黒蜥蜴41

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投稿者投稿者桃仔いいね3お気に入り登録
プレイ回数1376難易度(4.2) 4644打 長文 かな 長文モード可
明智小五郎シリーズ
江戸川乱歩の作品です。句読点以外の記号は省いています。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 ひま 5526 A 5.8 94.2% 798.3 4699 287 69 2024/10/18

関連タイピング

問題文

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(にんぎょういへん)

人形異変

(そのせんいんふうのおとこは くろとかげ のぶかのうち、おきのきせんのなかにねとまりをしている)

その船員風の男は「黒トカゲ」の部下のうち、沖の汽船の中に寝泊りをしている

(ひとりであったが、かれはちかどうのおくにあるしゅりょう くろとかげ のししつのまえにちかづくと)

一人であったが、彼は地下道の奥にある首領「黒トカゲ」の私室の前に近づくと

(やっぱりあんごうめいたたたきかたで、そこのどあをのっくした。おはいり にょぞくの)

やっぱり暗号めいた叩き方で、そこのドアをノックした。「おはいり」女賊の

(けんいをもって、あらくれおとこばかりのなかにいても、どあにかぎをかけるなんて)

権威を以て、荒くれ男ばかりの中にいても、ドアに鍵をかけるなんて

(ふけんしきなことはしない。よなかであろうが、おはいり のひとことで、どあは)

不見識なことはしない。夜中であろうが、「おはいり」の一ことで、ドアは

(いつでもひらくようになっている。まあ、どうしたのさ、あさっぱらから。)

いつでもひらくようになっている。「まあ、どうしたのさ、朝っぱらから。

(まだろくじじゃないの?くろとかげ はしろいべっどのうえに、しろきぬの)

まだ六時じゃないの?」「黒トカゲ」は白いベッドの上に、白絹の

(ぱじゃまいちまいで、ふぎょうぎなはらばいになったまま、はいってきたおとこをよこめで)

パジャマ一枚で、不行儀な腹ばいになったまま、はいってきた男を横眼で

(みながら、まきたばこにひをつける。むくむくとゆたかなにくが、すべっこいしろきぬのおもてに)

見ながら、巻煙草に火をつける。ムクムクと豊かな肉が、すべっこい白絹の表に

(まるだしだ。おかしらがそういうかっこうでいるときほど、ぶかのおとこどもがこまることは)

まる出しだ。おかしらがそういう恰好でいる時ほど、部下の男どもが困ることは

(ない。ちょっと、へんなことがあったんです。だもんだから、いそいで)

ない。「ちょっと、へんなことがあったんです。だもんだから、急いで

(おしらせにきたんですが おとこはなるべくべっどのほうをみないようにしながら、)

お知らせにきたんですが」男はなるべくベッドの方を見ないようにしながら、

(もじもじしていった。へんなことって、なに?ふねのかふをやらせてある)

モジモジして言った。「へんなことって、何?」「船の火夫をやらせてある

(まつこうですね。あいつが、ゆうべのうちにいなくなっちゃったんです。ふねじゅう)

松公ですね。あいつが、ゆうべのうちにいなくなっちゃったんです。船じゅう

(さがしてみましたけれど、どこにもいねえ。まさかずらかるはずはねえんだから、)

探してみましたけれど、どこにもいねえ。まさかズラカルはずはねえんだから、

(もしや、おかでつかまったんじゃないかとおもいましてね。それがしんぱいだものだから)

もしや、陸で捕まったんじゃないかと思いましてね。それが心配だものだから」

(ふーん、じゃまつこうをじょうりくさせたのかい いや、けっしてそうじゃねえんで。)

「フーン、じゃ松公を上陸させたのかい」「いや、決してそうじゃねえんで。

(ゆうべいちどふねへかえったじゅんちゃんが、もういちどこちらへもどってきたでしょう。)

ゆうべ一度船へ帰った潤ちゃんが、もう一度こちらへもどってきたでしょう。

(そのときのぼーとのこぎてのなかに、まつこうがまじっていたんですが、ぼーとがほんせんへ)

その時のボートの漕手の中に、松公がまじっていたんですが、ボートが本船へ

など

(かえってみるとまつこうだけいねえんです。みんなのおもいちがいじゃないかとふねじゅうを)

帰ってみると松公だけいねえんです。みんなの思い違いじゃないかと船じゅうを

(さがしたうえ、こっちへきてたずねてみると、まつこうなんかきていねえというじゃ)

探した上、こっちへきてたずねてみると、松公なんかきていねえというじゃ

(ありませんか。やつはどっかそのへんのまちをうろうろしてて、おまわりにでも)

ありませんか。やつはどっかそのへんの町をウロウロしてて、おまわりにでも

(とっつかまったんじゃねえでしょうか そいつはこまったねえ。まつこうはいやに)

とっ捕まったんじゃねえでしょうか」「そいつは困ったねえ。松公はいやに

(うすのろで、これというやくにたたないもんだから、かふなんかやらせて)

薄のろで、これという役に立たないもんだから、火夫なんかやらせて

(おいたんだが、あいつのこった、つかまりでもしたら、どうせへまをいうに)

おいたんだが、あいつのこった、捕まりでもしたら、どうせヘマをいうに

(きまっているわねえ くろとかげ も、おもわずべっどのうえにおきなおって、まゆを)

きまっているわねえ」「黒トカゲ」も、思わずベッドの上に起きなおって、眉を

(しかめながら、とるべきしょちをかんがえたのであるが、ちょうどそうしている)

しかめながら、取るべき処置を考えたのであるが、ちょうどそうしている

(ところへ、またしてもへんてこなしらせがとびこんできた。とつぜんどあがひらいて、)

ところへ、又してもへんてこな知らせが飛びこんできた。突然ドアがひらいて、

(さんにんのぶかがかおをだすと、ひとりがはやくちにしゃべりたてた。まだむ、ちょっと)

三人の部下が顔を出すと、一人が早口にしゃべり立てた。「マダム、ちょっと

(きてごらんなさい。へんなことがあるんだから。にんぎょうがね、きものを)

きてごらんなさい。へんなことがあるんだから。人形がね、着物を

(きてるんですぜ。それから、からだじゅうがほうせきでもって、ぎらぎらひかり)

着てるんですぜ。それから、からだじゅうが宝石でもって、ギラギラ光り

(かがやいているんですぜ。いったいだれがあんなふざけたまねをしやがったんだと、)

かがやいているんですぜ。一体だれがあんなふざけたまねをしやがったんだと、

(なかましらべをしてみたんですが、だあれもしらねえっていうんです。まさか)

仲間しらべをしてみたんですが、だあれも知らねえっていうんです。まさか

(まだむじゃねえんでしょうね ほんとうかい ほんとうですとも、)

マダムじゃねえんでしょうね」「ほんとうかい」「ほんとうですとも、

(じゅんちゃんなんか、びっくりしちゃって、まだぼんやりとあすこにたっている)

潤ちゃんなんか、びっくりしちゃって、まだボンヤリとあすこに立っている

(くらいです なにかしらそうぞうもできないへんなことがおこっているのだ。まつこうの)

くらいです」何かしら想像もできないへんなことが起こっているのだ。松公の

(ゆくえふめいとこれとのあいだに、どんなかんけいがあるのかしらぬが、ときもとき、ふたつの)

行方不明とこれとのあいだに、どんな関係があるのか知らぬが、時も時、二つの

(じへんがおなじようにおこるとは。ちていおうこくのじょおうも、もうおちついては)

事変が同じように起こるとは。地底王国の女王も、もう落ちついては

(いられなかった。かのじょはいちどうをそとにだしておいて、てばやくいつものくろずくめの)

いられなかった。彼女は一同をそとに出しておいて、手早くいつもの黒ずくめの

(ようそうになって、はくせいにんぎょうちんれつのげんばへいそいだ。いってみると、いかにもきつねにでも)

洋装になって、剥製人形陳列の現場へ急いだ。行ってみると、いかにも狐にでも

(つままれたような、へんてこなことがおこっていた。におうだちのこくじんせいねんが、)

つままれたような、へんてこな事が起こっていた。仁王立ちの黒人青年が、

(ふろうしゃみたいなかーきふくをきて、そのむねにれいのだいほうせき えじぷとのほし を、)

浮浪者みたいなカーキ服を着て、その胸に例の大宝石「エジプトの星」を、

(まるでこういっきゅうのくんしょうのようにとくいしかとひからかせているかとおもうと、ひざのうえに)

まるで功一級の勲章のように得意然と光らかせているかと思うと、膝の上に

(ほおづえをついたきんぱつむすめが、にほんむすめのたもとのながいきものをきて、りょうのてくびとあしくびとに、)

頬杖をついた金髪娘が、日本娘の袂の長い着物を着て、両の手首と足首とに、

(だいやのむねかざり、しんじゅのくびかざりを、てかせあしかせのかたちではめてすましている。)

ダイヤの胸飾り、真珠の首飾りを、手かせ足かせの形ではめてすましている。

(ねそべったにほんむすめは、どうなかにふるもうふをまきつけて、ふさふさとしたくろかみのうえから)

寝そべった日本娘は、胴中に古毛布を巻きつけて、ふさふさとした黒髪の上から

(さまざまのほうせきをようらくみたいにさげて、にやにやわらっているかとおもうと、)

さまざまの宝石を瓔珞みたいに下げて、ニヤニヤ笑っているかと思うと、

(えんばんなげのにほんせいねんはまっくろによごれためりやすのしゃつをきて、これもほうせきの)

円盤投げの日本青年はまっ黒によごれたメリヤスのシャツを着て、これも宝石の

(くびかざり、うでわをはめて、ひかりかがやいているといったあんばいなのだ。)

首飾り、腕環をはめて、光りかがやいているといったあんばいなのだ。

(くろこふじんは、そこにたっていたあまみやせいねんとかおをみあわせたまま、きゅうにはことばも)

黒衣婦人は、そこに立っていた雨宮青年と顔を見合わせたまま、急には言葉も

(でないほどびっくりしてしまった。これはまあなんというひとをくった)

出ないほどびっくりしてしまった。これはまあなんという人を喰った

(いたずらだろう。はくせいにんぎょうのきみょうないしょうのたもとのながいきものは、さなえさんが)

いたずらだろう。剥製人形の奇妙な衣裳の袂の長い着物は、早苗さんが

(ゆうべまできていたもの。そのほかのは、みな くろとかげ のぶかのおとこたちの)

ゆうべまで着ていたもの。そのほかのは、みな「黒トカゲ」の部下の男たちの

(もちものであった。しんしつのとだなのなかやこうりにしまってあったのを、なにものかが)

持ち物であった。寝室の戸棚の中や行李にしまってあったのを、何者かが

(とりだして、にんぎょうにきせたのだ。それからほうせきるいは、むろんほうせきちんれつしつの)

取り出して、人形に着せたのだ。それから宝石類は、むろん宝石陳列室の

(がらすばこのなかからもってきたもので、そこのがらすばこは、ほとんどからっぽに)

ガラス箱の中から持ってきたもので、そこのガラス箱は、ほとんど空っぽに

(なっているというしまつだった。だれがこんなばかばかしいまね)

なっているという始末だった。「だれがこんなばかばかしいまね

(したんでしょう それがまるでわからないのですよ。いまここには、おとこはぼくの)

したんでしょう」「それがまるでわからないのですよ。今ここには、男は僕の

(ほかにごにんきゃいないんですが、みんなしんようのおけるやつばかりですからね。)

ほかに五人きゃいないんですが、みんな信用のおけるやつばかりですからね。

(ひとりひとりきいてみたんだけれど、だれもまったくおぼえがないというんです)

一人一人聞いてみたんだけれど、だれも全くおぼえがないというんです」

(いりぐちのねずのばんはだいじょうぶだったの?ええ、へんなことはすこしもなかった)

「入り口の寝ずの番は大丈夫だったの?」「ええ、へんなことは少しもなかった

(そうです。それに、なかまいがいのものがはいろうとしたって、あすこのあげぶたは)

そうです。それに、仲間以外のものがはいろうとしたって、あすこの揚げ蓋は

(なかからでなきゃ、ひらかないんですからね。いたずらものががいぶから)

中からでなきゃ、ひらかないんですからね。いたずら者が外部から

(しんにゅうすることは、まったくふかのうですよ そんなことをぼそぼそささやき)

侵入することは、まったく不可能ですよ」そんなことをボソボソささやき

(あったあと、ふたりは、まただまってかおをみあわせていたが、やがて、くろこふじんは)

合ったあと、二人は、まただまって顔を見合わせていたが、やがて、黒衣婦人は

(ふときづいたように、あっ、そうかもしれない とつぶやきながら、かおいろを)

ふと気づいたように、「あっ、そうかもしれない」とつぶやきながら、顔色を

(かえてあのにんげんおりのまえへはしっていった。だが、そのおりのちいさなでいりぐちを)

変えてあの人間檻の前へ走って行った。だが、その檻の小さな出入り口を

(しらべてみても、べつにじょうまえをこわしたあともない。)

調べてみても、別に錠前をこわした跡もない。

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