黒死館事件94
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問題文
(そこへ、のりみずのよそくがてきちゅうしたというしらせが、しふくからもたらされて、)
そこへ、法水の予測が的中したという報知が、私服からもたらされて、
(はたせるかなこぼるとのふだが、のぶこのへやにあるぼーるど・るーべのひきだしから)
はたせるかな地精の札が、伸子の室にある格子底机の抽斗から
(はっけんされたのだった。そこでのりみずらは、のぶこをひきたててきたという、もとのへやに)
発見されたのだった。そこで法水等は、伸子を引き立ててきたという、旧の室に
(もどることになった。どあをひらくと、おえつのこえがきこえる。のぶこは、りょうてでおおうたかおを)
戻ることになった。扉を開くと、嗚咽の声が聞える。伸子は、両手で覆うた顔を
(たくじょうにふせて、しきりとかたをふるわせていた。くましろは、どくどくしいくちょうを、かのじょの)
卓上に伏せて、しきりと肩を顫わせていた。熊城は、毒々しい口調を、彼女の
(はいごからはきかけるのだった。きみのながてんきぼからけされていたのも、)
背後から吐きかけるのだった。「君の名が点鬼簿から消されていたのも、
(わずかよじかんだけのあいださ。だが、こんどはにじもでないし、きみもおどるわけには)
わずか四時間だけの間さ。だが、今度は虹も出ないし、君も踊るわけには
(ゆかんだろう いいえ とのぶこは、きっとかおをふりむけたが、まんめんには)
ゆかんだろう」「いいえ」と伸子は、キッと顔を振り向けたが、満面には
(したたらんばかりのあぶらあせだった。あのふだはいつのまにか、ひきだしのなかに)
滴らんばかりの膏汗だった。「あの札はいつの間にか、抽斗の中に
(つっこまれてあったのですわ。わたしは、それをれヴぇずさまにだけ)
突っ込まれてあったのですわ。私は、それをレヴェズ様にだけ
(おはなしいたしました。ですからきっとあのかたが、それをあなたがたにみっこくしたに)
お話しいたしました。ですからきっとあの方が、それを貴方がたに密告したに
(そういございませんわ いや、あのれヴぇずというじんぶつには、いまどきめずらしい)
相違ございませんわ」「いや、あのレヴェズという人物には、今どき珍しい
(きしてきせいしんがあるのですよ としずかにいいながら、のりみずはけげんそうにあいてのかおを)
騎士的精神があるのですよ」と静かに云いながら、法水は怪訝そうに相手の顔を
(みつめていたが、しかし、ほんとうのことをいうんですよ。のぶこさん、あのふだは)
瞶めていたが、「しかし、本当の事を云うんですよ。伸子さん、あの札は
(いったいだれがかいたのですか わたし、ぞん ぞんじません とのぶこは、すくいを)
いったい誰が書いたのですか」「私、存ーー存じません」と伸子は、救いを
(もとめるようなしせんをのりみずのかおにむけたが、そのとき、かのじょのはっかんがますます)
求めるような視線を法水の顔に向けたが、その時、彼女の発汗がますます
(はなはだしくなって、したがいようにもつれ、せいかくにはつおんすることさえ)
はなはだしくなって、舌が異様にもつれ、正確に発音することさえ
(できなくなってしまった。その はんにんのぶこのきゅうきょうには、おもわずくましろを)
出来なくなってしまった。そのーー犯人伸子の窮境には、思わず熊城を
(ほほえましめたものがあった。ところが、のりみずはさながられいせいそのもののような)
微笑ましめたものがあった。ところが、法水はさながら冷静そのもののような
(たいどで、ややしばし、のぶこのひたいにしせんをふりそそぎ、こめかみにみゃくうっている、)
態度で、ややしばし、伸子の額に視線を降り注ぎ、こめかみに脈打っている、
(つなのようなけっかんをみつめていた。が、ふとひたいのあせをゆびですくいとると、かれのまゆが)
繩のような血管を瞶めていた。が、ふと額の汗を指で掬い取ると、彼の眉が
(ぴんとはねあがって、こりゃいかん。げどくざいをすぐ!と、このじょうきょうに)
ピンと跳ね上って、「こりゃいかん。解毒剤をすぐ!」と、この状況に
(よそうもしえないいがいなことばをはいた。そして、とっさのぎゃくてんになにがなにやらわからず、)
予想もし得ない意外な言葉を吐いた。そして、咄嗟の逆転に何が何やら判らず、
(ひたすらろうばいしきっているくましろらをおいたてて、のぶこのからだをそうこうと)
ひたすら狼狽しきっている熊城等を追い立てて、伸子の身体を愴惶と
(はこびださせてしまった。あのはっかんをみると、たぶんぴろかるぴんの)
運び出させてしまった。「あの発汗を見ると、たぶんピロカルピンの
(ちゅうどくだろうよ としばらくこまねいていたうでをといて、のりみずはけんじをみた。)
中毒だろうよ」と暫時こまねいていた腕を解いて、法水は検事を見た。
(が、そのかおには、まざまざときょうふのいろがうかんでいた。とにかく、あのおんなが、)
が、その顔には、まざまざと恐怖の色が泛んでいた。「とにかく、あの女が、
(こぼるとのふだをぼくらがはっけんしたのを、しるきづかいはないのだから、もちろんじさつのもくてきで)
地精の札を僕等が発見したのを、知る気遣いはないのだから、勿論自殺の目的で
(のんだのではない。いや、たしかにのまされたんだよ。それも、けっして)
嚥んだのではない。いや、たしかに嚥まされたんだよ。それも、けっして
(ころすつもりではなく、あのめいもうじょうたいをぼくらのしんりにむけて、のぶこにさんどめの)
殺すつもりではなく、あの迷濛状態を僕等の心理に向けて、伸子に三度目の
(ふうんをもたらそうとしたにちがいないのだ。ねえはぜくらくん、それがさんだんろんぽうの)
不運をもたらそうとしたに違いないのだ。ねえ支倉君、それが三段論法の
(ぜんていとなるのもしらずに、あるものをひろんりてきだとだんずることはできまい。)
前提となるのも知らずに、あるものを非論理的だと断ずることは出来まい。
(すると、のぶことぴろかるぴん つまりそのぜんていとしてだ。まず、かべをぬきゆかを)
すると、伸子とピロカルピンーーつまりその前提としてだ。まず、壁を抜き床を
(すかしてまで、ぼくらのいばくのないようをしりえるほうほうがなけりゃならんわけだ。)
透かしてまで、僕等の帷幕の内容を知り得る方法がなけりゃならん訳だ。
(ああ、じつにおそろしいことじゃないか。さっきこのへやでかわしたかいわが、)
ああ、実に恐ろしいことじゃないか。先刻この室で交した会話が、
(ふぁうすとはかせにはとうにつつぬけなんだぜ じじつまったく、このじけんのはんにんには、)
ファウスト博士には既に筒抜けなんだぜ」事実まったく、この事件の犯人には、
(かしょうをじつざいにきょうせいする、ふかしぎなちからがあるのかもしれない。くましろは、もはや)
仮象を実在に強制する、不可思議な力があるのかもしれない。熊城は、もはや
(がまんがならないようにいきをのんだが、しかし、きょうののぶこには、かんしゃしても)
我慢がならないように息を呑んだが、「しかし、今日の伸子には、感謝しても
(いいだろうとおもうよ。じつは、さっきぼくのぶかが、のぶこのへやをさぐっているあいだに、)
いいだろうと思うよ。実は、先刻僕の部下が、伸子の室を捜っている間に、
(あのおんなは、くりヴぉふのへやでおちゃをのんでいたのだ。ところが、そのせきじょうに)
あの女は、クリヴォフの室でお茶を飲んでいたのだ。ところが、その席上に
(いあわせたじんぶつというのが、どうきのぺんたぐらむまから、しっくりとはなれられない)
居合わせた人物というのが、動機の五芒星円から、しっくりと離れられない
(れんちゅうばかりなんだ。どうだ、のりみずくん、いわくさいしょがはたたろうさ。それから、)
連中ばかりなんだ。どうだ、法水君、曰く最初が旗太郎さ。それから、
(れヴぇず、せれな・・・・・・。あのあたまじゅうほうたいしているくりヴぉふだっても、そのときは)
レヴェズ、セレナ。あの頭中繃帯しているクリヴォフだっても、その時は
(しんだいのうえにおきあがっていたというんだからね とくましろがはいたないようには、)
寝台の上に起き上っていたと云うんだからね」と熊城が吐いた内容には、
(このばあい、だれしもうたれずにはいなかったであろう。なぜなら、それによって、)
この場合、誰しも打たれずにはいなかったであろう。何故なら、それによって、
(はんにんのはんいがめいかくにげんていされて、これまでのふんきゅうこんらんが、いっせいにとういつされたかんが)
犯人の範囲が明確に限定されて、従来の紛糾混乱が、いっせいに統一された観が
(したからだった。そこへ、けんじがすこぶるおもいつきなていぎをした。)
したからだった。そこへ、検事がすこぶる思いつきな提議をした。
(ところでぼくは、これがゆいいつのちゃんすだとおもうのだよ。つまり、はんにんが)
「ところで僕は、これが唯一の機会だと思うのだよ。つまり、犯人が
(ぴろかるぴんをてにいれた そのけいろをはっきりさせることなんだ。もし、それが)
ピロカルピンを手に入れたーーその経路を明瞭させることなんだ。もし、それが
(つたこならば、じゅうぶんおしがねはかせをつうじて ということもいえるだろう。)
津多子ならば、十分押鐘博士を通じてーーということも云えるだろう。
(けれども、それいがいのじんぶつだとすると、まずそのでどころが、このやかたの)
けれども、それ以外の人物だとすると、まずその出所が、この館の
(やくぶつしついがいにはそうぞうされないとおもうのだがね。だからのりみずくん、ぼくは)
薬物室以外には想像されないと思うのだがね。だから法水君、僕は
(ほっぷすじゃないが、もういちどやくぶつしつをしらべてみたら、あるいははんにんの)
ホップスじゃないが、もう一度薬物室を調べてみたら、あるいは犯人の
(すてーと・おぶ・うぉあがわかりゃしないかとおもうんだ このけんじのていぎによって、ふたたびやくぶつしつの)
戦闘状態が判りゃしないかと思うんだ」この検事の提議によって、再び薬物室の
(ちょうさがかいしされた。しかし、そこにはぴろかるぴんのくすりびんはあっても、それには)
調査が開始された。しかし、そこにはピロカルピンの薬罎はあっても、それには
(どこぞといって、てをつけたらしいけいせきはなかった。したがって、げんりょうは)
どこぞと云って、手を付けたらしい形跡はなかった。したがって、減量は
(いうまでもないことだが、なによりさいしょから、いちどもつかったことがないとみえて)
云うまでもないことだが、なにより最初から、一度も使ったことがないと見えて
(ぜんたいがあついほこりをかぶっていた。そして、やくひんだなのおくふかくにうもれているのだった。)
全体が厚い埃を冠っていた。そして、薬品棚の奥深くに埋もれているのだった。
(のりみずはいったんしつぼうのいろをうかべたけれども、とつぜんかれに、たばこをすてさせてまで)
法水はいったん失望の色を泛べたけれども、突然彼に、莨を捨てさせてまで
(さけばせたものがあった。)
叫ばせたものがあった。