江戸川乱歩 幽霊-6-(終)
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問題文
(いつのまにかせいねんのはなしにつりこまれたひらたしは、)
いつの間にか青年の話につり込まれた平田氏は、
(おもわずこうたずねるのであった。)
思わずこうたずねるのであった。
(「ぼくもおもにそのみっつのてんをかんがえたのですよ。これらのふごうりらしくみえる)
「僕もおもにその三つの点を考えたのですよ。これらの不合理らしく見える
(じじつをごうりかするほうほうがないものかということをね。そして、けっきょく、)
事実を合理化する方法がないものかということをね。そして、結局、
(このまるでちがったみっつのことがらにあるきょうつうてんのあることをはっけんしました。)
このまるでちがった三つの事柄に或る共通点のあることを発見しました。
(なあにくだらないことですがね。でもこのじけんをかいけつするうえにはひじょうに)
なあにくだらないことですがね。でもこの事件を解決する上には非常に
(たいせつなんです。それは、どれもみなゆうびんぶつにかんけいがあるということでした。)
大切なんです。それは、どれも皆郵便物に関係があるということでした。
(しゃしんはゆうそうしてきたのでしょう。こせきとうほんもおなじことです。)
写真は郵送してきたのでしょう。戸籍謄本も同じことです。
(そして、あなたのがいしゅつなさるさきは、これもやっぱりひびのごぶんつうにかんけいが)
そして、あなたの外出なさる先は、これもやっぱり日々の御文通に関係が
(あるではありませんか。はははは、おわかりになったようですね。)
あるではありませんか。ハハハハ、おわかりになったようですね。
(つじどうはあなたのごきんじょのゆうびんきょくのはいたつふをつとめていたのですよ。)
辻堂はあなたのご近所の郵便局の配達夫を勤めていたのですよ。
(むろんへんそうはしていたでしょうが。よくいままでわからないでいたものです。)
むろん変装はしていたでしょうが。よく今までわからないでいたものです。
(おたくへくるゆうびんぶつもおたくからでるゆうびんぶつも、すっかりかれはみていたに)
お宅へくる郵便物もお宅から出る郵便物も、すっかり彼は見ていたに
(ちがいありません。わけはないのです。ふうじめをじょうきにあてれば、すこしも)
違いありません。わけはないのです。封じ目を蒸気に当てれば、少しも
(あとののこらないようにかいふうできるのですから、しゃしんやとうほんはこういうふうにして)
あとの残らないように開封できるのですから、写真や謄本はこういうふうにして
(かれがさいくしたものですよ。あなたのいくさきとても、いろいろなてがみをみていれば)
彼が細工したものですよ。あなたの行く先とても、いろいろな手紙を見ていれば
(しぜんわかるわけですから、ゆうびんきょくのひばんのひなり、こうじつをかまえて)
自然わかるわけですから、郵便局の非番の日なり、口実をかまえて
(けっきんしてなり、あなたのいくさきへさきまわりしてゆうれいをつとめていたのでしょう」)
欠勤してなり、あなたの行く先へ先廻りして幽霊を勤めていたのでしょう」
(「しかししゃしんのほうはすこしくしんをすればまあできぬこともありますまいが、)
「しかし写真の方は少し苦心をすればまあできぬこともありますまいが、
(こせきとうほんなんかがそんなにきゅうにぎぞうできるでしょうか」)
戸籍謄本なんかがそんなに急に偽造できるでしょうか」
(「ぎぞうではないのです。ただちょっとこせきしのひっせきをまねてかきくわえさえ)
「偽造ではないのです。ただちょっと戸籍史の筆蹟をまねて書き加えさえ
(すればいいのですよ。とうほんのかみではかいてあるやつをけしとることは)
すればいいのですよ。謄本の紙では書いてあるやつを消しとることは
(むずかしいでしょうけれど、かきくわえるのはわけありません。)
むずかしいでしょうけれど、書き加えるのはわけありません。
(ばんいろうのないおやくしょのしょるいにもちょいちょいぬけめがあるものですね。)
万遺漏のないお役所の書類にもちょいちょい抜け目があるものですね。
(へんないいかたですが、こせきとうほんにはひとがいきていることをしょうめいするちからは)
変な言い方ですが、戸籍謄本には人が生きていることを証明する力は
(ないのです。こしゅではだめですが、そのほかのものだったら、ただなまえのうえに)
ないのです。戸主ではだめですが、その他の者だったら、ただ名前の上に
(しゅをひきじょうらんにしぼうとどけをうけつけたことをきにゅうさえすれば、)
朱を引き上欄に死亡届を受け付けたことを記入さえすれば、
(いきているものでもしんだことになるのですからね。だれにしたって、)
生きているものでも死んだことになるのですからね。誰にしたって、
(おやくしょのしょるいといえば、もうめくらめっぽうにしんようしてしまうくせが)
お役所の書類といえば、もうめくら滅法に信用してしまうくせが
(ついていますからね。ぼくはあのひにあなたからうかがったつじどうのほんせきちへ、)
ついていますからね。僕はあの日にあなたからうかがった辻堂の本籍地へ、
(もういっつうこせきとうほんをおくってくれるようにてがみをだしました。)
もう一通戸籍謄本を送ってくれるように手紙をだしました。
(そしておくってきたのをみますと、ぼくのおもったとおりでした。これですよ」)
そして送ってきたのを見ますと、僕の思った通りでした。これですよ」
(せいねんはそういってふところからいっつうのこせきとうほんをとりだすと、)
青年はそういってふところから一通の戸籍謄本を取り出すと、
(ひらたしのまえにさしおいた。そこには、こしゅのらんにはつじどうのむすこが、)
平田氏の前にさし置いた。そこには、戸主の欄には辻堂の息子が、
(そしてつぎのらんにはとうのつじどうのなまえがしるされていた。かれはしぼうをよそおうまえに)
そして次の欄には当の辻堂の名前がしるされていた。彼は死亡を装う前に
(すでにいんきょしていたのだ。みると、なまえのうえにしゅせんもひかれていなければ、)
既に隠居していたのだ。みると、名前の上に朱線も引かれていなければ、
(じょうらんにはいんきょとどけをうけつけたむねきさいしてあるばかりで、しぼうのしのじも)
上欄には隠居届を受け付けたむね記載してあるばかりで、死亡の死の字も
(みえないのであった。)
見えないのであった。
(じつぎょうかひらたしのこうゆうろくに、しろうとたんていあけちこごろうのなまえが)
実業家平田氏の交遊録に、素人探偵明智小五郎の名前が
(かきくわえられたのは、こうしたいきさつからであった。)
書き加えられたのは、こうしたいきさつからであった。