黒蜥蜴49(終)

投稿者桃仔プレイ回数329
難易度(4.2) 3525打 長文 かな 長文モード可タグ明智小五郎 江戸川乱歩 長文 小説 黒蜥蜴
明智小五郎シリーズ
江戸川乱歩の作品です。句読点以外の記号は省いています。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 おっ 7730 8.0 95.9% 433.5 3498 147 52 2021/06/17
2 おちり 7525 8.0 94.2% 435.2 3489 214 52 2021/06/28
3 HAKU 7478 7.7 96.5% 454.1 3521 125 52 2021/06/17
4 hayao 7447 8.0 92.7% 430.9 3481 272 52 2021/07/23
5 かす 5822 A+ 6.1 94.3% 569.2 3524 210 52 2021/06/17

関連タイピング

問題文

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(うごめくくろとかげ)

うごめく黒トカゲ

(くろこふじんは、ちていおうこくのじょおうのほこりからも、なわめのはじにたえかねたので)

黒衣婦人は、地底王国の女王のほこりからも、縄目の恥に堪えかねたので

(あろう。いずれのがれぬうんめいとはいえ、せめてさいごをいさぎよく、みっしつに)

あろう。いずれ逃がれぬ運命とはいえ、せめて最期をいさぎよく、密室に

(とじこもって、われとわがいのちをたとうとしたにちがいない。それときづいた)

とじこもって、われとわが命を絶とうとしたにちがいない。それと気づいた

(あけちこごろうは、さわがしいとりもののばをあとにして、たんしんかのじょのししつにかけつけた。)

明智小五郎は、騒がしい捕物の場をあとにして、単身彼女の私室に駈けつけた。

(おい、あけたまえ。ぼくはあけちだ。ひとこといいたいことがある。ぜひここを)

「おい、あけたまえ。僕は明智だ。一こと言いたいことがある。ぜひここを

(あけてくれたまえ いそがしくさけぶと、なかからちからないこえがこたえた。あけちさん、)

あけてくれたまえ」急がしく叫ぶと、中から力ない声が答えた。「明智さん、

(あなたおひとりだけならば......うん、ぼくひとりだよ。はやくあけて)

あなたお一人だけならば......」「ウン、僕一人だよ。早くあけて

(くれたまえ かぎをまわすおとがした。どあがひらいた。あっ、おそかった)

くれたまえ」鍵を廻す音がした。ドアがひらいた。「アッ、おそかった

(......きみはどくをのんだのか ふみこみざま、あけちがさけんだ。くろこふじんは、)

......君は毒を呑んだのか」ふみこみざま、明智が叫んだ。黒衣婦人は、

(やっとどあをあけたまま、そのばにうちたおれていたのである。あけちはゆかに)

やっとドアをあけたまま、その場に打ち倒れていたのである。明智は床に

(ひざまずいて、そのひざのうえににょぞくのじょうはんしんをかかえのせ、せめてはだんまつまの)

ひざまずいて、その膝の上に女賊の上半身をかかえのせ、せめては断末魔の

(くのうをやわらげてやろうとこころみた。いまさらなにをいってもしかたがない。やすらかに)

苦悩をやわらげてやろうと試みた。「今さら何をいっても仕方がない。安らかに

(ねむりたまえ。きみのためには、ぼくはいのちがけのめにもあわされた。しかし、ぼくの)

眠りたまえ。君のためには、僕は命がけの目にもあわされた。しかし、僕の

(しょくぎょうにとっては、それがきちょうなたいけんにもなったのだよ。もうきみをにくんでや)

職業にとっては、それが貴重な体験にもなったのだよ。もう君を憎んでや

(しない。かわいそうにさえおもっている......ああ、そうそう、きみにひとこと)

しない。かわいそうにさえ思っている......ああ、そうそう、君に一こと

(ことわっておかねばならぬことがあった。きみがあれほどくしんをしててにいれた)

ことわっておかねばならぬことがあった。君があれほど苦心をして手にいれた

(しなだけれど、いわせさんの えじぷとのほし は、たしかにぼくがあずかってかえるよ。)

品だけれど、岩瀬さんの『エジプトの星』は、たしかに僕があずかって帰るよ。

(むろんほんらいのもちぬしにおかえしするためにだ あけちはぽけっとからだいほうぎょくを)

むろん本来の持ち主にお返しするためにだ」明智はポケットから大宝玉を

(とりだして、にょぞくのめのまえにかざした。くろとかげ はしいてびしょうをうかべ、)

取り出して、女賊の眼の前にかざした。「黒トカゲ」はしいて微笑を浮かべ、

など

(に、さんどうなずいてみせた。さなえさんは?かのじょはしおらしくたずねるのだ。)

二、三度うなずいて見せた。「早苗さんは?」彼女はしおらしくたずねるのだ。

(さなえさん?ああ、さくらやまようこのことだね。あんしんしたまえ。かがわくんといっしょに、)

「早苗さん?ああ、桜山葉子のことだね。安心したまえ。香川くんと一しょに、

(もうこのあなぐらをでて、けいさつのほごをうけている。あのむすめにもくろうをかけた。)

もうこの穴蔵を出て、警察の保護を受けている。あの娘にも苦労をかけた。

(こんどおおさかへかえったら、いわせさんからじゅうぶんしゃれいをしてもらうつもりだよ)

今度大阪へ帰ったら、岩瀬さんから充分謝礼をしてもらうつもりだよ」

(あたし、あなたにまけましたわ。なにもかも たたかいにやぶれただけではない。)

「あたし、あなたに負けましたわ。なにもかも」戦いに敗れただけではない。

(もっとべつないみでもまけたのだということを、げんがいにふくませていうと、かのじょは)

もっと別な意味でも負けたのだということを、言外に含ませていうと、彼女は

(すすりなきはじめた。もううわずったりょうめから、なみだがとめどなくあふれおちた。)

すすり泣きはじめた。もううわずった両眼から、涙がとめどなくあふれ落ちた。

(あたし、あなたのうでにいだかれていますのね......うれしいわ......)

「あたし、あなたの腕に抱かれていますのね......嬉しいわ......

(あたし、こんなしあわせなしにかたができようとは、そうぞうもしていません)

あたし、こんな仕合わせな死に方ができようとは、想像もしていません

(でしたわ あけちはそのいみをさとらないではなかった。いっしゅふかしぎなかんじょうを)

でしたわ」明智はその意味をさとらないではなかった。一種不可思議な感情を

(あじわわないではなかった。しかしそれはくちにだしてこたえるすべのない)

味わわないではなかった。しかしそれは口に出して答えるすべのない

(かんじょうであった。だんまつまのにょぞくのこくはくはなぞのごとくいようであった。かのじょは)

感情であった。断末魔の女賊の告白は謎のごとく異様であった。彼女は

(このきゅうてきを、かのじょじしんもきづかずして、あいしつづけていたのであろう。)

この仇敵を、彼女自身も気づかずして、愛しつづけていたのであろう。

(それゆえにこそ、やみのようじょうにあけちをほうむったとき、あのようにはげしいかんじょうにおそわれ、)

それ故にこそ、闇の洋上に明智を葬った時、あのように烈しい感情におそわれ、

(あのようになみだをこぼしたのであろうか。あけちさん、もうおわかれです)

あのように涙をこぼしたのであろうか。「明智さん、もうお別れです

(......おわかれに、たったひとつのおねがいをきいてくださいません?)

......お別れに、たった一つのお願いを聞いてくださいません?

(......くちびるを、あなたのくちびるを......くろこふじんのししはもうけいれんを)

......唇を、あなたの唇を......」黒衣婦人の四肢はもう痙攣を

(はじめていた。これがさいごだ。にょぞくとはいえ、このかれんなさいごのねがいを)

はじめていた。これが最期だ。女賊とはいえ、この可憐な最期の願いを

(しりぞけるきにはなれなかった。あけちはむごんのまま、くろとかげ の)

しりぞける気にはなれなかった。明智は無言のまま、「黒トカゲ」の

(もうつめたくなったひたいにそっとくちびるをつけた。かれをころそうとしたさつじんきのひたいに、)

もう冷たくなった額にソッと唇をつけた。彼を殺そうとした殺人鬼の額に、

(いまわのくちづけをした。にょぞくのかおに、こころからのびしょうがうかんだ。そして、)

いまわの口づけをした。女賊の顔に、心からの微笑が浮かんだ。そして、

(そのびしょうがきえやらぬまま、かのじょはもううごかなくなっていた。そこへ、)

その微笑が消えやらぬまま、彼女はもう動かなくなっていた。そこへ、

(とりものをすませたけいじたちが、どやどやはいってきたが、ひとめこのふしぎな)

捕物をすませた刑事たちが、どやどやはいってきたが、一と眼この不思議な

(じょうけいをみると、いりぐちにたちすくんでしまった。おにといわれるけいじたちにも)

情景を見ると、入り口に立ちすくんでしまった。鬼と言われる刑事たちにも

(かんじょうはあった。かれらはなにかしらげんしゅくなものにうたれて、しばらくものいうちからさえ)

感情はあった。彼らは何かしら厳粛なものにうたれて、しばらく物いう力さえ

(うしなったのである。いっせいをしんかんせしめたきたいのにょぞく くろとかげ は、かくして)

失ったのである。一世を震撼せしめた稀代の女賊「黒トカゲ」は、かくして

(いきたえたのであった。めいたんていあけちこごろうのひざをまくらに、さもうれしげなびしょうを)

息絶えたのであった。名探偵明智小五郎の膝を枕に、さも嬉しげな微笑を

(うかべながら、このよをさったのであった。ふとみると、さいぜんけいじのてを)

浮かべながら、この世を去ったのであった。ふと見ると、さいぜん刑事の手を

(ふりはらってにげたとき、くろこのそでがやぶれたのであろう。うつくしいにのうでが)

振りはらって逃げた時、黒衣の袖が破れたのであろう。美しい二の腕が

(あらわになって、そこに、かのじょのあだなのゆらいをなした、あのくろとかげのいれずみが)

あらわになって、そこに、彼女のあだ名の由来をなした、あの黒トカゲの入墨が

(これのみはいまもなおせいあるもののごとく、しゅじんとのべつりをかなしむかのように、)

これのみは今もなお生あるもののごとく、主人との別離を悲しむかのように、

(かすかに、かすかに、うごめいているかにかんじられたのである。)

かすかに、かすかに、うごめいているかに感じられたのである。

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