白痴 11
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問題文
(しんやにりんじんをたたきおこしておびえきったおんなをかえすのもやりにくいことであり、)
深夜に隣人を叩き起して怯えきった女を返すのもやりにくいことであり、
(さりとてよるがあけておんなをかえしていちやとめたということが)
さりとて夜が明けて女を返して一夜泊めたということが
(いかなるごかいをうみだすか、)
如何なる誤解を生みだすか、
(あいてがきちがいのことだからそうぞうすらもつかなかった。)
相手が気違いのことだから想像すらもつかなかった。
(ままよ、いざわのこころにはきみょうなゆうきがわいてきた。)
ままよ、伊沢の心には奇妙な勇気が湧いてきた。
(そのじったいはせいかつじょうのかんじょうそうしつにたいするこうきしんと)
その実体は生活上の感情喪失に対する好奇心と
(しげきとのみりょくにひかれただけのものであったが、)
刺戟との魅力に惹かれただけのものであったが、
(どうにでもなるがいい、ともかくこのげんじつをひとつのしれんとみることが)
どうにでもなるがいい、ともかくこの現実を一つの試錬と見ることが
(おれのいきかたにひつようなだけだ。)
俺の生き方に必要なだけだ。
(はくちのおんなのいちやをほごするというがんぜんのぎむいがいに)
白痴の女の一夜を保護するという眼前の義務以外に
(なにをかんがえなにをおそれるひつようもないのだとじぶんじしんにいいきかした。)
何を考え何を怖れる必要もないのだと自分自身に言いきかした。
(かれはこのとうとつせんばんなできごとにへんにかんどうしていることを)
彼はこの唐突千万な出来事に変に感動していることを
(はずべきことではないのだとじぶんじしんにいいきかせていた。)
羞(は)ずべきことではないのだと自分自身に言いきかせていた。
(ふたつのねどこをしきおんなをねせてでんとうをけしていちにふんもしたかとおもうと、)
二つの寝床をしき女をねせて電燈を消して一二分もしたかと思うと、
(おんなはきゅうにおきあがりねどこをぬけでて、)
女は急に起き上り寝床を脱けでて、
(へやのどこかかたすみにうずくまっているらしい。)
部屋のどこか片隅にうずくまっているらしい。
(それがもしまふゆでなければ)
それがもし真冬でなければ
(いざわはしいてこだわらずねむったかもしれなかったが、)
伊沢は強いてこだわらず眠ったかも知れなかったが、
(とくべつさむいよふけで、)
特別寒い夜更けで、
(ひとりぶんのねどこをふたりにぶんかつしただけでも)
一人分の寝床を二人に分割しただけでも
(がいきがじかにはだにせまり)
外気がじかに肌にせまり
(からだのふるえがとまらぬぐらいつめたかった。)
身体の顫(ふる)えがとまらぬぐらい冷めたかった。
(おきあがってでんとうをつけると、)
起き上って電燈をつけると、
(おんなはとぐちのところにえりをかきあわせてうずくまっており、)
女は戸口のところに襟をかき合せてうずくまっており、
(まるでにげばをうしなっておいつめられためのいろをしている。)
まるで逃げ場を失って追いつめられた眼の色をしている。
(どうしたの、ねむりなさい、といえばあっけないほどすぐうなずいて)
どうしたの、ねむりなさい、と言えば呆気ないほどすぐ頷いて
(ふたたびねどこにもぐりこんだが、)
再び寝床にもぐりこんだが、
(でんきをけしていちにふんもすると、また、おなじようにおきてしまう。)
電気を消して一二分もすると、又、同じように起きてしまう。
(それをねどこへつれもどしてしんぱいすることはない、)
それを寝床へつれもどして心配することはない、
(わたしはあなたのからだにてをふれるようなことはしないから)
私はあなたの身体に手をふれるようなことはしないから
(といいきかせると、おんなはおびえためつきをして)
と言いきかせると、女は怯えた眼附をして
(なにかいいわけじみたことをくちのなかでぶつぶついっているのであった。)
何か言訳じみたことを口の中でブツブツ言っているのであった。
(そのままみたびめのでんきをけすと、)
そのまま三たび目の電気を消すと、
(こんどはおんなはすぐおきあがり、)
今度は女はすぐ起き上り、
(おしいれのとをあけてなかへはいってうちがわからとをしめた。)
押入の戸をあけて中へ這入って内側から戸をしめた。