黒蜥蜴45
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問題文
(ふたりになったおとこ)
二人になった男
(なぜだまってるの?なにかあるんだわね。ひとがちがったようだ。どうしたの?)
「なぜだまってるの?何かあるんだわね。人が違ったようだ。どうしたの?
(それともあたしにはんこうしようとでもいうわけなの?じゅんいちせいねんのたいどがあまり)
それともあたしに反抗しようとでもいうわけなの?」潤一青年の態度があまり
(ふてぶてしいものだから、くろこふじんはおもわずかんだかいこえをたてた。)
ふてぶてしいものだから、黒衣婦人は思わずかん高い声を立てた。
(そうでなくても、さいぜんからのかずかずのかいいに、むしょうにいらだたしくなっていた)
そうでなくても、さいぜんからの数々の怪異に、無性にいらだたしくなっていた
(やさきなのだから。さなえさんはどこにいるの?それとも、おまえしらないとでも)
矢先なのだから。「早苗さんはどこにいるの?それとも、お前知らないとでも
(いうのかい そうです。ぼくはちっともしらないのですよ。おりのなかにでも)
いうのかい」「そうです。僕はちっとも知らないのですよ。檻の中にでも
(いるんじゃありませんか やっとじゅんちゃんがこたえた。だがなんというぶあいそうな)
いるんじゃありませんか」やっと潤ちゃんが答えた。だがなんという不愛想な
(くちのききかたであろう。おりのなかって、おまえがおりのなかからだしたんじゃないの)
口のきき方であろう。「檻の中って、お前が檻の中から出したんじゃないの」
(そこがどうもよくわからないのですよ。いちどしらべてみましょう じゅんいちせいねんは)
「そこがどうもよくわからないのですよ。一度調べてみましょう」潤一青年は
(そういいすてて、のこのこあるきだした。ほんとうにおりのなかをしらべてみるつもり)
そう言い捨てて、ノコノコ歩き出した。ほんとうに檻の中を調べてみるつもり
(らしい。このおとこはきでもちがったのかしら。それとも、なにかべつのわけでも)
らしい。この男は気でも違ったのかしら。それとも、何か別のわけでも
(あるのかしら。くろこふじんはみょうにきがかりになって、じゅんちゃんのきょどうを)
あるのかしら。黒衣婦人は妙に気がかりになって、潤ちゃんの挙動を
(かんししながら、そのあとについていった。にんげんおりのてつごうしのまえにいってみると、)
監視しながら、そのあとについて行った。人間檻の鉄格子の前に行って見ると、
(でいりぐちのかぎがさしたままになっている。おまえ、きょうはほんとうに)
出入り口の鍵が差したままになっている。「お前、きょうはほんとうに
(どうかしているわね。かぎをそのままにしておくなんて つぶやきながら、うすぐらい)
どうかしているわね。鍵をそのままにしておくなんて」つぶやきながら、薄暗い
(おりのなかをのぞきこんだ。やっぱり、さなえさんはいやしないじゃないか)
檻の中をのぞきこんだ。「やっぱり、早苗さんはいやしないじゃないか」
(むこうのすみっこに、らたいのおとこがひとりうずくまっているばかりだ。どうしたのか、)
向こうの隅っこに、裸体の男が一人うずくまっているばかりだ。どうしたのか、
(きょうはひどくげんきのないようすで、ぐったりとうなだれている。それともねむって)
きょうはひどく元気のない様子で、グッタリとうなだれている。それとも眠って
(いるのかしら。あいつにきいてみましょう じゅんちゃんは、ひとりごとのように)
いるのかしら。「あいつに聞いてみましょう」潤ちゃんは、ひとり言のように
(いって、てつごうしをひらくと、おりのなかへはいっていった。どうも、することが)
いって、鉄格子をひらくと、檻の中へはいって行った。どうも、することが
(すべてじょうきをいっしている。おい、かがわさん、おまえさなえさんをしらないかね)
すべて常軌を逸している。「おい、香川さん、お前早苗さんを知らないかね」
(かがわというのは、おりにいれられていたびせいねんのなだ。おい、おい、かがわさん、)
香川というのは、檻に入れられていた美青年の名だ。「おい、おい、香川さん、
(ねているのかい。ちょっとおきてくれよ いくらよんでもへんじしないので、)
寝ているのかい。ちょっと起きてくれよ」いくら呼んでも返事しないので、
(じゅんいちせいねんはかがわびせいねんのらたいのかたにてをかけて、ぐいぐいとゆりうごかした。)
潤一青年は香川美青年の裸体の肩に手をかけて、グイグイと揺り動かした。
(だが、あいてのからだはむていこうにゆれるばかりで、すこしもてごたえがない。)
だが、相手のからだは無抵抗にゆれるばかりで、少しも手ごたえがない。
(まだむ、へんですぜ。こいつしんじまったんじゃないかしらん くろこふじんは)
「マダム、へんですぜ。こいつ死んじまったんじゃないかしらん」黒衣婦人は
(ただならぬよかんにりつぜんとした。いったいなにことがおこったというのだ。)
ただならぬ予感に慄然とした。一体何事が起こったというのだ。
(まさかじさつしたんじゃあるまいね かのじょはおりのなかへはいって、かがわせいねんの)
「まさか自殺したんじゃあるまいね」彼女は檻の中へはいって、香川青年の
(そばへちかづいていった。かおをあげてみせてごらん こうですかい)
そばへ近づいて行った。「顔を上げて見せてごらん」「こうですかい」
(じゅんちゃんが、びせいねんのあごにてをかけて、うなだれていたかおをぐいとあげた。)
潤ちゃんが、美青年の顎に手をかけて、うなだれていた顔をグイと上げた。
(ああ、そのかお!さすがのにょぞく くろとかげ も あっ とひめいをあげて、)
ああ、その顔!さすがの女賊「黒トカゲ」も「アッ」と悲鳴を上げて、
(よろよろとあとずさりをしないではいられなかった。あくむだ。ゆめにうなされて)
よろよろとあとずさりをしないではいられなかった。悪夢だ。夢にうなされて
(いるとしかかんがえられない。そこにうずくまっていたおとこは、かがわびせいねんでは)
いるとしか考えられない。そこにうずくまっていた男は、香川美青年では
(なかったのだ。じつにいがいなことには、ここにもまた、げしがたきにんげんの)
なかったのだ。実に意外なことには、ここにもまた、解しがたき人間の
(いれかえがおこなわれていた。では、そのらたいおとこはいったいなにものであったか。)
入れかえが行なわれていた。では、その裸体男は一体何者であったか。
(くろこふじんは、きょうきのふあんにおののいた。ひとつのものがふたつにみえるという)
黒衣婦人は、狂気の不安におののいた。一つのものが二つに見えるという
(せいしんびょうがあるならば、かのじょはそのおそろしいびょうきにとりつかれたのかもしれない。)
精神病があるならば、彼女はその恐ろしい病気に取りつかれたのかもしれない。
(じゅんいちせいねんが、あごをもってぐいとあおむけているそのおとこのかおは、やっぱり)
潤一青年が、顎を持ってグイとあお向けているその男の顔は、やっぱり
(じゅんいちせいねんであった。じゅんちゃんがふたりになったのだ。まっぱだかのじゅんちゃんと、)
潤一青年であった。潤ちゃんが二人になったのだ。まっぱだかの潤ちゃんと、
(しょっこうふくをきてつけひげをしたじゅんちゃんと。かくうにめにみえぬおおかがみがあらわれて、)
職工服を着て付けひげをした潤ちゃんと。架空に眼に見えぬ大鏡が現われて、
(ひとりのすがたをふたつにみせているとでもかんがえるほかはなかった。だが、どちらが)
一人の姿を二つに見せているとでも考えるほかはなかった。だが、どちらが
(ほんたい、どちらがそのかげなのであろうか。さいぜんはさなえさんがふたりになった。)
本体、どちらがその影なのであろうか。さいぜんは早苗さんが二人になった。
(それはしんぶんのしゃしんであったけれども、こんどはじつぶつなのだ。しかも、そのふたりの)
それは新聞の写真であったけれども、今度は実物なのだ。しかも、その二人の
(じゅんちゃんが、めのまえにかおをならべているではないか。そんなばかばかしいことが)
潤ちゃんが、眼の前に顔を並べているではないか。そんなばかばかしいことが
(げんじつにおこるはずがなかった。そこにおおきなとりっくがかくれているのだ。)
現実に起こるはずがなかった。そこに大きなトリックがかくれているのだ。
(だが、そんなとほうもないとりっくを、いったいだれがかんがえついたのか。そして)
だが、そんな途方もないトリックを、一体だれが考えついたのか。そして
(なんのために・・・・・・。にくらしいことには、ひげもじゃのほうのじゅんちゃんが、)
なんのために……。憎らしいことには、ひげもじゃの方の潤ちゃんが、
(あっけにとられたくろこふじんをちょうしょうするように、おばけみたいにわらっている。)
あっけに取られた黒衣婦人を嘲笑するように、お化けみたいに笑っている。
(なにをわらうのだ。かれこそおどろかなければならないのではないか。それをまるで)
何を笑うのだ。彼こそ驚かなければならないのではないか。それをまるで
(きちがいかあほうみたいに、むしんけいににやにやわらっているとは。じゅんいちせいねんは)
気ちがいかあほうみたいに、無神経にニヤニヤ笑っているとは。潤一青年は
(わらいながら、またはげしくらたいのほうのじゅんちゃんをゆすぶりつづけた。すると、)
笑いながら、またはげしく裸体の方の潤ちゃんをゆすぶりつづけた。すると、
(やがて、ゆすぶられていたじゅんちゃんがみょうなうなりごえをたてて、ぽっかりとめを)
やがて、揺すぶられていた潤ちゃんが妙なうなり声を立てて、ポッカリと眼を
(ひらいた。ああ、やっときがついたな。しっかりしろ。おまえこんなとこでなにを)
ひらいた。「ああ、やっと気がついたな。しっかりしろ。お前こんなとこで何を
(していたんだ しょっこうふくのじゅんいちせいねんがまたしてもひじょうしきなもののいいかたをした。)
していたんだ」職工服の潤一青年がまたしても非常識な物の言い方をした。
(らたいのほうのじゅんちゃんは、しばらくのあいだ、なにがなんだかわからないようすで、)
裸体の方の潤ちゃんは、しばらくのあいだ、何がなんだかわからない様子で、
(ねむそうなめをしばたたいたが、ふとまえにたっているくろこふじんにきづくと、それが)
眠そうな眼をしばたたいたが、ふと前に立っている黒衣婦人に気づくと、それが
(きづけやくででもあったように、はっとしょうきにかえった。ああ、まだむ、ぼくは)
気づけ薬ででもあったように、ハッと正気に返った。「ああ、マダム、僕は
(ひどいめにあいましたよ・・・・・・ああ、こいつだ。このやろうだっ しょっこうふくの)
ひどい目にあいましたよ……ああ、こいつだ。この野郎だっ」職工服の
(じゅんいちせいねんをみるなり、かれはきょうきのようにむしゃぶりついていった。じゅんちゃんが)
潤一青年を見るなり、彼は狂気のようにむしゃぶりついて行った。潤ちゃんが
(もうひとりのじゅんちゃんにくみついて、おそろしいかくとうをはじめたのだ。だが、)
もう一人の潤ちゃんに組みついて、恐ろしい格闘をはじめたのだ。だが、
(このあくむのようなあらそいはながくはつづかなかった。みるまにらたいのほうが、)
この悪夢のような争いは長くはつづかなかった。見る間に裸体の方が、
(こんくりーとのゆかのうえにたたきつけられてしまった。ちくしょうめ、ちくしょうめ、きさま)
コンクリートの床の上に叩きつけられてしまった。「畜生め、畜生め、貴様
(おれにばけやがったな。まだむ、ゆだんしちゃいけません。こいつはおそろしい)
おれに化けやがったな。マダム、油断しちゃいけません。こいつは恐ろしい
(むほんにんですぜ。かふのまつこうがばけているんだ。こいつはまつこうですぜ)
謀反人ですぜ。火夫の松公が化けているんだ。こいつは松公ですぜ」
(なげつけられてひらべったくなったまま、らたいのじゅんちゃんがわめきちらした。)
投げつけられて平べったくなったまま、裸体の潤ちゃんがわめき散らした。