桜、散るまでに。　櫻井翔

(１２がつ。)

１２月。

(１２ねんかんらぐびーをやってきたあいつがでるしあいを、)

１２年間ラグビーをやってきたあいつが出る試合を、

(もしまけたらあいつのいんたいじあいとなるしあいをみにいった。)

もし負けたらあいつの引退試合となる試合を観に行った。

(けっか、いんたいじあいとなった。)

結果、引退試合となった。

(せんしゅがきゃくせきにあたまをさげた。)

選手が客席に頭を下げた。

(ぼくのとなりにすわってるやつがいった。)

僕の隣に座ってる奴が言った。

(「これでおれたちのだいのたいいくかいはみんないんたいか・・・」)

「これで俺たちの代の体育会は皆引退か…」

(ふとよこをみると、そいつはないていた。)

ふと横を見ると、そいつは泣いていた。

(１がつ。ゆざわへいった。すきーをした。)

１月。湯沢へ行った。スキーをした。

(なべをした。よなかまでかたりあかした。)

鍋をした。夜中まで語り明かした。

(・・・きづけばはじめてのりょこうだった。)

…気づけば初めての旅行だった。

(２がつ。あいつがいった。)

２月。あいつが言った。

(「おまえがしごとはじめたとき、「そんなにちやほやされてぇのかよ」と)

「お前が仕事初めた時、『そんなにチヤホヤされてぇのかよ』と

(おもったけれど、むかしのなかますげぇたいせつにしてるからいまはそんけいしてるんだ。」)

思ったけれど、昔の仲間すげぇ大切にしてるから今は尊敬してるんだ。」

(よかった・・・。)

良かった…。

(いまや、すくなくともまわりのやつらはおれをみとめてくれている。)

今や、少なくとも周りの奴らは俺を認めてくれている。

(おれのしごとをみとめてくれている。)

俺の仕事を認めてくれている。

(ただ・・・。ただふあんなんだ。)

ただ…。ただ不安なんだ。

(２０ねんご、げんざいとおなじようにおれらはあつまれるのか。)

２０年後、現在と同じように俺らは集まれるのか。

(これだけふらっとなかんじょうのままでいられるのか。)

これだけフラットな感情のままでいられるのか。

(きょうごうかいしゃへいくあなたたちは、すべてをうちあけられるのか。)

競合会社へいくあなた達は、全てを打ち明けられるのか。

(どうぎょうとなるおれらのえがおのうらにしごとはからんでいないか。)

同業となる俺らの笑顔の裏に仕事は絡んでいないか。

(だれかのせいこうをこころからいわえるいちにそれぞれがいるのか。)

誰かの成功を心から祝える位置にそれぞれがいるのか。

(だれかのあやまちを、みんなでゆるすことができるのか。)

誰かの過ちを、皆で許すことが出来るのか。

(そしておれはそのわのなかにいるにんげんになれているのか。)

そして俺はその輪の中にいる人間になれているのか。

(この１ねん「これがさいごのさいご」とおもいながらすごしてきた。)

この１年『これが最後の最後』と思いながら過ごして来た。

(だからせめてあとほんのすこしだけ、あなたたちとばかやっていたいんだ。)

だからせめてあとほんの少しだけ、あなた達とバカやっていたいんだ。

(ひにひに、”とき”はせまってきている。)

日に日に、”時”は迫って来ている。

(ひにひに、”とき”がけずられていく。)

日に日に、”時”が削られていく。

(ひとつひとつが、きっとさいご。)

ひとつひとつが、きっと最後。

(もうじかんがない。)

もう時間がない。

(そつぎょうしきまで、あとひとつき。)

卒業式まで、あとひと月。

(もう、さくらがまいおちる。)

もう、桜が舞い落ちる。

(２がつ２３にち)

２月２３日