黒死館事件98
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問題文
(しかしのりみずくん、どのばめんでもくりヴぉふのありばいは、とうてい)
「しかし法水君、どの場面でもクリヴォフの不在証明は、とうてい
(うちこわしがたいものなのだよ。どうしてもめーすんの やのいえ みたいに、)
打ち破し難いものなのだよ。どうしてもメースンの『矢の家』みたいに、
(こうどうでもはっけんされないかぎり、このじけんのかいけつはけっきょく)
坑道でも発見されないかぎり、この事件の解決は結局
(ふかのうのようなきがするんだ それではくましろくん とのりみずはまんぞくそうにうなずいて、)
不可能のような気がするんだ」「それでは熊城君」と法水は満足そうに頷いて、
(ぽけっとのなかから、れいのでぃぐすびいの、きぶんをしるしたしへんをとりだした。すると、)
布袋の中から、例のディグスビイの、奇文を記した紙片を取り出した。すると、
(そこになにごとかいじょうなものがよきされてきて、ふたりのかおに、なかばおずおずとした)
そこに何事か異常なものが予期されてきて、二人の顔に、なかば怯々とした
(せいしょくがはいあがっていった。のりみずはしずかにいった。じつをいうと、でぃぐすびいの)
生色が這い上っていった。法水は静かに云った。「実を云うと、ディグスビイの
(くりぷとめにつぇも、すでにあのびはいんど・すていあす だけでつきていて、このきぶんのなかにある、)
秘密記法も、既にあの大階段の裏だけで尽きていて、この奇文の中にある、
(こくはくとじゅそのいしを、しめすにとどまっているとかんがえられていた。ところが、こいに)
告白と呪詛の意志を、示すに止まっていると考えられていた。ところが、故意に
(ぶんぽうをむししたりかんしのないてんをかんがえると、そこからくりぷとめにつぇの、)
文法を無視したり冠詞のない点を考えると、そこから秘密記法の、
(おぞましいこうきがふれてくるようにおもわれた。ねえくましろくん、ひとつのあんごうから)
おぞましい香気が触れてくるように思われた。ねえ熊城君、一つの暗号から
(またあたらしいものがあらわれる それをこもちあんごうといって、ちょうどこのふたつの)
また新しいものが現われるーーそれを子持ち暗号と云って、ちょうどこの二つの
(ぶんしょうが、それにあたるのだよ。ところで、くどくどしいくしんだんは、ぬきにして、)
文章が、それに当るのだよ。ところで、くどくどしい苦心談は、抜きにして、
(さっそくかいどくほうをのべることにしよう。がんらい、あんごうとはいっけんにてもつかぬ、)
さっそく解読法を述べることにしよう。元来、暗号とは一見似てもつかぬ、
(ふたつのきぶんのようにみえるが、そのうち、さいしょのたんぶんのかしらもじだけを、)
二つの奇文のように見えるが、そのうち、最初の短文の頭文字だけを、
(つらねたものがあんごうごなんだ。また、そのきいは、もうひとつのそうせいきめいた、)
列ねたものが暗号語なんだ。また、その鍵は、もう一つの創世記めいた、
(ぶんしょうのなかにかくされてあったのだよ。しかし、ぼくもさいしょは、あやまったかんさつを)
文章の中に隠されてあったのだよ。しかし、僕も最初は、誤った観察を
(していた。あれは qlikjyikkkjubi と、ぜんぶで)
していた。あれは qlikjyikkkjubi と、全部で
(じゅうよんもじになる。すると、にもじをいちじとすれば、ななもじのたんごができあがって、)
十四文字になる。すると、二文字を一字とすれば、七文字の単語が出来上って、
(ik とつづいたぶぶんがにかしょもあるのだから、それが e とか s とかのききじを)
ik と続いた部分が二個所もあるのだから、それがeとかsとかの利字を
(あんじするようにおもわれる。けれども、たんごひとつでは、おそらくいみを)
暗示するように思われる。けれども、単語一つでは、恐らく意味を
(なさぬだろうとおもって、まもなくそのかんがえをすててしまった。そこで、つぎにぼくは)
なさぬだろうと思って、間もなくその考えを捨ててしまった。そこで、次に僕は
(そのぜんくをふたつないしみっつのしょうせつにわけようとこころみたのだ。そして、それには)
その全句を二つないし三つの小節に分けようと試みたのだ。そして、それには
(わけもなくせいこうすることができたのだよ。なぜなら、ちゅうおうに k がみっつならんでいる)
訳もなく成功することが出来たのだよ。何故なら、中央にkが三つ並んでいる
(ぶぶんがあるだろう。そのにばんめとさんばんめとのあいだをたちわれば、とうぜんふたつのしょうせつに)
部分があるだろう。その二番目と三番目との間を截ち割れば、当然二つの小説に
(ふしぜんでなくわけることができるからなんだ。ねえくましろくん、おなじもじがみっつ)
不自然でなく分けることが出来るからなんだ。ねえ熊城君、同じ文字が三つ
(つづくなんて、そんなどうりがけっしてあろうきづかいはないし、また、)
続くなんて、そんな道理がけっしてあろう気遣いはないし、また、
(だぶったもじからはじまるたんごというのは、ほんのかぞえるほどしかないからだよ。)
重複った文字から始まる単語というのは、ホンの数えるほどしかないからだよ。
(で、そうしてから・・・・・・とでぃぐすびいがかきのこしたふしぎなぶんしょうのいっくいっくに)
で、そうしてから」とディグスビイが書き残した不思議な文章の一句一句に
(のりみずはつぎのようなばんごうをつけていった。)
法水は次のような番号を付けていった。
(えほばかみはふたなりき。 はじめにみずからいとなみて、ふたごをうみたもうえり。)
【エホバ神は半陰陽き。】【初めに自らいとなみて、双生児を生み給えり。】
(さいしょにはらよりいでしは、おんなにしてえヴとなづけ、つぎなるはおとこにしてあだむと)
【最初に胎より出でしは、女にしてエヴと名付け、次なるは男にしてアダムと
(なづけたり。 しかるに、あだむはひにむかうとき、ほぞよりうえはひにしたがいてはいごに)
名付けたり。】【然るに、アダムは陽に向う時、臍より上は陽に従いて背後に
(かげをなせども、ほぞよりしたはひにさからいてぜんぽうにかげをおとせり。 かみこれのふしぎを)
影をなせども、臍より下は陽に逆いて前方に影を落せり。】【神此の不思議を
(みていたくおどろき、あだむをおそれてみずからがことなしたまいしも、えヴはじょうじんと)
見ていたく驚き、アダムを畏れて自らが子となし給いしも、エヴは常人と
(ことならざればひとなし、さてえヴといとなみしに、えヴみごもりてじょじをうみて)
異ならざれば婢となし、さてエヴといとなみしに、エヴ姙りて女児を生みて
(しせり。 かみそのじょじをげかいにおろしてひとのははとなさしめたまいき)
死せり。】【神その女児を下界に降して人の母となさしめ給いき】
(まずこんなふうにして、ぼくはこのぶんしょうをななせつにわけてみたのだ。そして、)
「まずこんな風にして、僕はこの文章を七節に分けてみたのだ。そして、
(それぞれのしょうせつから、そこにひそんでいるかいごのあんじを、)
それぞれの小節から、そこに潜んでいる解語の暗示を、
(さぐりだそうとしたのだった。ところで、ぶんちゅうのだいいっせつだが、ぼくはこのくを)
探り出そうとしたのだった。ところで、文中の第一節だが、僕はこの句を
(にんげんそうぞうといういみにかいしゃくした。いわばすべてのもののはじめ たとえていうと)
人間創造という意味に解釈した。云わばすべての物の創めーー例えて云うと
(いろはのい、abc の a なのだ。それからだいにせつ これがいちばんじゅうような)
伊呂波のい、ABCのAなのだ。それから第二節ーーこれが一番重要な
(てんなんだよ。ねえくましろくん、それがふたごをうみたもうえり、 なんだろう。)
点なんだよ。ねえ熊城君、それが双生児を生み給えり、ーーなんだろう。
(それでふたごといえば、さしずめ tt とか ff とか ae とか)
それで双生児と云えば、さしずめ tt とか ff とか ae とか
(いうような、もじてきなかいしゃくをだれしもそうぞうしたくなるものだ。ところが、)
云うような、文字的な解釈を誰しも想像したくなるものだ。ところが、
(このばあいはすこぶるひょうしょうてきないみがあって、それが、ぼたいないにおける)
この場合はすこぶる表象的な意味があって、それが、母胎内における
(ふたごのかたちをさしているのだったよ。ところがくましろくん、だいたい)
双生児の形を指しているのだったよ。ところが熊城君、だいたい
(ふたごというものが、ははのしきゅうないでどんなかっこうをしているか、おそらく)
双生児というものが、母の子宮内でどんな恰好をしているか、恐らく
(しらぬはずはないとおもうがね。かならずひとりがさかさになっていて、ひとりのあたまと)
知らぬはずはないと思うがね。必ず一人が逆さになっていて、一人の頭と
(もうひとりのあしといったぐあいで、つまり、ちょうどとらんぷのじんぶつもようみたいに、)
もう一人の足といった具合で、つまり、ちょうどトランプの人物模様みたいに、
(とおしょうおなじというかっこうなんだよ。そこで、p と d とをだきあわせてみたまえ。)
頭尾相同じという恰好なんだよ。そこで、pとdとを抱き合わせて見給え。
(あるふぁべっとのなかで、てっきりふたごのかたちができるじゃないか、そして、)
アルファベットの中で、てっきり双生児の形が出来るじゃないか、そして、
(それにだいいっせつのかいしゃくをくわえれば、とうぜん p か d かそのいずれかが、)
それに第一節の解釈を加えれば、当然pかdかそのいずれかが、
(あるふぁべっとの a のいちをしめているにちがいないのだ。しかし、)
アルファベットのaの位置を占めているに違いないのだ。しかし、
(まだそれだけでは、ようするにべっこのあんごうをつくるにすぎないし、また q と b でも)
まだそれだけでは、要するに別個の暗号を作るにすぎないし、またqとbでも
(おなじようだけれど、それではかいとうが、きゅねいるふぉるむかねすきーみたいに)
同じようだけれど、それでは解答が、楔形文字か波斯文字みたいに
(なってしまうのだよ それからひといきいれたていで、つめたくなったのこりのこうちゃを)
なってしまうのだよ」それから一息いれた体で、冷たくなった残りの紅茶を
(まずそうにながしいれてから、のりみずはいっきにかたりつづけた。ところで、)
不味そうに流し入れてから、法水は一気に語り続けた。「ところで、
(それがすんでだいさんせついこうになると、はじめてそこで、d と p とがくぶんされるのだ。)
それがすんで第三節以降になると、初めてそこで、dとpとが区分されるのだ。
(つまり、さいしょにうまれたのがおんなでつぎがおとこ なんだから、あたまをしたにむけている)
つまり、最初に生まれたのが女で次が男ーーなんだから、頭を下に向けている
(d がえヴで、p があだむにあたるわけだろう。それから、だいごせつにあるこということばと)
dがエヴで、pがアダムに当る訳だろう。それから、第五節にある子と云う語と
(ななせつのははということばを、それぞれにしいんまたはぼいんとかいしゃくするのだ。つまり、)
七節の母という語を、それぞれに子音または母音と解釈するのだ。つまり、
(ここまでのところでは、d がぼいん p がしいんの、それぞれかんとうをしめるもじに)
ここまでのところでは、dが母音pが子音の、それぞれ冠頭を占める文字に
(あてはめることになるけれども、しかし、だいよんせつとだいろくせつでもって、それをさらに)
当て嵌ることになるけれども、しかし、第四節と第六節でもって、それをさらに
(ていせいしているのだ。ところで、だいよんせつにはほぞといういちじがあるけれども、それを)
訂正しているのだ。ところで、第四節には臍という一字があるけれども、それを
(ぜんたいのちゅうしんといういみにかいしゃくするのだ。つまり、p をしいんのしゅごである b に)
全体の中心という意味に解釈するのだ。つまり、pを子音の首語であるbに
(あてて、bcdf・・・・・・のしたへ pqrs とふごうさせてゆくと、n にあたる b が、)
当てて、bcdfの下へpqrsと符合させてゆくと、nに当るbが、
(p からさいしゅうの n までの、どっちからかぞえてもちょうどちゅうおうにあたるりくつになる)
pから最終のnまでの、どっちから数えてもちょうど中央に当る理屈になるーー
(それがほぞといういちじにひょうしょうをなしているのだ。そうすると、だいよんせつのぜんはんには、)
それが臍という一字に表象をなしているのだ。そうすると、第四節の前半には、
(ほぞからうえのかげはしぜんのかたちではいごにおちる とあるのだから、b から n)
臍から上の影は自然の形で背後に落ちるーーとあるのだから、bからnーー
(すなわち p から b までは、いぜんそのままでさしつかえないのだ。けれども、)
すなわちpからbまでは、依然そのままで差支えないのだ。けれども、
(つづくこうはんになると、へんかがたってくる。ほぞよりしたのかげが、さしてくるひに)
続く後半になると、変化が起ってくる。臍より下の影が、差してくる陽に
(さからってぜんぽうにとうえいするというぶんしょうのかいしゃくは、かげ すなわちあるふぁべっとのじゅんじょを、)
逆らって前方に投影するという文章の解釈は、影ーーすなわちABCの順序を、
(こんどはぎゃくにしろというあんじにそういないのだ。そこで、ぜんはんのはいれつをそのままに)
今度は逆にしろという暗示に相違ないのだ。そこで、前半の排列をそのままに
(すすめてゆけば、とうぜん n のつぎの p にふごうするのが、b のつぎの c になるじゅんじょだ。)
進めてゆけば、当然nの次のpに符合するのが、bの次のcになる順序だ。
(けれども、それをてんとうさせて、さいしゅうの z にあたるはずの n を、p にあてるのだ。)
けれども、それを転倒させて、最終のzに当るはずのnを、pに当てるのだ。
(したがって、pqrs にたいして cdfg とするところを、nmlk・・・・・・と、)
したがって、pqrsに対してcdfgーーとするところを、nmlkと、
(しりからさかだちにしたかたちでふごうさせてゆく。だからけっきょく、しいんのあんごうが)
尻から逆立ちにした形で符合させてゆく。だから結局、子音の暗号が
(つぎのようなはいれつになってしまうのだよ。)
次のような排列になってしまうのだよ。
(bcdfghjklmnpqrstvwxyz)
bcdfghjklmnpqrstvwxyz
(pqrstvwxyzbnmlkjhgfde)
pqrstvwxyzbnmlkjhgfde
(それから、つづいてだいろうせつでは、えヴみごもりてじょじをうむ というぶんしょうに)
それから、続いて第六節では、エヴ姙りて女児を生むーーという文章に
(いみがある。というのは、えヴすなわち d のつぎのじだい)
意味がある。と云うのは、エヴすなわちdの次の時代ーー
(つまり abcd とかぞえて、d のつぎの e をあんじしているのだ。そして、それに)
つまりabcdと数えて、dの次のeを暗示しているのだ。そして、それに
(だいななせつのかいしゃくをくわえると、e がぼいんのしゅご a にあたることになるのだから、)
第七節の解釈を加えると、eが母音の首語aに当ることになるのだから、
(aeiou を eioua とおきかえたものが、けっきょくぼいんの)
aeiouをeiouaと置き換えたものが、結局母音の
(あんごうになってしまうのだ。そうすると、あのくりぷとめにつぇのぜんぶが、)
暗号になってしまうのだ。そうすると、あの秘密記法の全部が、
(crestless stone となる。それで、まずかいどくを)
crestless stoneーーとなる。それで、まず解読を
(おわったというわけさ なに、くれすとれっす・すとーん!?とけんじはおもわず、)
終ったという訳さ」「なに、クレストレッス・ストーン!?」と検事は思わず、
(とんきょうなさけびごえをたてた。そうなんだ、いわくもんしょうのないいし さ。きみは、)
頓狂な叫び声を立てた。「そうなんだ、曰く紋章のない石ーーさ。君は、
(だんねべるぐふじんがころされたへやをみて、そこのへきろが、もんしょうをきざみこんだいしで、)
ダンネベルグ夫人が殺された室を見て、そこの壁炉が、紋章を刻み込んだ石で、
(きずかれていたのにきがつかなかったかね とのりみずはそういって、だしかけたたばこを)
築かれていたのに気がつかなかったかね」と法水はそう云って、出しかけた莨を
(ふたたびはこのなかにもどしてしまった。そのしゅんかん、あらゆるものが)
再び函の中に戻してしまった。その瞬間、あらゆるものが
(せいししたようにおもわれた。)
静止したように思われた。