【タイピング文庫】宮沢賢治「オツベルと象1」

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プレイ回数3706難易度(4.2) 5477打 長文 かな
独特の世界観にみちた作品を残した宮沢賢治の童話です。
地主のオツベルのもとにやってきた白象。最初は楽しく働いていたが、やがて酷使され、食べ物も減らされ、弱り切って、ついに月の助けを借りて、仲間に救出を求める。

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問題文

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(あるうしかいがものがたる)

……ある牛飼いがものがたる

(だいいちにちようおつべるときたらたいしたもんだ。いねこききかいのろくだいもすえつけて、)

(第一日曜)オツベルときたら大したもんだ。稲扱器械の六台も据えつけて、

(のんのんのんのんのんのんと、おおそろしないおとをたててやっている。)

のんのん のんのん のんのんと、大そろしない音をたててやっている。

(じゅうろくにんのひゃくしょうどもが、かおをまるっきりまっかにしてあしでふんできかいをまわし、)

十六人の百姓どもが、顔をまるっきりまっ赤にして足で踏んで器械をまわし、

(こやまのようにつまれたいねをかたっぱしからこいていく。わらはどんどんうしろのほうへ)

小山のように積まれた稲を片っぱしから扱いて行く。藁はどんどんうしろの方へ

(なげられて、またあたらしいやまになる。そこらは、もみやわらからたったこまかなちりで、)

投げられて、また新しい山になる。そこらは、籾や藁から発ったこまかな塵で、

(へんにぼうっときいろになり、まるでさばくのけむりのようだ。そのうすくらい)

変にぼうっと黄いろになり、まるで沙漠のけむりのようだ。そのうすくらい

(しごとばを、おつべるは、おおきなこはくのぱいぷをくわえ、すいがらをわらにおとさないよう)

仕事場を、オツベルは、大きな琥珀のパイプをくわえ、吹殻を藁に落さないよう

(めをほそくしてきをつけながら、りょうてをせなかにくみあわせて、ぶらぶらいったり)

眼を細くして気をつけながら、両手を背中に組みあわせて、ぶらぶら往ったり

(きたりする。こやはずいぶんがんじょうで、がっこうぐらいもあるのだが、なにせしんしき)

来たりする。小屋はずいぶん頑丈で、学校ぐらいもあるのだが、何せ新式

(いねこききかいが、ろくだいもそろってまわってるから、のんのんのんのんふるうのだ。)

稲扱器械が、六台もそろってまわってるから、のんのん のんのんふるうのだ。

(なかにはいるとそのために、すっかりはらがすくほどだ。そしてじっさいおつべるは)

中にはいるとそのために、すっかり腹が空くほどだ。そしてじっさいオツベルは

(そいつでじょうずにはらをへらし、ひるめしどきには、ろくすんぐらいのびふてきだの、)

そいつで上手に腹をへらし、ひるめしどきには、六寸ぐらいのビフテキだの、

(ぞうきんほどあるおむれつの、ほくほくしたのをたべるのだ。とにかく、そうして、)

雑巾ほどあるオムレツの、ほくほくしたのをたべるのだ。とにかく、そうして、

(のんのんのんのんやっていた。そしたらそこへどういうわけか、その、はくぞうが)

のんのん のんのんやっていた。そしたらそこへどういうわけか、その、白象が

(やってきた。しろいぞうだぜ、ぺんきをぬったのでないぜ。どういうわけできた)

やって来た。白い象だぜ、ペンキを塗ったのでないぜ。どういうわけで来た

(かって?そいつはぞうのことだから、たぶんぶらっともりをでて、ただなにとなく)

かって?そいつは象のことだから、たぶんぶらっと森を出て、ただなにとなく

(きたのだろう。そいつがこやのいりぐちに、ゆっくりかおをだしたとき、ひゃくしょうどもは)

来たのだろう。そいつが小屋の入口に、ゆっくり顔を出したとき、百姓どもは

(ぎょっとした。なぜぎょっとした?よくきくねえ、なにをしだすかしれないじゃ)

ぎょっとした。なぜぎょっとした?よくきくねえ、何をしだすか知れないじゃ

(ないか。かかりあってはたいへんだから、どいつもみな、いっしょうけんめい、)

ないか。かかり合っては大へんだから、どいつもみな、いっしょうけんめい、

など

(じぶんのいねをこいていた。ところがそのときおつべるは、ならんだきかいの)

じぶんの稲を扱いていた。ところがそのときオツベルは、ならんだ器械の

(うしろのほうで、ぽけっとにてをいれながら、ちらっとするどくぞうをみた。それから)

うしろの方で、ポケットに手を入れながら、ちらっと鋭く象を見た。それから

(すばやくしたをむき、なんでもないというふうで、いままでどおりいったりきたり)

すばやく下を向き、何でもないというふうで、いままでどおり往ったり来たり

(していたもんだ。するとこんどははくぞうが、かたあしゆかにあげたのだ。ひゃくしょうどもは)

していたもんだ。するとこんどは白象が、片脚床にあげたのだ。百姓どもは

(ぎょっとした。それでもしごとがいそがしいし、かかりあってはひどいから、そっちを)

ぎょっとした。それでも仕事が忙しいし、かかり合ってはひどいから、そっちを

(みずに、やっぱりいねをこいていた。おつべるはおくのうすくらいところでりょうてを)

見ずに、やっぱり稲を扱いていた。オツベルは奥のうすくらいところで両手を

(ぽけっとからだして、もいちどちらっとぞうをみた。それからいかにもたいくつそうに、)

ポケットから出して、も一度ちらっと象を見た。それからいかにも退屈そうに、

(わざとおおきなあくびをして、りょうてをあたまのうしろにくんで、いったりきたり)

わざと大きなあくびをして、両手を頭のうしろに組んで、行ったり来たり

(やっていた。ところがぞうがいせいよく、まえあしふたつつきだして、こやにあがって)

やっていた。ところが象が威勢よく、前肢二つつきだして、小屋にあがって

(こようとする。ひゃくしょうどもはぎくっとし、おつべるもすこしぎょっとして、おおきな)

来ようとする。百姓どもはぎくっとし、オツベルもすこしぎょっとして、大きな

(こはくのぱいぷから、ふっとけむりをはきだした。それでもやっぱりしらない)

琥珀のパイプから、ふっとけむりをはきだした。それでもやっぱりしらない

(ふうで、ゆっくりそこらをあるいていた。そしたらとうとう、ぞうがのこのこ)

ふうで、ゆっくりそこらをあるいていた。そしたらとうとう、象がのこのこ

(のぼってきた。そしてきかいのまえのとこを、のんきにあるきはじめたのだ。ところが)

上って来た。そして器械の前のとこを、呑気にあるきはじめたのだ。ところが

(なにせ、きかいはひどくまわっていて、もみはゆうだちかあられのように、ぱちぱちぞうに)

何せ、器械はひどく廻っていて、籾は夕立か霰のように、パチパチ象に

(あたるのだ。ぞうはいかにもうるさいらしく、ちいさなそのめをほそめていたが、)

あたるのだ。象はいかにもうるさいらしく、小さなその眼を細めていたが、

(またよくみると、たしかにすこしわらっていた。おつべるはやっとかくごをきめて、)

またよく見ると、たしかに少しわらっていた。オツベルはやっと覚悟をきめて、

(いねこききかいのまえにでて、ぞうにはなしをしようとしたが、そのときぞうが、とてもきれいな)

稲扱器械の前に出て、象に話をしようとしたが、そのとき象が、とてもきれいな

(うぐいすみたいないいこえで、こんなもんくをいったのだ。ああ、だめだ。)

鶯みたいないい声で、こんな文句を云ったのだ。 「ああ、だめだ。

(あんまりせわしく、すながわたしのはにあたる。まったくもみは、ぱちぱち)

あんまりせわしく、砂がわたしの歯にあたる。」まったく籾は、パチパチ

(ぱちぱちはにあたり、またまっしろなあたまやくびにぶっつかる。さあ、おつべるは)

パチパチ歯にあたり、またまっ白な頭や首にぶっつかる。さあ、オツベルは

(いのちがけだ。ぱいぷをみぎてにもちなおし、どきょうをすえてこういった。どうだい、)

命懸けだ。パイプを右手にもち直し、度胸を据えて斯う云った。 「どうだい、

(ここはおもしろいかい。おもしろいねえ。ぞうがからだをななめにして、めをほそくして)

此処は面白いかい。」「面白いねえ。」象がからだを斜めにして、眼を細くして

(へんじした。ずうっとこっちにいたらどうだい。ひゃくしょうどもははっとして、)

返事した。 「ずうっとこっちに居たらどうだい。」百姓どもははっとして、

(いきをころしてぞうをみた。おつべるはいってしまってから、にわかにがたがた)

息を殺して象を見た。オツベルは云ってしまってから、にわかにがたがた

(ふるえだす。ところがぞうはけろりとしていてもいいよ。とこたえたもんだ。)

顫え出す。ところが象はけろりとして 「居てもいいよ。」と答えたもんだ。

(そうか。それではそうしよう。そういうことにしようじゃないか。)

「そうか。それではそうしよう。そういうことにしようじゃないか。」

(おつべるがかおをくしゃくしゃにして、まっかになってよろこびながらそういった。)

オツベルが顔をくしゃくしゃにして、まっ赤になって悦ながらそう云った。

(どうだ、そうしてこのぞうはもうおつべるのざいさんだ。いまにみたまえ、おつべるは)

どうだ、そうしてこの象はもうオツベルの財産だ。いまに見たまえ、オツベルは

(あのはくぞうを、はたらかせるか、さーかすだんにうりとばすか、)

あの白象を、はたらかせるか、サーカス団に売りとばすか、

(どっちにしてもまんえんいじょうもうけるぜ。)

どっちにしても万円以上もうけるぜ。

(だいににちようおつべるときたらたいしたもんだ。それにこのまえいねこきごやで、)

(第二日曜)オツベルときたら大したもんだ。それにこの前稲扱小屋で、

(うまくじぶんのものにした、ぞうもじっさいたいしたもんだ。ちからもにじゅうばりきもある。)

うまく自分のものにした、象もじっさい大したもんだ。力も二十馬力もある。

(だいいちみかけがまっしろで、きばはぜんたいきれいなぞうげでできている。かわもぜんたい、)

第一みかけがまっ白で、牙はぜんたいきれいな象牙でできている。皮も全体、

(りっぱでじょうぶなぞうひなのだ。そしてずいぶんはたらくもんだ。けれどもそんなに)

立派で丈夫な象皮なのだ。そしてずいぶんはたらくもんだ。けれどもそんなに

(かせぐのも、やっぱりしゅじんがえらいのだ。おい、おまえはとけいはいらないか。)

稼ぐのも、やっぱり主人が偉いのだ。 「おい、お前は時計は要らないか。」

(まるたでたてたそのぞうごやのまえにきて、おつべるはこはくのぱいぷをくわえ、)

丸太で建てたその象小屋の前に来て、オツベルは琥珀のパイプをくわえ、

(かおをしかめてこうきいた。ぼくはとけいはいらないよぞうがわらってへんじした。)

顔をしかめて斯う訊いた。「ぼくは時計は要らないよ」象がわらって返事した。

(まあもってみろ、いいもんだ。こういいながらおつべるは、ぶりきで)

「まあ持って見ろ、いいもんだ。」斯う言いながらオツベルは、ブリキで

(こさえたおおきなとけいを、ぞうのくびからぶらさげた。なかなかいいねぞうもいう。)

こさえた大きな時計を、象の首からぶらさげた。「なかなかいいね」象も云う。

(くさりもなくちゃだめだろう。おつべるときたら、ひゃっきろもあるくさりをさ、その)

「鎖もなくちゃだめだろう。」オツベルときたら、百キロもある鎖をさ、その

(まえあしにくっつけた。うん、なかなかくさりはいいね。みあしあるいてぞうがいう。)

前肢にくっつけた。「うん、なかなか鎖はいいね。」三あし歩いて象がいう。

(くつをはいたらどうだろう。ぼくはくつなどはかないよ。まあはいて)

「靴をはいたらどうだろう。」「ぼくは靴などはかないよ。」「まあはいて

(みろ、いいもんだ。おつべるはかおをしかめながら、あかいはりこのおおきなくつを、)

みろ、いいもんだ。」オツベルは顔をしかめながら、赤い張子の大きな靴を、

(ぞうのうしろのかかとにはめた。なかなかいいね。ぞうもいう。くつにかざりを)

象のうしろのかかとにはめた。「なかなかいいね。」象も云う。「靴に飾りを

(つけなくちゃ。おつべるはもうおおいそぎで、よんひゃっきろあるふんどうをくつのうえから、)

つけなくちゃ。」オツベルはもう大急ぎで、四百キロある分銅を靴の上から、

(はめこんだ。うん、なかなかいいね。ぞうはふたあしあるいてみて、さも)

穿め込んだ。 「うん、なかなかいいね。」象は二あし歩いてみて、さも

(うれしそうにそういった。つぎのひ、ぶりきのおおきなとけいと、やくざなかみのくつとは)

うれしそうにそう云った。次の日、ブリキの大きな時計と、やくざな紙の靴とは

(やぶけ、ぞうはくさりとふんどうだけで、おおよろこびであるいておった。すまないが)

やぶけ、象は鎖と分銅だけで、大よろこびであるいて居った。 「済まないが

(ぜいきんもたかいから、きょうはすこうし、かわからみずをくんでくれ。おつべるは)

税金も高いから、今日はすこうし、川から水を汲んでくれ。」オツベルは

(りょうてをうしろでくんで、かおをしかめてぞうにいう。ああ、ぼくみずをくんで)

両手をうしろで組んで、顔をしかめて象に云う。 「ああ、ぼく水を汲んで

(こよう。もうなんばいでもくんでやるよ。ぞうはめをほそくしてよろこんで、)

来よう。もう何ばいでも汲んでやるよ。」象は眼を細くしてよろこんで、

(そのひるすぎにごじゅうだけ、かわからみずをくんできた。そしてなっぱのはたけにかけた。)

そのひるすぎに五十だけ、川から水を汲んで来た。そして菜っ葉の畑にかけた。

(ゆうがたぞうはこやにいて、じゅっぱのわらをたべながら、にしのみっかのつきをみて、)

夕方象は小屋に居て、十把の藁をたべながら、西の三日の月を見て、

(ああ、かせぐのはゆかいだねえ、さっぱりするねえといっていた。)

「ああ、稼ぐのは愉快だねえ、さっぱりするねえ」と云っていた。

(すまないがぜいきんがまたあがる。きょうはすこうしもりから、たきぎをはこんでくれ)

「済まないが税金がまたあがる。今日は少うし森から、たきぎを運んでくれ」

(おつべるはふさのついたあかいぼうしをかぶり、りょうてをかくしにつっこんで、)

オツベルは房のついた赤い帽子をかぶり、両手をかくしにつっ込んで、

(つぎのひぞうにそういった。ああ、ぼくたきぎをもってこよう。いいてんきだねえ。)

次の日象にそう言った。「ああ、ぼくたきぎを持って来よう。いい天気だねえ。

(ぼくはぜんたいもりへいくのはだいすきなんだぞうはわらってこういった。)

ぼくはぜんたい森へ行くのは大すきなんだ」象はわらってこう言った。

(おつべるはすこしぎょっとして、ぱいぷをてからあぶなくおとしそうにしたが)

オツベルは少しぎょっとして、パイプを手からあぶなく落としそうにしたが

(もうあのときは、ぞうがいかにもゆかいなふうで、ゆっくりあるきだしたので、)

もうあのときは、象がいかにも愉快なふうで、ゆっくりあるきだしたので、

(またあんしんしてぱいぷをくわえ、ちいさなせきをひとつして、ひゃくしょうどものしごとのほうを)

また安心してパイプをくわえ、小さな咳を一つして、百姓どもの仕事の方を

(みにいった。そのひるすぎのはんにちに、ぞうはきゅうひゃっぱたきぎをはこび、めをほそくして)

見に行った。そのひるすぎの半日に、象は九百把たきぎを運び、眼を細くして

(よろこんだ。ばんがたぞうはこやにいて、はちわのわらをたべながら、にしのよっかの)

よろこんだ。晩方象は小屋に居て、八把の藁をたべながら、西の四日の

(つきをみてああ、せいせいした。さんたまりあとこうひとりごとしたそうだ。)

月を見て「ああ、せいせいした。サンタマリア」と斯うひとりごとしたそうだ。

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