「踊る一寸法師」5 江戸川乱歩
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問題文
(「さあ、まりなげだ、まりなげだ」てじなつかいのことばなんかみみにもかけず、)
「サア、鞠投げだ、鞠投げだ」手品使いの言葉なんか耳にもかけず、
(かのせいねんはいっすんぼうしのほうへちかづいていった。)
彼の青年は一寸法師の方へ近いて行った。
(そういうがはやいか、せいねんはふぐしゃをひっぱりおこして、そのみけんをひらてで)
そういうが早いか、青年は不具者を引っぱり起して、その眉間を平手で
(ぐんとついた。いっすんぼうしは、つかれたいきおいで、さもまりのようにくるくるまわりながら、)
グンとついた。一寸法師は、つかれた勢で、さも鞠の様にクルクル廻りながら、
(うしろのほうへよろけていった。すると、そこにもうひとりのせいねんがいて、)
後の方へよろけて行った。すると、そこにもう一人の青年がいて、
(これをうけとめ、ふぐしゃのほうをつかんでじぶんのほうへむけると、)
これを受けとめ、不具者の方を掴んで自分の方へ向けると、
(またぐんとひたいをついた。かわいそうなろくさんは、ふたたびぐるぐるまわりながら)
又グンと額をついた。可哀相な緑さんは、再びグルグル廻りながら
(まえのせいねんのところへもどってきた。それから、このふしぎな、ざんにんな)
前の青年の所へ戻って来た。それから、この不思議な、残忍な
(きゃっちぼーるが、いつまでもくりかえされた。いつのまにか、)
キャッチボールが、いつまでもくり返された。いつの間にか、
(がっしょうはいずもこぶしのふしにかわっていた。ひょうしぎとさみせんが、やけにならされた。)
合唱は出雲拳の節に変っていた。拍子木と三味線が、やけに鳴らされた。
(ふらふらになったふぐしゃは、しゅうねんぶかいびしょうをもって、)
フラフラになった不具者は、執念深い微笑を以て、
(かれのふしぎなやくめをつづけていた。「もうそんなくだらないまねはよせ。)
彼の不思議な役目を続けていた。「もうそんな下らない真似はよせ。
(これからみんなでげいづくしをやろうじゃないか」)
これからみんなで芸づくしをやろうじゃないか」
(ふぐしゃのぎゃくたいにあきただれかがさけんだ。)
不具者の虐待に飽きた誰かが叫んだ。
(むいみなどごうときょうきのようなはくしゅが、それにこたえた。)
無意味な怒号と狂気の様な拍手が、それに答えた。
(「もちげいじゃだめだぞ。かくしげいをだすのだ。いいか」)
「持ち芸じゃ駄目だぞ。隠し芸を出すのだ。いいか」
(むらさきじゅすのさるまたが、めいれいてきにどなった。)
紫繻子の猿股が、命令的に怒鳴った。
(「まず、かわきりはろくさんからだ」だれかがいじわるくそれにわした。)
「まず、皮切りは緑さんからだ」誰かが意地悪くそれに和した。
(どっとはくしゅがおこった。つかれきって、そこにたおれていたろくさんは、)
ドッと拍手が起った。疲れ切って、そこに倒れていた緑さんは、
(このらんぼうなていぎをも、そこしれぬえがおでうけた。)
この乱暴な提議をも、そこ知れぬ笑顔で受けた。
(かれのぶきみなかおはなくべきときにも、わらった。「それならいいことがあるわ」)
彼の不気味な顔は泣くべき時にも、笑った。「それならいいことがあるわ」
(まっかによっぱらったびじんたまのりのおはなが、ふらふらとたちあがってさけんだ。)
真赤に酔っ払った美人玉乗りのお花が、フラフラと立上って叫んだ。
(「まめちゃん。おまえ。ひげさんのだいまじゅつをやるといいわ。)
「豆ちゃん。お前。髭さんの大魔術をやるといいわ。
(いっすんだめしごぶだめし、びじんのごくもんてえのを、ね、いいだろ。おやりよ」)
一寸だめし五分だめし、美人の獄門てえのを、ね、いいだろ。おやりよ」
(「えへへへへへ」ふぐしゃは、おはなのかおをみつめてわらった。むりにのまれたさけで、)
「エヘヘヘヘヘ」不具者は、お花の顔を見つめて笑った。無理に飲まれた酒で、
(かれのめはみょうにどろんとしていた。)
彼の目は妙にドロンとしていた。
(「ね、とうちゃんは、あたいにほれてるんだね。だから、あたいのいいつけなら、)
「ね、豆ちゃんは、あたいに惚れてるんだね。だから、あたいのいいつけなら、
(なんだってきくだろ。あたいがあのはこのなかへはいってあげるわ。)
何んだって聞くだろ。あたいがあの箱の中へ這入ってあげるわ。
(それでもいやかい?」「ようよう、いっすんぼうしのいろおとこ!」)
それでもいやかい?」「ヨウヨウ、一寸法師の色男!」
(またしても、やぶれるようなはくしゅと、しょうせい。)
又しても、破れる様な拍手と、笑声。