ仏画を凝視しました。
(そして、たちまちさけびだすのでした。 「あっ、これも、これも、あれも、かんちょう)
そして、たちまち叫び出すのでした。 「アッ、これも、これも、あれも、館長
(かんちょう、このなかのえは、みんなにせものです。ひとつのこらずにせものです」)
館長、この中の絵は、みんな贋物です。一つ残らず贋物です」
(「ほかのたなをしらべてくれたまえ。はやく、はやく」 けいじぶちょうのことばをまつまでもなく)
「外の棚を調べてくれ給え。早く、早く」 刑事部長の言葉を待つまでもなく
(3にんのかんいんは、くちぐちになにかわめきながら、きちがいのようにちんれつだなからちんれつだなへと、)
三人の館員は、口々に何か喚きながら、気違いのように陳列棚から陳列棚へと、
(のぞきまわりました。 「にせものです。めぼしいびじゅつひんは、どれもこれも、)
覗き回りました。 「贋物です。目ぼしい美術品は、どれもこれも、
(すっかりもぞうひんです」 それから、かれらはころがるように、かいかのちんれつじょうへ)
すっかり模造品です」 それから、彼らは転がるように、階下の陳列場へ
(おりていきましたが、しばらくして、もとの2かいへもどってきたときには、かんいんのにんずうは、)
降りて行きましたが、暫くして、元の二階へ戻って来た時には、館員の人数は、
(10にんいじょうにふえていました。そして、だれもかれも、もうまっかになって)
十人以上に増えていました。そして、誰も彼も、もう真っ赤になって
(ふんがいしているのです。 「したもおなじことです。のこっているのはつまらないもの)
憤慨しているのです。 「下も同じことです。残っているのはつまらない物
(ばかりです。きちょうひんというきちょうひんは、すっかりにせものです・・・・・・。しかし、かんちょう、)
ばかりです。貴重品という貴重品は、すっかり贋物です……。しかし、館長、
(いまもみなとはなしたのですが、じつにふしぎというほかはありません。きのうまでは、)
今も皆と話したのですが、実に不思議という外はありません。昨日までは、
(たしかに、もぞうひんなんてひとつもなかったのです。それぞれうけもちのものが、そのてんは)
確かに、模造品なんて一つもなかったのです。それぞれ受持の者が、その点は
(じしんをもってだんげんしています。それが、たった1にちのうちに、だいしょうひゃくなんてんという)
自信をもって断言しています。それが、たった一日のうちに、大小百何点という
(びじゅつひんが、まるでまほうのように、にせものにかわってしまったのです」)
美術品が、まるで魔法のように、贋物に代わってしまったのです」
(かんいんは、くやしさにじだんだをふむようにしてさけびました。 「あけちくん、われわれは)
館員は、悔しさに地団駄を踏むようにして叫びました。 「明智君、我々は
(またしてもやつのために、まんまとやられたらしいね」 そうかんが、ちんつうなおももちで)
またしても奴の為に、まんまとやられたらしいね」 総監が、沈痛な面持ちで
(めいたんていをかえりみました。 )
名探偵を顧みました。