【タイピング文庫】夢野久作「キャラメルと飴玉」

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プレイ回数6070難易度(4.2) 1864打 長文 かな
怪奇色と幻想性の色濃い作風が特徴の夢野久作の短編。
キャラメルと飴玉が、お菓子箱のなかで喧嘩を始める物語。

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問題文

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(きゃらめるとあめだまとがおかしばこのうちでけんかをはじめました。)

キャラメルと飴玉とがお菓子箱のうちで喧嘩をはじめました。

(やい、あめだまのまぬけやろう。きさまはまんまるくてあまったるいばかりで)

「ヤイ、飴玉の間抜け野郎。貴様はまん丸くて甘ったるいばかりで

(なんにもならないじゃないか。おれなんぞみろ。ちゃんときものをきて)

何にもならないじゃないか。俺なんぞ見ろ。ちゃんと着物を着て

(しかくいおうちにはいっているんだぞ。きさまなんぞはきものなんかほしくたって)

四角いおうちにはいっているんだぞ。貴様なんぞは着物なんか欲しくたって

(もたないだろう。ざまをみろやーいあめだまはまっかになっていきどおりだしました。)

持たないだろう。態をみろヤーイ」飴玉は真赤になって憤り出しました。

(しっけいなことをいうな。うちにいるときははだかだけど、そとにでるときにゃ)

「失敬なことを言うな。うちにいる時は裸だけど、外に出る時にゃ

(ちゃんとさんかくのかみのきものをきていくんだ。だいいちきさまのなまえがなまいきだ。)

ちゃんと三角の紙の着物を着て行くんだ。第一貴様の名前が生意気だ。

(きゃらめるなんてこうまんちきなつらをしやがって、にっぽんにいるのなら)

キャラメルなんて高慢チキな面をしやがって、日本にいるのなら

(もっとにっぽんらしいなまえをつけろこんちくしょう、おうちゃくなことをいう。)

もっと日本らしい名前をつけろ」「こん畜生、横着な事を言う。

(きゃらめるがわるけりゃあかすていらはすぺいんのことばだぞ。)

キャラメルが悪けりゃあカステイラは西班牙の言葉だぞ。

(しゅーくりーむでもわっふるでもよいが、かしにはみんなせいようのなまえが)

シュークリームでもワッフルでも良いが、菓子にはみんな西洋の名前が

(ついているんだ。あめだのせんべいなぞいうのはみんなやすっぽい)

付いているんだ。あめだのせんべいなぞ言うのはみんな安っぽい

(うまくないおかしばかりだうそをはけ。ようかんなんていうのは)

美味くないお菓子ばかりだ」「嘘を吐け。羊羹なんて言うのは

(きさまよりよっぽどじょうとうだぞ。こんぺいとうはろしあごのなまえだけれど、)

貴様よりよっぽど上等だぞ。コンペイトウは露西亜語の名前だけれど、

(おれよりずっとまずいぞ。うえふぁーすなんていうやつはいくらくったって)

俺よりずっと不味いぞ。ウエファースなんていう奴はいくら喰ったって

(くったようなきがしないじゃないかばかをいえ。あれでもなかなか)

喰ったような気がしないじゃないか」「馬鹿を言え。あれでもなかなか

(からだのためになるんだ。おれなんぞはぎゅうにゅうがはいっているから)

身体のためになるんだ。おれなんぞは牛乳が入っているから

(きさまよりずっとじょうとうだこんちくしょう、おれだってにっきがはいっているんだ。)

貴様よりずっと上等だ」「こん畜生、おれだって肉桂が入っているんだ。

(にっきはおくすりになるんだぞ。きさまのなかにぎゅうにゅうがなんごうはいってりゃあ)

肉桂はお薬になるんだぞ。貴様の中に牛乳が何合入ってりゃあ

(そんなにいばるんだなにをこしゃくななにをなまいきな)

そんなに威張るんだ」「何を小癪な」「何を生意気な」

など

(とうとうとっくみあって、おおげんかになりました。さいぜんからけんぶつしていた)

とうとう取っ組み合って、大喧嘩になりました。最前から見物していた

(きゃらめるのなかまのみんつ、ぼんぼん、ちょこれーと、どろっぷす、)

キャラメルの仲間のミンツ、ボンボン、チョコレート、ドロップス、

(あめだまのなかまのげんろく、さいごうだま、かりんとう、あるへいとうなぞはそれというので)

飴玉の仲間の元禄、西郷玉、花林糖、有平糖なぞはソレというので

(かけよって、そうほういりみだれてごちゃごちゃにおしあいつかみあっているうちに、)

馳け寄って、双方入り乱れてゴチャゴチャに押し合い掴み合っているうちに、

(みんなおたがいにくっつきあってうごけなくなってしまいました。)

みんなお互いにくっつき合って動けなくなってしまいました。

(そこへぼっちゃんがきておかしばこのふたをとってみるとびっくりして、)

そこへ坊ちゃんが来てお菓子箱の蓋を取ってみるとビックリして、

(おかあさん。たいへんたいへん。おかしがけんかをしているとさけびました。)

「お母さん。大変大変。お菓子が喧嘩をしている」と叫びました。

(おかあさんもやってきてこのありさまをみると、それごらんなさい。いっしょにしまって)

お母さんもやって来てこの有様を見ると、「それ御覧なさい。一緒に仕舞って

(おいてはいけないといったではありませんか。わたしがこわしてあげるから、)

置いてはいけないと言ったではありませんか。私がこわして上げるから、

(おねえさんやおにいさんといっしょにおやつにたべておしまいなさい)

お姉さんやお兄さんと一緒におやつに食べておしまいなさい」

(といってかなづちをもってきて、ぱらぱらとうちこわしておしまいになりました。)

と言って金槌を持って来て、パラパラと打ちこわしておしまいになりました。

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