怪人二十面相70 江戸川乱歩
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問題文
(「そうです。はくぶつかんは、にじゅうめんそうのためにとうだつされたのです。それは、さいしょに)
「そうです。博物館は、二十面相の為に盗奪されたのです。それは、最初に
(もうしあげたとおりです」 おおぜいのなかで、あけちだけは、すこしもとりみだしたところも)
申し上げたとおりです」 大勢の中で、明智だけは、少しも取り乱した所も
(なく、くちもとにびしょうさえうかべているのでした そして、あまりのだげきにたっている)
なく、口許に微笑さえ浮かべているのでした そして、余りの打撃に立っている
(ちからもないかとみえるろうかんちょうを、はげますようにしっかりそのてをにぎっていました。)
力もないかと見える老館長を、励ますようにしっかりその手を握っていました。
(たねあかし 「ですが、わたしどもには、どうもわけがわからないのです。)
【種明し】 「ですが、私どもには、どうも訳が分からないのです。
(あれだけのびじゅつひんを、たった1にちのあいだに、にせものとすりかえるなんて、)
あれだけの美術品を、たった一日の間に、贋物とすり替えるなんて、
(にんげんわざでできることではありません。まあ、にせもののほうは、まえまえから、)
人間技で出来る事ではありません。まあ、贋物の方は、前々から、
(びじゅつがくせいかなんかにばけてかんらんにきてえずをかいていけば、もぞうできないことは)
美術学生かなんかに化けて観覧に来て絵図を書いていけば、模造出来ない事は
(ありませんけれど、それをどうしていれかえたかがもんだいです。まったくわけが)
ありませんけれど、それをどうして入れ替えたかが問題です。全く訳が
(わかりません」 かんいんは、まるでむずかしいすうがくのもんだいにでもぶっつかったように)
分かりません」 館員は、まるで難しい数学の問題にでもぶっつかったように
(しきりにこくびをかたむけています。 「きのうのゆうがたまでは、たしかに、)
頻りに小首を傾けています。 「昨日の夕方までは、確かに、
(みんなほんものだったのだね」 そうかんがたずねますと、かんいんたちはかくしんにみちたようすで)
みんな本物だったのだね」 総監が尋ねますと、館員たちは確信に満ちた様子で
(「それはもう、けっしてまちがいございません」と、くちをそろえてこたえるのです。)
「それはもう、決して間違いございません」と、口を揃えて答えるのです。
(「すると、おそらくゆうべのよなかあたりに、どうかしてにじゅうめんそういちみのものが、)
「すると、恐らく夕べの夜中あたりに、どうかして二十面相一味の者が、
(ここへしのびこんだのかもしれんね」 「いや、そんなことは、できるはずが)
ここへ忍び込んだのかもしれんね」 「いや、そんな事は、出来る筈が
(ございません。おもてもんもうらもんもへいのまわりも、おおぜいのおまわりさんが、てつやで)
ございません。表門も裏門も塀の周りも、大勢のお巡りさんが、徹夜で
(みはっていてくだすったのです。かんないにも、ゆうべはかんちょうさんと3にんのしゅくちょくいんが、)
見張っていて下すったのです。館内にも、夕べは館長さんと三人の宿直員が、
(ずっとつめきっていたのです。そのげんじゅうなみはりのなかをもぐって、)
ずっと詰めきっていたのです。その厳重な見張りの中を潜って、
(あのおびただしいびじゅつひんを、どうしてもちこんだり、はこびだしたりできるものですか。)
あの夥しい美術品を、どうして持ち込んだり、運び出したり出来るものですか。
(まったくにんげんわざではできないことです」 かんいんは、あくまでいいました。)
まったく人間技では出来ない事です」 館員は、あくまで言いました。
(「わからん、じつにふしぎだ・・・・・・。しかし、にじゅうめんそうのやつ、こうげんしたほどおとこらしくも)
「分からん、実に不思議だ……。しかし、二十面相の奴、広言した程男らしくも
(なかったですね。あらかじめ、にせものとおきかえておいて、さあ、このとおり)
なかったですね。あらかじめ、贋物と置き換えておいて、さあ、この通り
(ぬすみましたというのじゃ、10かのごご4じなんてよこくはまったくむいみですからね」)
盗みましたというのじゃ、十日の午後四時なんて予告は全く無意味ですからね」
(けいじぶちょうは、くやしまぎれに、そんなことでもいってみないではいられませんでした)
刑事部長は、悔し紛れに、そんな事でも言ってみないではいられませんでした
(「ところが、けっしてむいみではなかったのです」 あけちこごろうが、まるで)
「ところが、決して無意味ではなかったのです」 明智小五郎が、まるで
(にじゅうめんそうをべんごでもするようにいいました。かれはろうかんちょうきたこうじはかせと、)
二十面相を弁護でもするように言いました。彼は老館長北小路博士と、
(さもなかよしのように、ずっと、さいぜんからてをにぎりあったままなのです。)
さも仲よしのように、ずっと、最前から手を握り合ったままなのです。
(「ほう、むいみでなかったって?それはいったい、どういうことなんだね」)
「ホウ、無意味でなかったって? それはいったい、どういう事なんだね」
(けいしそうかんが、ふしぎそうにめいたんていのかおをみて、たずねました。)
警視総監が、不思議そうに名探偵の顔を見て、尋ねました。
(「あれをごらんください」 するとあけちはまどにちかづいて、はくぶつかんのうらてのあきちを)
「あれをご覧下さい」 すると明智は窓に近付いて、博物館の裏手の空き地を
(ゆびさしました。 「ぼくが12がつ10かごろまで、またなければならなかった)
指さしました。 「僕が十二月十日頃まで、待たなければならなかった
(ひみつというのは、あれなのです」 そのあきちには、はくぶつかんそうりつとうじからの、)
秘密というのは、あれなのです」 その空き地には、博物館創立当時からの、
(ふるいにほんだてのかんいんしゅくちょくしつがたっていたのですが、それがふようになって、)
古い日本建ての館員宿直室が建っていたのですが、それが不用になって、
(すうじつまえから、かおくのとりこわしをはじめ、もうほとんどとりこわしもおわって、)
数日前から、家屋の取り壊しを始め、もう殆ど取り壊しも終わって、
(ふるざいもくや、やねがわらなどが、あっちこっちにつみあげてあるのです。)
古材木や、屋根瓦などが、あっちこっちに積み上げてあるのです。
(「ふるやをとりこわしたんだね。しかし、あれとにじゅうめんそうのじけんと、いったい、)
「古家を取り壊したんだね。しかし、あれと二十面相の事件と、一体、
(なんのかんけいがあるんです」 けいじぶちょうは、びっくりしたようにあけちをみました。)
何の関係があるんです」 刑事部長は、吃驚したように明智を見ました。
(「どんなかんけいがあるか、じきわかりますよ・・・・・・。どなたか、おてすうですが、)
「どんな関係があるか、じき分かりますよ……。どなたか、お手数ですが、
(なかにいるなかむらけいぶに、きょうひるごろうらもんのばんをしていたけいかんをつれて、いそいで)
中にいる中村警部に、今日昼頃裏門の番をしていた警官を連れて、急いで
(ここへきてくれるように、おつたえくださいませんか」)
ここへ来てくれるように、お伝え下さいませんか」