通夜 -6-

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問題文
(なぜかわからずこんわくするぼくをしりめに、)
なぜか分からず困惑する僕を尻目に、
(ししょうはたったひとこときばこのむこうにといかけた。)
師匠はたった一言木箱の向こうに問い掛けた。
(「おとうさんは、こういったんだね。「おやじがしんでる。はやくきてくれ」って」)
「お父さんは、こう言ったんだね。「親父が死んでる。はやく来てくれ」って」
(それをきいたしゅんかん、ぜんしんのけがさかだつようなきがした。)
それを聞いた瞬間、全身の毛が逆立つような気がした。
(しつもんのしんいはわからない。わからないまま、ぼくはなにかおそろしいことが)
質問の真意は分からない。分からないまま、僕は何か恐ろしいことが
(はじまるというよかんにしんたいをしばられてた。)
始まるという予感に身体を縛られてた。
(きばこのむこうからへんとうがある。)
木箱の向こうから返答がある。
(「そう」)
「そう」
(「あなたはそのあとみみをすましていた。そうね?」)
「あなたはそのあと耳を澄ましていた。そうね?」
(「うん」)
「うん」
(「もういちどきくよ。おとうさんは「おやじがしんでる、はやくきてくれ」と、)
「もう一度訊くよ。お父さんは「おやじが死んでる、はやく来てくれ」と、
(それだけをいったのね?」)
それだけを言ったのね?」
(ぞくぞくする。はのねがあわない。きおんのひくさだけではない。)
ゾクゾクする。歯の根が合わない。気温の低さだけではない。
(なんだ。ししょうはなにをいいたいんだ。)
なんだ。師匠はなにを言いたいんだ。
(「・・・・・うん、そう」)
「・・・・・うん、そう」
(ふ。というといき。)
ふ。という吐息。
(ししょうはなにかかくごをきめたようにいっしゅんだけめをとじ、そしてひらいた。)
師匠はなにか覚悟を決めたように一瞬だけ目を閉じ、そして開いた。
(「だったらおかあさんは、どうしてふきんをもっていったの」)
「だったらお母さんは、どうして布巾を持って行ったの」
(あ。)
あ。
(ぼけたようにくちをあいたしゅんかん、くちびるのはしがぱっくりとわれ、かるいいたみがはしった。)
呆けたように口を開いた瞬間、唇の端がぱっくりと割れ、軽い痛みが走った。
(そうだ。ははおやはふきんをもっていって、そふのくちのとしゃぶつをふいている。)
そうだ。母親は布巾を持って行って、祖父の口の吐瀉物を拭いている。
(だが、ちちおやはそふがしんでるからはやくきてくれ、)
だが、父親は祖父が死んでるから早くきてくれ、
(というよびかけしかしていないのだ。)
という呼びかけしかしていないのだ。
(そふはしょくじのさいちゅうでもなかった。)
祖父は食事の最中でもなかった。
(ただしんでいるときいただけで、どうしてふきんがひつようだとわかったのだろう。)
ただ死んでいると聞いただけで、どうして布巾が必要だと分かったのだろう。
(こたえはおのずとみえてくる。)
答えは自ずと見えてくる。
(ははおやも、そふのしをしっていたのだ。そのしにかたを。)
母親も、祖父の死を知っていたのだ。その死に方を。
(なのにおんなのことおなじく、それをだまっていた。ちちおやがきづいてさわぎだすまで。)
なのに女の子と同じく、それを黙っていた。父親が気付いて騒ぎ出すまで。
(そのことからみちびきだされるえは?)
そのことから導き出される絵は?
(「あなたがへやからにげたあと、つぎにへやにはいったのはおかあさんだった」)
「あなたが部屋から逃げたあと、次に部屋に入ったのはお母さんだった」
(ししょうはたんたんとかたった。)
師匠は淡々と語った。
(ははおやのめにとびこんできたのは、としゃぶつをつまらせたそふのしにがおだった。)
母親の目に飛び込んできたのは、吐瀉物を詰まらせた祖父の死に顔だった。
(おどろいてふとんいちかづいたかのじょは、そのそふのてもとにころがるきんちゃくぶくろにきづく。)
驚いて布団い近づいた彼女は、その祖父の手元に転がる巾着袋に気付く。
(そふがしぬまぎわになかをあらためていたのか、ふくろのくちがあいている。)
祖父が死ぬ間際に中をあらためていたのか、袋の口が開いている。
(ははおやはだれかのこえをきく。こころのなかの、くらく、おくぶかいばしょからささやくこえ。)
母親は誰かの声を聞く。心の中の、暗く、奥深い場所から囁く声。
(ふくろのなかをのぞく。だいじそうなものがいろいろとはいっている。)
袋の中を覗く。大事そうなものが色々と入っている。
(たとえばかみのたぐい・・・・・おさつ。)
例えば紙の類・・・・・お札。
(かのじょはそれをぬきとり、しせんのさきにひとつだけひらいている)
彼女はそれを抜き取り、視線の先に一つだけ開いている
(たんすのひきだしをとらえる。)
箪笥の引き出しをとらえる。
(きんちゃくぶくろのくちをしめ、ひきだしにそっともどす。)
巾着袋の口を閉め、引き出しにそっと戻す。
(そしてそふをのこしたままへやをでる。ろうかのとちゅうでだれかにであえば、)
そして祖父を残したまま部屋を出る。廊下の途中で誰かに出会えば、
(「おじいちゃんがしんでる」とわめけばいい。)
「おじいちゃんが死んでる」と喚けばいい。
(けれどだれにもあわなかった。)
けれど誰にも会わなかった。
(それならばそれでいい。)
それならばそれでいい。
(いちばんにしたいをみつけなければ、ぜったいにうたがわれることはないから。)
一番に死体を見つけなければ、絶対に疑われることはないから。
(なにかといえばじぶんにあてつけがましいいじわるいをするそふが、)
なにかと言えば自分にあてつけがましい意地悪いをする祖父が、
(ずっといすわっていたへやなのだ。)
ずっと居座っていた部屋なのだ。
(たとえだいじなものがなくなっていたところで、)
例え大事なものが無くなっていたところで、
(そのめがひかっているへやのものをとるなんて、できっこないのだから。)
その目が光っている部屋のものを取るなんて、出来っこないのだから。
(そう。そふのしにでくわしでもしないかぎりは・・・・・)
そう。祖父の死に出くわしでもしない限りは・・・・・
(「おじいさんののどからおとがしたのは、)
「おじいさんの喉から音がしたのは、
(おなかではっせいしたがすがにげばをうしなってたてたものね」)
お腹で発生したガスが逃げ場を失って立てたものね」
(ししょうはあっさりといった。)
師匠はあっさりと言った。
(「あなたのおじいさんはいきかえったわけでも、)
「あなたのおじいさんは生き返ったわけでも、
(ましてしんでいながらうごきだしたわけでもない。だから」)
まして死んでいながら動き出したわけでもない。だから」
(ことばをきった。)
言葉を切った。
(つづきをまったが、ししょうはそれをくちにしなかった。)
続きを待ったが、師匠はそれを口にしなかった。
(ちんもく。)
沈黙。
(ぼくはさむさにりょうかたをちぢめながら、かすかないわかんをおぼえていた。)
僕は寒さに両肩を縮めながら、微かな違和感を覚えていた。