白痴　７

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タグ小説 長文 文学 白痴 坂口安吾
坂口安吾の小説。

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問題文

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(しんぶんきしゃだのぶんかえいがのえんしゅつかなどはせんぎょうちゅうのせんぎょうであった。)

新聞記者だの文化映画の演出家などは賤業中の賤業であった。

(かれらのこころえているのはじだいのりゅうこうということだけで、)

彼等の心得ているのは時代の流行ということだけで、

(うごくじかんにのりおくれまいとすることだけがせいかつであり、)

動く時間に乗遅れまいとすることだけが生活であり、

(じがのついきゅう、こせいやどくそうというものはこのせかいにはそんざいしない。)

自我の追求、個性や独創というものはこの世界には存在しない。

(かれらのにちじょうのかいわのなかにはかいしゃいんだのかんりだの)

彼等の日常の会話の中には会社員だの官吏だの

(がっこうのきょうしにくらべてじがだのにんげんだの)

学校の教師に比べて自我だの人間だの

(こせいだのどくそうだのということばがはんらんしすぎているのであったが、)

個性だの独創だのという言葉が氾濫しすぎているのであったが、

(それはことばのうえだけのそんざいであり、)

それは言葉の上だけの存在であり、

(ありがねをはたいておんなをくどいて)

有金をはたいて女を口説いて

(ふつかよいのくつうがにんげんのなやみだというようなばかばかしいものなのだった。)

宿酔の苦痛が人間の悩みだと云うような馬鹿馬鹿しいものなのだった。

(ああひのまるのかんげきだの、へいたいさんよありがとう、)

ああ日の丸の感激だの、兵隊さんよ有難う、

(おもわずめがしらがあつくなったり、)

思わず目頭が熱くなったり、

(ずどずどずどはばくげきのおと、むがむちゅうでちじょうにふし、)

ズドズドズドは爆撃の音、無我夢中で地上に伏し、

(ぱんぱんぱんはきじゅうのおと、およそせいしんのたかさもなければ)

パンパンパンは機銃の音、およそ精神の高さもなければ

(いっこうのじっかんすらもないかくうのぶんしょうにうきみをやつし、)

一行の実感すらもない架空の文章に憂身をやつし、

(えいがをつくり、せんそうのひょうげんとはそういうものだとおもいこんでいる。)

映画をつくり、戦争の表現とはそういうものだと思いこんでいる。

(またあるものはぐんぶのけんえつでかきようがないというけれども、)

又ある者は軍部の検閲で書きようがないと言うけれども、

(ほかにしんじつのぶんしょうのこころあたりがあるわけでなく、)

他に真実の文章の心当りがあるわけでなく、

(ぶんしょうじたいのしんじつやじっかんはけんえつなどにはかんけいのないそんざいだ。)

文章自体の真実や実感は検閲などには関係のない存在だ。

(ようするにいかなるじだいにもこのれんちゅうには)

要するに如何なる時代にもこの連中には

など

(ないようがなくくうきょなじががあるだけだ。)

内容がなく空虚な自我があるだけだ。

(りゅうこうしだいでみぎからひだりへどうにでもなり、)

流行次第で右から左へどうにでもなり、

(つうぞくしょうせつのひょうげんなどからおてほんをまなんで)

通俗小説の表現などからお手本を学んで

(じだいのひょうげんだとおもいこんでいる。)

時代の表現だと思いこんでいる。

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