日記帳3 江戸川乱歩
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | pechi | 6350 | S | 7.1 | 89.8% | 269.1 | 1927 | 218 | 28 | 2024/09/26 |
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問題文
(やがて、ふとめをあげて、つくえのうえをみたわたしは、そこに、おとうとのいあいのこがたの)
やがて、ふと目を上げて、机の上を見た私は、そこに、弟の遺愛の小型の
(てぶんこのおかれているのにきづきました。かれがせいぜん、いちばんたいせつなしなじなを)
手文庫のおかれているのに気づきました。彼が生前、一番大切な品々を
(おさめておいたらしい、そのこうまきえのこふうなてぶんこのなかには、あるいは)
納めておいたらしい、その高まき絵の古風な手文庫の中には、あるいは
(このわたしのさびしいこころもちをいやしてくれるなにものかがかくされていはしないか。)
この私のさびしい心持をいやして呉れる何物かが隠されていはしないか。
(そんなこうきしんから、わたしはなにげなくそのてぶんこをひらいてみました。)
そんな好奇心から、私は何気なくその手文庫を開いて見ました。
(するとそのなかには、このおはなしにかんけいのないさまざまのしゅるいなどがいれられて)
するとその中には、このお話に関係のない様々の種類などが入れられて
(ありましたが、そのいちばんそこのほうから、ああ、やっぱりそうだったのか。)
ありましたが、その一番底の方から、ああ、やっぱりそうだったのか。
(どうにもだいじそうにはくしにつつんだ、じゅういちまいのえはがきが、ゆきえさんからの)
如何にも大事そうに白紙に包んだ、十一枚の絵葉書が、雪枝さんからの
(えはがきがでてきたのです。こいびとからおくられたものでなくて、)
絵葉書が出て来たのです。恋人から送られたものでなくて、
(たれがこんなにだいじそうにてぶんこのそこへひめてなぞおきましょう。)
たれがこんなに大事そうに手文庫の底へひめてなぞ置きましょう。
(わたしは、にわかにむなさわぎをおぼえながら、そのじゅういちまいのえはがきを、つぎからつぎへと)
私は、にわかに胸騒ぎを覚ながら、その十一枚の絵葉書を、次から次へと
(しらべていきました。あるかんどうのためにはがきをもったわたしのては、ふしぜんに)
調べて行きました。ある感動の為に葉書を持った私の手は、不自然に
(ふるえてさえいました。だが、どうしたことでしょう。)
ふるえてさえいました。だが、どうしたことでしょう。
(それらのはがきには、どのぶんめんからも、あるいはまたそのぶんめんの)
それ等の葉書には、どの文面からも、あるいはまたその文面の
(どのぎょうかんからも、こいぶみらしいかんじはいささかもはっけんすることができないのです。)
どの行間からも、恋文らしい感じはいささかも発見することが出来ないのです。
(それでは、おとうとは、かれのおくびょうなきしつから、こころのなかをうちあけることさえようしないで)
それでは、弟は、彼の臆病な気質から、心の中を打開けることさえようしないで
(ただこいしいひとからおくられた、なにのいみもないこのすうつうのえはがきを、)
ただ恋しい人から送られた、何の意味もないこの数通の絵葉書を、
(おまもりかなんぞのようにたいせつにほぞんして、かわいそうにそれをせめてものこころやりに)
お守りかなんぞの様に大切に保存して、可哀相にそれをせめてもの心やりに
(していたのでしょうか。そして、とうとう、むくいられぬおもいをいだいたまま)
していたのでしょうか。そして、とうとう、報いられぬ思いを抱いたまま
(このよをさってしまったのでしょうか。)
この世を去ってしまったのでしょうか。
(わたしはゆきえさんからのえはがきをまえにして、それからそれへと、)
私は雪枝さんからの絵葉書を前にして、それからそれへと、
(さまざまのおもいにふけるのでした。しかし、これはどういうわけなのでしょう。)
様々の思いにふけるのでした。しかし、これはどういう訳なのでしょう。
(やがてわたしは、そのことにきづきました。おとうとのにっきにはゆきえさんからのじゅしんは)
やがて私は、その事に気づきました。弟の日記には雪枝さんからの受信は
(じゅっかいきりしかしるされていないのに(それはさっきかぞえてみておぼえていました))
十回きりしか記されていないのに(それはさっき数えて見て覚ていました)
(いまここにはじゅういっつうのえはがきがあるではありませんか。さいごのはごがつにじゅうごにちの)
今ここには十一通の絵葉書があるではありませんか。最後のは五月二十五日の
(ひづけになっています。たしかそのひのにっきには、じゅしんらんにゆきえさんのなまえは)
日附になっています。確その日の日記には、受信欄に雪枝さんの名前は
(なかったようです。そこで、わたしはふたたびにっきちょうをとりあげて、そのごがつにじゅうごにちの)
なかった様です。そこで、私は再び日記帳を取り上げて、その五月二十五日の
(ところをひらいてみないではいられませんでした。)
所を開いて見ないではいられませんでした。